46.怪人達と古代の秘術
「おはようございます…」
どれくらい経っただろうか、ルーが目を覚ますと、近くにはフリッカーと社長がいた。
「すいません、俺…寝ちゃって…」
寝起きのルーに、社長が返事をする。
「いいんだ。それよりも悪かったね…。フリッカーから話は聞いた。どうも俺達は、君を誘拐しちまったらしい」
「あ、そうなんですよ。だから今困ってて…」
「おいフリッカー!お前も謝れ」
ルーが寝ている間に、社長はフリッカーから事情を聞いたようだ。そして素直に仲間の非を認めて謝った。服装は変だが、その言動から、彼はまともな人物のように思える。
「…ごめんねルー君。誘拐してしもたわ…」
フリッカーがしょげている。どうもかなり怒られたらしい。
「分かってます。あの…俺、山に戻りたいんですけど…」
「…そのことなんだけど、今は難しい」
「どういうことですか?」
「上を見てくれ」
「なんだあれ…」
社長に言われてルーが上を向くと。工場の天井から、大きな金属の円盤がぶら下げられていた。
「あれはどこにいても一瞬で、印をつけた者を呼び戻せる魔道具だ。俺たちは【転送装置】と呼んでいる。君はあれでここに連れてこられたんだ」
「凄い…夢じゃないですよね?」
彼らの瞬間移動は、魔道具によって実現しているそうだ。
「でも印?俺そんなのつけて無いですよ」
「…俺についてんねん、これや」
フリッカーが手首に付けている、細いブレスレットを見せた。
「にいちゃん俺と肩組んどったやろ?だから一緒に飛んでん」
「えぇ…。でも、その転送装置を使って帰れないんですか?できるなら山まで送ってくださいよ!」
「それが無理なんだ、こっちに飛んで来るのは印と起動装置があればできる。でも基本は転送装置から転送装置へと飛ぶもので、ナルバルにはその装置がない」
「そんな…」
「それに、転送には魔力を大量に消費する。さっき使ったんなら、しばらく充填に時間がかかる」
おそらく社長の言う起動装置とは、ルー達を吸い込んだ、あの大きな旅行カバンのことだろう。どのみち、今すぐに瞬間移動はできないようだ。
「なら走って帰ります。そもそも…」
ルーはそう言いながら立ち上がって、工場の窓から外を覗く。辺りは月明かりで照らされている。
「ここはどこなんですか…」
社長はその質問に、申し訳なさそうに答えた。
「君がいるのは、この国の王都【グラズヘン】だ」
王都グラズヘンはこの国、エスゴル王国の中心に座する、二百万人が住む広大な都市。魔術の開発と遺跡研究に力を入れており、それゆえ進歩が目覚ましい。他国から魔術都市と呼ばれるほど、魔術の最先端を走るこの街は、魔術師達の聖地でもある。
「ここが王都…」
転送された場所は王都。だが窓から見える景色は、ルーの思い描く立派な都会ではない。出歩けば、犯罪に巻き込まれそうな荒れた街だった。
「王都言うても西側やけどな。ルー君王都来たことある?」
「…いえ、初めてです」
ルーは十年前に、父と共に王都を訪れているが、事故に巻き込まれたせいで、その時の記憶がほぼ無い。よって、フリッカーの問いには初めてと答えた。
「どうにかして帰らないと…」
焦るルーに、社長が声をかける。
「転送装置の魔力が貯まれば、山から一番近い街まで、君を転送できる」
「一番近い街…?魔力はどのくらいで貯まるんですか?」
「一日だ。誘拐しといて悪いが、どうあがいてもすぐには帰れない。だけど、走るよりはマシだと思う」
王都から、例えばルーの住むフラウの街へ正規の手順で帰るなら、荷馬車と船を乗り継いで五日かかる。山へもかなりかかるだろう。
「…仕方ないですね。なら待ちます」
今ならキャロルの誤解を解くことができる。ルーは一刻も早く帰りたかったが、叶わないようだ。
そもそもシンとの話し合いで、これからはキャロルと旅を共にすることもないのだが、ルーはそれでも、彼女とのわだかまりを解消したかった。
今すぐにとはいかないが、帰してはくれるらしい。少し安心したルーは、社長達のことが気になった。
「あの、いくつか聞いてもいいですか?」
「どうぞ」
「まず、お名前を教えてください」
「ごめん名乗ってなかったね。俺は【フォース】」
「フォースさんですね、俺はルーです」
社長と呼ばれる男の名は、フォースということがわかった。
「よろしくルー君。他にも聞きたいことはあるかい?」
「あ、怪人についてなんですけど…」
「ああ、それもフリッカーから聞いてるよ。君も怪人なんだろ」
「はい。そうみたいで…本当に良かったです」
「?」
「えっと、フォースさんも怪人なんですか?」
「そうだよ。みせようか」
そう言ってフォースが、フリッカーに向けて手を突き出す。すると触れてもいないのに、その身体がふわりと持ち上がった。
「え!どうなってるんですか⁉︎」
「俺は魔力はあるけど、魔術が使えないタイプでね。でも俺の魔力には【重さ】があるんだ」
魔力は目に見えないだけで、空気中にも漂っている。それほどに軽い物質。しかしフォースの放つ魔力には、ある程度の重量があるようで、それが彼の能力だそうだ。仕組みを知らなければ、念力のように見える。
「俺はそれを使って、物体を動かせる」
「凄い!」
「ちょっと…はよ降ろして…」
天井近くまで持ち上がったフリッカーを、フォースがゆっくりとおろした。
「何かまだ質問はある?」
「あります…前に遺跡で会った時は、フリッカーさん達はリンゴを探してましたけど、今回は山で何をしてたんですか?」
「卵取りに行っててん」
「卵?」
その疑問に、フォースが答える。
「リンゴも卵も俺が頼んだんだ。ナルバルという山に不死鳥がいるから、その卵を取ってきてくれって」
「ふ、不死鳥⁉︎実在してるんですか…?」
不死鳥とは炎を操るといわれる、伝承の中の魔物。怪我をしても即座に治し、死んでしまっても、どこかの火の中から生き返ると言われている。
「実在する。俺達はもう何年も、遺跡の調査と古代文字の解読をしててね、最近になって、不死鳥がナルバルの山頂にいることがわかったんだ。まあ実際には、もういなかったわけだけど…」
「山頂…」
今の話を聞いて、ルーはあることが気になった。シンのことだ。彼もまた、臨界鳥なる鳥を見るために、ナルバルの山頂に登りたがっていた。なのでこんな質問をしてみる。
「その…不死鳥って、別名があったりしませんか?」
「色々あるよ。火の鳥やフェニックス、翼を持った太陽。あと、臨界鳥って名前もある」
「臨界鳥…やっぱり…」
シンの言う臨界鳥は、不死鳥と同じ生物だということがわかった。ルーは考える。シンの狙いもフォース達と同じく、その鳥の卵だったのではないかと。
そしてシンとフォース達は、金の林檎を欲しがっていたのも共通している。
「フォースさん達は、どうしてその、リンゴとか卵が欲しいんです?料理するんですか?」
シンとフォース達の目的は、同じだと気づいたルー。しかし、林檎にしろ卵にしろ、かなりの危険が付き纏っていた。そこまでして何故求めるのか、ルーは理由が知りたくなった。
「料理じゃない。魔術というか…儀式の素材なんだ」
「儀式?」
「ああ…死者を蘇らせるための儀式だ」
「は?」
ルーはフォースが言っていることを理解できない。死んだ人間は普通、生き返らないからだ。
「…それってゾンビ、歩く屍のことですか?」
「そんなんじゃない、元に戻すんだ。…生きてた時のように」
「可能なんですか?そんなこと」
「まだわからない。俺はずっと、それについて古代遺跡を調べてるんだけど…」
フォースがその儀式について話し出す。
彼は古代文字を解読していくうちに、死者蘇生の儀式に行き着いたそうだ。だがその儀式には特殊な素材が必要で、手に入れるのに難儀しているらしい。
「…特殊な素材?他にはどんな物が必要なんですか?」
「ああそれは…」
「もうええ!」
奇天烈な話に興味が湧いて、フォースに質問を続けるルー。しかし突然、フリッカーが大声をだした。
「なんだフリッカー、急にどうした?」
「…今までは協力して来たけど、俺は蘇生には反対や。そんなもんこの世にあるわけ無い。古代人の悪ふざけやろ」
「フリッカー…。転送装置ができる前は、瞬間移動なんて信じられなかったろ。蘇生もそれと同じだ、俺達がまだ知らないだけなんだよ」
「せやけど…もうアイツは死んだんや…。それを覆そうなんて…自然の摂理に反してる。仮に蘇生術が実在したとしても、なんかヤバい事起こるで…」
「…だからお前は、何も取って来なかったのか?」
「卵は無かったんや!リンゴも存在してるって分かっただけで儲けもんやろ!ほんでやるにしても、全部終わらしてからにすべきや!」
フリッカーは怒ってどこかに行ってしまった。




