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42.ルーとキャロル

 「ど、どうなったの…」


 光の柱を振り下ろしたキャロル。当たった鬼熊はピクリとも動かない。彼女は現状を確認するため歩き出す。


 「これ…死んでる。やったのね…やったわ!倒したわよ!」


 光の柱は鬼熊の前足を切断し、頭部を完全に破壊していた。それを見たキャロルは喜んで、握り拳を突き上げる。


 「よくやったキャロル」

 「流石です!本当に凄かったですよ!」


 咆哮のダメージから回復したシンと、壁に張り付いたままのルーがキャロルを讃えた。そうしてはしゃいでいた彼女だったが、まだ気がかりがあった。


 それは獣のような腕が生えたルーのことだ。さっきは生きるか死ぬかの場面だったため、詳しく話せなかったが、彼の背中からは今も腕が伸びている。


 「そういえば…」

 「どうしました?キャロルさん」

 「ちょっと、そこから動かないで!」

 「え…なんでですか?」


 壁から降りて近寄って来るルーを、制止したキャロル。彼女は前から、鋭い嗅覚や人並み外れた体力を持つルーに、疑問を感じていた。その疑問が、背中から腕が生えた彼を見たことで、ある疑念に変わったのだ。


 「ねぇ…ルーは…人間なの…?」


 キャロルはルーを魔物だと疑った。実際、人に化けたり姿を変えられる魔物はいる。そして数は少ないが、人と会話ができるほど高い知能を持つ魔物もいる。それに加え、目の前で横たわる鬼熊も、ルーと同じように、背中から前足が生えていた。


 背中の腕、人間離れした体力や聴覚。キャロルの中で、ルーは完全に魔物になっていた。


 「答えてよルー!アンタは…魔物なの?」


 「…どういうことですか?意味がわかりません…」


 「分かるはずよ、背中から腕が生えてるじゃない」


 「これはウデウデです、俺じゃありません!」


 「うでうで…?何言ってるの?教えて、その腕はなんなの?」


 「それは…俺もよく知らないんです。でも、さっきも助けてくれました。…悪い子じゃないのは確かです」


 「信用できないわ…それにその腕だけじゃない。カエルの里の遺跡で、竜から逃げる時、アンタは私と殿様を担いで、とんでもない速さで階段を駆け上がってた。そんなことが出来るのは…ルー自身が魔物だからなんじゃないの…?」


 「そんな…違います!信じてください!俺は普通の人間です!」


 「近づかないで!!そこから一歩でも動いたら…撃つわよ」


 歩み寄るルーに対して、手のひらを向けるキャロル。杖は折れてしまったが、火球くらいなら手から放つことができる。彼女は、魔物と行動を共にすることはできないと考えたのだ。


 「キャロル、落ち着け」


 その二人のやり取りを見ていたシンが、キャロルを宥めようとする。


 「シン、アンタはルーのあの腕のこと知ってたの?」

 「…ああ、だが俺にも詳しくはわからない。見るのはこれが二回目だ」

 「ってことは、知ってて黙ってたのね…」


 シンに対しても不信感を強めるキャロル。そこへ、フリッカーとカジリが歩いてきた。

 

 「よぉ自分ら、仲間割れか?」


 フリッカーが旅行カバンを手に持っている。どうやら彼らは、鬼熊との戦闘前に置いた、それを取ってきたようだ。


 「アンタ達には関係無いでしょ!」


 キャロルは苛立ってそう言った。だがフリッカーは反論する。

 

 「それが関係あるねん」

 「はぁ?」

 「俺らもそのにいちゃんに、話聞く約束してんねん」


 確かについさっき、彼はルーと話す約束をしていた。しかし誰が見ても、今は良いタイミングとは言えないだろう。


 「こっちの話が先よ!」


 「そんな怒らんといてや、それに嬢ちゃんの聞きたいことは、俺が答えたるわ」


 「…アンタは、ルーが何者か分かるって言うの?」


 「せや。俺は知ってる。でもにいちゃん!とりあえずその背中の腕しまってくれへんか?調子悪くてしゃーないわ」


 キャロルと話していたフリッカーが、突然ルーに声をかけた。


 「調子?…あ!」


 その言葉でルーは、遺跡でシンに言われたことを思い出す。ウデウデは邪気と呼ばれるものを放っているのだ。ルー本人はそれを感じ取れないが、彼以外のこの場の四人には、少し距離があるにも関わらず、かなりの影響を及ぼしていた。


 「ごめんねウデウデ、ちょっと戻っててくれる?」


 ウデウデは言われた通り、身体の中に引っ込んでいった。それを見たフリッカーは、質問をしながらルーに近寄る。


 「なんやそれ?その腕には意思があるんか?」

 「え?…はい」

 「すげえなぁ、とんでもない能力やんけ…」


 マスクをしているため分からないが、フリッカーの声からは、嬉しさや喜びが感じ取れる。しかしそれを遮るように、キャロルが声を上げた。


 「先に私の質問に答えなさい!ルーは…魔物なの?」

 「まあまあ嬢ちゃん、そんな急ぎなや」


 ルーの隣まで来たフリッカーは、馴れ馴れしく肩に腕を回す。

 

 「おいお前、ルーから離れろ」


 それを見たシンが、フリッカーにレイピアを向けた。


 「離れる?…もう遅いわ!この子貰ってくで!」


 フリッカーはそう言って、持っていた旅行カバンを開いた。


 「何をするつもりだ!」


 シンがレイピアの剣身を出して走り出すが、間に合わず。フリッカーとカジリ、そしてフリッカーに肩を組まれていたルーもカバンに吸い込まれる。三人を吸い込むとカバンは閉じ、光を放って姿を消した。

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