38.再会
山頂を目指して歩く一行。耐寒の魔道具の性能テストも終わり、堅牙猛の毛皮も取った。後は臨界鳥なる鳥を見るだけ。目的地までは、ここまでの道のりを考えればもう間近だ。しかしルーがあることに気づく。
「なんかさっきから、うんこ臭くないですか?」
「おいルー…キャロルだって一応女だ。やめてやれ」
「あっ、すいません…」
「私じゃないわ!」
「隠さなくていい、堅牙猛に吹っ飛ばされて漏れたんだろ?紙ならある、必要ならいつでも言え」
「そんなものいらないわ…だけど…アンタには教育が必要みたいね」
「ちょっとちょっと!多分俺の勘違いです。仲良くしましょう」
無神経なシンに対して、杖を取り出したキャロル。ルーがそれを宥めた。少し険悪な空気になったが、三人は山を登り続け、ついに到達。山頂は巨大な円形の窪みになっていた。
「着いたな」
「なんですか…これ」
「このナルバル山は、遥か昔には火山だったらしい。ここは火口の名残だ」
「へぇ、だからこんなに凹んでるんだ…でも、探してる鳥はどこですか?」
シンの話では、山頂にお目当ての鳥がいるはず。だが生物らしき物は見当たらない。
「見た限りはいないな。キャロル、探知魔術はどうだ?」
「それが…何もいないのに、あちこちに反応があるの…」
「…ああ、それはおそらく、辺りに落ちてる骨のせいだな」
シンの言った通り、この火口跡には何故か、大量の骨が散らばっていた。形や大きさからして、堅牙猛などの大型の魔物の骨だろう。
「確かに骨だらけですけど、骨も探知魔術に反応するんですか?」
「死体にも魔力は残っているからな」
生物は死後も魔力を宿している。それは骨も同様だ。一つ一つは微弱で、時が経つと残った魔力は失われていくのだが、ここには大量の魔物の骨があるため、探知魔術がそれを拾って誤作動を起こしていた。
「っていうか、なんでこんなに骨があるんでしょう?」
「そうよ、それも大きい骨ばっかり…。シン、探してるのは綺麗な鳥だって言うけど、一応魔物なのよね?危険じゃない?」
キャロルは山頂の様子を見て、不安になっていた。
「確かに魔物だ。だが魔物とは、俺達がそう呼んでいるだけで、ほとんどはただの動物なんだ。腹も減るし血も流れる。それに、臨界鳥は人を襲わない」
「襲わないって…それ、確かな情報なの?」
「もちろんだ。本で読んだ」
「…アンタ昨日は、書いてあることを鵜呑みにするなって言ってたじゃない…」
「わかったわかった。とりあえずあの岩の後ろを探して、いなかったら諦める」
そう言ってシンが指差したのは、中央付近にある大きな岩。三人は窪みを降りてそこへ向かう。
だが落ちている骨の数は、進むほどに増していき、やがて足元は全て骨になった。そしてその骨の地面を歩いていると、ルーの耳が何かを捉える。
「風が強いんで微かですけど、いびきみたいな音が聞こえます」
「音?どこからだ?」
「ん〜…あの岩ですね」
「そうか、やはりあの裏にいるんだな」
それを聞いたシンは、まるで子供のように駆け出した。しかしすぐに歩みを止める。
「あの岩…毛が生えてないか…?」
「ほんとだ。でも生えてるって言うか、全部毛ですね…」
「帰ろうか…」
「はい…」
大岩だと思っていた物体は毛で覆われていた。それが何かを察した二人は、踵を返して、遅れて来たキャロルに帰る旨を伝える。
「はぁ、アンタ達…急に走らないでよ…」
「キャロル、帰るぞ」
「なに?どうして?」
「後で話す、とにかくここから離れ…」
その時、大岩が動き出した。
「ちょっと…嘘でしょ…」
「ここは、とっくにコイツの巣だったようだ…」
大岩は六本の足で起き上がった。それとは別に背中から生えた二本の巨大な足。そして黒い身体に禍々しい二本の角。大岩の正体は鬼熊だったのだ。どうやらこの窪みを寝床にしており、大量の骨は獲物の残骸だったらしい。思えばルーが道中嗅いだ糞の匂いも、鬼熊のものだったのだろう。
「お前ら、落ち着け…」
シンは二人が騒がぬよう、小声で声をかけるがしかし、堅牙猛の何倍もある、鬼熊の圧倒的な巨躯と恐ろしい顔つきに、ルーとキャロルは騒ぐどころか、怖気付いていた。
「もう終わりだ…」
「私達、ここで死ぬのね…最後にケーキが食べたかった…」
「ケーキか…良いですね、俺は味開拓のまぜ麺にします…」
彼らは生きることを半分諦めて、現実逃避している。そんな二人を引き戻すため、シンはあるものを取り出した。
「投げ出すのは早いだろ、奴はまだ寝ぼけてる。それに、新兵器があるのを忘れたのか?」
出したのは、小屋で見せたあの辛味の爆弾だった。
「そうだった!シンさん!やっちゃってください!」
「任せろ」
生きる希望を見出して、ルーは大喜びする。そしてシンは、鬼熊に勢いよく爆弾を投げつけた。それは顔に当たったが、破裂することなく転がっていってしまった。どうやら爆弾の外側を、硬く作りすぎたらしい。
「バァァァァァア!!」
「全然効いてないじゃないですか⁉︎」
「何故だ…」
「どうするの⁉︎戦う⁉︎逃げる⁉︎」
眠りを妨げられ、顔に硬い物をぶつけられた鬼熊は、背中側の前足を、怒りに任せて叩きつける。三人には当たらなかったが、その威力は、彼らから戦意を削ぐには充分だった。
「逃げろ!」
シンの声で走り出したルーとキャロル。降りて来た窪みを駆け上がり、来た道を転がるように下る。
「アイツ、追いかけてきてるわよ⁉︎」
「振り返るな!」
「シンさん!あの鬼熊、右眼が塞がってます!もしかして、前に戦った奴かも」
「だろうな!あんな熊が何匹もいては困る!」
彼らはその後も鬼熊に追われ、走り続けた。すると、意外な人物と出くわす。
「前から誰か来ますよ⁉︎」
「なに?俺達以外にも登山者がいたのか?」
「えっ?探知魔術には何も…アイツら…!」
前方に現れた、見覚えのある二つの人影。
「おお!自分ら奇遇やな⁉︎」
それは蛙の里の遺跡で戦った、フリッカーとカジリだった。
「嬢ちゃん、こないだは世話に…」
「邪魔!!」
「ええ…なんでそんな急いでんの…」
シン達は、彼らが何故ここにいるのか一瞬考えたが、そんなことを気にしている余裕は無い。三人は無視して走り抜ける。
「なんやねんあいつら…」
「フリッカーさん、何か来ます」
「え?うわぁ⁉︎」
取り残されたフリッカーとカジリも、鬼熊を目視で確認。すぐに逃げ出し、シン達を追いかけた。
「おいこら!なんちゅうもんと追いかけっこしとんねん!」
「アンタ達が囮になれば良かったのよ!」
「鬼畜やな!」
追いついたフリッカー達と共に、その後も走り続け、一行は洞窟に辿り着く。ここは堅牙猛の毛皮を剥ぎ取った場所だ。日光を遮るものがないため明るい。五人は急いで岩の裏に隠れた。




