↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/57

35.足音と足音

 翌日の早朝、登山当日。ルーとキャロルは、シンの屋敷の前に来ていた。


 「おはようございます。キャロルさん」

 「おはよう、ルー」

 「ははは」

 「なんで笑うの?」

 「なんだか、前に集まった時を思い出しますね」

 「ふふ、私も同じこと考えてた」


 前回カワズ盆地に向かった時も、同じくらいの時間に、屋敷に集まって出発した。二人がそれを遠い昔のように懐かしんでいると、シンが扉を開けて出てきた。


 「お前ら、これをつけろ」


 挨拶も無しにシンが二人に首飾りを渡し、自らの首にもかける。


 「何これ?」

 「これが話していた耐寒の魔道具だ、身体から漏れ出ている魔力だけで、冷たい空気を暖かくしてくれる」

 「私が知ってる耐寒の魔道具はもっと大型だけど、こんなのでいいの…?」

 「それを試すために山に行くんだ」

 「なるほどね」

 「あの、俺は魔力が無いんですけど…」

 

 魔道具を渡されたはいいが、今の説明ではルーに効果があるようには思えない。


 「安心しろ、お前のは魔石をはめ込めるようになってる」


 シンはそう言って、ルーに渡した魔道具に魔石をはめこむ。


 魔石とは魔力を持つ青い石のことで、魔道具にはめ込んで使用する消耗品だ。市場やギルドなどで売られているため、誰でも簡単に手に入れることができる。この国は魔石のほとんどを、隣国であるエニアニマという国から輸入している。


 「魔石をはめている間だけ、耐寒の魔道具は発動している。魔石の魔力が尽きたら教えろ」

 「尽きたかどうかは、どうやって判断するんですか?」

 「一気に寒くなるから分かるはずだ」

 「…嫌な分かり方ですね」


 一行はボーペンに貰った上着を着て街を出た。


 今回三人がナルバル山に向かう目的は、この耐寒の魔道具の検証と、堅牙猛というイノシシの毛皮を持ち帰ること。そして山頂に棲む、臨界鳥という鳥を見ることだ。



 街を出て北に向かって二時間ほど歩くと、日が登ってきた。ここでルーがあることを思い出す。


 「シンさん、そういえば前に、フニャードの村でレイピアを落としましたよね?近くを通るなら拾っていきませんか?」

 「構わんが、探すなら早くしろ、見つけたらお前にやる」

 「えっ⁉︎本当に⁉︎キャロルさん!ちょっと探し物をしたいので寄り道しても良いですか!」

 「全然良いわよ」


 シンの言葉にルーは小躍りして喜ぶ。そしてフニャードの村の前まで来た。


 「門が閉まってる…」


 前回ここへ来た時に、シンが壊した鎖がまたつけられていた。おそらくフラウの街から送られた冒険者か、ギルドの職員が直したのだろう。


 「どうやって入ろう…」


 村は石積みの壁にぐるっと囲まれ、入り口には施錠された大きな鉄門がある。また鎖を引きちぎるわけにもいかないため、中に入るなら、壁を越えるしかなさそうだ。


 「キャロルさん、壁登れますか?」

 「…私じゃ無理かも」

 「なら、ちょっと失礼しますね」

 「えっ、ひゃあ⁉︎」


 ルーがキャロルを小脇に抱えて、壁を飛び越えた。シンもそれに続く。


 「ルー、アンタ凄いジャンプ力ね…」

 「そうですか?配達の仕事で鍛えられたのかもしれません」


 ルーは壁を越えると、先頭を歩いてずんずん進む。それを見て不安になったキャロルが、シンに小声で話しかける。


 「もしかしてこれって、不法侵入じゃない…?」

 「もしかしたらそうかもな」

 「それに、あの家めちゃくちゃに壊れてる…ここ大丈夫なの?」

 「早めに出た方がいいのは確かだ」

 

 探知魔術は使っているが、キャロルは村の様子に不安を感じた。そんな彼女をよそに、ルーは夢中でレイピアを探す。


 「ルー、前に来た時は怖がってたのに、今日は大丈夫なのか?」

 「あの時は夜でしたからね。それに、今はキャロルさんがいますし」

 「鬼熊が夜行性かどうかは知らんが、あの時も昼間に行けば、あんな目には合わなかったかもな」

 「ははは、でもあの時は墓を…あった!」


 前回落としたレイピアをルーが見つけた。


 「やったー!」

 「まだ使えるか見てやろう」


 シンが魔力を流すとレイピアの剣身が出た。多少汚れているが、壊れてはいないようだ。


 「かっこいい…」

 「良かったな。と言っても、お前は魔力が無いから使えんだろ」

 「それでもいいんですよ!かっこいいんだから」


 ルーはレイピアに頬擦りをして喜ぶ。三人はまた壁を飛び越えて、山に向かって川沿いを歩き始めた。少し経って、キャロルがレイピアについて質問する。


 「それって、刃が魔力で出来てるの?どういう構造?」

 「これは…」

 「これは中に特殊な結晶が入っていて、それに魔力を流すことで刃が出る仕組みなんです!」

 「…よく覚えてたな」

 「こういうのは忘れません」


 ルーは以前シンから聞いた、レイピアの話を覚えていたようだ。


 「なら、それにも魔石をはめれば、ルーだって使えるんじゃない?」

 「…天才ですキャロルさん。シンさん魔石ください!」

 「魔石をはめ込むためには、そのための改造をせねばならん。戻ってからやってやる」

 「いぇーい」


 またルーが小躍りをして喜んだ。その後も歩き続けると、川沿いなのは変わらないが、木々の密度が増していき、やがて辺りは森になった。


 「森に入ると緊張しますね…」

 「お前はろくな目にあってないからな」


 そしてまた数時間歩き、遂にナルバル山に到着。ここまでは何事もなかったが、三人は山を見て、その巨大さに圧倒される。


 「たっかい山ですねー」

 「あんなとこまで登るって、正気なの?もう日も落ちるわよ…」

 「問題ない。山の中腹に、この辺りの魔物では通れない細い道があって、その先に無人の山小屋がある。そこで朝まで待てばいい」

 「なんだ、アンタ登ったことあるんだ?」

 「途中まではな、だがあまりの寒さに引き返した」

 「あー、それで耐寒の魔道具を持って来て再挑戦ってことですか」

 「そういうことだ。行くぞ」


 山登りが始まった。


 「山って言っても、坂なだけで、森と変わりませんね」

 「その坂がきついのよ…あっ、止まって。前に魔物がいる」


 勾配に疲弊しているキャロルが、魔物を探知した。


 「もういいわよ、通り過ぎたわ」


 冒険者ギルドでソルケに言われた通り、魔物の数は確かに多いが、探知魔術のおかげで大した戦闘も無く、麓の森林地帯を抜けることができた。そして日が落ちて、辺りが岩と砂だけになった頃、ようやく寒さが顔を出す。


 「あったかい…あったかいわ!この魔道具は効果アリよ!」

 「しっかり作動してるな、ルーの方はどうだ?」

 「俺のも使えてます。それもですけど、シンさんのランタンがあって良かった…無かったらお互いも見えません」

 「灯りは常に持っておけ。暗闇は魔物より恐ろしい」


 耐寒の魔道具は正常に作動した。さらに何故かこの辺りは、傾斜はあるが道が慣らされていて、比較的歩きやすくなっている。一行はすんなり山の中腹までやって来れた。


 「どの辺なの、その小屋は?」

 「あそこだ、そこを通るぞ」

 

 そう言ってシンが、岩壁と岩壁の細い隙間を照らす。


 「せっま!確かにこれは、大きな魔物じゃ入れないわね…」


 その時キャロルが、こちらに迫る何かを探知した。


 「右から来る!かなり大きい!」


 彼女の声で、一気に警戒を強めるルーとシン。すぐにドタドタと騒がしい足音と共に、大きなイノシシが走ってきた。堅牙猛だ。


 堅牙猛とは、大きな牙を持つイノシシの魔物。灰色の毛で覆われ、体高は成人男性の身長ほど。突進で敵を吹っ飛ばすのが得意。しかし急には止まれない。


 「…あれの皮がいるのか。俺が止めてみます!」

 「ダメ!」


 ルーは堅牙猛に、盾を構えて槍を向ける。それを見て、キャロルが待ったをかけた。


 「なんでですか⁉︎…あれ?」


 堅牙猛はルーには目もくれず、そばを走り抜けていく。


 「ルー!こっちよ!」


 キャロルに呼ばれ、彼女の元へ走る。するとまた、さっきの堅牙猛が走って来た方向から、ドタドタと足音が聞こえて来た。だが今回は数が多い。


 「入って!」

 

 急いで先程の細い隙間に、キャロルが小走りで、ルーとシンはカニのように横歩きで入る。その直後、足音は横切って行った。


 「群れだったんですか…」


 走って来た堅牙猛は一体ではなかった。キャロルが探知した数は十数体。ルーがあのまま立っていれば、今頃は跳ね飛ばされて、踏み潰されていただろう。


 「そうよ、危なかっ…」

 「バァァァァァァアアア!!!」


 キャロルの言葉を遮るように、大きな咆哮が響いた。この声に聞き覚えのあるシンが、キャロルの背中を押す。


 「なに、今の音…」

 「早く奥まで行け!」


 シンが急かしてキャロルが前に進み、三人は隙間を通り抜ける。


 「シンさん…あの声って…」

 「静かにしろ!」


 三人が息を殺して存在感を消す。その間、探知魔術を使っているキャロルの顔は青ざめていく。しばらくすると、隙間の向こうを、先程とは比較にならない大きな足音が、ズシンズシンと通り過ぎて行った。



 「はぁ…行きましたね」

 「な、なんだったの…あれ…さっきの堅牙猛の何倍もあったわよ…」

 「…鬼熊だ、獲物が被ったらしい」


 どうやらこの山には鬼熊がいて、堅牙猛の群れを追っていたようだ。キャロルは探知魔術で捉えたその大きさに、腰が抜けている。


 「シンさん…獣避けは持ってこなかったんですか?」

 「持って来てない」

 「どうしてです⁉︎」

 「俺達は堅牙猛を狩らねばならん。そんな物持ってたら、遭遇することすら困難になる」

 「ええ…」

 「心配するな、対策はある。だが今はまず、小屋に入ろう」


 シンがそう言って歩き出す。三人が抜けた隙間の先は、地面がより平坦になっていた。そして切り立った岩壁の近くには、シンが話していた山小屋があり、彼らはその中へと入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。