↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/56

32.店長と転倒

 里を出たルー達は、長時間歩いてまた森に入り、フラウの街へ帰るため歩みを進めていた。


 「今回はアメスケにもらった地図があるからな、前よりさらに早く森を抜けられるぞ」


 「そんなことより、なんでアンタ昨日は祭りに来なかったのよ」


 「ああ、次の探し物について、城の書庫を借りて調べ物をしていた」


 「次?っていうか、金の林檎は手に入らなかったんでしょ、店長にはなんて言うつもり?」


 キャロルは、療養室でシンとアメスケが話していた内容から、林檎は手に入らなかったと思っている。


 そんな彼女に、シンが収納魔術で、林檎を二つ取り出して見せた。


 「本当は手に入ったんだ」

 「…アメスケに嘘をついたのね」

 「仕方ないだろう。正直に話して取り上げられたらかなわん」

 「そうだけど…でもそれとは関係なく、次も同行するかは考えさせて」


 「何故だ?リンゴは手に入った。屋敷に戻ればお前達への報酬もきっちり払う。それを見て、次を手伝うか選べばいいだろ」


 「そうじゃなくて、今回がかなり危険だったからよ。あんな強力な竜と戦うと思ってなかった。それにあの腕の長い男…。命はお金で買えないのよ」


 「…それはそうだな」

 「ルーはどうするつもりなの?」

 「俺は今回限りです。シンさん、約束覚えてますよね?」


 ルーは今回の仕事を終えれば、シンに母親の居場所を教えてもらうという話になっている。


 「もちろんだ。だがなんにしろ、屋敷に戻ってからだな」



 彼らはそこから一日かけて森を抜け、フラウの街へと帰って来た。



 「入れ」


 シンが扉を開けてルー達を屋敷に招き入れる。そして一階奥にある来客用の部屋に案内すると、「座って待ってろ」そう言ってどこかへ行った。


 キャロルは言われた通りソファに腰掛けると、ルーに森の中で話していた事を聞いた。


 「アンタはシンとなんの約束をしてるの?」

 「…居場所を教えてもらうんです」

 「誰の?」

 「母親です。シンさんの仕事を手伝えば、今どこにいるか教えてくれるって」

 「は?どういうこと?」


 ルーは事情を話した。母親のことや父親のこと、そしてこれまでのこと。聞き終えたキャロルは涙を流していた。


 「えっ⁉︎ちょっとキャロルさん⁉︎なんで泣いてるんですか!」


 そこへシンが戻ってくる。


 「おい何があった?ルー、お前が泣かせたのか」

 「ええ⁉︎俺じゃない…俺ですか?」

 「泣かせたのはアンタよ!シン!」

 「なんの話だ…」

 「ルーはお母さんの顔も知らないのよ⁉︎なんですぐに居場所を教えてあげないの!」

 「そのことか…ルー、そもそも何故そんなに母親に会いたいんだ?」

 「えっ…何故って、家族だからですよ」

 「そういうものなのか?」

 「はい…多分」

 「シン!アンタ何言ってんの?ぶっ飛ばすわよ⁉︎さっさと教えて!今から私も一緒に会いに行くわ!」

 「会いに行く?今から…?ハッハッハ」


 シンはキャロルの言葉に笑いながら、持ってきた大きな紙を机に広げた。


 「何よこれ…」

 「見ればわかるだろ、地図だ」

 「そうだけど…これ…」


 キャロルはルーの母親に会って、直接文句を言いたいほど頭に血が上っていたが、それを見て冷静になった。


 何故なら、居場所を聞かれたシンが出してきたのが、世界地図だったからだ。つまり、ルーの母親は少なくとも、この国にはいないということになる。


 「まず、エスゴルがここだ」


 地図を広げたシンが、この国であるエスゴル王国を指差す。


 「そして、ルーの母親…ブルーはここにいる」


 そう言って次に指したのは、エスゴルの遥か北、この大陸の最北端だった。ルーは愕然とする。


 「こんな遠くに…こんなに離れた場所にいるんですか…」

 「真っ直ぐ向かうなら、最低でも国を二つ、大きな山を三つ超える必要がある。おまけに寒いぞ」

 「そんな…だいたい、ここって人が住んでるんですか?」

 「…ああ、それは間違いない」


 しかし地図を見ながら話を聞いていたキャロルが、あることに気づく。


 「嘘よ…ここに人が住んでるわけない。だってここは…かつて魔王が住んでた場所よ…」

 「魔王?魔王って、勇者に倒された、あの魔王ですか?」

 「ええそうよ、歴史書に書いてあったわ、降り続く雪の大地から、数万の魔物の軍勢が押し寄せたって。…ルーの母親はなんでこんなとこに住んでるの?」

 「…知らん。だが絶対にここにいる。キャロル、これでも一緒に行くつもりか?」


 シンが覚悟を問うが、キャロルの意思は揺るがない。


 「当たり前じゃない、こんな場所にルーだけで行かせられないわ。それに、探知魔術が必要でしょ」


 「キャロルさん…ありがとうございます」


 「…なら決まりだな。この大陸の最北端に行くぞ」


 「シンさんもついて来てくれるんですか?」


 「無論だ。キャロルがどうしようが、俺は初めから共に行くつもりだった」


 「シンさん…優しいんですね」


 「やめろ気持ち悪い」


 ルーは母親の居場所があまりに遠く、少し落胆していたが、二人がついてきてくれると言うので、調子を取り戻した。


 「だが過酷な旅になる。正確には分からんが、数ヶ月かかるだろう」

 「そんなに⁉︎キャロルさん、本当に来てくれるんですか?」

 「…ええ…問題ないわ。いつ行くの?」


 キャロルは数ヶ月と聞いて少し尻込む。しかし心は決まっているようだ。


 「だが待て、かなり寒い場所だ、俺が持っている耐寒の魔道具が有用か試したい。一度三人で山にでも登らないか?」

 「山ですか…いいですけど、でもこの辺りの山って…」

 「フニャードの北だ」

 「絶対にダメです。またあの熊が出るかもしれない…」

 「何?なんの話?」


 ルーは鬼熊を思い出して怯えているが、キャロルと出会う前のことなので、彼女は知らない。


 「前にシンさんとフニャードの村に行った時、物凄い大きな熊が出たんです…山はそこの近くなんですよ」

 「慌てるな、獣避けを持っていけば大丈夫だ」

 「慌てますよ!村にも獣避けがあったけど、熊は来たじゃないですか!」

 「…アンタ達、竜と戦ったのに熊が怖いわけ?」

 「普通の熊じゃないんですよ。めちゃくちゃ大きくて、腕もいっぱい生えてたし…」

 「へぇ、でも安心しなさい。襲われても私が丸焼きにするわ」

 「かっこいい…」

 「よし、次の目的地はフニャードの北に位置する山、【ナルバル】だ」


 たった今帰って来たばかりだというのに、次の行き先が決まってしまった。


 「その山へはどのくらいかかるの?」

 「ナルバルへはここから、川沿いに五時間か六時間歩けば着く。だがこの山は巨大でな、登り切るのに五時間は要るだろうな」

 「ちょっと待って、なんで頂上を目指す気でいるのよ。耐寒の魔道具を試すだけなんでしょ?」

 「…そうだったな」


 シンの様子がおかしい、そう感じたルーが問いかける。


 「何か企んでませんか?」

 「いや…何も…」


 キャロルもルーと同じように感じた。


 「絶対おかしいわ。魔道具を試すためだけじゃないわね…他にどんな目的があるの?」


 「んー…実はこの山には【臨界鳥】がいるらしくてな。俺はそれの…それを一度見てみたいんだ」


 「りんかいちょう?初めて聞く名前です。蝶ですか?鳥ですか?」

 「鳥だ。…そしてこの世で、最も綺麗な鳥だそうだ」

 「この世で最も…いいですね。俺も見てみたいです」

 「だろ?それが山頂に巣を作って住んでいる…と、カエルの城の書庫で読んだ」

 「祭りにも顔を出さずに、そんなこと調べてたのね。だけど、アンタは綺麗なものを見て感動するタイプ?『フッ、くだらん』って言いそうじゃない?」

 「…そんなこと言うわけないだろう。俺はどうしてもその鳥が見たいんだ、頼む。金も払う」


 シンが頭を下げた。よほどその鳥を見たいらしい。


 「お金?…仕方ないわね、でも登ってる最中に危険だって判断すれば、山は途中で降りるからね。それでもいい?」


 「ああ、もちろんだ」


 金に釣られたキャロルが許可を出し、目的地が山の山頂に定まった。


 「なら次は日程だが、ルー、次の休みはいつだ?」

 「それなんですけど俺、郵便所を辞めようと思います」

 「何故だ?」

 「今回は七日休んでます。それに、母の住む場所へは何ヶ月もかかるんですよね。そんなには休めませんし、仮に休めても迷惑がかかります」

 「アンタせっかく定職に就いてたのに、でも家族の方が大事ね。いい判断だと思うわ」

 「魔術を使えない人間が、仕事を探すのは難しいですからね…」

 「そんなに仕事が欲しいなら、俺の手伝いをしていればいいだろ。金払いもいいぞ」

 「ははは、確かにそうです」


 山の話を終えると、シンが二人に小さな布袋を渡した。


 「そうだった、忘れない内にこれを」

 「なんですか?えっ…こんなにもらえませんよ」

 「凄い…三十枚はある…」

 「お前らにはかなり助けられたからな」


 中身は金貨だった。約束していた報酬だ。キャロルは喜びの舞を舞っている。


 「それと、俺は今からリンゴの件で、味開拓の店主に会ってくる。お前らも来るか?」

 「ええ、いいわよ」

 「俺も行きます。店長の喜ぶ顔が見たいし」


 三人は味開拓へ向かった。


 「いらっしゃいませー」

 「店主に話がある」

 「店長ですか…それが、何日か前に…」


 店員によると、店長は数日前に倒れてしまい、今は休んでいるとのこと。それを聞いた一行は住所を聞いて、店長の自宅に向かう。


 「店長ー、ルーですー!いますかー?」


 ルーが小さな家の扉をノックして大声を出す。すると中から小太りの男が顔を出した。店長だ。


 「やあルー君。みんなも一緒かい?」


 店長は出迎えると、ルー達を招き入れた。中に入るとシンは見舞いの言葉も無く、早速本題を切り出す。


 「おい店主、リンゴの話だ」

 「…ああ、そう言えばなんか頼んでたね」

 「なんかだと?あれだけ欲しがってたじゃないか」

 「それがね、なんであんなに欲しかったのか、わからないんだ」

 

 聞けば店長は四日前に倒れて以来、林檎への欲が全く無くなってしまったらしい。


 「前までは…喉の渇きを感じるほど、金の林檎が恋しくて仕方なかった…。でも今は全然だよ」

 「最高の一品を作るんじゃなかったのか?」

 「それは今でも作るつもりだよ、でも別の食材で考えてるんだ」


 「そうなのか…。少し聞きたいことがあるんだが、お前は七年前に、王都で客からリンゴを貰ったと言っていたな…どんな奴に渡されたんだ?」


 「それは…僕もこの七年で何度も思い出そうとしたんだけど、いくら考えても男だったか女だったか、それすら分からないんだ…ボケるには早いんだけどなあ」

 「…なるほどな」

 「ごめんね。それでリンゴは取れたのかい?報酬はちゃんと払うよ」

 「…いや、見つからなかった。報酬は結構だ」


 店長の様子を見て、シンは林檎を渡すのをやめた。


 「それは残念だったね、大変だったでしょ。でもギルドには、君達が依頼を受けてくれたって、もう話してあるんだ。後で僕が報告しておくから、せめて預けてある報酬金を受け取ってよ」


 店長はルー達に林檎の件を頼む前から、冒険者ギルドに依頼を出していた。その事を言っているのだろう。


 だがそんなことより、ルーは店長の体調を心配する。


 「あの…店長、遅くなったけど、倒れたって聞きました。大丈夫ですか?」


 「倒れた?ああ、転んだだけだからもう心配無いさ、明日から復帰するよ。でも僕も歳だからね、気をつけなきゃ…」


 その老人のような言い草に、違和感を覚えるキャロル。店長の見た目は三十代半ばだ。


 「歳って、何歳なの?」

 「今年で六十二だよ」

 「はぁ⁉︎嘘でしょ?…あなたは純粋な人間?それともドワーフのハーフ?」

 「人間だけど、若く見えるでしょ。美味しい料理を食べてるからかな?」

 「…そういう体質?」

 「わからないけど、何年か前から急に若返りはじめた気がするな」


 前にキャロルが若く見えることに、店長は驚いていたが、本人はそれを遥かに凌駕していた。林檎を食べた影響だろうか、一行はあまり深くは聞かず、家を出た。


 「リンゴ料理…食べてみたかったですね」

 「そんなこと言ってる場合?あの人絶対おかしいわよ…」

 「ああ、かなりおかしい」


 二人が違和感を覚えるのも無理はない。店長はあれだけ求めていた林檎への興味を失い、まるで他人事だった。そして七年前にその林檎を渡してきた客のことを覚えておらず、おまけに実年齢の半分くらいの見た目をしている。


 「リンゴを渡した客は間違い無く、カエルの里の林檎泥棒だ。誰も特徴を覚えていないという特徴が一致する」


 「そうね、でもリンゴが欲しく無くなったのはどうして?そういえば転んだって言ってたわね、頭でもうったのかな?」


 「わからん…だがリンゴの件は片が付いた。もうこれ以上詮索はしない。お前らも休め。俺は鍛冶屋に寄って帰る」


 「あっ、俺も鎧の修理を頼みに行きます。キャロルさんはどうしますか?」


 「疲れたから帰るわ。また今度集まって、山に行く計画を練りましょ」


 キャロルとはここで別れ、ルーとシンはボーペン武具店に向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。