31.宝物蔵と祈りの舞
「ここは宝物蔵だ」
「えっ宝物⁉︎金塊⁉︎」
殿様が放った言葉を聞いて、キャロルは目を輝かせる。だがそこは倉庫のようになっていて、物は様々置かれているが、彼女が想像する金塊などは無かった。
「…思ってたのと違う」
がめついキャロルの目から、光が失われていく。しかしシンは、近くに置いてあった黒い輪っかに興味を示した。
「これは魔道具か?」
「そうだ、魔力を流すと糸が出る」
シンがそれに魔力を込めると、細い糸が出てきた。
「何の魔道具だ」
「魔力を止めてみよ」
殿に言われた通り魔力を流すのをやめると、出続けていた糸が巻き取られていく。
「これはかつて、釣竿として使われていた魔道具だろう。それも含め、ここにある全ては遺跡から持ち帰った物だ」
ビルギル遺跡の地下三階は廃墟街だった。ここはそこで発見した、魔道具などの遺物を保管する蔵なのだ。
「この釣竿を売ってくれ、いくらだ」
「金はいらん。三人共気に入った物を持っていけ」
「いいのか」
「ああ、今回のお礼だ」
遺跡産の魔道具はどんな物であれ貴重だ。殿様はそれを恩返しになんでも一つくれるという。
「やったー!」
ルーは飛び跳ねて喜ぶと、奥に消えていった。シンとキャロルはゆっくり蔵の中を見て周る。
「なんかここの魔道具、輪っかの形が多いわね」
「この地方の古代人達には、魔道具を円環型で作る風習があったのだろう」
「へぇ。なんでもいいけど、お金に変えられそうなのがいいわ」
「馬鹿が、勿体ないだろ」
「じゃあアンタは何にすんのよ!」
「さあな、見てみんことには分からんが、全部見ていると日が暮れ…」
シンが何かを見つけて話すのをやめた。
「殿様よ、これは何だ?」
そう言って、水晶のような小さな石の前まで行き説明を求めた。その石は禍々しいほどに紅く、怪しい光を放ち、ガラスの箱に収められている。
「それは魔道具では無い、そして触らない方が良い。ワシらもよく分かっておらんが、かつて旅人が遺跡から持ち帰った物だそうだ」
旅人とは、前にアガマ達が話していた、百年以上前にこの里を訪れて、遺跡から金の林檎を里に持ち帰った人物のことだろう。その時一緒に遺跡から持ってきたのが、この石だそうだ。
「何故触らない方がいいんだ?」
「その石を分析するため、部下の一人が魔力を流したところ、赤く光って爆発した。石には見ての通り傷一つ無かったが、部下の方は手が吹っ飛んだ」
「ほう…これを貰ってもいいか?」
「構わんが、怪我をしないようにな」
どうやらシンはこの危険な石を貰う気らしい。そこにルーが戻ってきた、手には銀色の腕輪くらいの輪っかが握られている。
「これってなんですか?」
「術式が刻印されているから、おそらくそれも魔道具なんだが、何に使うのかは分からん」
殿の話を聞いて、シンがその輪っかに魔力を流してみる。
「魔力を込めることはできるが、術式が発動しないな。何かの部品か、不良品なんじゃないか?」
「…不良品か、俺これにします」
殿は怪訝な顔をする。
「他にも有用な物はあると思うが、君はそれを選ぶのか?」
「なんとなくですけど、これを見た時ビビッときました」
「…そうか、気に入ったならそうしなさい」
ルーは魔道具が好きだが魔力が無い、故に有効活用できるかどうかは二の次なのだ。
三人共悩んだ末に、シンは紅い石を、ルーは銀の腕輪を、キャロルは高く換金できそうな指輪を選んだ。
「ありがとうございました!」
「感謝する」
「ありがとね」
各々が礼を言うと、殿様がまた着いてこいと言って、三人を蔵の外へ連れ出した。
「ワシはここから見える景色が好きでな」
殿様は蔵を出て城の前まで行くと、里を見てそう言った。城は高台の上に建てられており、里全体が見渡せるようになっている。
「…あれは何ですか?お祭り?」
ルーが里の中の、公園のような場所に目をやると、そこには人だかりができて、屋台らしきものが出ている。
「そうだ祭りだ。今回持ち帰った黄金の林檎を、祭壇に飾って祈りを捧げる。里の者はほとんど集まる。お主らにも参加して欲しい」
殿は祭りにルー達を呼ぶつもりだが、キャロルがある事を思い出す。
「…この里って部外者が入るのを規制してるのよね?私達が祭りに行って良いの?」
「良いに決まってる。お主らのおかげで我らは救われたのだ。それにリンゴが盗まれる前は、このためにわざわざ危険な森を抜けてやって来る者もいたほど、祭りは知る人ぞ知る里の名物だった。今夜は是非楽しんでくれ」
「そこまで言うなら満喫させてもらうわ。でもルー、休みはいつまでだっけ?」
「今日を入れて後四日あります。今日は楽しみましょう!」
そこから、シンは殿に連れられ城に戻った。竜やあの二人組の事を話すためだそうだ。
ルーとキャロルは時間まで里を観光し、夕方になり、祭りが始まろうとしていた。
祭りの会場である大きな公園は、里の蛙達で賑わい、様々な屋台が出ている。中央にはやぐらが建てられていた。
「シンさん戻って来ませんね」
「まだなんか話してんでしょ」
「お祭り始まっちゃいますよ…あっ!アメスケさん!」
「ルーさん、お待ちしてました。キャロルさんもこちらへ」
行き交う人の中で、ルーがアメスケを見つけ声をかけると、彼は二人をやぐらの上へ登らせた。
「思ったより高い!」
「こんなとこに私達が上がっていいわけ?」
「ええ、今夜の主役です」
そこへ、ヒキガエルの獣人、アガマもやぐらへ登ってきた。
「ようあんたら、殿を助けてくれたのに、出迎へられなくて悪かったな。心よりの感謝を伝えたい」
「気にしないでください。それより包帯グルグル巻きですけど、アガマさんは大丈夫なんですか?」
アガマはルー達が遺跡に入っている間、入り口で警備をしていたが、フリッカー達との戦闘で傷つき、ついさっきまで療養所だった。
「問題ねえ。ちょっと真ん中に立たせてもらうぜ」
そう言ってアガマは備え付けてあった、拡声器の魔道具を手に取り、広場の者達へ向けて話し始める。
「聞こえるか?見廻り組のアガマだ。報告がある。…まだ療養中だが、昨日、殿の救出に成功した」
その声で広場は一瞬静まり返り、そして大地が揺れるほどの歓声が上がった。やはり殿は慕われているようだ。
「そして黄金のリンゴも手に入れた!今回の件に尽力してくれたのが、里の外から来たここにいる二人だ!みんな盛大な拍手を頼む!」
割れんばかりの拍手喝采。だがアガマはさらに報告を続ける。
「ここからは殿のお言葉だ。耳くそほじり出してよく聞いてくれ、『本日より里の規制を解除して、誰でも出入り自由とする』とのことだ。…って言っても、元からこの里はあんまり人が来ねえけどな!ガハハ!」
少し笑いが起こり、和やかで活気のある祭りが始まった。しばらくすると黄金の林檎を祭壇に飾り、音楽に乗せた祈りの舞を皆が踊る。アメスケの話が本当なら、これで森の縮小は止まるだろう。
ルーとキャロルは遊び疲れ、城に泊めてもらい翌朝を迎えた。
「おい、いつまで寝てるつもりだ。帰るぞ」
「シンさん…昨日は何してたんですか」
「調べ物があってな。さっさと用意をしろ、日が上る前にここを出て、森に入る」
「わかりました」
そしてなかなか起きないキャロルを起こし、三人は身支度を終えると、殿様達に見送られて里を後にした。




