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24.金色と灰色

 「建物の中に草原と太陽。つまりここは古代遺跡だ」


 「たしか古代遺跡って勝手に入ったらダメですよね?」


 「そうよ、遺跡冒険者の資格がいるわ。あくまで国が管理してたらの話だけど」


 遺跡冒険者とは職業の名前で、それになるためには冒険者の等級が五級以上で、なおかつ遺跡調査員の資格が必要になる。


 「なるほど、里の人しか遺跡の存在を知らないから大丈夫なんですね」

 「本来なら里の者でも、殿が許可を出さなければ入れないです」

 「その殿ってそんなに偉いんですか?」

 「当たり前です。里の長ですから、一番偉いです」


 「それに里のみんなにとても好かれてますよね?良い人なんですか?」


 「とても優しい方です。その上、里をより良くしようとする働き者なんです」


 殿様は里の者からとても慕われており、また殿も里を愛しているようだった。そんな話をしながら地下二階の草原を進んでいると、キャロルの探知魔術が何かを捉えた。


 「左斜め前に一体いるわ」

 「身を隠す場所がないな。仕方ない、戦うぞ」


 四人は探知した相手へズンズン向かって行く。


 「何もいませんね」

 「ちょっと待って!反応が増えた。いっぱいいる…いや、消えた…?どうなってるの⁉︎」

 「言い忘れていたが、遺跡の中では探知魔術が効かなくなることがよくある」


 ほとんどの遺跡は魔力の溜まり場になっているため、微細な魔力を扱う探知魔術とは相性が悪いのだ。

 

 「もっと早く言いなさいよ!」

 「仕方ない、探知魔術なしで行くぞ」

 「ちょっとアメスケ、この階はどんな魔物が出るの?」

 「地下二階は外の森から入ってきた、狼や蝙蝠、後は蜘蛛なんかが出ます。拙者が先頭を歩きましょう」


 そこからしばらく歩くと、木がまばらに生えている場所を見つけ、アメスケが皆に声をかけた。


 「います。怪音羽ですね」


 怪音羽カイオンパとは、大きな蝙蝠の魔物。翼を広げると、その幅は四メートル程。蝙蝠にしては骨格が丈夫で、人を掴み持ち上げることができる。だが最大の特徴は鳴き声で、近くで鳴かれると鼓膜が破れるほどの爆音を出す。


 アメスケの言葉でルーが木の影をよく見ると、蝙蝠らしく木にぶら下がっている怪音羽と目が合った。


 「うわっ!」

 「ここは拙者にお任せを」


 そう言ってアメスケが手元で何かをし始めた。


 「それなんです…」

 「邪魔しちゃダメ」


 アメスケに声をかけようとしたルーを、キャロルが引っ張って止める。


 「あれは印術式よ」


 印術式とは、両手で印と呼ばれる術式を結ぶことで魔術を発動させる方法。刻印術式と呪文が主流なため、現代では使い手はほとんどいない。


 印を結んだアメスケは、頬を大きく膨らませ、走り出す。そして怪音羽に近づいて口から水の弾を吐き出した。


 水の弾を顔に浴びた怪音羽が、驚いて暴れ出す。弾には粘性があるようで、顔に張り付いて外れない。そこにアメスケが飛び込む様に腰の刀を抜いて斬りかかり、もがく怪音羽の頭を切り落とした。


 「お見事です!」

 「いい腕だ」

 

 三人がその腕前を見て歓声を上げる。だがキャロルはアメスケの術式の組み方が気になった。


 「アンタの里はみんなそうやって魔術を使うの?」

 「はい、里の伝統です。特に親分やヒナメさんは印を結ぶ速さも、技の威力も凄いですよ」

 「あの二人強いんだ。それでも大蛇には勝てないの?」

 「そ、それは…あの蛇に一度睨まれると、拙者達は身体が動かなくなるのです」


 それを聞いたシンが質問する。


 「さっきも言っていたが、それはカエルにだけ効くのか?俺たちも動けなくなるのか?」


 「カエル以外が入るのは、ほぼ初めてなのでなんとも言えませんが、我らは蛇が苦手です。それが関係しているのかもしれません。去年の調査隊もいくつか対策を持って行きましたが、結果あの眼にやられて逃げ帰りました」


 魔物の中には魔術のように、魔力を使った技を使うものが存在し、この遺跡にいる大蛇はその眼で睨むだけで相手を動けなくできるらしい。


 「そうなのか。一応俺もアガマ達と作戦を練った。その蛇の眼が、どんな仕組みでも大丈夫だ」

 「どういう作戦なんですか?」

 「作戦と呼べるか怪しいが、おそらくこれが最も効果的だろう」


 シンが持ってきた作戦を共有した。


 「その単純な作戦乗った!私のためにあるようなものね」

 「キャロルがいる前提の戦法だからな」



 蛇について少し話し合った一行は、そこからアメスケの案内で何時間か歩き階段に辿り着いた。これで本命の地下三階へ行けるだろう。だがルーがその階段を前にして、不穏な事を言い出す。


 「大量の血の匂いがします…」

 「どこからだ?」

 「階段です」


 シンはルーを狼男だと思っているため何も疑わないが、キャロルとアメスケは不思議がる。


 「拙者には何も匂いませんよ」

 「ルー、アンタ本当は犬じゃないの?」


 一行は下へ降りていく。さっきほどでは無いが長い階段、手すりが無いので足を踏み外しそうだ。


 「着きましたね」

 「暗いな」


 二階同様に光源はあるが、あっちが太陽ならこちらは月の光。その程度の明かりだった。


 「上とは全然違いますね」


 三階は廃墟街のようになっており、二階とは違って文明を感じさせる。だが暗さも相まって陰鬱とした雰囲気が漂っていた。


 「ここに殿様がいる…。お前らの見立てではそうだったな」

 「はい。そして蛇もここにいます」

 「キャロル、この階も探知魔術はダメそうか?」

 「ダメね。漂ってる魔力が濃すぎて何も感じ取れない。アメスケ、この階には蛇意外の魔物は何がいるの?」

 「ここは蛇が恐ろしくて他の魔物は降りてこない筈です」

 「ルー、血の匂いを辿れ」

 「わかりました」


 広大過ぎる二階に比べて、三階は小さな町程度。だが遮蔽物が多いため、身を隠せる場所が多そうだ。これならどこかに隠れている生存者がいても不思議じゃない。


 「アメスケさん…これ…」


 ルーが血の匂いを追いかけていると、何かを見つけ、アメスケを呼び寄せた。


 「これは…」


 シンもそれを見て、アメスケに確認を取る。


 「里の者で間違いないか?」

 「…はい」


 それは酷く損傷してはいるが、蛙の下半身だった。見るとその先に激しい戦闘の後が残っており、至る所に蛙の死体が散らばっていた。


 「惨すぎる…」

 「うっ…うぇ」


 凄惨な現場にキャロルは目を背け、ルーは吐いてしまった。


 「殿ではありませんが、つけている鎧からして、殿と一緒に入った調査隊の方々だと思います」

 「そうか、なら持ち帰ろう」


 シンは戻って弔えるように、死体を全て収納袋に入れた。


 「この惨劇は例の大蛇の仕業だと思うか?」


 「思いません。死体と壁に大きな爪痕があります。別の魔物でしょう」


 「だがこの階には別の魔物はいない筈なんだろう?それに、ここへ来る階段の入り口も狭かった。あれじゃ大した魔物は入ってこれない」


 「わかりません。でも一つ確かなことは、ここで亡くなっている方々は実力で調査隊になった強者達、拙者より強い者ばかりのはずです」


 

 蛇であれ別の魔物であれ、かなり強力な魔物がいる。四人は油断せずに廃墟の町を探した。


 「いなくないですか?」

 「いませんね」

 「結構歩いたけど、生き物の気配が無いわ」

 「見つからんな。だからといって下に降りようにも、階段も見つからん」


 しばらく歩き回ったが、蛇も生きた蛙も見つからない。だがルーがある建物を指差した。


 「あそこって見ました?」

 「あそこって、あの天井が無い家のこと?」

 「中を見てみるか」


 地下三階は廃墟街になっているが、その中の一軒。天井が崩落している大きな家があった。四人はそこへ向かう。


 「開けますよ?」

 「頼む」

 「お邪魔しまーす!」


 ルーが勢いよくその家の扉を開ける、すると扉のすぐ奥に、灰色の石壁のような物があって中に入ることが出来なかった。ルーが押してみるがびくともしない。


 「誰かいますかー!」

 …

 「返事は無いな、この壁はなんだ」

 「拙者にもさっぱりです」


 「ここは私に任せて!」


 キャロルはそう言うと、収納魔術で大きな杖を取り出して、呪文をブツブツと唱え始めた。それを見たルーとシンが、キャロルと初めて会った時のことを思い出し、二人でアメスケを抱えて走り出す。


 その後すぐに凄まじい光と爆音が当たりを包み込んだ。キャロルは家ごと石壁を吹き飛ばそうと、爆発魔術を放ったのだ。


 「キャロル!撃つ前に確認を取れ!」

 

 逃げたシンがそう言うと、キャロルは少し恥ずかしそうにしていた。彼女はパーティを組んだことが無いせいか、それとも元々の性格か、魔術の使い方が少し自己中心的だった。


 今の爆発で煙が上がっている。そのため中の石壁は見えないが、間違いなく家は吹き飛んでいた。その様子を見たアメスケが感心する。


 「あんな大きな家を吹き飛ばすなんて、キャロルさんはとてつもない魔術師ですね…」

 「そうなんですよ!なんと言ってもキャロルさんは、学校で魔術の先生をしてましたから!」

 「それはすごい」

 「先生って言っても、元だけどね」


 いつまで経っても消えない煙を、キャロルが魔術の突風で霧散させる。するとそこにもう石壁は無く、下へ続く大きな階段が現れた。


 「家の中に階段があったのか」

 「さっきの壁はどこいったの?壊したにしても瓦礫が無いわ」


 その時、ルーの異常な聴覚が何かを捉えた。


 「声がしました!」

 「えっ?何か聞こえた?」

 「階段から声がしました。ほら!今度は叫び声が聞こえます!」

 「本当ですか⁉︎すぐに降りましょう!」


 アメスケを先頭に、急いで階段を降りる四人。階段は今までよりも大きな作りになっており、かなり地下深くまで伸びている。


 「眩しい!」

 「光ってるな」

 「何あれ金⁉︎金⁉︎」


 降りていくうちに、下に林が見えてきたのだが、その全てが金色に輝いていた。


 「あれじゃないですか⁉︎」

 「…まずいな」


 その金色の場所の奥には、里の者であろう蛙達がいたのだが、大きな魔物に追い詰められていて、今すぐにでも助けが必要そうだった。


 地下四階、最下層に到着した。向こう側には里の蛙達がいるのだが、その蛙達とルー達の間に大きな魔物がいる。それを見てシンの表情が歪む。


 「聞いてた話と違うな…」


 その魔物は全身が灰色の鱗に覆われ、大きな角の生えた頭に、太く長い尻尾。背中には小さいが羽が生えている。そして何よりも…四本の足があった。


 「あれは竜だ」


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