25.蛇と竜
地下四階、全てが金色に輝く最下層で、一行はある魔物を発見する。
魔物は角や羽が生えた、二足歩行の巨体なトカゲのようだった。その姿にシンは戸惑いを見せる。
「アメスケ、まさかあれがお前らの言う大蛇か?」
「いえ、色は大蛇と同じですが、あんな怪物は初めて見ました」
「なら覚えておけ、あれは竜だ」
竜とは、ドラゴンとも呼ばれる強力な魔物。
竜と言っても種類は多岐に渡り、前足に翼膜がついた飛竜や、飛ぶことの出来ない地竜などの下位のものから、四つ足で背中から翼が生えた上位のものまでいる。
竜の多くは鱗に全身を覆われており、その鱗は頑丈で、また魔力を通しずらい。そのため鎧の素材として高額で取り引きされる。
想定していた魔物より、ずいぶん厄介な相手だ。
「あれが竜…拙者も聞いたことはありますが、あんなに恐ろしい見た目とは…」
「まあ竜と言っても、あの小さな羽では飛べないだろう。あれは地竜だな」
竜は向こうの生存者に気を取られているため、ほとんど後ろ姿しか見えないが、シンは背中の小さな羽を見て、地を這う竜。敵を地竜と断定した。
その地竜の後ろ姿を見ていたアメスケが、あることに気づく。
「あの竜、尻尾が焦げてて傷跡があります」
「爆発でもあったんじゃない?」
実は、先程上の階で四人を阻んだ石壁は、階段に引っかかって抜けれなくなった竜の尻尾だった。そこにキャロルが爆発を当てて、竜は押し出される形で下の階に降りたのだ。
こんな危険で珍しい魔物を見たら、いつもなら大騒ぎしそうなルーがやけに静かだ。それをキャロルが心配する。
「ルーどうしたの?苦しいの?」
「背中が…すごく痛い」
俯いたルーが痛みを訴える。しばらく出ていなかった内側から掻きむしるような背中の痛みが、ここに来てまた出たのだ。その様子を見てシンが話しかけた。
「おいルーしっかりしろ、お前は戦わなくていい。だが向こうにいる者達を助けたい。俺とキャロルが作戦を開始したら、アメスケと一緒に向こうに走れ、そしてカエル達と上の階に逃げろ」
「その後は…どうするんですか」
「そのまま地上までいけ、キャロルも隙を見て必ず逃す」
「…シンさんは?」
「安心しろ、俺にはとっておきがある」
「前と同じじゃないですか…」
鬼熊と戦った時と同様のセリフを吐くシン。また自分一人犠牲になるつもりかもしれない。それをルーが心配するが、シンは作戦を開始する。
「キャロル、竜に対して魔術は効きが悪い、そのうえ種類によるが炎は通さん」
「ええ⁉︎じゃあどうすんのよ?」
「作戦通り何発かデカめの魔術を撃ち込む、だが爆発魔術にしろ、あれなら奴にも効くはずだ。撃ち終えたらお前も上の階に避難。その後は俺がどうにかする」
「どうにかって…分かった。死なないでね」
「任せろ。さぁ撃て!」
今回シンが持ってきた作戦は「蛇に何もさせない作戦」だった。その内容は、蛇がこちらに気づく前に、キャロルの得意だと言う炎魔術で焼き払おうという単純な物。
これは本来なら大蛇に使う筈だったのだが、明らかに敵は蛇より強敵。そのためシンは目的を、倒す事から生存者を逃がすための足止めに変えた。
強いシンとキャロルが時間を稼ぎ、足の速いルーとアメスケがみんなを逃す算段だ。
キャロルが杖を構えて呪文を唱える。その間にシンは、回復薬の瓶を取り出して中の黒い液体を飲み干した。
「吹っ飛べ!」
キャロルが爆発魔術を放ち、背中に命中させた。その威力は、今までに彼女が見せた二度の爆発よりも大きなものだった。
「ルーさん行きましょう!」
その爆発を合図にルーとアメスケは走り出す。地竜を迂回して生存者の元へ向かった。
凄まじい爆煙の中から地竜の咆哮が響く、キャロルは次弾の呪文を唱え初めていた。
「来るぞ!」
煙の中から地竜が姿を現した。それはそれは恐ろしい顔をしており、大きく開いた口からは、牙と長い舌が見えている。
そして黄色く光る眼玉で、こちらを睨みつけてきた。
竜が煙から出たのを見て、シンはキャロルに二発目を撃つよう指示した。だがキャロルの反応が無い。
「キャロル何してる!早く撃て!」
「か、身体が…動かない」
「なんだと…。これを噛め」
シンがキャロルに、ある葉っぱを噛ませると、少し彼女の身体が動くようになった。だがこれでは戦えない。
「何…この葉っぱ」
「ヒナメから貰った痺れ取りだ。歩けるか?ルー達を待たずにすぐに上の階に行け」
「まだ無理。…ごめんなさい、いきなり身体が…」
「謝るな、お前はよくやった」
シンは里でヒナメから、蛇対策の痺れ取りを貰っていた。ほとんど気休めにしかならないらしいが、キャロルの痺れは少しマシになったようだ。
「後は任せろ」
シンはキャロルに竜が近づかぬよう。また、生存者が逃げる時間を稼ぐため、レイピアを手に敵へ向かって走り出した。
一方ルー達は、生存者の救助を開始していた。
「殿!助けに来ました!」
アメスケの声を聞いて蛙達の中から、ちょび髭を蓄えた少し大きめの蛙が、仲間に肩を借りて出てきた。どうやら彼が噂に聞いていた殿様らしい。だがアメスケはその姿に驚愕する。
「殿…その足は…」
殿様は、右足の膝から下がなかった。
「アメスケか、よく来てくれた…これは気にするな。そちらの方は?」
「…助っ人です。冒険者様です。詳しい話は後で、今後ろで仲間が二人、時間を稼いでくれています。その間に逃げましょう」
「わかった。だが、この足ではな…」
片足の殿を見て、ルーが一歩前に出た。
「俺が背負って行きますよ。他に怪我をされた方はいませんか?」
皆かなりやつれているが、怪我人は殿だけのようだった。その殿をルーが背負う。
「ルーさん!拙者達に合わせなくていいです、殿を早く安全な場所へ!」
アメスケにそう言われて、ルーは全力疾走で黄金の木々を駆け抜け、来た道を戻る。そして階段の近くまで帰ってくると、とぼとぼと歩く人影を見つけた。
「キャロルさん!」
キャロルが杖に体重を預けて、苦しそうに歩いていた。
「…ルー?」
「怪我したんですか⁉︎」
「違うの、急に身体が痺れたの」
「痺れた?とりあえず連れていきますね」
ルーはそう言って右肩に殿を、左肩にキャロルを乗せて、物凄い速さで階段を駆け上がった。
「おろしますよ」
三階に戻ったルーが、肩に乗せていた二人を地面に下ろす。キャロルは驚いていた。
「ルー、助かったわ。アンタすごい力ね」
「いえいえ、配達の荷物はもっと重いですから」
「もっとって何よ」
「いや、あの…ごめんなさい」
殿もルーに礼を言う。
「ありがとう、助かった。足が無い分軽かっただろう」
「あはは…どういたしまして」
殿の嫌な冗談に、ルーは乾いた笑いが出る。その気さくな殿にキャロルが声をかけた。
「アンタ…、あなたが殿様ですか?」
「その通りだ。あなた方は助っ人だと、アメスケから聞いている。大変な目に合わせてしまい申し訳ない」
「…気にしないで、それより足がないのは元から?」
「はっはっは。流石に片足で遺跡に入ろうとは思わん。竜にやられた」
殿の足は応急処置がされていたが、一応キャロルが回復薬をかけた。治りはしないが、これも痺れ取りと同じで気休めだった。
「何から何まですまないな…」
そこに、ようやく追いついたアメスケ達が階段を登ってきた。
「戻れましたか…良かった…」
「アメスケ、面倒をかけたな」
「良いんです。殿が生きていればそれで…」
生存者は殿を入れて十人。長い時間遺跡にいて食料が尽きたのだろう、みんなかなり衰弱していたが、無事に上の階まで戻ることができた。だが一人足りない。
「すいません!シンさんはどういう状況でしたか!」
「拙者達が戻るときに、まだ竜が暴れていました…おそらく今も戦っています」
「…マジかよ」
生存者の避難は済んだが、シンが戻って来ない。仮に助けに行くとしたら、痺れが残るキャロルに、衰弱した蛙達。下の階には暴れる竜。良いとは言えない状況だ。
だがここでルーが勇気をみせる。
「みなさんは地上に戻っていてください。俺は…シンさんを助けに行きます!」




