23.殿様探しと古代遺跡
「その遺跡の中から…。我らの殿を救い出して欲しいのです」
「救い出す?どういうことだ」
「黄金の林檎を取りに行った殿が、もう七日も帰ってきていません」
「元は何日で帰る予定だったんだ?」
「遅くても三日の筈でした」
「何故部下じゃなく、殿様が直接リンゴを取りに行った?」
「それが…」
アメスケが事情を語った。
里は七年前に林檎を盗まれて以来、新しい黄金の林檎を手に入れるため、毎年この時期になると調査隊が組まれ、ビルギル遺跡に送り出しているそうだ。だが今までどの隊も遺跡を攻略できず、林檎は今日に至るまで手に入っていない。
痺れを切らした里の長である殿様が、今年は自ら部下を引き連れて、遺跡に入ってしまったのだと言う。
ここまで聞いてルーとシンに疑問が生じた。
「どうしてそんなにリンゴが必要なんですか?里の宝なのは分かったけど、絶対に手元に無いとダメな物なんですか?」
「この里は年に一度祭りがあります。その時に黄金の林檎を祭壇に飾り、森に祈りを捧げるのですが、それがずっとできていません」
「それの何が問題なんだ、ただの祈りだろう」
「拙者達もそう思っていました。ですがリンゴが無くなった七年前から、里の周りの森が枯れ始めたのです…」
そういったしきたりに価値を見出せていないシンだが、それを聞いてハッとする。
本来カワズ盆地へは、森を二、三日かけて抜けてくる予定だった。だが、かかった時間は一日と少し。シンは地図の間違いかと思っていたが、実際は森が縮小していたのである。
「…早く抜けれたわけだ」
「殿は焦っていました。このままいけばそう遠くない未来に、森が無くなってしまうと…」
ウッドホッパーの大量発生にも、森の縮小が少なからず影響していた。
「確かにリンゴは大切。ですが、今は殿の命が優先。殿が遺跡に入ったのが七日前、それを探しに追加の隊が入ったのが四日前。どちらも帰ってきていません。ご助力願います」
必死に頼むアメスケだが、ヒキガエルはそれを咎めた。
「おいアメスケ、いくらなんでも外の人に頼むのはよくねえだろ…」
「親分!そんな悠長なこと言ってられる状況ですか!」
「俺だって悠長にしてるつもりはねぇよ。でもあそこがどれだけ危険な場所か、去年行ったお前ならわかるはずだ。そこに里の恩人を行かせんのか?」
「確かに危険はあります。でもシンさんは強い、その上遺跡にも詳しい。この人に頼るしか道は無いんです!」
二人が言い合いをしていると、アメスケの意見にある蛙が賛同する。
「おいらもこの人に頼むのが良いと思うよ」
声の主はヒナメだった。彼に気づいたキャロルが声をかける。
「アンタさっきはよくも嵌めたわね!」
「まあまあ、アメスケのおかげで助かっただろ?城番に頼んでこいつを呼んどいたのは、おいらなんだから許してよ」
ヒナメにヒキガエルが問う。
「なんでお前までそっちの意見なんだ」
「この白髪のお兄さん、さっきあれだけの数に囲まれて全く物怖じしてなかった。この人強いよ。それに他に良い当ても無い訳だし」
「ん〜」
「殿を助けたいのはさ、おいら達みんな、おんなじだろ?」
「…ハァ。わかった」
ヒキガエルが大きなため息をついて承諾した。そしてシンの方に身体を向ける。
「自己紹介が遅れたな。俺は里の見回り組組長のアガマだ。俺からあんた、いやシンさんに頼みがある」
「言ってみろ」
「遺跡から、殿と仲間を連れて帰ってきてくれ」
「その頼み受けよう。だが報酬を貰うぞ」
「もちろん礼はするつもりだ」
「そうか、その言葉を忘れるなよ」
ここに契約が成立した。そこからはシンが遺跡について聞き、作戦会議が始まった。
「遺跡の構造を教えろ」
「遺跡は、言い伝えによると、地下四階建てになっています。そして殿は、おそらく三階にいます」
「何故三階だと思うんだ」
「拙者たちは過去、三階までしか行けていないからです」
ここ七年の調査で蛙達は、遺跡の地下三階までしか行けていない。また地下四階建てという情報も、百年以上前に里に来た、ある旅人が残した物だという。
「前回リンゴを取って来たのはその旅人か?」
「はい。かなり昔の事なので、素性はわかりませんが…」
「お前達は何故三階までしか行けていない?三階に何があるんだ?」
「三階には…恐ろしい大蛇が居座っています」
遺跡の三階には大きな蛇が住んでおり、蛙達はこの蛇のせいで四階に降りれないのだという。
「どう恐ろしいんだ?」
「奴に睨まれると、身体が動かなくなります」
「ほぉ、動かなくなる。三階に蛇、一階と二階は?」
「一階は墓地のようになっています。二階は多少魔物は出ますが、広いくらいで特に問題ありません」
ここまで聞いて、シンがルーとキャロルに確認を取る。
「お前達はどうする?無理強いはしない。ここで待っててもいいぞ」
「私は行くわ、死ぬまでに一度は遺跡に入ってみたいと思ってた。こんな機会逃せない」
「俺は…」
突然遺跡に入ることになり、ルーは迷った。もちろん行きたい気持ちはあるが、大蛇と聞いて身がすくむ。蛙達は強さを求めてシンを頼った。弱い自分が行っていいのか、足手纏いにならないか。その様子を見てシンが判断を下す。
「ルー、お前は戦わなくていい。だが怪我人がいるかもしれん、その時担いで運び出せるようについて来い」
「…わかりました」
戦わなくていい。弱いルーはその言葉に安心し、ついていくことを決めた。
会議の結果遺跡には、シンとルーとキャロルの三人と、案内役のアメスケで入ることとなった。
三人はそこから疲労回復の温泉に浸かり、里で必要な物を揃えて遺跡に向かう。遺跡は里の近くの切り立った崖の、根本に入り口があるらしい。里を出発する際、ルーがアメスケの格好に注目した。
「アメスケさん、かっこいい服装ですね」
「ありがたし、これは拙者の旅の装いです」
アメスケは笠を被って合羽を着て、手には手甲。腰には刀を差していた。
「それに見たことない武器ですね」
「これは刀です。里の者は皆、刀か槍で戦います」
遺跡の入り口に到着した。そこには既に数人の蛙が待機していた。その蛙達の中にはヒナメとアガマもいる。その二人が、遺跡に入る四人に声をかけた。
「おいら達は魔物が入らないように外で見張っとくよ。最近は変なのが出るからさ、みんなには殿のこと頼んだよ」
「俺からも殿のことを頼んだ。後、これを持っていけ」
アガマがルーに何かを渡す。
「なんですかこれ」
「これは匂いと音の爆弾だ。蛇は耳と鼻が効く。戦わずに済むならそれが一番だが、奴と遭遇したらぶつけてやれ、隙が生まれる。そこをズドンだ」
「…ありがとうございます」
シンとルーとキャロルとアメスケ、四人が遺跡に入る。
遺跡は灰色の大きな四角い石を煉瓦のように積んでできており、その所々が苔で覆われていた。
「緊張しますね」
「ここはまだ大丈夫です」
ルー達は階段を降りていく。
地下一階に着くと、そこは入り口と同じ石造りで、聞いていた通り、墓石と石碑がいくつか立っていた。その石碑には読み取れない文字が多数書かれている。それを見てシンがつぶやく。
「時間が許せば書き記したいところだ…」
シンはテールと組んで遺跡の研究をしていた。この石碑も解読したいのだろう。ルーも少し石碑を覗いてみる。
「父さんの残した書類にもこん…。痛い!」
「どうした?」
「…すいません。なんでもないです」
石碑を覗いた途端、ルーの背中に激痛がはしった。だが痛みはすぐに引いたようだ、一行は近くにあった階段で下へと向かう。
「どういうことですか⁉︎」
階段を降りている最中、ルーが驚いて声を出した。
「遺跡とはこういう場所だ。キャロル、探知魔術を使え」
「もう使ってるわ」
長い階段を降りて地下二階に着く。そこは草原だった、そのうえ太陽のような光源があり、地下一階とは比べ物にならないほどに広い。
「シンさん。ここって建物の中ですよね?」
「ああ。遺跡には二種類あってな」
シンが遺跡についての説明を始めた。
遺跡には古代遺跡と、それを模して後の時代に造られたものがある。後者の方は圧倒的に数が多く、規模も小さい。だが前者の古代遺跡は数は少ないが、規模も技術も常識を超えており、キャロルが話していた御伽話に出てくる、神と呼ばれる存在が造ったとされている。
人類が初めて古代遺跡を発見してから二百年が経つが、未だに解明されていないことの方が多い。
「建物の中に草原と太陽。つまりここは、古代遺跡だ」




