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22.蛙の罠と林檎泥棒

 「おい!そこのお前聞こえるか!」


 シンが二足歩行のカエルに話しかけた。それをキャロルが焦って止める。


 「ちょっとアンタやめなさいよ!アレ魔物でしょ⁉︎」


 声をかけられたカエルが近づいてくる。ルーは盾と槍を構えて臨戦態勢をとった。カエルはすぐそこまで来ている。戦闘になる……かと思いきや、向こうからも声をかけてきた。


 「おたくら何してんの?」


 彼はカエルの獣人。背は高くないが、猫背なだけで身体自体は人間と変わらぬ大きさ。体の色はオレンジ。キャロルとルーは、ふんどし一丁の彼を見て魔物と勘違いしたようだ。


 「俺達はフラウから来た冒険者だ。この辺りに里があると聞いた。お前はそこの者か」


 「…そうだけど、うちの里知ってるなんて珍しいね。どこで聞いたの」


 「以前お前らの里の者に会ったことがある。そいつに聞いた」


 「そいつって誰?」


 「奴は【アメスケ】と名乗っていた」


 シンが味開拓で言及していた人物だ。


 「なんだ、おたくらアメスケの知り合いか。あいつなら今、里にいるぜ」


 「なら奴のところまで案内を頼みたいんだが可能か?」


 「いいけど、わざわざフラウからあいつに会いに来たの?」


 「いや、俺たちはあるリンゴを探していてな、それでここまで来た」


 「…リンゴ?どんな?」


 「金の林檎だ。知ってるか?」

 

 「…へぇ、そうかい。リンゴについては知らないけど、アメスケの知り合いなら里まで連れてくよ」


 一行はそこから自己紹介し合って、この蛙の名前が【ヒナメ】だということがわかった。そのヒナメの案内で一時間ほど歩き、ルー達は里に着いた。





 「ここがうちの里ホリードだ」


 ホリードは、カワズ盆地に栄える蛙の獣人の里。広大な森と高い丘に囲まれているため、古くから滅多に人が来ないこの土地は、他とは違った独自の文化が育まれている。


 ルーとキャロルがホリードの街並みを珍しがっていたので、里の中もヒナメが紹介してくれた。

 

 「向こうの方に人がたくさんいますね」

 「あれは市場だよ」

 「どの家も丸くて可愛いわね。特にあの家!」

 「あれは厠だよ」


 紹介を受けながら進んでいくと市場に出た。様々な店や食堂が並んで賑わっている。ルーがそれを見て後で何を食べようか考えていると、市場のカエル達が話しかけてきた。


 「ヒナメさん、規制は解けたのかい?人を入れるなんて…」

 「あんた達どっから来た人?これ食べていきな!」

 「うちのも美味しいよ!」

 「ほら、これもあげる」


 市場のカエル達に大小様々な虫料理を渡され、ルーとキャロルが苦笑いしながらそれを受け取る。人だかりが出来たので、それを抜けて里の中心部へ向かった。


 「規制してると言っていたが、入って良かったのか?」

 「…ああ、ちょっとね。でもアメスケの知り合いなら大丈夫さ、着いたよ」

 「これに入るのか」

 「ああ、ここにアメスケがいる」


 連れてこられた建物は、里の中央に位置する立派な城。里の建物はどれも木造だが、城は石造りだった。城へ入ろうとすると、中から門番らしき、変わった鎧を着た大きなカエルが出てきた。


 「ヒナメさん、その方たちは?」

 「アメスケの客だ。それと…」

 「…なるほど。わかりました、どうぞ」


 ヒナメが門番に何かを耳打ちすると、すんなり通してくれた。城に入った一行は、だだっ広い広間で立ち止まる。


 「ここで待っててくれ、アメスケを連れてくる」


 そう言うと彼は広間の奥に入っていった。それを見送ったルーがシンに尋ねる。


 「その知り合いのアメスケさんはどんな方なんですか?」

 「背が低くてすばしっこい奴だ」

 「どんな説明よ」


 しばらく広間真ん中で待っていると、シンが何かに気づいた。


 「…囲まれているな」

 「何がですか?」

 「周りを見てみろ」


 ルーが辺りを見渡すと、いつのまにか広間の壁や天井に、黒い装束を見に纏ったカエルの獣人達が、至る所に張り付いていて、その全員がじっとこちらを見ていた。


 「うわぁ、たくさんいますね…」

 「えっ何?どういうこと?」

 「キャロル、何人いるか探れ」

 「待ってね…」


 キャロルが探知魔術を使って確認すると、周りには五十以上のカエルがいた。


 「…広間の外にもめちゃくちゃいっぱいいる」

 「罠だったか…」


 この状況を見て、シンが収納魔術で回復薬の瓶を出した。中には鬼熊と戦った時に飲んでいた液体と同じ物が入っている。


 シンが瓶の蓋を開けようとしたその時、広間の奥からヒナメが出てきた。それに向かってシンが大きな声を出す。


 「おいヒナメ!どういうつもりだ!」


 ヒナメはそれを無視して、自分の後ろにいる誰かを招き入れる。するとその後ろから、青い羽織を直に着た、大柄なヒキガエルの獣人が出てきた。


 そのヒキガエルは低い声でシン達に問う。


 「お前らか、林檎泥棒は」


 突然出てきたヒキガエルに訳の分からない事を言われ、シンが困惑する。


 「泥棒だと?なんの話だ」

 「七年前に林檎を盗んだ奴の仲間だろう」

 「全く見に覚えがないな。人違いだ」 

 「ならなんでお前は、里の秘宝であるリンゴを知ってるんだ!」

 「里の秘宝?ということは…本当にここにあるんだな?」

 「あぁ?とぼけんじゃねえよ泥棒が!」


 ヒキガエルは三人をいきなり泥棒と決めつけて、罵ってきた。これに今まで大人しくしていたキャロルがキレてしまう。


 「アンタ急に出てきて何を泥棒泥棒言ってるわけ⁉︎証拠はあるんでしょうねぇ⁉︎このダルマブスガエル!」

 「ちょっとキャロルさん…」

 「誰がブスガエルだ!ガキは黙ってろ!」


 キャロルの発言に怒ったヒキガエルが、周りの蛙に命令を出した。


 「もういい時間の無駄だ。こいつらを縛り上げろ!拷問して吐かせる」


 それを合図に、張り付いていたカエル達が一斉に武器を取り出す。修羅場が始まろうとしたその時。



 「待ってくださぁぁぁぁぁあい!!!」



 背の低いアマガエルの獣人が、大声を出して広間に飛び込んできた。それを見たヒキガエルがまた怒鳴る。


 「何しに来たアメスケ!」

 「親分!やめてください!この方は悪人じゃありません」

 「急にやってきて何言ってんだ!てめー泥棒と知り合いか⁉︎」

 「馬鹿な事を!シンさんは我らの里の恩人!この方が泥棒な訳がない!」

 「里の恩人って何のことだ!」


 「五年前拙者に【解毒の石卵】を譲ってくれたのは、この人なんですよ!」


 それからアマガエルがヒキガエルのところまで寄っていき、何やら話をしだした。壁に張り付いたカエル達も困惑している。


 話終えた二人の蛙が、シン達の前にやってきて、来るや否や額を地面に擦り付けて謝り出した。


 「悪かった!あんたが【殿】の恩人とは知らなかったんだ!」


 アマガエルに何を聞かされたかは分からないが、何やら事情があるようだ。ヒキガエルの態度が一変した。


 「親分も悪気はなかったんです。許してください」

 「かまわん。久しいな、アメスケ」


 広間に入って三人を助けてくれたのは、例のアメスケだった。その様子を見たルーは、戦闘にならなくて良かったと、ほっと胸を撫で下ろした。




 「ご無沙汰しておりますシンさん。あの時は助けてくださり、本当にありがとうございました」


 「気にするな。それより泥棒とはどういう事だ?リンゴは盗まれたのか?」


 その質問にはヒキガエルが答える。


 「七年前に里に来た人間が、祭りで祭壇に供えてた黄金の林檎を奪っちまったんだ」


 「奪った?取り返さなかったのか?」


 「…そのまま盗まれちまった」


 それ以来、里は七年に渡って人間の出入りを厳しく取り締まっていた。今回は、シン達が門外不出の金の林檎の名前を出したため、ヒナメがここへ連れてきたのだ。


 「七年前か…」


 シンが味開拓の店長の話を思い出す。


 「俺達はある料理人に依頼されてここへ来た。その料理人は七年前に王都で客から、金の林檎を渡されたそうだ。その客が怪しい。時期も一致する」


 「渡された⁉︎じゃあリンゴはまだあるのか?」

 「いや、リンゴはその料理人が食べてしまってもう無い」

 「あれを食った?嘘だろ…」

 「そもそも七年も前の話だ。食ってなくても朽ち果てているだろう」

 「いいや…腐らねぇんだ、あのリンゴは」

 「どういう意味だ」


 「そのままの意味だ。盗まれたリンゴは俺が物心つく前から里にあった。いつ収穫されたかもわからねえほど昔からな。でも見た目は一切変わらねぇ、ずっと光ってんだ」


 荒唐無稽な話だが、それを聞いたシンの中で何かが確信に変わった。


 「お前はさっきリンゴの事を里の秘宝だと言っていたな。その秘宝が泥棒に盗まれるのをただ見てたのか?」


 「…違うんだ」


 「何が違うんだ。見てて取り逃がしたのだろう?」


 「確かに見てたが…奴はリンゴを持った瞬間に、パッと消えちまったんだ!」


 「消えただと?姿を隠す魔術か?」


 「それなら探知魔術で探せた筈だ。本当にあの場から消えたんだ!まるで瞬間移動みてえに!」


 「瞬間移動…」


 「瞬間移動⁉︎ 瞬間移動って言いました⁉︎」


 ヒキガエルの話を聞いて、ルーがはしゃぎだす。


 「キャロルさん!そんな魔術存在するんですか?」


 元魔術教師なら何か知っているかもしれないと、ルーが目を輝かせて質問した。


 「存在は多分しないけど、本で読んだことはある」

 「どういうことです?なんの本?」


 「神話の本よ。太古の昔に【神】と呼ばれた者達がいて、その神は瞬きの間に街から街へ、国から国へ移動できたらしいわ、まぁただの作り話だろうけどね」


 今キャロルが語ったのは、この国では有名な御伽話だが、シンはそれを聞いて顔を顰めた。


 「神か…」

 「本当なんだよ!俺はこの眼で見たんだ!」

 「ヒキガエル、お前を信じよう。それで、その林檎泥棒はどんな奴だった?」

 「それが…覚えてねえんだ」

 「アンタいい加減にしなさいよ!」


 瞬間移動はする、見た目は覚えていない、なんの手がかりもないヒキガエルの話に、キャロルが怒った。だがアメスケがその話を擁護する。


 「親分は嘘をついていません。拙者を含め、あの場にいた全員が覚えていないんです」


 「遠くて見えなかったんですか?」


 「いいえすぐ近くでした。それどころか、奴とはあの日一緒に飯を食べ、祭りを共に過ごしました。なのに誰も、奴の顔や服装はもちろん。男か女かすら思い出せないんです…」


 苦い表情でそう語るアメスケを見て、ルーは少し怖くなった。神という存在と姿のわからない林檎泥棒。あまりにも奇妙な話だ。その空気をシンが変える。


 「昔のことより今のことだ、リンゴは盗まれた物以外にもあるのか?」


 「それは…里の者以外には…」


 「なんだと?あれだけ俺たちを疑っておいて、こっちの質問には答えないのか?」


 ヒキガエルが解答を渋った。それを見たアメスケが手を挙げた。


 「…拙者が話します。かなり厄介な話なんですが…」


 「安心しろ、厄介事には慣れてる」


 「…実はこのホリードには、里の者しか知らない隠された遺跡があるんです」


 「ほぉ、ここに遺跡が?」


 「はい。その遺跡【ビルギル遺跡】の中に黄金の木が生えており、その木になる実が、件のリンゴだと言われています」


 「遺跡の中にある林檎の木か…」


 「そこでシンさんにお願いがあります」


 「なんだ」


 「その遺跡の中から…。我らの殿を救い出して欲しいのです」

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