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第25話:呪いの鎧

 俺たちはあいも変わらずダンジョンに潜っていた。

 王都近郊の古代遺跡。

 過去の文明の遺物が眠るとされる場所だ。


「お宝ー! お宝の匂いがするよ!」


 モアが鼻をひくつかせながら先行する。

 いつものビキニアーマー姿だ。

 遺跡のひんやりとした空気が肌に当たっているはずだが、彼女は元気そのものである。


「確かに、こういう構造のダンジョンなら……このあたりでお宝が出てもおかしくない……」


 そう言いながらマホも続く。

 彼女もまた、ビキニアーマーという遺跡に似つかわしくない格好だ。


「おっ! アスク! あれ見て!」


 モアが足を止めた。

 崩れかけた石壁の奥に、祭壇のような場所がある。

 そこに鎮座していたのは、一領の鎧だった。


 白銀に輝くフルプレートアーマー。

 傷一つなく、神々しいオーラを放っている。

 どう見ても国宝級の逸品だ。


「すげぇ……」


 俺は思わず息を呑んだ。

 これなら高く売れる。いや、最強装備として使えるかもしれない。


「かっこいい! 着てみていい?」


 モアが駆け寄る。


「待てモア! 罠かもしれない!」


 俺の制止は遅かった。

 モアの手が、鎧の篭手に触れる。


 カッ!

 強烈な光が溢れ出した。


「わっ!?」


 光は意思を持つようにモアの体を包み込む。

 ガション! ガション! と金属音が響き渡る。


「え、なにこれ! 勝手に……!」


 光が収まった時。

 そこには、全身を分厚い白銀の鎧で覆われた騎士が立っていた。

 頭のてっぺんから足先まで、完全防備。

 露出面積ゼロパーセントだ。


「おおお! 似合ってるじゃないかモア!」


 俺は称賛した。

 これぞ求めていた騎士の姿だ。

 神様ありがとう。


「重いぃぃぃ!!」


 モアが絶叫した。


「なにこれ! 体が鉛みたいに重い! 動けない!」


「いや、フルプレートならそんなもんだろ」


「それになんか熱い! 蒸れる! 風が感じられない!」


 モアがジタバタと暴れるが、鎧の関節部分は滑らかに動くものの、決して外れようとはしない。


「脱げない! アスク、これ脱げないよ!」


「……鑑定するか」


 俺は魔法で解析を試みた。

 表示された結果に、俺は顔を引きつらせた。


 『聖騎士の操り鎧』

 効果:装備者に絶対的な防御力を与える。

 呪い:死ぬまで外れない。


「呪いの装備だ……」


「いやぁぁぁ! 助けてアスク!」


 モアが泣き叫ぶ。


「グオォォォン!」


 その時、奥から魔物が現れた。

 体長三メートルはあるミノタウロスだ。

 巨大な戦斧を振り回している。


「モア、迎撃だ!」


「わかった! ……って、体が重くて前に出れない!」


 モアがよろよろと踏み出す。

 いつもなら音速のステップで懐に飛び込むところだが、今は鈍重な亀のようだ。

 ミノタウロスの斧が振り下ろされる。


「危ない!」


 避けきれない。直撃だ。

 ガゴォォォォン!!

 凄まじい衝撃音が響き、モアが吹き飛ばされた。

 壁に激突し、ガラガラと瓦礫が崩れる。


「モア!」


 俺は急いで回復魔法をかけようとした。

 だが。


「……あれ?」


 瓦礫の中から、モアがむくりと起き上がった。

 鎧は少し凹んだ程度で、中身はピンピンしている。


「痛くない……」


 モアが自分の体を確かめる。


「すごい! 防御力は本物だ!」


 俺は叫んだ。これなら勝てる。

 だが、モアの表情は絶望に染まっていた。


「最悪……」


「え?」


「衝撃も、肉が切れる痛みも、ヒリヒリする緊張感も……何も感じない!」


 モアが地面を叩く。


「こんなの、戦いじゃない! ただの作業だよ!」


「いや、戦いは作業でいいんだよ! 安全第一だろ!」


「うおおおおお! 脱げろぉぉぉ!」


 モアが発狂して走り出した。

 ミノタウロスに向かって、捨て身のタックルを仕掛ける。

 ドガァッ!

 重量級の鎧による体当たりは、もはや砲弾だ。

 ミノタウロスが吹き飛び、壁にめり込んだ。


「はぁ……はぁ……倒したけど……」


 モアは倒れたミノタウロスを見下ろし、がっくりと肩を落とした。


「達成感がない……。不完全燃焼だ……」


「待てモア! よく考えろ!」


 俺は必死に声を上げた。

 どんよりとした空気が流れているが、俺にとっては希望の光だ。


「いいか? 冷静に考えろ。今のミノタウロスの攻撃を無傷で受け止めたんだぞ? 最強の防御力じゃないか!」


「でも……つまんない……」


「つまらないで命が守れるなら安いもんだろ! それを着ていれば、もう怪我なんてしなくて済む! 風呂とかは『クリーン』でなんとかするとしてさ! 頼むから、一生そのままでいてくれ!」


 俺はプライドをかなぐり捨てて懇願した。

 ここでこの鎧を脱がれたら、元の生傷絶えない胃痛ライフに逆戻りだ。

 だが、俺の説得を聞いたモアの瞳からは、急速に光が失われていく。


「一生……このまま……? 風も、痛みも、衝撃も、アスクの温もりも感じないまま……?」


 モアが虚空を見つめる。

 その顔は、死んだ魚のようだった。


 マホが淡々と告げる。


「構造解析完了……。この鎧……物理的な破壊は不可能に近いが、魔力に対する耐性はない……。破壊、する?」


 マホが杖を構えて俺を見る。

 俺はモアの顔を見た。

 そこには、いつもの輝くような笑顔はない。ただの生ける屍だ。


「くっ……!」


 俺は苦虫を大量に噛み潰したような顔で、呻いた。

 安全か、モアの精神と俺の胃痛か。

 答えは決まっているが、認めたくない。

 だが、モアには元気でいてほしいのも事実だ。


「……わかったよ」


 俺は血涙を流す思いで言った。


「やってくれ……」


「『エクストラファイアボール』」


 マホが極大の爆発魔法を放つ。


 ピキ……ピキピキ……。

 鎧に亀裂が走る。


 パリーーーーン!!


 盛大な音と共に、白銀の鎧が砕け散った。

 中から現れたのは、いつものビキニアーマー姿のモア。

 汗だくで、肌が紅潮している。


「ぷはぁーっ! 生き返ったー!」


 モアが大きく空気を吸い込む。


「やっぱりこれだね! 肌に当たる風! これこそが生きてるって感じ!」


「……勿体ない」


 俺は砕け散った国宝級の鎧の破片を拾い集めながら涙した。

 数億ゴールドは下らない価値があったはずだ。


「むー。アスクは心配性だなぁ。でも、心配してくれるのは嬉しいよ!」


 モアがニカッと笑う。

 その笑顔に、俺は毒気を抜かれた。

 まあ、こいつが元気ならそれでいいか。

 俺たちは素材として売るために破片を回収し、遺跡を後にした。

 高級焼肉代くらいにはなったので、良しとしよう。

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