15 「最初の夜」
嵐が去ったあと。
「それで、なにか具体的な策があるみたいだね?」
アモルは不安半分、期待半分と言った様子で椅子に腰掛けた。私はみんな座るように言う。
「チル系エモソングでいきます」
「ちる…?」
アモルは不思議そうだ。
「踊りはどうする」
ヴァイスはかなり前のめりだ。メロディア全肯定botとしてわたしの死は避けたいのかもしれない。師匠の去った時感じた、動揺をまだすこし感じる。
ネグルには森へお使いに行ってもらった。
「チル系エモソング…。これは…」
前世の話を持ち出す気には、まだなれなかった。
「えーと、魔女系列で発生したとされる音楽の系統だよ。今回は『それでもいきてる』がテーマのプレイリストにしよう」
「…それでも…」
アモルが反芻した。
人間色々あるよね。それでも毎日、朝日は皆へやってくる。その気だるさ、日常のチクッとした棘、やり過ごす痛み。すこしの優しさ。
それらをチル系にまとめたエモソングです。
「具体的に…どんな曲調なの?」
「ん、今から簡単に鼻歌で歌います」
アモルとヴァイスに見つめられて、わたしは鼻歌をとりあえずひと曲歌った。
アモルは口に手を当てて、ヴァイスは目バキで見てくる。
「これで歌詞が気だるげで厭世的なの。また後で歌うね」
「なんだか…相反するような…。今の曲調は子守唄にも似てる、幼さと平穏を感じる曲調なのに…」
「アモル、それは曲に慣れてない。こういう曲ばっか聞いてたら落ちサビに少し混ざっている少し外した音に気がつく」
「錆…?」アモルがぽかんとしている。
あーはい。ヴァイスは森の妖精さんですのでなんでも知ってますね。それか、小さい頃私が寝言で前世の知識をむにゃむにゃ喋ってたりした?
「そう、まあ聞き慣れていない人からしたらメロディーは平日的な曲に聞こえるかもしれないね。それはそれでいいの。」
なんてったって曲への価値観が違いますから。アモルは最近ここの酒場的曲をずっと歌っていた訳だし。
「こういう曲を3曲歌ってもらう。伴奏はわたしに任せて。2人はそれぞれ踊りと歌、表情管理の練習をして。ちょっと変わった服を着ながら3曲歌って踊る行為に慣れて。」
「ちょっと…変わった…?」
「それはわたしが明日には用意する。とりあえず、わたしがこれから歌教えるね。踊りは…ステップが基本だから私は下手くそだけど、わかってくれるよね、ヴァイス」
「うん。」
即答。流石でございます。
「表情管理って…?」
「うん、それも教えます。」
2人に基本的なことを伝えてそれからはすぐ、たしは工房にこもった。
伴奏はない。生演奏してくれる人もいない。服も自分で作らなければいけない。けれど、楽器がひとりでに鳴ることを咎める人もいない。
「シンセサイザー…シンバル…チョップ…エレキギター…」
多すぎる音の種類に頭をかかえる。頭では再生出来るのに…。音楽に関してはど素人だ。再現なんか理だよ…!
「メロディア」
渋い声。カラスことネグルだ。
「…本当にカラスの声でいいなら確保できたよ。みんなやる気に満ちてる」
「ありがたい〜!」
少し道が開けてきて涙がほろっと落ちる。
「うん、泣いていいよ。あの魔女がメロディアの師匠だったんだね。やっぱりメロディアと違うね」
子供の前では我慢していた緊張がほぐれる。
「ふぇ゛〜!ごめんね…!都合のいい時だけ使う私なんかで…」
「いいよ。僕らの森の総意は、ここに住んでくれたのがメロディアで良かった、だから」
都合が良すぎる。実家か??
「じゃあ、カラス達にはこういう…」
楽譜の知識は無いし口伝でチョップとベースの一部を担当してもらう。音域的に低い部分のみ担当してもらおう。ネグルがうんうんうなる私に言った。
「…ネズミは?」
「えっネズミも助けてくれるの!?」
「継続して声を出せる生物はみんな手伝うよ」
「感涙」
感涙である。
日付が変わろうとしていた。といってもこの家は適温かつそもそも暗い森は日中ですら日が当たらないので時計で確認したが。
…できた。
アイボリー一色の、でも意匠はゴシックで。
工房のランプを反射するシルクと、麻とコットンを組み合わせ、質感だけで個性を出した衣装だ。
ちらり、とアモルの様子を見に行く。そっと扉を開けると、ベッドで寝ていた。
「…」
「メロディア」
「起きてたの!?」
そりゃそうだよ、眠れるわけないとアモルは体を起こした。
「メロディア、死ぬかもしれないんだよ」
「うん」
はあ、とアモルはため息を吐いた。
「分かってるとは思えないな」
「実際分からない。わたしってば魔女だし、ホントの死がなにかイマイチピンと来ない」
アモルはむすっとした。
「君を失う僕らの気持ちは考えてる?」
「うん。だから頑張ってる」
ぽかん、としたアモルの顔があんまりにも幼くて、私は笑ってしまった。
「よしよしいい子、自慢の息子」
頭を撫でてベッドに寝かしつけると、あら不満げだ。うんうん、いい大人だもんね。
「メロディアも…ちゃんと、想われてるって。わかってたんだ」
不満げながらも、どこか安心した様子のアモルははにかんだ。
「おー?わかってますよー。ほら、不安で眠れないなら、子守唄とか歌ってあげる。」
アモルはうとうとと目蓋が重そうだ。
「…」
「寝た?」
「ひょえ」
囁かれた右耳がくすぐったくて縮こまっておさえる。
ヴァイス…やっぱり起きていた。
「ほら部屋出ますよ。ヴァイス。アモルが…深く寝てるはずだけど、起こしたら悪いじゃない」
「ん」
ヴァイスを彼のベッドに寝かせ、目を見つめる。ヴァイスの赤い目がじっとわたしを見返した。
「…メロディアは踊りが下手。汲み取るのも大変。でもやりがいがあるからそのままでいい」
「そ、そうですか…」
メロディア全肯定botの今日の塩梅はよくわかりません。ageるかsgeるかどっちかにしてくれ。
「…あれがメロディアの師匠」
「うん、師匠だよ。怖かったでしょ」
冗談交じりに言うと、珍しくヴァイスはしゅん、と布団に顔の下半分をうずめた。
「こわかった」
「…そっか」
始めてみる魔女だもんね。
「よしよし、おやすみ。」
「…メロディアは三徹?」
三徹ってどこで覚えたんだ。まあいい。
「ヴァイスは人間だから休んでね。私は魔女だから三徹くらいよゆー!」
「ヴァイスは…」
なにか言いかけてぐ、と眉を寄せてこめかみを抑えた。
「ヴァイス…?頭痛い?」
「うん…ヴァイスは…人間だから…。寝る」
あら、向こう側向いちゃった。
「よく眠れるよう魔法をかけてあげるね」
「メロディア」
「ん?」
彼は僅かに震えていた。
「眠るまで手を握っていて。深く眠るのは…怖い。」
怖がっている我が子ににやーと笑うのは、良くない、良くないが、可愛い。
「うん、握っているよ」
握った手は冷たかった。緊張かな?
「ねむれ〜ねむれ〜」
***
「ふう」
すこし呼吸をする。わたしはプロデューサーだから…演出も考えなくてはいけない。服や歌、伴奏では足りない。
「がんばるぞ…!」
夜はまだまだ長い。




