12 「じめじめ森のプリンセス(ばっちめ)」
「と、言う訳で富豪を演出する為に、召使がもうひとり要るの!」
ははあ、と相槌もそこそこにトカゲはチロチロと頬を舐めた。くすぐったくて身を捩ると、耳元で(彼らは念話で会話するけれど)彼は囁いた。
『久しぶりに、僕らの先祖を追いやった離れの物置に会いに来てくれたと思ったら、それ?』
「うっ…」
ごもっともなご指摘に反論できない。子どもたちを迎える前、何十年も孤独に耐えてこれたのは、彼らのおかげだというのに。
苦しいときの神頼み、とはまさにこれ。
シンデレラの友達のトカゲは、召使に姿を変えたらしい。だから、ご協力お願いしたく、何年も前に物置へ追いやった彼らへ会いに来たのだが…。
『まあ、この部屋は暖かく保ってくれていたし、僕らは君のこと大好きだしね!いいけど。ただねえ、死んじゃった僕のママが可愛そうだな。君にはいつ会えるだろうと思いながらワクワクして一生を終えたよ』
「本当にすみません…ってあれ?よく考えたら、あなたのママもあなたもわたしに会ったことないよね?」
トカゲは笑った。
『森の皆は、魔女の友として、今や…君風にいうと、ネットワークを築いているんだよ。森の総意というのかな、いつでも君を守れるようにね。皆、意識下に深く根付いているんだよ。魔女を愛する僕らは、君に尽くしたいと』
「こわ」
なにそれ。粘着質過ぎないか?ていうか、森の総意ってなによ。
『君が僕らから離れた日から、もう一度、魔女に愛されたい、愛したいという意識が深く呪いとなり、森へ広がっている』
「こわ」
プリンセスは動物に愛される。
私も、汚いジメ森プリンセスなのでこんなに無条件に愛されるんだろうか。
『勘違いしないでね。僕個人も、君を愛しているよ。だって、こうやって物置をずっと暖めてくれていたしね。君は僕らを捨ててはいない、嫌いになっていないと希望を持ちながら生きてきた。ほら、僕のネットワーク…強制的に繋がれた浅い念話を辿って…』
バサバサ、と物置の外から音がした。そーっと開けると、胸に黒い塊が飛んで来る。
『メロディア…!!会いたかった!』
「か、カラス。あれ?君は…ずっと昔一緒に話していたよね」
カラスはくるくると甘えた声を出した。
『そうだよメロディア!こんな日が来ることを、ずっとずっと信じていたんだ。君がかつて言った通り、食べるものにも気を使って、しっかり寝て、日光浴をして、健康だけは強く意識してどうにかここまで生きてきたよ』
「重…」
なんだかいよいよ深刻に申し訳なくなってきた。彼らかアモルにした事は許せないけれど、あれは一応彼らなりの、わたしのための復讐だったん、だよね?多分。
しては行けない行為だし、楽しくてやった部分もあるだろうけれど、私が人間に焼かれなければあそこまではしなかった…と思いたい。
いや…うーん。
『メロディア…ああ…彼を否定する気はないけれど、僕はこうしてそのままで会えて…よかった』
「え?」
全く意味のわからない事を言うから、詳しく聞いてみようと思うと、早速カラスはわたしの手に頭を擦りつけた。撫でる。
あ、なんだか艶が無くなったかも。それにすこし毛並みが悪い。
おじいちゃんになったんだね…なんか本当にごめんね。心が痛くなってきた。
『僕も召使になる。君を手伝いたいんだ。何でも言って』
ねずみも集まってきた。私が昔、彼らの遠い先祖にお願いした通り、身ぎれいにしてくれている。
『わたしも!』
『おれも!』
「みんな…」
小屋の外からわんさか、動物たちの声が聞こえる。
『僕も手伝う!』
『あたしもよ!』
「え、ちょ…」
すごく集まってきた。黒猫や蛇、虫達も…。 『私も!』
『オイラも!』
『僕が!』
『どうかわたしを!』
「待って待って多い多い」 私は壁に追い詰められて、全身をペロペロなめられたのだった。
ばっちいけど嫌いじゃないよ。むしろ……いや臭!帰ったら風呂!
***
「彼はこれから私達の執事さん役ですー!ネグル、って呼んで!詳しくは聞かないでね!」
まずは、年長カラスに人間になってもらった。アモルのトラウマを刺激するから、カラスであることは隠してもらうけれど、うん、ナイスシニア。
暗めのグレーの髪と、穏やかな目が魅力の…ん?鋭い?
「いかがなされました」
ネグル…カラスはアモルと見つめ合って…いや、睨み合っている。
「いいえ、別に。メロディアが貴方の事を話していた記憶が無いので、少し思うところがあっただけです。すみません」
アモル、表情は笑顔なのに覇気で威嚇している!? なにそれ!?
「そうですか。失礼ですが、あなたの記憶に無いだけでは?」
カラスー!丁寧な言葉を教えたけど、そんなふうにオブラートに包みきれていない嫌味に活用しなくていいよー!
「やめろ。メロディアが困っている」
二人のバチバチ音がなっていそうな、視線の交わる間にヴァイスが入った。
「…ヴァイス?」
ヴァイスは普段のふわふわ具合から想像もつかないほど、威圧感をもって二人を制した。カラスはヴァイスを一瞥して、ようやく警戒態勢を解いた。
ヴァイス…すごい。ここにしてリーダーシップの素質発掘だよ。 お母さん嬉しいです。社会性発芽!
「あ…メロディア、ごめん。ヴァイスも、悪かったね」
アモルも落ち着いてくれた。ヴァイスは軽く頷くと、私の手に頭を擦りつけた。
「お?ヴァイス?」
「…」
何も言わないヴァイスの髪を撫でながら、とりあえず4人で交流のティーパーティー。 別におしゃれなカップがあるわけじゃないけれど。
なんとなくピリピリした空気を隠した空間で、お茶を飲み思った。
前途多難だ…!




