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55話 晴れやかな空の下で

 晴れやかな空の下、屋敷の門の手前で止まっている馬車に木箱や革袋が次々と積み込まれる。

 俺が手配したタンザ行の船が出る港まで駆ける馬車だ。

 積まれているのは双頭の水竜の皮膚から切り落とした鱗が入っている箱や、冒険者たちが持参した荷物。

 タンザ行の船は一日おきの運行なので、今日を逃すと明後日まで待たなければならない。

 金の流星のメンバーが時間を気にしながら、確認を終えた荷物に印をつけていく。それを男の冒険者たちを中心に馬車の中へ入れていく。

 俺はその様子を見ながら、リリアーヌの会話を聞いている。


「もう、行かれてしまうのですか?」


 俺の隣に立っているリリアーヌはどこか寂しげに、ノーラやジェシカロロシーたちとの別れを惜しんでいた。


「はい。孤児院にいる子供たちが待っていますので」


 ノーラも別れの挨拶を口にしながら、少し寂しそうな表情を見せる。

 市井の生まれであるノーラは身分が違うので、貴族令嬢であるリリアーヌとの接し方にはじめは戸惑っていた。リリアーヌ本人が気安い関係を望んだとしても、周囲の侍女たちが許しはしないだろうと思っていたようだ。

 しかし実際は侍女たちからの厳しい視線はなく、年齢が近いこと、今回の一件の恩人であることも含め、リリアーヌのコミュニケーションの練習相手として受け入れられていた。


「さすがに家が心配だもの」


 ジェシカロロシーも別れを惜しんでいるが一人暮らしなので、空き巣被害を心配していた。


「また来てくださいますか?」

「はい。ぜひ」

「今度来るときは本をもってくるわ。言葉だけじゃ魔法は説明しきれないもの」

「ノーラもジェシカロロシーも元気で。本当に色々ありがとう。二人に出会っていなかったら、きっと今はなかったと思う」


 俺は二人と出会ったあの頃を思い出し、しみじみと言った。


「そんな。アレクシスさんが頑張ったからですよ」


 お邪魔しました、とノーラは滞在のお礼を丁寧に言う。


「本当に私も子供たちも助かりました」

「俺はあの時、ノーラが思うほど善人じゃなかった」


 ノーラの窮地を利用したことは変わらない。それについて言い訳はできないし、するつもりもない。


「結果的に助かったのですから、アレクシスさんは優しい人ですよ」

「そうかな」

「そうですよ」


 ノーラは言いきって、微笑んだ。

 ノーラがそういうなら、そういうことにしておこう。


「封やインクは受け取ったか?」

「はい。ちゃんと鞄に入れました。何から何までありがとうございます」

「約束だからな」


 俺は書きやすい上質な羊皮紙とインクと羽ペン、手紙に必要な一式を執事から受け取ったか確認をした。近いうちにタンザで購入した家の所有権をノーラに譲渡する。その手続きの日程を手紙でやり取りして決めるためだ。


 積み荷がそろそろ終わるという頃、ふあ、と大きな欠伸をしながら戦闘狂が玄関から出てきた。眠たそうな顔で、手に持った荷物の革紐を肩に引っ掛けた。


「じゃあな、兄弟」


 俺への挨拶に歩み寄ってきた戦闘狂は、友人に会ったときのような親しげな声で笑みを見せる。

 俺がリリアーヌの様子を見に寝室へ行った後も、戦闘狂は中年層の冒険者たちとまだ飲んでいた。

朝日が昇る数時間前になって、広間の床で寝たそうだ。


「だから兄弟じゃない」


 俺は瞬時に否定する。


「今度は地の竜を倒しに行こうぜ」


 戦闘狂は俺の返事を聞き流し、笑みを浮かべたまま言った。


「だから命がいくつあっても足りないと言っているだろう」


 俺が昨日と同じことを言っても、戦闘狂は笑ったままだ。


「アレクシス。その時はあたしも誘うのよ。武勇伝はいくつあってもいいもの」


 ジェシカロロシーが冗談交じりに会話に入る。


「私は後方支援しかできませんが、精一杯頑張ります」


 ノーラも参加表明してくる。


「何の話? みんなでどこ行くの?」


 金の流星のメンバーのローザが、私も一緒に行きたいと言い出す。

 ろくに聞いていないのに何を言っているのですか、とヘルミーネがたしなめた。


「いや、だから。命がいくつあっても足りないだろう」


 俺は戦闘狂たちのノリにわりと本気でひいていた。

 こういう雰囲気の流れは危ない。嫌な伏線を感じて、俺の本能が警鐘している。

 そんな俺のただよう空気で諦めたのか、戦闘狂はくるりと背中を向け、片手を振って離れていく。


「またな、ガイ。地竜は難しいが、酒はまた飲もう」


 俺はその背中に別れを告げた。

 やや反応に遅れて戦闘狂――ガイが振り返った。たぶん名前を呼ばれたことが意外だったのだろう。

 秋らしいからっとした風と木の枝から落ちた葉が、俺と戦闘狂の足元を通り抜けた。


「ああ。またな。昨日の宴は楽しかったぜ」


 どこか嬉しげにガイは口の端を上げる。そして今度は振り返ることなく、馬車の中へ入っていった。


「兄ちゃん、元気でな!」


 中年の冒険者や戦歴を思わせる年配の冒険者たちが俺の肩をたたく。


「本当にありがとうございました」


 俺は一人一人にお礼を伝える。


 馭者が握る手綱が音をたて、馬車の車輪が動き出す。

 馬車の小窓から顔を出したノーラやジェシカロロシーに俺とリリアーヌは手を振る。

 俺の後ろに立つ執事や侍女たちは静かに一礼した。

 俺たちは馬車が街中の向こうへ消えていくまで見送った。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

前話の後書きで次回最終話と書きましたが、話が予定より長くなりましたので2回に分けます。

明日最終話になります。

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