45話 アレクシスVS.アーネウス ② そして感動の再会
「う……」
アーネウスは俺の本気と眼光にたじろぐ。
「惚れた女のために戦うこともできないのか? 腰抜けが」
「な、なんだと!」
「俺との勝負に勝ったら、リリアーヌを嫁にすることを許してやる。――前に出てこい」
俺はもう一度アーネウスに勝負をもちかけた。
「ほら、兄ちゃんいけ!」
「兄ちゃん、見せ場だぞ!」
「玉ついているなら、男を見せろ!」
突如現れた中年の男たち数名が、それ行けとアーネウスを盛んに立てる。
「な、なんだ!? お前たちは!?」
いきなり輪の中に入ってきた野次馬たちにアーネウスは驚く。
俺は彼らに見覚えがあった。
ヘルミーネから騎士団の足止めを任された冒険者たちだ。
「う、うるさい! 外野は黙っていろ!」
アーネウスは唾を飛ばす勢いで言い返すが彼らは引かない。
さらに増して勝負をしにいけと彼らはアーネウスを急かす。
「くっ!」
苦い顔をしたアーネウスは場の空気に押されて、渋々リリアーヌの手首を離す。
そして後ろに控えている護衛から剣を受け取り、鞘から抜いた。
「言質はとったぞ! 私が勝ったら約束は守れ!」
「ああ。お前こそ、負けたら二度と俺とリリアーヌの前に現れるな」
忘れるなよ、と俺はアーネウスにくぎを刺す。
俺も腰に下げていた剣を抜いて構える。
アーネウスは自信がないのか、俺の初動を見てから動きたいのか構えたまま動かない。先ほど俺に見せた余裕のある笑みは消えていて、緊張した面持ちだ。
「どうした?」
「べ、別に! お前の誘いにのってやったのだ! お前がこい!」
「そうか。なら行かせてもらう」
俺は素直にアーネウスの誘いに乗って、地面を蹴った。
見つけた時から溜まっている今までの仕打ちへの怒りを込めた一閃を放つ。
「ひっ!」
情けない声を上げながらも、アーネウスは回避した。
わざとアーネウスをあおったのは、護衛の男二人を相手する自信がなかったからだ。
ノーラに外傷を治してもらったとはいえ、精神的な疲れが肉体的疲労へと変わっている。正直言ってきつい。
野次馬として入ってきた彼らに助けられた。
「っ! この!」
アーネウスは一時期、騎士団に入っていたはずなのだが、基礎を頭から忘れているようで、剣先を無駄に振り回す。
副団長と比べれば次々に繰り出す斬撃はわかりやすく、俺は危なげなく回避する。
剣を振り下ろすときの重心は定まっていないのがわかる。
厳しい訓練や重たい鎧を身につけることを嫌がって騎士団を辞め、自由気ままな生活をしていたことがここにきてあだとなっている。
俺は剣を下から振り上げて、アーネウスの剣をからめとった。
アーネウスが握っていた剣は回転しながら上空へ飛んでいく。
「痛っ!」
アーネウスは子供のように叫び、手首を抑えて俺を睨む。
「怒っているのは俺のほうだ!」
俺は剣を投げ捨て拳をつくり――その顔を思いっきり殴った。
「がっ……!」
アーネウスが尻餅をついて倒れると同時に、上空へ飛んでいた剣が一気に降下して地面に転がり落ちた。
勝負の行く末を見届けていた冒険者たちが、よくやった兄ちゃん、と歓声をあげた。
◇◇◇◇◇◇
「お兄さま!」
リリアーヌが走って俺の胸に飛び込んできた。
庇護欲をかきたてる甘い声は震え、可愛らしい顔は今にも半泣きだった。
俺は全身びしょ濡れだ。抱き着けば当然のこと、俺の服に含んでいる海水で濡れてしまうのに、リリアーヌは二度と離れたくないと言わんばかりに、自分の顔を俺の胸に押しつけて服をぎゅっと握る。
「リリアーヌ!」
瞳を潤ませて抱き着いてきたリリアーヌを俺はぎゅっと抱きしめ返す。
「お兄さま、お兄さま……!」
「遅くなって、ごめん。怖かっただろう。不安だっただろう」
「お手紙読みました。すっと信じていました。お兄さまが来てくれるって……!」
純白のような布地で作られた簡素なドレスから伝わるリリアーヌの温もりが懐かしく心地良い。
やっと助けられたという思いで、俺の目頭が熱くなる。
俺とリリアーヌの感動の再会に冒険者たちが冷やかす。口笛を吹く者もいた。
ノーラはペガサスの隣で涙ぐんでいた。
「お兄さま、ちょっと苦しいです……」
「ああ。ごめん」
感動の再会に歓喜していた俺は力加減を誤っていたようだ。
慌てて抱きしめていた腕を緩める。
リリアーヌは顔を上げて、安堵したような嬉しそうな表情を見せた。
俺もつられて目元と口元が緩む。
「お、お前は罪人だ! そんなお前がリリアーヌの面倒など見ることができるものか!」
感動の再会に水を差したのは、俺との勝負に負けたアーネウス。
未練がましい姿で、俺の顔を指して騒ぐ。
「そうかもしれないな。けど、誰と共に暮らすのかはリリアーヌが決めることだ。お前じゃない」
俺は冷めた目でアーネウスを見下ろす。
鬱陶しさも込めた俺の冷たい視線に再度怯んだアーネウスは体をびくりと震わせた。
「連れていってくれないか?」
言い方は問う形式だが、俺の声音は低く命令口調だ。
アーネウスの護衛の男二人は中年の冒険者たちをちらりと見た。俺の陣営側だとすでに悟っている様子だ。
彼らの仕事はあくまでもアーネウスの身を守ること。俺との勝負はついているし、数の上でも不利だと理解している。
彼らは黙ってアーネウスの腕を掴み、噴水広場の方へと連れて行った。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
次話 8月19日投稿予定です。




