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36話 挑む者たち

 ノーラ、ヘルミーネとともに甲板にでると、あれが水竜か、でかいな、合図はまだか、と冒険者たちの声が飛び交っていた。


「ヘルミーネ! 水竜があらわれたわ!」


 仲間のローザが緊張した声をにじませて神殿の方角を指す。

 乳白色に染まった氷の大地が広がるその先には空を貫く尖塔のようにその身体をさらしている青い鱗を身にまとう怪物――水竜がいた。


 タンザの港とウィードランデ国の神殿の中間地点からでも双頭だとはっきりとわかる。

 圧倒的な存在感を見せつける双頭の水竜は、神殿の方に身体を向けている。海中で巨体の垂直を維持するためなのか、海面から出ている体は緩やかに湾曲している。


「あれが……」


 あまりの巨大さに感想が出てこない俺の隣で、ノーラは目を見開き、息をのんでいる。

そんな中でもヘルミーネは落ち着いている。腰に下げている皮袋から遠望鏡を取り出して前方に向ける。


「本の通り双頭の水竜ですね」


 ヘルミーネは遠望鏡を一度下げて視界に広がる氷の大地を見渡し、それから第四部隊のリーダーに確認をとる。


「何割できていますか?」

「八割ちょっと」

「先端から水竜の前まで、どれくらいの時間があれば到達できそうですか?」

「本気をだせば一時間もかからない」


 本気というのは、水竜と戦う状況になるまで残しておく魔力量の分。

 後先考えずに全力を尽くせば、という意味らしい。

 前衛の冒険者たちから早く指示が欲しいという視線をあびているヘルミーネは、氷の大地を再び見渡して黙考する。


「……第一部隊、第二部隊を乗せた船に合図を! 第一部隊、第二部隊を乗せた船は、ここから氷地を迂回するように北西へ進み、先端の手前までいってください。同乗している第四部隊は、全力で水竜の手前まで氷結地ができるまで詠唱をお願いします! 第一部隊、第二部隊の冒険者たちはそこからおりて水竜へ突撃! 第三部隊はここから氷結地を迂回するように北東から進んで騎士団の足止めをしてください。今後は角笛で連絡がくるまでは、各船団の責任者の判断に従うように!」


 戦闘準備を、というヘルミーネの指示に、冒険者たちはいつでもいいぜ、と威勢のいい声が返ってくる。

 帆柱に備え付けられた見張り台にいる冒険者が角笛を手に取って吹いた。旗でヘルミーネの指示を細かく伝える。

 闘志を乗せた船団が、二方向から水竜の背後をとるように北上した。





 二手にわかれた船団のうち水竜へ進攻する船の甲板には、冒険者たちが船首から船尾までずらりと並ぶように出で立ち、水竜を見据えてその時を待っている。


 目を細め深い笑みで、水竜を見つめる者、

 人生最大の戦に身震いしている者、

 首や肩をまわして筋肉をほぐしている者

 誰もが興奮してやまない心をなだめながら、その時を待っている。


 そして、突撃開始の角笛の音が海上に鳴り響く。


「一世一代の戦いだ! 絶対に倒すぞ!」


 それぞれの船上で鼓舞する台詞が上がる。


「最高の獲物だ! お前らびびるなよ!」


 船上の側壁に立ち、手枷と足枷を外した戦闘狂が最後に吠えた。

 冒険者にとって竜は憧れであり、畏怖の対象であり、最強のモンスターである。

 遭遇したならば、その日が昇天する定めだ諦めろ、と言う者もいる。

 しかし彼らは無謀にも等しい戦いに自ら望んで選び、これから身を投じる。

 あちこちで野太い声があがった。


「行くぜぇえええええええ!」


 戦闘狂は叫び、側壁から飛び降りて全速力で双頭の水竜へ向かって走る。

 後を追うように、何百足という革靴や長靴が次々と乳白色の氷の大地に降り立ち、瞬く間に氷の大地を戦場へと変えた。

 各々の武器を手に船から降りた冒険者たちは、一致団結して水竜の討伐へ挑む。





「アレクシスさん始まりました」


 冒険者たちの勇ましい背中を見送ったノーラが私たちも行きましょう、と俺に声をかけてペガサスに乗る。

 俺の服と手にしている兜の飾り布が潮風に揺れる。

 水平線へ鋭い視線を向けた先には、おとぎ話の中でしか知らなかった水竜がいる。

 リリアーヌが助かればいいというわけじゃない。これからもこの儀式が続くなら、俺やリリアーヌのように苦しむ人は後を絶たない。


 必ず、成功させる。


 国王に宣告された時の、あのときの衝撃を、俺は一生忘れない。


 絶対に水竜を倒して終わらせる。


「ああ。行こう」


 決意を新たに、俺もペガサスに乗る。


「みなさん、行ってきます!」


 ノーラが甲板に残っている魔法使いや医療班たちに向かって声を張ると、よろしくたのむ、頑張れよと応援や励ましの声が返ってきた。


 俺とノーラを乗せたペガサスが翼を羽ばたかせて上昇する。


「アレクシスさん! 氷は永遠にあるわけではありません! 時間との戦いです! 重力が集中すればやがて亀裂が入ります! 沈む前に決着をつけなければなりません!」


 忘れないで下さい、とヘルミーネは叫ぶ。

 俺はわかったとうなずいた。


「健闘を祈ります!」


 あなたならできる、という目でヘルミーネが俺とノーラを見送った。


最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

次話 4月16日20時ごろ投稿予定です。


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