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32話 枷からの解放

「アレクシスさん中へ」


 ヘルミーネは急かすように俺に言って、ノーラに船内の案内を頼む。


「その前にそれをなんとかしないとね」


 ローザが待ったをかけて、鎖を凝視する。


「鎖も枷も太いね。かち割れるかな?」


 ローザは剣で断ち切れるか判断しているようだ。


「俺が外してやるよ」


 ローザの斜め後ろに立っている熟練の冒険者と見える男が輪から出てきた。ついてこいと手招きされて、俺は船の壁縁付近に彼と向かい合って座る。

 彼は自前の道具箱を開けて、丸眼鏡と鉄製の道具を取り出した。


「冒険者をやる前は鍛冶師をやっていた。甲冑も剣も一枚板で作られているわけじゃない。連結部がある。鎖もそうだ」


 そう言って、彼は丸眼鏡をかける。

 自分の顔を枷に近づけて目を細め、道具箱から取り出した道具で枷をいじり始めた。

 その様子を俺はじっと見ていた。集中を邪魔しはいけない空気を感じて、自然と呼吸も静かにしていた。


 背後からはヘルミーネが次の作戦へ移ります、と仲間に指示を出す声が聞こえた。

 指示を受けた冒険者たちの革靴や長靴が慌ただしく、俺の後ろを通り過ぎていく。


 やがてごろん、と重たい音を響かせて枷が転げ落ちた。

 その瞬間、重石から解放されたような身軽さを感じた。

 枷によって、ずっと見えなかった手首と足首の肌があらわになる。


「ありがとうございます」

「別に礼を言われるほどでもない」


 彼は丸眼鏡を外し、道具をしまう。


「いえ。俺一人ではこの枷は外せません。お礼を言わせてください」


 俺は真剣な表情になる。

 ここに来られたことで、洞窟内に閉じ込められた日からノーラに助けられるまでの間におそってきた不安や絶望感はすでに消えている。

 それでもこの枷を見ると、アーネウスが言っていた罪状が頭の中でちらついて、不安に引きずられそうになる。

 枷からの解放は俺にとって、あらためてこれから戦いに挑むための覚悟と希望につながる。


 彼は俺の肩を叩いて立ち上がって、離れていった。

 その背中を見送っていると、急に空気が冷たくなって首筋に鳥肌がたった。まるで真冬の寒さだ。

 何が起きているのかと甲板の中央へ目を向ければ、ヘルミーネ以外の魔法使いが海へ向かって呪文を唱えている。


「アレクシスさん、船室へ行きましょう」


 そばで待っていたノーラが昇降口へ体を向ける。


「あれは何をしているんだ?」


 ヘルミーネさんから後で説明があります、とノーラに言われた俺は気になりつつも昇降口へと歩き出した。

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