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31話 再会

「リリアーヌとセリーナ姫を、すぐにでも助けに行きたい!」


 俺は冷めやらぬ興奮を一度胸にしまって、切実に伝えた。


「すみません! お気持ちはわかりますが、今はヘルミーネさんが考えた作戦でみんなが動いています!」


 今は従ってほしいというノーラに、俺の心はリリアーヌを助けに行けない悔しさが傷口のように疼く。

 ここで反対してもノーラを困らせるだけだし、今は手と足に枷がつけられているままの状態だ。身一つでリリアーヌのいるところへ行ったところで、戦うための武器も持っていない俺が救い出すことは難しい。

 俺は返事の代わりに頷いた。


「どんな作戦なんだ?」

「アレクシスさんを助ける班と水竜を倒す班、騎士団の人たちを押さえつける班、治療班に情報収集班といくつかに分かれて、ヘルミーネさんの指示に従って動いています!」


 詳しい内容は魔法使いのヘルミーネが話してくれるという。

 ヘルミーネすごいな。

 酒場で顔合わせをした時、博識で頭がよさそうな雰囲気があったがその通りのようだ。


「あと! ジェシカロロシーさんが、すごい物を作りました!」


 ノーラは友人を自慢するように声を張り上げる。

 ジェシカロロシーや金の流星のメンバーの名前を聞いて懐かしさを感じた。

 そういえば、星まつりから何日経過しているのだろうか。手紙をフランツに託して出てきたが、行方不明になってノーラたちには困った状況にさせてしまったと思う。

 船に着いたらまずはみんなに謝罪しないと。

 でもまずは、危険を承知で助けに来てくれた少女へ謝罪と感謝だ。


「ノーラ! 急にいなくなってごめん! 助けに来てくれてありがとう!」


 俺は顔を横に向け、肩越しに謝った。

 突然の俺の詫びに、数秒の沈黙が流れる。


「……本当ですよ! 驚いたんですから!」


 ノーラの怒ったような口調が耳元でひびいた。


「フランツさまから手紙を受け取って、読んで驚いて、すぐにジェシカロロシーさんのところに行って、ローザさんたちを探しました! ヘルミーネさんが、手紙があったとしても、無事でいるとは限らないって言われたとき、心臓が止まりそうになりました! ジェシカロロシーさんは、そう簡単に死ぬような人じゃないって言い返しました!」


 その時の感情を思い出したのか、ノーラの声は子供たちに見せる年上のお姉さんではなく、年齢相応の少女だった。

 はじめは気丈に話していたが、だんだんとその声は涙ぐんでいるような声音に変わっていった。

 今、首を動かしてもノーラの表情はわからない。でも俺の背中に顔を押しつけるようにしゃべっているので、かなり心配をかけさせてしまったことだけはわかった。


「戦闘狂は?」

「あの人は、何も言いませんでした。予定通りに進めろ、って言っただけです」


 少し不満そうな声だ。

 そうか。

 あいつは俺が生きている前提で動いてくれたのか。立木の中での一対一で拳と剣で語り合った関係だからな。少しは信用してくれているということだろうか。最後は一方的にやられて気を失って、酒場のお姉さんが間に入って助かった。

 洞窟内での日々が長かったこと、その後の展開が目まぐるしくて、『俺の覚悟』がだいぶ前の出来事のような記憶になっている。


 俺が過去を振り返っていると、見えましたよとノーラの声が背後から聞こえ、彼女の腕が脇から見えた。彼女の手は、船団を指している。

 指したその先――前方下に目をやると、青い海に十隻以上の船が団を組むように浮かんでいる。一隻に数本の白い帆が立つ半月型の船体で、どれも船尾(せんび)装飾が目立つ。


「みなさ――ん!」


 ノーラは大声で叫んだ。

 彼女は船団に向かって手を振っている。


「あの船は……?」

「商船です! アレクシスさんが手紙と一緒に残してくれたお金で買い上げた船ですよ!」

ノーラが言い終えると、ペガサスは見計らったように純白の翼を羽ばたかせてゆっくりと降下していった。





 ペガサスは十数隻の船から、一番後ろの船の甲板に降り立った。

 甲板には防具を身につけ、武器を手に持った冒険者たちと魔法使いがいた。顔に傷がある者、身につけた防具から戦歴を匂わせる者など、腕に自信をもつ冒険者たちがペガサスから降りた俺を見ている。


「おお! 兄ちゃん、立派なもんがついているな!」


 中高年に見える男の冒険者が俺の手枷と足枷を揶揄して笑う。


「そんな立派なものじゃない」


 褒められても嬉しくない、と俺が言い返せば、いつかは笑い話にできるぜと笑い返された。


「アレクシスさんを救出してきました」


 俺の後ろから顔を出したノーラはみんなに報告する。

 頑張ったわね、とジェシカロロシーがノーラを労うと、はい頑張りました、とノーラは笑った。


「あなた、その姿すごいわね」

「まさに命からがら逃げてきましたって感じだね」


 再会したジェシカロロシーと金の流星のメンバーのローザから言われた俺はそうだな、と小さく笑って返す。

 ペガサスから降りた俺の姿は、頭から足先までびしょ濡れだ。髪は海藻のようにしなっていて、顔や服には爆風で被った海水の中に混じっていた細かい土があちこちについている。はたけば砂粒が落ちてくるだろう。口元にはうっすらとだが髭も生えている。

 とても女性の前に立つ格好ではないことを自覚している俺は、女性陣を見ることができなくて居心地が悪くなる。


「でも無事でよかったよ!」


 金の流星のメンバーの剣使いのエルナは笑って、俺が戻ってきたことを喜んでくれた。

 そのエルナの奥、船の側壁に寄りかかっている戦闘狂が俺を見ている。

 目が合ったが、ジェシカロロシーや金の流星メンバーのような表情はない。だからといって行方不明になった俺を厳しい目で見ているような雰囲気でもない。

 感動の再会ではあるが、抱きつくほどの仲でもない。

 いや、抱きつかれたら背筋がきっと寒くなる。後で一言声をかければいいだろう、と思っていると、魔法使いのマントを身につけた美女が視界に入ってきた。


「アレクシスさん。お待ちしていました。まずは医療班から治療を受けてください。着替えの服は船内にあります。武器も」


 冒険者たちの輪の中から出てきた美女は、金の流星のメンバーの魔法使いのヘルミーネだった。

 俺はヘルミーネにお礼を言う。それから姿勢を正して周囲を見回した。


「――みんなさん。ありがとうございます。そして、すみませんでした。言い出した俺が突然いなくなって、こんなことになってしまって……」


 俺は痛む身体を無視して腰を曲げて詫びた。


「おいおい、兄ちゃん。勘違いしちゃあ困るぜ? 俺たちは冒険者だ。モンスターを倒しにきたんだぜ! そうだなよな!」


 俺が姿勢を元に戻すと、そうだ、そうだと冒険者たちからやる気に満ちた声が次々とあがる。


「ジェシカロロシーさんが、ギルドに依頼を出したんですよ。アレクシスさんはだめでも、ジェシカロロシーさんは冒険者ですから」


 ノーラが補足説明する。


「私はお祖母さまをこえる武勇伝を作りにいくためよ!」


 三角帽子を被ったジェシカロロシーは胸を張って言う。

 自信に満ちあふれた姿勢のジェシカロロシーを見て、俺はくすりと笑ってしまった。


「頼りにしている」

「任せて!」

「私たちは鱗よ!」


 ローザが気合を入れて宣言する。


「俺は強いやつだと聞いたから行くぜ」


 戦闘狂は不敵な笑みを浮かべる。


 いつの間にか明るい空気になっていた。

 各々がそれぞれの理由で水竜を倒しに行く。

 それでいいのだと、言外にいうみんなの姿に、俺の心の重荷が少しだけ軽くなった。




最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

今後もよろしくお願いします。



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