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33話 この甘未はノーラの優しさ

 ノーラの話によるとこれらの船は長距離の航海を想定して造られた船ではなく、ウィードランデ国との交易用として作られた船だという。

 ウィードランデ国の港からは上質な塩が交易品として輸出され、ノーラやジェシカロロシーが住んでいる港からは、毛皮や壺などが交易品として主に輸出される。

 連日いくつもの商船が行き来し、交易所で点検などを終えた品が街の店の陳列棚に並ぶ。


「アレクシスさん、柱とか梁に気をつけてください」


 乗りなれていないノーラは、飛び出している木材にぶつからないように気をつけて船内を歩いている。

 ここは海の上なので、波の強弱によって揺れがある。油断すると揺れによって体が傾いてぶつかるのだ。

 商船とはいえ中は狭い。限られた空間を最大限に活用しないと寝るところも、食事をする場所も確保できない。

 昇降口から入ったら貨物庫だった。今は冒険者たちの寝床の場所として使われているという。進んで奥の部屋へ入ると食事をする場所だった。窓から光が差し込んでいるので薄明るい。この部屋を中心に扉がいくつかあって、船長室、乗組員たちが寝る部屋、食料の保管室などがあるそうだ。


「私はここで待っています」


 ノーラはそう言って長机の近くに立つ。

 ヘルミーネが船長室にお湯が入った桶や着替えを用意してくれたと説明を受けた。

 船長室へ入ると、医療班だという青年が一人立っていた。彼はノーラと同じ衣服を着ている。手伝ってもらいながらお湯で身ぎれいにする。創傷など残っている部位を回復魔法で治してもらい、ヘルミーネが用意した衣服に着替える。

 最後に灰銀色の鎧を身につけ、金の流星のメンバーが用意してくれた武器の中で一番しっくりくる剣を腰に差して部屋を出た。


「綺麗になりましたね」


 食事をする椅子に座って待っていたノーラは、俺の顔を見て開口一番そう言った。


「そうだな。髪も体も洗って髭もそったから、だいぶましになったと思う」


 そったばかりの顎を指先でなでながら俺が言うと、ノーラは微笑む。

 何日も洗っていない体からは、体臭がしていた。体を拭きながら、ノーラは俺の後ろに座っていたことを思い出した。

 きっと我慢させていたと思う。申し訳なかった。


「これ薬湯です。ジェシカロロシーさんの特製ですよ。飲んだらゆっくり休んでほしいのですが……」


 飲んでくださいと、ノーラは席に座った俺に差し出す。

 魔法で癒せるのは目に見える外傷が対象だ。内蔵など体の内側は薬湯を飲んでなおしていく。


「大丈夫だ」


 悠長に休む時間がないのはわかっている。

 これは俺が言い出した話だ。

 俺は薬湯を手に取り、一口飲んだ。


「う……」


 ドロッとした液体で、数種類の薬草の味が口いっぱいに広がる。こんな状況でなければ嫌がらせだろう、と言いたくなるほどの苦さだ。さらに、苦さの後になにかの甘味がした。

 何のためにこの甘味を入れているのか知らないが、まったく苦さを相殺させていない。同居している感じだ。とても負傷者を労わるような優しい味ではない。


「飲みづらいですか? 港をでる前にジェシカロロシーさんのお家で完成したのを見せてもらったんです。見た目からしてとても苦そうだなって思いましたので、蜂蜜を入れて苦さをごまかしたらどうですかって、提案したんですけれど……」


俺が薬湯を飲み込むのに苦戦している様子を見ていたノーラが、おずおずと聞いてきた。


「そうだったのか。ありがとう」


 この甘味はノーラの優しさだった。

 俺はできる限りの笑顔をつくって飲む。

この戦いが終わったらジェシカロロシーに絶対に言おう。この薬湯は大いに改善する必要があると。


 そこへ革袋を抱きかかえたヘルミーネが入ってきた。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

次話4月5日20時ごろ投稿予定です。


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