18話 これからの話
「三人増えたってことでいいのよね。ここで気になることを確認したいのだけど」
俺と金の流星メンバーとの会話を静かに聞いていたジェシカロロシーが、彼女たち三人によろしくと言った。
後半の言葉は俺に向けられた。
「なんだ?」
「渡航と活動の問題よ。この国では冒険者は一つの職業として認められているから活動自体問題にならないけれど、あんたの国で冒険者が剣を抜いて戦ったり、魔法使いが魔法をぶっ放しても問題にならないわよね?」
「……」
「入国するときも職業で引っかかったりしないわよね? そっちの国には冒険者はいないんでしょう?」
俺はすぐに答えられず沈黙した。さすがにそこまで考えが及ばなかった。
俺の祖国は冒険者たちが集うこの国の大陸と海を挟んだ向こう側にあり、海の女神レレネスとその夫の男神アドリウスを信仰している。この二神の加護のおかげでモンスターがいないと言われている。
だから祖国には冒険者がいない。国の治安維持は騎士団が一手に担っている。
船を使って港町に入国してきた場合は、検問所に行って入国審査を受ける。
違反な入国ではないことを証明するため、審査官に身分証明の提示や、荷物の見分を受ける。
その管轄は国であり役人だ。役人に聞いたら国王に俺の居場所がばれて活動も知られてしまう。
ばれずに調べることなんてできるのか?
俺はテーブルに肘をつけて頭を抱えた。
「入国自体は大丈夫のはず。商人が冒険者を護衛として雇って連れていくこともあるから。問題になるのは、どういう名目で冒険者が入国したら目をつけられてしまうか」
魔法使いのヘルミーネが答える。
「規模が大きいから最終的に何人集まっても、どういう名目で入国しても目をつけられると思うよ」
金の流星のメンバーのリーダーのローザが言うと、剣士のエルナが提案を口にする。
「時間差をつけるっていうのはどう? いくつかの班にわかれて日数をおいて入国するの。泊まる宿も別々にして、連絡手段や密会する人もあらかじめ誰にするか決めて最小限にする」
話を聞いていたジェシカロロシーはそれに賛同した。
俺が頭を抱えている間に、いくつかの提案が出されて話が進む。
「あなたは? さっきから静かだけど何か言いたいことないの?」
「俺を水竜をぶっ倒す部隊に入れろ」
ジェシカロロシーに話を振られた戦闘狂は、椅子の背もたれに体重を預けたまま主力部隊を希望した。
「そうか。少なくとも水竜を倒す班とアレクシスの妹さんを助ける班、二つの部隊は必要よね」
「二つの班では厳しいかと思います。私が読んだ書物には決行の日、崖に海の乙女を鎖で繋げ、王族や宰相が立会い見届けると書かれていました。その場所には見物客の対応や貴人の護衛として多くの騎士が配置されているでしょう。見つかったとき、警護にあたっている騎士を止める役も必要だと思います」
「見つかって捕まっちゃったら、助けられないもんね」
金の流星のメンバーのリーダーのローザが言うと、剣士のエルナはじゃあ三つの班でいいのと返す。
「できれば誘導隊もいたほうがいいと思いますが……」
「それは最終的にどれくらいの人数が集まったかで決めたほうがいいんじゃない」
そうですね、と魔法使いのヘルミーネが頷く。そして彼女の視線が俺に向いた。
「どうですか?」
「ああ。今はそれでいいと思う」
俺が頼もしいと感じていると、ジェシカロロシーはまだあったと言って、忘れかけていたことを言い出した。
「そういえばあなた『賢者さま』とか『歩く図書館』とか言われているわよね。確実に水竜を倒す方法って知ってる?」
聞かれた魔法使いのヘルミーネは首を横にふった。
「本気になった水竜を相手に確実に倒せる方法なんてないでしょう。あったとしたら、アレクシスさんの国ですでに実行しているはずです。私が読んだ歴史書には、過去にアレクシスさんの国で本気で戦争と同じくらいの準備と兵力を用意して水竜と戦ったと書かれていました。敗戦した理由は、水竜と人間との戦力差と足場の悪さをあげています」
魔法使いのヘルミーネの表情は真剣だ。
人間同士の争いが起ききたときの戦場は大地。それに対して水竜と戦うときの戦場は海の上。
自分たちが不利な状況で挑まなければいけないことをわかったうえでの戦いは、とても危険で大変なことだと目で語る。
魔法使いのヘルミーネは、一呼吸おいて続きを話す。
「私たちは警備に配置されている騎士の目をかいくぐり、アレクシスさんの妹さんを助け、水竜を倒さなければなりません。歴史書で書かれていた問題をどう解決できるかで、勝率は違ってくると思います。私の意見としては船はあったほうがいいと思います。あとはペガサスの羽で作った空飛ぶ革靴『タラリア』が欲しいですね。百足くらい」
理想ですが、と言う。
「ペガサス?」
「天翔ける翼をもつ白毛の天馬のことよ。エルフたちと同じくらい長寿で、人との意思疎通もできるといわれているわ。ただ、森の奥深くにいて滅多に姿を現さない。奇跡的に出会えても品定めされる。会話する価値もないと判断されたら、いくら探しても二度と会えないって言われている伝説級の生物よ」
オウム返しをした俺に、金の流星のメンバーのリーダーのローザが丁寧に教えてくれた。
「百足!? それは無理よ」
ジェシカロロシーは目を見開いて、次いで首を横に振った。
「ペガサスの翼の羽根って貴重なのよ。お祖母さまのやり方で作るなら『タラリア』は一足あたり八枚だったと思うわ。両足で十六枚よ。革靴の革も古代の大樹の皮を使って、そこに魔術師が文字を刻んで魔力を注ぐのよ」
ジェシカロロシーは指先で空中に靴の絵を描く。そこから羽の絵を付け足すように描いて、文字を刻む場所もここだと言いながら、こんな感じと完成させる。
「両側で十六枚……。百足なんていったら羽をむしり取られた鶏みたいになるんじゃないか?」
羽がむしり取られるたびに肌は痛いだろうし、羽があって暖かった体は風が吹いくたびに肌寒さを感じるだろう。
想像してつぶやいた俺に、ジェシカロロシーは相槌を打った。
「話は終わりそう?」
各々思いついたことを言って話をしていたら、厨房で店主と明日の仕込みをしていたカタリーナさんが様子を見にきた。
カタリーナさんがいうには日付が変わった時間になったらしい。
テーブルに置いてある小皿の上にのった灯りとりの蠟燭は、俺の指の第一関節くらいまで減っていた。
大事な話し合いだからそれなりに時間はかかるだろうと、わざわざ新しい灯りとりの蠟燭を出してくれた。カタリーナさんの予想通り、だいぶ時間が過ぎていたようだ。
「ありがとうございました。今日はこれで帰ります」
俺はカタリーナさんにも店主にも丁寧にお礼を伝える。これ以上お邪魔するのは迷惑になるので、今日の話し合いは次回へ持ち越しになった。
◇◇◇◇◇◇
月明かりだけが頼りの夜道を、俺はジェシカロロシーと並んで歩いている。
「メンバー的には上々よ。ノーラもきっと喜ぶわ」
「ああ。俺もそう思う」
機嫌のいいジェシカロロシーに、俺もつられて上機嫌で答える。
一人でも大丈夫だというジェシカロロシーに、俺は危ないからと彼女の家まで護衛として付き添う。
彼女は握っている杖と魔法使いの格好で役職はわかるが、子供と変わらない背丈しかないので、エルフ特有の細長い耳が見えないと子供が一人で歩いているように見える。
三角帽子をかぶっているので、こんな夜道ではよけいに彼女の細長い耳は気づけないだろう。
酔っ払いに絡まれたら逃げればいいが、誘拐なんて起きたら大変だ。
魔法使いとしての腕には自信があるようだが、口をふさがれてしまったら流れに身を任せるしかなくなる。
「あんたがここに来て、かれこれ二ヶ月くらい経つわよね」
「そうか……二ヶ月経ったのか。色々なことがあって、屋敷を出てきた日が遠くに感じるな」
俺はしみじみと言った。
戦闘狂とのあの闘いで受けた怪我が治るのにひと月以上もかかった。これが一番時間をとられた。
だが、絶対に引き入れたい戦闘狂と手を組めたのだから悔いはない。
そして今日は金の流星のメンバーを引き入れられた。
決して夢ではない。それがとても嬉しかった。
絶望したあの日から見ると、一歩ずつだが確実に進んでいる。
お店を出て、あらためてよろしくと金の流星のメンバーと握手した感触は今でも手のひらに残っている。
金の流星のメンバーと出会った喜びをかみしめていると、俺はふと視線を感じて振り向いた。そして路地裏の入り口へと目を細める。
「?」
「どうしたの?」
「いや、なんか視線を感じた気がして……」
夜道は闇の中を歩くようだ。当然、建物の陰になる場所は暗闇といっていい。
目を細めたが何も見えなかった。
「……別に足音は聞こえないけど」
ジェシカロロシーはエルフの聴覚をいかして周囲の音を拾う。
「じゃあ、気のせいだな」
俺は一笑して歩き出した。
11月29日魔導士→魔法使いへ修正しました。
11月29日金の流星のメンバー二人にも名前をつけました。
リーダー→ローザ
剣士→エルナ
魔法使い→ヘルミーネ




