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14話  酒場で勧誘活動

 冒険者たちが多く住む区域に灰色の煉瓦造りの酒場がある。

 その店の煙突からは白い煙が一筋、青い空へと長く伸びていた。

 これまで何百人もの冒険者たちの胃袋を満たしてきた肉料理が自慢の店。そしてこれからも冒険者たちの胃袋を満たし、冒険へ向かう彼ら彼女らの背中を押していく。

 このお店の店主はカタリーナさんの父親で料理担当。

 普段は店主の娘で、看板娘のカタリーナさんと数人の従業員で注文と皿洗いと掃除を担当している。

そして戦闘狂から受けた傷がほぼ治ったころ、俺が加わった。

 カタリーナさんの指導のもと、開店前と閉店後の店内の掃除と厨房の皿洗いから始まった。


「今日から注文も取りに行ってもらうね」

「まだ四日目だけどいいのか?」

「大丈夫。大丈夫。そんな難しいメニューなんか出してないから。まずは笑顔で、いらっしゃいませ!」


笑顔がはじけると同時に、カーチフで隠した一つ縛りの赤茶色の髪が元気に揺れた。

チュニックに白い前掛けを腰に巻いた服装のカタリーナさんは身振り手振りで、俺に接客の仕方を説明する。

 カタリーナさんと同様にチュニックに白い前掛け姿の俺はそれを見て復唱し、覚えていく。

 屋敷にいた頃は、こういう仕事は侍女たちの仕事だった。

 あの頃は自分がこういう仕事をする日がくるなんて想像もしなかった。

 逆に新鮮だ。こういう機会がないと裏側を知ることなんてないからな。


「うん。いいね! その調子! 次はメニューとテーブル席の説明をするわね」


 次はテーブル席につけられた番号と壁や外看板のメニューの説明を受ける。


「わかった?」

「一応……」

「わからない時は、お客さんに言われたことそのままを覚えてきてくれればいいよ」


 カタリーナさんのお墨付きで俺の接客デビューが今日になった。




「お待たせしました。豚肉とピギーニの串焼きです」

「お! 兄ちゃんか? この間、戦闘狂にぼこぼこにされたってのは?」


 麦酒エールを四杯飲んで顔が赤くなっている常連客たちが俺に絡んできた。


「あははは。そうです……」

「あいつ強いだろう?」

「そうですね」


カタリーナさんが仲間集めしやすいようにと、俺の覚悟を戦闘狂に示した、あの一対一の話を常連客さんたちに話してくれていた。

そのおかげで注文を取りに行くときや、こうして料理を運んでテーブルに置くたびに、常連客からこの話をふられる。


「間に入ってもらって、今は看板娘にこき使われていると」

「兄ちゃん、転がされたなあ!」


がははは、頑張れ、と戦歴のある冒険者たちから励ましの言葉をもらった。


「ええ。転がされていますよ。綺麗な女性から口説かれたら仕方がないと思いませんか?」

「好みか?」

「俺が花束を抱えて跪くのはとある令嬢だけです。ここにいるのも彼女のためなんです。協力してくれませんか?」


 俺は置かれている現状を簡潔に伝える。

 俺が戦闘狂と一対一をすることになったのは、ある令嬢の窮地を救うために戦闘狂に仲間になってほしいと頼んだから。

 カタリーナさんがそういうふうに話をしてくれたので、一から話必要はない。

 そして最後に、この依頼は事情があって冒険者ギルドに通せない、というと断れられる。

 なぜそうなるのかというと、ギルドを通さない仕事はすべて自己責任だからだ。

 ギルドが通っている依頼なら、もし依頼主と冒険者の間に問題が起きてもギルドが仲介役をしてくれるので穏便にすませることができるし、報酬が無しになることはない。

 ギルドを通せない、世間に公にできない仕事というのはろくでもない、報酬にたいして割に合わない仕事が多い。

 事実、俺がもちかけている依頼は用意した報酬に見合ってはいない、と思う。さらに、もし知られたら国の中枢から圧力をかけられるものだ。

 励ましてくれた戦歴のある冒険者からはいい返事がもらえなかった。


(今日もだめか……)


 勧誘の連敗を更新した。

 ため息をつきたくなるのを我慢して接客していると、扉につけている鈴が鳴り、俺は営業用の笑顔で入店したお客さんを出迎えた。


「いらっしゃいませ!」

「うわ。本当に働いているのね」


 一人でご飯を食べに来たジェシカロロシーの突っ込みに俺はそうですと答えた。


「こちらのお席へどうぞ」

「人集めは順調?」


 テーブル席に座ってから聞いてきたジェシカロロシーに、俺はいい返事はまだ誰からももらえていないと答えた。


「ギルドを通していないから断られるし、疑われる」

「ああ。確かにいきなり見知らぬ人から水竜を一緒に倒してくれって言われたら、本当かって疑うものね」


 先日の戦闘狂の反応がいい例だ。


「ねえ。あそこに戦闘狂いるけれど、手伝ってくれるのよね?」


 ジェシカロロシーは飲み仲間と麦酒を飲んでいる戦闘狂を見た。


「ああ。この間のお見舞いに来てくれた時に協力すると言ってくれた」

「ならいいけれど。あたし鶏肉の香草焼きとパンとオレンジの果実水一つね」


 ジェシカロロシーは店内の壁紙に貼り付けてあるメニューをざっと見て注文する。


「ご注文ありがとうございます」


 ジェシカロロシーの注文を受けて厨房に戻る途中、俺は吟遊詩人と笛吹と踊り子とすれ違った。

 この酒場の厨房に近い壁際には踊り場がある。

 奥の席に座るお客にも見えるように、踊り場は二、三段くらい高くなっていて、広さは長いテーブルが二つ並べられるくらいだ。

 踊り場の階段にはおひねり用の小箱があって、お客はそこに硬貨を入れる。

 使用後は踊り場の場所代を店主に支払って、残った金額がその日の稼ぎになる。

 二十代の吟遊詩人と笛吹、十代半ばの踊り子の女性三人組が踊り場に上がると、待っていました、と客席から声があがる。

 吟遊詩人と笛吹は用意された簡易な椅子に座り、踊り子は中央に立つ。


「お待たせしました。今宵は流浪の騎士アーヴィンの第二幕を披露したいと思います」


 踊り子が言い終えるころには、酒場が静まり返っていた。

 吟遊詩人が目を半分伏せ、長くて細い指先で弦楽器を奏で始めた。そして、吟遊詩人の高く澄んだ声が弦楽器の音と絡み合うように重なり、歌が始まる。

 笛吹は歌に合わせて音楽に抑揚をつけ、踊り子は舞をしながらしゃらん、と鈴を鳴らす。

 流浪の騎士アーヴィンは、この国に実在したという人の話だ。

 昨日は第一幕だった。

 辺境の地に生まれた少年は、強くて格好いい剣士の父親に憧れていた。

 自分も父親のように格好よくて強い剣士になりたいと、日々剣をふるっていた。

 ある日魔物が自分の街にやってきて、父親は街を守るために戦った。しかし魔物に命を奪われてしまった。

 少年は父親の墓標の前で泣いて、泣いて、泣き止んだ後に、必ず父の仇をとることを誓った。

 少年は青年になって、父親の命を奪った魔物を倒した。

 そして青年は生まれ育った街を出た。



 今日の第二幕はその後。

 剣士となった青年は立ち寄った村の村長から、子供たちが迷宮の森とよばれる森へ入ってしまい、行方不明になってしまったと相談を受けた。

 村の男衆が迷宮の森へ探しに行ったが帰ってこない。

 迷宮の森の中には恐ろしい魔物がいて、食べられてしまったかもしれないと言われた。

 村長から探してほしいと頼まれた青年は相談を引き受けて、迷宮の森へ入る。

 迷宮の森は深い霧が漂っていて、方向感覚を狂わせる。

 青年も気がついたら方向感覚が鈍ってしまい、どこを歩いているのかがわからなくなってしまった。

 洞窟のような休む場所を求めて歩いていると、小さい湖へとたどり着いた。

 そこには美しい白毛の天馬が休んでいた。

 青年が美しい毛並みに見惚れていると、恐ろしい魔物があらわれて天馬に襲いかかる。

 青年は加勢して魔物を倒し、天馬を助けた。

 青年は天馬に事情を説明して一緒に子供たちを探してもらった。

 無事に子供たちは見つかり、青年は子供たちを村まで連れて帰った――。



 時間にすると一刻の半分くらいだろうか。

 踊り子が一回転して最後に鈴をしゃらん、と鳴らして終わった。

客席から拍手がわき起こり、階段に置かれているおひねり箱へ硬貨が投げ込まれる。

 吟遊詩人と笛吹と踊り子が優雅にお辞儀をして、おひねり箱を回収して下がっていった。




最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

次回は14日20時ごろ予定です。


報告遅くなりましたが、作者名をミノルからミノリへ変更しました。


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