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13話 お見舞い

 戦闘狂に一方的にやられて気を失った俺は、気がついたら借りている商館の客室に寝ていた。

 手当をしてくれたノーラの話によると、俺が気を失った後、戦闘狂と一緒に食事をしていた人たちが俺を背負ってここまで運んでくれたそうだ。


「しっかし、派手にやられたわね」


 お見舞いに来てくれたジェシカロロシーは、自家製の塗り薬を持参してきた。一人用の椅子を持ってきて、疾患部に薬を塗ってくれている。

 俺は身を起こしていて、上半身裸でされるがまま大人しくしている。


「もう少し優しく塗ってくれないか?」


 塗り薬と一緒にジェシカロロシーの指先が頬や何度も殴られた腹部に触れるたびに痛みを感じる。


「え? ぬっているわよ」


 はい、おしまいと言って、ジェシカロロシーは塗り薬を寝台のサイドテーブルに置いた。


「ありがとう」

「いいわよ、別に。本当、聞いたときはびっくりしたわよ」


 ハンカチで指を拭きながらジェシカロロシーが言う。

 俺は苦笑した。


「アレクシスさん。カタリーナさんたちがお見舞いに来てくれました。通してもいいですか?」

「ああ」


 あれからノーラは毎日、俺の様子を見に来てくれる。動けないわけではないが、ノーラが休んでくださいと寝台からおりないように気をつかってくれるので、その好意に甘えている。


「うわっ! 広い! あ、こんにちは。具合どう?」

「まあまあかな」


 客室に感動しながら部屋に入ってきたのは、酒場の店員のお姉さんだ。

 この客室には俺が寝ている寝台とテーブル、長椅子、クローゼットがなどある。客人に居心地良く過ごしてもらおうと、落ち着きのある色のカーテンを選んでいて、良質な家具を置いている。


「よお」

「お、おう……」


 酒場の店員のお姉さんの後から、戦闘狂が入ってきた。

 今日も手足に鎖をつけた、いつもの服装だった。

 とくになにか言いたそうな雰囲気はない。酒場の店員のお姉さんを守るように数歩後ろに立っている。

 戦闘狂と会うのは、決闘した日以来だ。心の準備というか、まさかお見舞いに来るとは思ってもみなかったので、変に緊張している自分がいる。


「これお見舞い。よかったら食べて」


 酒場の店員のお姉さんが持っている紙袋は二つ。そのうち一つからは香ばしい匂いがする。


「なんですか?」


 酒場の店員のお姉さんから受け取った紙袋のうち、香ばしい匂いがするほうの紙袋を開けて中をのぞく。


「リーズミードの串焼き。美味しいよ! あと、豚肉のソーセージが入ってる。私からは焼き菓子」


 酒場の店長が持って行け、と渡されたらしい。


「?」


 俺は聞きなれない名前に首をかしげる。

 ふと俺の隣にいるジェシカロロシーを見ると、彼女の顔は固まっていた。


「なんのお肉ですか? 豚?」

「違うよ。モンスターのお肉。店長が期間限定でモンスターのお肉を使った料理を出すって決めたの」

「モンスター⁉」


 俺が驚いた声を上げると、ジェシカロロシーはどういうモンスターか説明してくれた。


「蛇みたいに長い胴体に、左右に一本ずつ長い髭が生えているの。触るとぬめぬめするわ」

「……」

「血抜きはちゃんとしっかりしてあるわ。臭みは少しあるけれど、香辛料使ってるから美味しいわよ。だまされたと思って食べてみて」


 酒場の店員のお姉さんは試食済みらしい。


「アレクシス、大丈夫よ。昇天しそうになったら、ノーラが呼びかけて魂を戻してくれるわ」


 ジェシカロロシーが食ってみろと、目で促す。

 おい、そんな言い方されたら食欲落ちて手が伸びないだろう。

 俺はジェシカロロシーを半眼で見やった後、恐る恐る紙袋に手を入れて食べた。たしかに香辛料があるので、臭みはそんなに気にならなかった。食感は鶏肉に近くて、少し弾力がある。甘辛のたれを使っているようで普通に食べられた。


「……意外と美味しい」

「でしょう!」


 俺の感想に酒場の店員のお姉さんは喜んだ。

 俺は紙袋をジェシカロロシーに突き出す。


「美味しいぞ。大丈夫だ。昇天しそうになったら、ノーラがなんとかしてくれる」


 俺は仕返しとばかりに笑って勧める。

 ジェシカロロシーは俺の心の内がわかったようで、悔しい顔をした。

 酒場のあのお店はジェシカロロシーもよく利用する。

 店員のお姉さんの前で拒否するわけにはいかない、とジェシカロロシーは一瞬の動揺と迷いを消し、意を決して食べる。視線を明後日の方向に向けてもぐもぐと口を動かし、ごくん、と飲み込んだ。


「……意外と普通に食べられるわね」


 ジェシカロロシーは拍子抜けしたような声で感想を述べた。


「もう一つどうぞ」


 俺が勧めるとジェシカロロシーは、今度は迷うことなく口の中に入れた。


「ジェシカはあまりこういうお肉好きじゃないわよね」

「そうね。私の国ではモンスターのお肉を食べる文化はないから。ちょっと勇気がいるのよね」


 酒場の店員のお姉さんは常連客であるジェシカロロシーが普段何を食べているのか知っている。


「だまされたと思って食べてみると、意外と普通に食べられるわよ」


 新しい料理を出すときはお客さんに料理の説明をする必要があるから、酒場の店員のお姉さんは絶対に試食すると話す。


「そうは言うけど、名前を聞くとモンスターの姿が浮かぶのよねぇ」

「ああ、そうか。そうよね」

「ノーラは?」

「私もちょっと勇気が必要です」


 酒場の店員のお姉さんとジェシカロロシーの会話にノーラも参加する。

 女性陣が料理の話で盛り上がっていると、戦闘狂が寝台に腰をおろした。


「いまのところ、何人集まってる?」

「俺をいれて四人だ」


 俺は人差し指でノーラ、ジェシカロロシー、戦闘狂の順にさす。


「は? そんな人数で行くつもりか?」

「まさか。まだ集まっていない、というか声をかけてない。戦闘狂が参加する。だからリスクは低いって言って、集めようと思っていたんだ」

「なるほどな。募集すりゃあ、一気に集まるんじゃねえか?」


 戦闘狂の提案に俺は、それは難しいと言って首を振る。


「俺も最初はそう考えて、ギルドの受付のお姉さんから申し込み用紙をもらった。だが俺が、ここにいてこういう活動をしていることを祖国が知らないとは言いきれないって、気がついた。俺のやっていることは国の決定事項に逆らうことだからな。見つかったら計画をつぶされる。そして拘束されて、何かしらの罪をきせられて牢屋に入れられるだろう。そうなったら、もうリリアーヌは助けられない」


 俺の説明に戦闘狂は納得した。


「じゃあ、うちで働く?」

「え?」


 唐突に割って入ってきた酒場の店員のお姉さんの声に、俺の反応が遅れた。


「ギルドの掲示板が利用できないんだったら、直接声をかけるしかないわよね? うちは冒険者がお客さんだから、うちでやれば色々と手間が省くと思わない? とくに金の流星なんかは忙しいと、数か月は帰ってこないわよ。いやあ、星祭りがあるから、ちょうど臨時で働いてくれる人がほしかったのよね!」


 酒場の店員のお姉さんはそうするでしょ、そうするよね、と笑顔で圧をかけてきた。

 なんかいいように利用されたような気もしなくはないが、たしかに怪しまれずに声をかけるにはいい場所だ。酒場の店員のお姉さんの言う通り、色々と手間も省けるだろう。

 俺は願ったり叶ったり、と思うことにした。


「あの俺、飲食店で働いたことはないんだが……」

「お皿洗いとか、掃除とか、簡単なことからでいいわよ。あと、うちはまかないでるからね!」


 うちはなんでも美味しいよ、と酒場の店員のお姉さんは自慢する。

 おお、仕事終わりに食事がでるのか。それはありがたいな!


「よろしくお願いします」

「よろしく。じゃあ、店長に言っておくわね!」


 とんとん拍子で話が決まった。

 そのやりとりを見ていた戦闘狂は、いいようにしてやられたな、と言いたげな目で俺を見ていた。





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