68話 砂漠の国へ
日差しが強く空気が乾燥している。目前には砂の大地が見渡す限りどこまでも広がっている。広々として何もない砂漠を俺たちは進む。
馬車で砂の大地を進むのは楽ではなく、いつも以上に馬たちへ負荷が掛かる。
俺たちは降車して同行し、頭から衣類を被り、日除けにした。
「そろそろ砂漠に入り距離も稼いだな。ラミ、ピンガーを打ってくれ。」
「うん。」
ピィーン………
「何も表示されないな。もう少し進むか。」
『主殿、砂漠の民は交易などでどのように移動してるのでしょうか?』
「うーん。何か目印があるのか?それとも夜に星を目印にして移動してるとか?」
『星ですか?』
「俺の世界では地軸の延長上にある動かない北極星を目印にしてたんだ。」
『星は動いているのですか?』
「北極星は動いてない、俺の世界の星が自転してるからそう見えるんだ。」
『???』
「いや、いい。気にするな。シロは島での移動はどうしてたんだ?」
『島では中央の山が目印だったので、特に困ることはありませんでした。』
「砂漠の民は山々を基準に移動しているのかもしれないな。」
「しかし日中の移動は厳しいな。この付近で野営をして夜に移動するぞ。」
「夜は視界が悪くない?」
「ラミ、ライトの魔法を多数発現させて移動するから大丈夫とおもうぞ。」
夜になるまで馬車で仮眠する。
馬たちもの疲労が蓄積している。申し訳ないと思うがまだ協力が必要だ。
アルカにSISで通話して現状確認をする。
(アルカ、聞こえるか?)
(テセウス?聞こえるよ。)
(そっちはどうだ?)
(山を越えるのに苦労してる。)
(どうかしたのか?)
(風が強くてアタシが乗れないの。)
(どうするんだ?)
(ハナコに背負ってもらって徒歩で進んでる。)
(そうか、ハナコによろしく伝えてくれ。)
(うん。わかった。)
(気を付けて進むんだぞ。)
(テセウスはどうなの?)
アルカに現状を伝え、通話を終えた。そして少し仮眠した。
日が落ち、少し経過したころ、再び移動を始める。
「#多くの光球よ出現し発光せよ:ライトボール」
星が降ってくるような、圧巻の夜空だった。
無数の光球が周囲を照らす。
月明かりの中で、無数のきらめく光と光球が、幻想的な景色を生み出していた。
気温は下がり日中と比較すれば快適に進める。暗いことを除けば。
俺たちは砂漠の南側から北へ進んできた。砂漠の都市がどこにあるのか不明だが、縦断すれば何かしらの情報が見つかり、たどり着けるだろう。
しばらく進んでいると、クロからSIS通信が入る。
(主 配下のシャドーカラ 遥か先に光が見えルと 報告を受けタ)
(どっちの方向だ?)
(東の方向ダ)
(クロ、光のある方向へ向かいピンガーを放ってくれ)
(ワタッタ)
俺たちの進路を北から東へ変更する。教都から移動してきた砂漠入口はマーキングしている。迷うことはないだろう。
ピィーン………
クロがピンガーを放ったようだ。SISマップが更新される。
マップの東隅に数十個の輝点が表示される。
「みんなマップを見ろ!何かがいる。数は多くないが集落かもしれない。」
『主殿、向かいますか?』
「ああ、行ってみよう。」
輝点が表示される方向へ進む。しばらく進むと地平線の先にほんのり明かりが見えた。集落か野営かはわからないが人である可能性が高い。砂漠の民だと街までの経路を聞けるだろう。警戒を怠らず、期待を込めながら進んだ。
輝点の位置まで近づいてきた。見えた明かりは焚火とライトボールなのだろう。
さらに進むと池があり少ないながらも樹木がある。ここはオアシスなのだろう。
商人のキャラバンだろうか、複数の馬車とラクダにも見える生物がいた。テントを張っており冒険者と思われる男が見張りをしていた。その男に近づき警戒されないように手前から話しかける。
「見張り中にすまない。俺たちは冒険者で砂漠の街を目指している。少し話を聞いてもいいか?俺はA級冒険者でゼリウスと言う。」
冒険者の男は警戒をしながらこちらの様子を伺っている。
俺だけが男に近づき冒険者証を取り出し見せる。
「ああ、確認した。砂漠の街に行きたいのか?教都のギルドでなぜ聞かない?」
「知らないのか?」
「何がだ?」
「教都は魔国に占領されたぞ。俺たちは教都に行くつもりだったが、魔国兵の治安部隊に入場を拒否され、検閲されて危険を感じたので逃げてきた。」
「なに!!ちょっと待っててくれ!」
男は一番大きなテントへ走って向かい中に入った。
おそらく商隊の主へ報告に向かったのだろう。そして恰幅の良い男性と一緒に出てきた。教国の件を聞きたいのだろう。
「私はこの商隊の主で、ファサスと申します。」
「俺はA級冒険者でゼリウスと言う。これが冒険者証だ。」
「これはこれは、A級冒険者様。お目にかかれて光栄でございます。教都の件ですが、少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
「ああ、かまわない。俺たちも砂漠の国に行くための経路を教えて欲しい。」
「招致いたしました。砂漠の国はエジペトと言います。首都のカーイロンへの行き方ですが、このオアシスから北を向けば大きな山が見えますよね?それを目印に進めば首都が見えてきます。」
「教都からこのオアシスへはどうやって来るんだ?」
「ゼリウス様はどのようにして来られましたか?」
砂漠に入ってからの経緯と進み方を商人主へ簡単に説明した。そして教都で起こった出来事と現状も併せて説明する。このオアシスへは砂漠に入ってから東にある山々に沿って進めば到着するとのことだった。砂漠の移動についても色々と聞いた。
「なるほど、それは大変でございましたね。わたくし共はカーイロンへ戻るところです。商人は情報が命です。お伺いした情報を持ち帰り商人ギルドへ報告しなければなりません。このお礼は街に帰った後、必ずいたしますので、わたくし共の商店までお越しくださいませ。」
「謝礼のことなんだが、高名な錬金術師を知らないか?紹介して欲しいんだ。」
「腕は確かな錬金術師を知っております。ですが…」
「どうした?」
「生活…いや性格に問題があり、彼女が依頼を受けるとは思えないのです。腕は確かなのですが…ものすごく怠惰な性格でして…」
「その先は俺たちの問題だから気にするな。名前と住んでいる場所を教えてくれ。最優先でそこに向かいたい。」
「カーイロンの街外れにゴミ屋敷がございます。近付けば臭いで判るかと。」
「ありがとう。俺たちは今からそこに向かう。」
「私共も野営を撤収をしてカーイロンへ向かいます。彼女にはファサスからの紹介とお伝えください。少しは動いてくれるかもしれません。」
「ああ、助かる。ではな。」
馬たちに水と餌をやり、すぐにカーイロンに向けて出発した。
オアシスをから北に向き、大きな山を目印に進む。ファサスから砂漠の移動で馬車を使う場合は「ソリ板の魔道具」を馬車の車輪へ装着して進むそうだ。ソリ板の底板部分に摩擦低減の魔法が付与されており、馬車に人や貨物を載せても問題なく動けるとのことだった。その魔道具は予備がある。とのことだったので買い取った。謝礼としては頂けなかった。
ソリ板の魔道具を装着した馬車は軽快に夜の砂地を進む。雪面を滑走するかのように。魔法で複数の光球を発現させて。
ファサスからおおよその方角は確認していた。月明かりのみで山を目印に進むのは厳しいかと思ったが、シルエットは十分に確認できた。
そして夜が明けるころ、カーイロンの街に到着した。車輪に装着しているソリ板の魔道具を取り外し、門兵に入場目的と冒険者証を提示すると、特に何も言われることもなく許可が下りた。
門兵に街の外れのゴミ屋敷に住んでいる錬金術師の場所を聞いた。ファサスに紹介してもらった事も伝えた。すると門兵は顔をしかめながら教えてくれた。
そして、ア…アイツを何とかしてくれ……とも言われて。
街に入り、真っ先に錬金術師のところへ向かう。門兵の言葉を聞き、ひどく嫌な予感がする。なにか、こう、厄介ごとの予感だ。明け方の街は人がまばらで馬車は快適に進む。建物が少なくなり、街外れと思われる閑散とし─「くっせぇぇ!」『くっさい!』うん…。公害だなこの錬金術師は。
まごうことなき見事なゴミ屋敷だった。




