56話 脱出までの道
シャドーウルフ達が味方と表示されて一安心する。ファントムウルフはこの施設に生息していたので色々と質問をすることにした。
「なあ、クロ。お前たちはこの場所で生まれてきたのか?」
『ソウダ 私は元々ハ シャドーウルフ 戦い勝ち続けテ 進化シタ』
「どんな魔物が生息しているんだ?」
『何種かの勢力がアル ラビット スライム ゴーレム スネーク そしてウルフダ』
「ドラゴンも居てるよな?勢力が大きい派閥は?」
『ドラゴンは戦いには参加シナイ 彼は徘徊しているダケダ。最初はゴーレムが大多数を占めてイタ だが今はスライムが一番多イ』
「すると最初はゴーレムばかりで、スライムがゴーレムを倒して増えたってことか? そしてドラゴンは徘徊しているだけで、戦闘はしないってこと?」
『ソウダ』
クロから訓練施設の魔物状況を詳しく聞いた。訓練魔獣という存在は初級に設定されているはず。だが外の世界と比較しても強すぎる。黒蜘蛛は在来種だったと思う。魔石を残さなかったから。
そして、聞いた話から推測すると訓練魔獣はゴーレムのことだと思われた。訓練施設として機能せず、長い年月、閉鎖状態が続いた。ここはダンジョンに属するため魔力溜まりから何種類かの魔物が出現する。閉鎖しているので発生した魔物は駆逐されることが無く、その数が増殖する。
いつしか内部で生存競争が始まり、スライムがゴーレムの天敵っだったため訓練種の多くが駆逐され、弱者は淘汰された。残った魔物は生存競争に勝ち続けた猛者なので、ホーンラビットでも脅威のステータスを有する存在となった。
「なるほど。この施設の魔物の強さに納得した。そして地球からの転移者は大昔だったのか…。転移現象には相互の時間軸は平行していないのか。このSIS制作者に会いたかったな…。」
会えないと判明して少し寂しくなった。地球、しかも現代の人に会いたかった。
だが、今は一人ではない。仲間が居る。この異世界で様々な人と出会い、共に歩んでいくことを決めている。そう気を取り直して進むことにした。
「クロ、ドラゴンは本当に襲ってこないのか?戦っている所を見たことも聞いたことも無いのか?」
『ソウダ』
出口までにドランゴンと遭遇する可能性がある。しかしクロに聞いても「動き回っているだけだ」としか情報が入手出来ない。万が一、遭遇して戦闘になれば全滅する可能性すら考えられる。
「シロ、ラミ。SISでドラゴンが表示されたら逃げるぞ。無理に戦闘するなよ。」
『はい』 「わかった」
SISマップには、断面図と滞在平面図が表示されている。現在はB4F、少し進んだ先に階段があるはず。フロアは1km四方ぐらいだろうか?無理をすれば明日にでも脱出が可能だが、俺は戦闘の事を考え、魔力の回復を優先して、上には行かず付近で野営をすることにした。
野営に適した場所を探して【周囲探索】をする。SISマップで安全を確認して今日は休息をすることにした。
「よし。今日はここで野営をして回復させるぞ。現在時刻が全く分からないが、食事をして仮眠を取り、その後に上へと進む。」
食事は取り置きしていた例の〝泉で洗った黒蜘蛛〟しかない。他には、あの泉の水が非常に有用だったので、クラン資金で買い集めてた魔道具水筒に大量に保管している。もし他の魔物を食べる時に浄化して食用転化できると考えたからだ。
クロに黒蜘蛛を食べるか聞いたが「ソンナ猛毒の物など食べられナイ」と言われた…。慣れると美味しいのに…。
『我らハ 周囲の索敵ト 警戒をスル 出発時は声を掛けてクレ』
「ああ。宜しく頼む。」
俺達は見張りをウルフ達に任せて食事を終えて眠った。
翌日、魔力が少し回復している事を確認する。【魔力:1546/4721】1/3程度しか回復してなかったが、十分戦える魔力量は確保した。魔力総量が増えたので、回復に時間が掛かるのだろう。
「そろそろ、出発するぞ。」
野営支度を収納して出発準備を整えているとウルフ達が戻ってきた。
『この魔石ハ 昨夜の襲撃デ 倒した敵のモノダ 主へ差し出ソウ』
俺達が眠っている間、野営地より少し離れた場所で魔物の襲撃があったらしい。彼らは魔石か魔力を含む物を食料とするみたいだ。倒した魔物の魔石を食べて、余った分を成果品として差し出すとの事。魔石は多くても困る事は無い。有難く頂くことにした。
B3Fへの階段は見つけている。俺達は難なく上へと移動した。
B3Fも石材で構成されている。他のフロアと大差は無かった。SISマッピングをするため【周囲索敵】を実行する。すると「レッドドラゴン」の輝点が1つ表示されているのに気付いた。だが、〝enemy〟でも〝ally〟でも無く〝operator〟と表示されていた。
「お、おぺらとる? いや違うな。おぺ…おぺらたー。オペレーターか!!」
『主殿、レッドドラゴンの表示があります。ご注意を!!』
「うわー。ドラゴンが居るね。ワタシ戦いたく無いな…。」
「このドラゴンは敵じゃないかもしれない。もしかすると…、訓練施設とSISが言ってたから、係員かもしれない。」
『係員?ですか?』
「なにそれ?」
俺はSIS表記の確認をすることにした。最悪、逃げるのには一人の方が動きやすかったので、皆に待機を命じてレッドドラゴンの所へ向かうことにした。
『主殿、危険です。ここは避けて進むべきです。』
「そうよ!無理に行かなくてもいいじゃない。」
二人は心配してドラゴンへ向かう事に反対したが、俺は「大丈夫だ。心配するな。」と言って一人で向かった。
ドラゴンは立ち止まる事無く、常に動いていた。「徘徊」と言うより「巡回」しているように思える。移動速度は速くない。俺は走ってドラゴンに向かった。
ステータスの上昇している俺は走るのも速かった。尋常ではない速度でドラゴンへ向かい、視認出来る距離まで近付き、立ち止まった。そして警戒しながら歩いてドラゴンへと向かい、話し掛ける。
「なあ。レッドドラゴンよ。お前はオペレーターなのか?」
俺はドラゴンへ話し掛けた。するとドラゴン立ち止まり、こっちを見た。
『久方の訪問者か。SISに適合したようじゃの。すると今は"ちゅーとりある"の最中かの?』
「え!? あ、ああ。そうだ。」
ドラゴンが流暢に返答した事とSISを知っている素振りで話した事に少し驚いた。
「少し質問をいいか?」
『ああ、構わんよ。』
「えっと…。アンタは何しているんだ?」
『ワシは大賢者との盟約により、SISを守っているのじゃよ。』
「大賢者?あぁ…。SIS製作の転移者か。適合者って事は誰にでも使える訳じゃないのか?」
『うむ。昔は多くの者が訪れてSISの起動を試みたのじゃ。だが適合者はおらんかったの。』
「なるほど。起動魔力が膨大すぎて誰も適合しなかったのか…。お前はSIS適合者や訪問者とは戦わないのか?」
『ワシは、このSISを不正に奪おうとする者を退ける役目じゃな。適合者が現れた今、ワシの役目は終わりじゃ。』
「不正に奪うとは?」
『適合しないのに持ち出そうとする事じゃ。そう言った輩を倒して、SISを元の場所に戻す事がワシの役目じゃ。』
「そっか…長い間、ご苦労様だったな。同郷の者として心から感謝を伝える。」
『うむ。ワシも無事に盟約を果たせて何よりじゃ。大賢者には世話になったからの…。同郷とはお主も転移者かの?』
「ああそうだ。同じ地球と言う世界の出身だ。」
「それで、これからお前はどうするんだ?盟約を果たして開放されたんだろ?」
『そうじゃの…。何もする事が無いの。外の世界に出て旅でもするかの…。』
「なら、俺と来ないか?お前の面倒は見る。俺達はある国に仲間を救出するために旅をしているんだ。」
『ふむ。特にする事も無いしの。お前さんは大賢者と同じ人族じゃろ?人族の寿命は短い。ワシからすると刹那の一時じゃが、それもいいかもしれんの。』
「まあ、俺の寿命は短いかもしれんが、他に仲間が居る。長命の種族もいるから、共に仲良く暮らして欲しい。」
『それもいいかもしれんの。よし。お前さんに世話になるとしよう。ワシは〝ハナコ〟と言う。宜しくな。』
「え!! は、ハナコ。その名前は…、もしかして大賢者に付けられたとか?」
『そうじゃ。大賢者に与えられた名じゃ。』
(大賢者は番犬みたいに扱ってたんかな?名前がハナコって…)
「えっと、じゃあハナコは雌なのか?」
『そうじゃよ。』
そう言って、ハナコは人化をすると言い出した。何百何千年と生きているドラゴンのため、老婆の姿を想像したのだが「グラマーな金髪姉さん」になった。
「お、お、お、すげぇ…。バインバインしてる…。」
『お前さん、ワシに欲情しておるの…。あまり見られると恥ずかしいのじゃが…。』
「ととと、とりあえず、この服を着てくれ。良い物を見せてもらったが、色々と困るんでな…。」
やはり人化をすると素っ裸になった。ちょっと凝視しすぎた…。魔道具袋から服上下を取り出し、ハナコに渡した。下も金髪だった。
SISマップでハナコの表示を見たが〝operator〟のままだった。恐らく、彼女は関係者として登録されたので変わらないのだろうか?詳細は不明だったが、気にせずにシロ達の所へ戻る事にした。
「俺は、この世界では、テセウスと名乗っている。ある存在に与えられた名だ。」
『ある存在とはなんじゃ?』
俺はシロ達の待つ場所へ戻りながら、転移から現在までの経緯をハナコに説明した。
『ふむ。大変な道を歩んでおるのじゃな。そして、これからも壮絶な道じゃな…。』
「ああ、だからハナコと共に行動をするのは非常に助かる。」
『まあ、人族の一生は短い。激しく輝き人知れず散るのも人生じゃ。ワシはお前さんを看取るまで共に行動しよう。』
「ありがとう。そして大賢者にも感謝を。」
『ふむ。お前さんが転移者じゃ無ければ、同行はしなかったかもしれん。ワシは大賢者の最後を看取れなかった事を悔やんでおるのじゃ。贖罪じゃないが、同郷の者に力を貸すのも悪くは無いの。』
ハナコはそう言って同行の理由を説明してくれた。アルカ救出の力にもなると約束してくれた。
そしてSISの事をハナコに幾つか質問してみた。
「なあハナコ。このSISの情報端末って魔石で構築すると〝機能限定端末〟ってなったんだけど、何か知ってるか?」
『大賢者からSISの事は聞いておる。じゃが、あまりの年月が過ぎてあまり覚えておらんのじゃ。たしか機能限定とは一部の情報は送れないとか言ってたのう。』
可能な限りは質問をしただろうか。情報端末は対象素材により耐久度や通信距離、機能権限に差が出ると思われる。「詳しくは情報検索で調べられるのじゃ」と言って、彼女は説明を放棄してしまった。
そしてシロ達の待つ場所に近付き合流をした。するとウルフ達は離れて隠れてしまった。
『主殿?そのお方は、も、もしかして…ドラゴン、でしょうか?』
「ぎょえぇえ! ドラゴンを連れてきちゃったの!?」
『ワシはハナコと申す。テセウスに世話になる。これからは宜しく頼むのじゃ。』
「そう言う事だ。彼女はこの施設にあるSISの守護者をしてたんだけど、盟約が完了したので、これから一緒に旅をすることになったんだ。」
俺はハナコにステータス鑑定をしていいか確認をする。
彼女は構わないと承諾を得たので見てみた。
━━━━━━ステータス━━━━━━
種族:レッドドラゴン
階位:6
体力:1214
魔力:746
技力:1874
膂力:1133
速力:1078
心力:887
弱点──────────
逆鱗
━━━━━━━━━━━━━━━━━
「ん?ラミの方がステータス高いな…。んん!? なにこの速力!」
「どうしたの?ラミ様の強さに惚れ直しちゃった?」
「いや、ハナコも強いけど、純粋な肉体能力はラミが倍近くステータスが高い。だけどハナコの速力が異常に高いんだ。」
現在の強さを比較すると
肉体的能力 ラミ>ハナコ>シロ>俺
魔法的能力 俺>ハナコ>ラミ>シロ
となる。
これを自分の中で分かりやすくポイント換算で表すと
ハナコ6pt = ラミ6pt>俺5pt>シロ3pt となった。
「うん。ラミもハナコも総合的には同じ位の強さだな。ハナコは階位が低いから、成長すると強くなるんだろうな。」
『ふむ。ラミはワシより肉体的に強者なのか…。ラミ…ちょっと手合わせを願いたい。』
「ふふ~ん。いいよ。ラミ様が稽古してあげよう。」
二人が獣化して取っ組み合いを始めた。怪獣大決戦のように周囲が揺れ、大きな音が鳴る。
ギャゴォォーー!! グガアァァーー!!
「おい!止めろ!施設が崩落する。」
俺は慌てて二人を制止した。するとラミがハナコを持ち上げ、投げようとしている所だった。
ラミがハナコを下ろして、二人とも獣化から人化へと変身する。
『ふぅ…。ラミは強いのじゃな。ワシが手玉に取られたのは初めてじゃ。』
「ふっふ~ん。ラミ様の力を思い知ったかね?」
『次はブレスと魔法を使って手合わせ願おうか…。』
「へへん。ラミ様に勝とうなんで1000年早いよ。」
二人は再び獣化した。そして手合わせと言う名の戦闘を止めようとしなかった。俺は言う事を聞かない二人に対して
「おい、言う事を聞かないのなら…俺も混ぜてもらおうか…。」
「#多くの火よ硬質の熱となり回り飛べ:………」
頭上に超高速回転したビットが500本出現する。
"ギュヒィーン"と回転ノイズが反響して鳴り響き、空中に制止した。
「:メタ…」
「ゴギャンギャザイ(ごめんなさい!!)」
トラウマであるビット魔法の出現で、ラミが獣化巨体でジャンピング土下座をしてきた。
そして俺はハナコの方を見る。彼女は獣化巨体で〝ふるふる〟と頭を横に振って泣きそうになっていた。
「お前ら、人化して大人しくしてろ!」
「『はい…。ごめんなさい。』」
ハナコが「凶悪な魔法を使うのじゃな」と言ったので、これは神に与えられたオリジナル魔法だと教えてあげた。すると彼女の表情が一層引きつっていた。
俺はハナコの異常な速力の高さを聞いた。
すると彼女は「空を飛べるからかの?」サラッっと言った。
「えっ!! 空を飛べるのか?」
『ああ、飛べるのじゃ。大抵のドラゴンは飛行の才能を有しておるのじゃ』
俺は魔国に飛んで行ける。すぐにでもアルカを救出できる。と喜んだ。そして人を乗せて飛べるのか聞いてみた。
『あまり乗せて飛んだ事は無いが、たぶん大丈夫かの。』
それを聞いた、シロとラミを大喜びした。ダンジョンに転落した時間のロスを取り戻せる。俺達は一刻も早く、この施設を出る事にした。




