52話 未開地での試練
未開地に残っているメンバーへ簡潔に内容を記した手紙を数通、置いてきた。
リリアナには男爵からの呼び出し、そして、その一連に関する内容を少し濁して書いた。
両翼にはエボルを補佐して未開地を切り開く協力の要請を。
ジャギ隊には冒険者としての力をクランメンバーに貸してほしいと。
ルカには物資の入手か困難になるので回復薬が重要だと。
付与術師、魔法術師、アルカの弟子3人、鍛冶師にはミスリル銃の量産と改善、そして研究継続を。
パナには猫少年、犬少年たちの教育と自立の補佐を。
それぞれ、手紙と言うより指示に近い内容になったのだが、大事な事だったので手紙にした。
俺達は王国の追手が来ることを警戒して、コリアラ王国を通過せずに直接カトリク教国へ入国することにした。
未開地は魔物が非常に多く、昼夜戦闘を繰り返しながら進んだ。
「シロ!右からくるぞ!」
『はい!』
「ラミ!人化を解いて後方の魔物を頼む!」
「わかった! ゴアァァーー」
粗方、襲ってくる周囲の魔物を倒して小休止をする。食事は取れる時に保存食をかじる程度だった。睡眠は交代で行った。魔道具テントの結界は、未開地の魔物には効果が無かった。
「シロ、ラミ。未開地の開拓は大変だったろ?」
『この地域の魔物は、弱くなく、強くなく。そんな感じの脅威度でしたので人数がいれば撃退は難しくはありませんでした。ラミ殿も人化のまま戦闘の対処が可能でしたので。』
「ラミ頑張ったんだよ。」
「おお、そうか。ラミ凄いな。」
「うん。」
一刻も早くアルカを救出したい。焦りが生じる。だが未開地は3人では予想以上に厳しい土地だった。街道は無い。魔物は次から次へと襲ってくる。夜は漆黒の闇に包まれ身動きが取れない。方向感覚がマヒして正しい方向に進んでいるのかも分からない。そんな状況だった。
出発してから数日後、いつも通りに魔物との戦闘をしながら進み【周囲探索】で脅威が無くなった時のことだった。
「今日はあの洞窟で野営をするか。結界が効かないテントより安全だと思うしな。」
『はい』
「#ライトボール」
俺は洞窟の中で明かりをともすため呪文を詠唱した。
長時間点灯するように強めの魔力を込めた光球が中を照らす。洞窟と言うより中が広く奥まで続く巣穴のような感じだった。洞窟内を調べ安全を確認する。そして問題が無いことを確認してから、野営に適した広さのある部分で休息を行う事にした。
「回復薬のストックも心許なくなってきたな。回復魔法の練習はしてるが傷程度しか治せないから、まだ役に立たないんだ。人体構造をもっと知ってたら強い効果が発揮出来るんだけどな…」
「だったら魔物や魔族を生け捕りにして解剖しちゃおうよ!」
『むむ。ラミ殿、生け捕りして解剖ですか?それは生命を冒涜する行為ですぞ。』
「いや、シロ。実は俺の育った世界では普通に行われてきた行為なんだ。死体解剖とかを行って死亡原因などを突き止めたり、生体解剖を行って医学が発展した経緯もあるからな。あとは動物実験とかも行われてる。同族を使って試せないらな。」
『そうなのですか…』
「じゃあ、オーガとか見つけたら捕獲して解剖しようよ!」
『ビクッ…。お、オーガをですか?』
「い、いや、ラミ。オーガは止めておこう。ちょっとシロが可哀相だ。」
「なんで?シロが怪我しても身体の構造が分かってたら治せるじゃん。」
「あ…いや、そう言う問題じゃないんだけど…」
「ちょっと獲物を探してくるね。」
ラミがそう言って人化を解き洞窟から出て行った。「アイツは何を捕まえて来る気なんだろ…」と呟き、シロの方を見ると、彼は納得していない様子で黙っていた。
「シロ、捕まえてきたからって解剖するとは決めてないし。解剖するにしてもこれからに必要な事なんだ。理解してくれないか?」
『はい。種族間で死生観が違う事は理解しております。ただ、魂が汚されるような行為は控えて頂きたいのです。』
「わかった。その生命が俺達の糧となり必要な犠牲として尊ぶ事を誓う。」
『ありがとうございます』
シロの種族は、部分的に現代の人間に近い倫理観を持っているのかもしれない。彼の考えは十分に理解出来る。だが、その観念に捕らわれる反面、進歩が停滞することも事実だろう。モラルと進歩。その狭間で人間は技術進化を遂げたのかもしれない。と俺は思った。
「ただいまー」
ラミがオークを担いで洞窟に戻ってきた。オークは殴られ気絶しているようだ。
「おかえり。オークを捕まえたのか。たしかに人型で解剖に適しているな。」
「えへへ。そうでしょ。解剖が終われば食べられるし丁度いいでしょ?」
「たしかに。解剖も解体も大きな違いは無いしな。」
『ふむ。そう考えると問題ございませんな。』
全員の意見が一致した。早速、オークの解剖に取り掛かる事にする。だが、生きたまま切り刻むのは残酷なので麻痺させて解剖を行うことにした。オークへ威力を弱めに加減した雷魔法を唱える。
「#電撃を対象に:エレキショック」
転移前の職業は建築設備系のため電気の仕組みは熟知していた。初めてこの魔法を試したが思い通りに発動した。やはり現象を理解していると高確率で成功する。そして高電圧低電流の電撃をオークに与え、麻痺させた。
「さて、四肢が一番損傷する可能性が高いから、そこから始めようか…」
『はい』 「うん」
俺は解体ナイフでオークの表皮を切り、血管、筋肉などの配置や構造を知らべる。シロにはオークが目を覚まして暴れた時のために剣を渡して構えてもらっている。解体作業との違いは、生きているか、死んでいるか。この程度だった。この世界に来て血肉には慣れた。四肢の解剖はスムーズに進んだ。
そして回復魔法をオークの四肢に放つ。
「#光の奇跡よ肉体を修復せよ:ヒール」
すると切断した筋肉や血管、骨、表皮、真皮などが回復していった。
「やったな…」
『主殿、素晴らしい才能です。』
「テセウス、凄いじゃん。」
次は胴体の内臓部分の解体を行う。この段階まで解剖が進むとオークが麻痺から目覚めるかもしれないので、強めの電撃を心臓に流し仮死状態にした。
「あまり仮死状態は長くは出来ない。10分ぐらいかな。最大でも15分を過ぎると蘇生は無理になる。それまでの間に解剖と蘇生、そして回復魔法を繰り返すぞ。」
このオークにとっては拷問だったと思う。しかし必要な行為と割り切り、解剖を繰り返していった。
「#光の奇跡よ肉体を修復せよ:ハイヒール」
何度目かの回復魔法で内臓まで損傷を回復させることが出来た。魔力を多めに込める呪文を分けるため「ヒール」と「ハイヒール」とで呪文を分けて唱えることで成功した。
『主殿、これで生還率が上がりましたな。』
「すっごーい。メリメリと肉が生えて来るんだね。」
「失血した血液を増加させるのは、難しいな。成分は何となく習ったから覚えてる。水分、赤血球、白血球、血小板、脂質、タンパク質、糖質と塩分やったかな?でも構成比率を覚えてないから完全には無理みたいだな。まあ何度も試せばいつかは成功するだろ。」
そして、解剖を終えたオークを電撃で安らかに眠らせ、知識と生命の糧として役立てた。
見張りを交代で行い睡眠を取る。
そろそろ日が昇ると思われる時間になったとき、大きな揺れが襲ってきた。
大きな揺れで飛び起き「おい、地震だ!急いで外に出ろ!」と二人に指示を出す。見張りはラミがしていた。彼女は見張りをサボり寝ていた。
「んあ~!なに!?揺れてるぅぅぅ。」
『主殿!急ぎましょう!』
「あっ!入り口が!」
地震による崩落で入り口が塞がれてしまった。だがビット魔法で破砕すれば脱出可能だ。俺はこのとき、まだ事態に対し余裕があった。
「んぎゃーー」
後ろでラミの叫び声が聞こえた。
「おい。ラミ。どうした?」
『主殿、床が崩落しており…』
ガラガラ!
「おい!シロだい…」
「んがあぁ…ぁ…ぁ…」
ガラ… パラパラ…
「いてて… シロ、ラミ、どこだ?」
『ここに』
「ラミもいるよ」
どうやら先ほどの地震で洞窟の床が崩落して、3人とも墜落したようだった。
「二人とも怪我はないか?」
『打ち身などはありますが、行動可能範囲です。』
「いたーい」
俺と二人に"ヒール"を掛けた。
「テセウス、ありがとう。」
『主殿、ありがとうございます。』
洞窟から転落した先は人工と思われる通路のようだった。神の眠る島で通った神殿の通路に構造が似ている。石材で組まれた壁床天井がほんのり発光して、視界が確保できている。もしかして未踏破ダンジョンに転落したのかもしれない。
「シロ、この場所は神の島の神殿に酷似している。ダンジョンの可能性がある。魔物の出現に警戒しろ。」
『はい!』
「えぇ!ダンジョン!出口はあるの?」
「ラミ、それを俺に聞かれても困る。とにかく中を探索して脱出するぞ。」
転落した上を見たが、飛べない限りは戻れそうにない。俺達は諦めて出口を探す事にした。
ダンジョンの魔物は食べられない。魔力溜まりにより魔核が形成され自然発生する。倒すと魔石に還元され肉体は消滅する。魔道具袋は一緒に落ちてきたので食料は当分大丈夫だろう。水は魔法で生成できる。野営道具もある。行動するのに問題は無い。
心配なのは未知のダンジョンに生息する魔物の脅威度だ。コリアラ王国で発見したダンジョンは低層で魔物は強くなかった。しかし、ここは未開地。地上の魔物も王国の魔物より強かった。そのことから推測すると、このダンジョンの魔物は脅威度が高いかもしれない。
「とにかく警戒を怠らず前に進むぞ」
俺は【周囲探査】をして生物反応を探る。散発的に生物反応があった。
「近くはないが生体反応がある。恐らくダンジョンの魔物だろう。前方と左方に反応があった。ひとまず先方の魔物を倒して脅威度の様子を見よう。」
二人に指示を出し慎重に進む。少し歩くと一角が生えた兎が二匹現れた。この程度なら問題は無さそうだ。俺は二人に倒すように指示をする。
「この程度なら大丈夫だろ。俺は【鑑定】と探索の識別をするから二人は倒してくれ。」
『承知しました』 「わかった」
俺は【鑑定】を念じて一角兎のステータスを確認する。
━━━━━━ステータス━━━━━━
種族:ホーンラビット
階位:※※
体力:247
魔力:145
技力:321
膂力:336
速力:414
心力:98
弱点──────────
雷属性 水属性 心臓
━━━━━━━━━━━━━━━━━
「は?」
俺は一瞬、呆気にとられた。
『うぐぁっ…』
「コイツ速いわ!」
シロが一角兎に刺され、苦戦している。ラミは速さに翻弄されて攻撃が当たらない。俺は兎の見た目に騙され考えが甘かったことを悔やんだ。そして二人に下がるように指示を出す。
「二人とも下がれ!俺がやる!」
避けれないように100個のビット出現をイメージしてビット魔法を唱える。
「#多くの火よ硬質の熱となり回り飛べ:メタルバラージ」
前方二匹の一角兎にビットが命中して貫通する。すると兎は絶命して光の粒となり、その場に魔石を二個残して消えた。シロにヒールを行い、傷を回復させる。
「すまない。俺の指示ミスだ。この兎がこんなに強いとは思わなかった。鑑定をしてビックリした。」
『主殿、お気になさらずに。初見の魔物脅威度は誰でも計り損ねます。』
「なにあれ?凄く速いんだけど。」
俺は二人に一角兎のステータスを伝えた。
そして全員のステータスを確認してその差を伝える事にする。
━━━━━━ステータス━━━━━━
名前:テセウス
称号:無し
階位:27
職業:冒険者
年齢:20
体力:315
魔力:1411
技力:154
膂力:227
速力:157
心力:436
魔術──────────
闇纏い 闇操殺
魔法──────────
#ウォーター(3) #ファイヤー(3)
#ウィンド(1) #ヒール(2)
才能──────────
【言語理解】【ステータス】
【※※※※】
【経験値増加+2】【周囲探査】
【鑑定能力】【毒物耐性】
【中毒耐性】【調理能力】
従属──────────
【オーガβ種:シロ】
【ジャバウォック:ラミ】
━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━ステータス━━━━━━
種族:オーガβ種
階位:21
体力:184
魔力:37
技力:101
膂力:176
速力:87
心力:36
弱点──────────
水属性 頭部 心臓
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━━━━━━ステータス━━━━━━
種族:ジャバウォック
階位:8
体力:739
魔力:347
技力:223
膂力:784
速力:275
心力:167
弱点──────────
雷属性 心臓
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「全員のステータスと一角兎のステータスがこんな感じだ。ラミは凄い強かったんだな。シロは少し階位上昇してるけど、兎には勝てないな。」
『力不足で、申し訳ございません。』
「えへん!ラミは凄いでしょ!」
「ああ、そうだな。兎の速さは別としてラミならば勝てるな。」
俺達は落ちている二つの魔石を拾い、警戒しながら先に進むことにした。現状、力不足でも進むしか方法が無い。出口を探すために。




