49話 新たな武器
魔道具を作成する魔道具(以下、製造魔装置)を完成させ、魔道具ポットの生産効率が劇的に改善した。ポットを計画生産品として、少し多めに製造して魔道具店の倉庫へ保管する。
次に製造魔装置で付与製作する物を決めている。ミスリルの鏃に風魔法を付与して、自立推進する武器を作りたい。矢はカセット式にして、ボウガンのような形状の発射装置を作り、トリガーで自立推進する。早い話が銃の弓版を作成しようと思っている。
鏃のコストが難点だが、連射が出来て短い訓練期間で矢の達人クラスになれる。狩りで大きな効果を発揮するだろう。鏃は回収して再付与すればコストは少し改善する。
期待している性能だが、付与した風魔法が発動し続ける限り矢は加速して飛ぶ。つまり、魔法より飛距離が出る。これは大きな利点になるだろう。威力は鏃の大きさと矢柄の長さで調整し、付与魔力量と飛距離、威力のバランスを検証する。
すでに付与術師のシトラスに"ミスリルへ風魔法を付与するアダプタ"の製作をしてもらっている。あとはアルカに数種類の大きさの鏃と矢柄を作ってもらい試射をする。
俺は工房に寄り、アルカへ一緒に昼食を取ろうと声を掛けた。
「アルカ、武器の事で相談がある。一緒に昼食をしようか。」
「うん。わかった。先に食堂に行ってて。」
俺は食堂に向かうとエボルが席に着いたところだった。
「エボル、今から昼食か?」
「はい、テセウス様。今、お時間大丈夫ですか?少しお話があります。」
「ああ、大丈夫だ。」
「この街の教会で騒ぎがございました。我々で調べたところ、カトリク教の聖職者が捕縛されてサザ教と言う新興宗教に変わったようです。」
「サザ教?聞いた事がないな。」
「はい。魔国が本山の宗教みたいです。帝国内も大半がサザ教に改宗したそうです。」
「へぇ~、そのサザ教って問題あるのか?」
「いえ、今のところは特に。大衆神の女神サザ・エサンを唯一神とし、低所得者の保護に力を入れているようです。」
「それは良いことじゃないのか?」
「まあ、そうですが…。」
「何か問題があるのか?」
「ただ、異端審問官と言う者が聖職者を捕縛し拉致しているようです。」
「異端審問官だと?それは物騒だな…。拷問とかあるのか?」
「いえ、そこまでは分かりません。あとサザ教騎士団と言う武力組織も存在します。」
「教会騎士団か。そいつらは多いのか?」
「はい。小国に匹敵する武力と噂されております。この街にも駐留しております。」
「つまり、実質は魔国の先兵ってことか。」
「はい。恐らくは。」
俺はこの街が既に魔国に侵されていることに危機を感じた。今からでも遅くはない。戦火を逃れるための準備をしなければ。しかしどこに逃げる?全員を連れて逃げられるのか?色々と考えている間にアルカが食堂にやってきた。
「テセウス、お待たせ。」
「ああ、エボルと話をしてたから大丈夫だ。」
「そう。何の話をしてたの」
俺はアルカに聞いた話を説明した。彼女も驚き、速く逃げようと急かしてきた。
「いや準備が先だ。ともかく情報を集めようか。」
「わかった。アタシも準備をするね。」
「エボル、貴重品などを集めていつでも逃げられる準備を皆に伝達しといてくれ。」
「はい。テセウス様。」
最悪のケースに備えて準備を進める。荷馬車や魔道具袋の調達をさらに増やすことにした。
近くの席で食事をしてたジャギ隊に周辺国の情報を聞いてみた。冒険者生活が長いので色々と知っているだろう。彼らが言うには、組織が新たに拠点を築けるのに最適な国は思い当たらないとのこと。モヒカンが冗談半分で「未開地に拠点を作ればどうっすか?」と言った。
「未開地って?」
「この国の西は未開地で国が無いんっすよ。」
山岳や樹海が多く、魔物が多数生息しているので人族の生活に適さないそうだ。
開発をしても費用対効果が得られないので周辺国は領土の取り込みをしてないらしい。
「そっか、未開地を開拓して住むのもアリかもな。」
(未開地は最後の手段かもしれないな。)
願わくば、魔国が侵攻しないことを祈った。
数日後、風魔法を付与済のミスリル矢を試射してみた。発射装置は、矢をグリップ付きの筒状砲身に入れ、魔力をトリガーに発射する方式にした。イメージはパイプにロケット花火を入れて飛ばす感じだ。
シュッ シュッ
「テセウス、どうかな?」
アルカがパイプ弓銃の具合を聞いてくる。
「そうだな。パイプ内に鏃に合うガイド(溝)を付ければ命中精度が上がるかもな。」
「それ位なら今すぐ出来るよ。ちょっと待ってて。」
飛距離は数百メートルだろうか、魔法より射程は長い。ただ、命中精度が悪い。パイプ内の気密加工で改善するだろうか?あと、威力は自立推進と風魔法の風力圧縮噴射で初速が増し、向上するだろう。
「お待たせ。これで試してみて。」
「アルカ、ありがとう。」
シュバッ シュバッ
「うーん。やっぱりパイプ内の気密性をちゃんと上げないと威力が弱いな。」
「アルカ、鏃を矢柄と同じ太さにし、矢柄尻に付与ミスリルを接合するのはどうだろうか?」
「それなら、矢柄は要らないんじゃない?付与したミスリルを直接飛ばせばどうかな?」
「そっか!矢に拘らずミスリルを弾丸とすればいいんだ!」
アルカに工房で弾丸の形状を説明する。
「全ミスリルじゃコストと加工が大変だよ?先端を鉛にして、付与ミスリルと接合すれば?重量のバランスもいいし。」
「なるほど。よし、それで作ってみよう。」
威力と製造加工のバランスで50口径相当の12mmサイズで作成をした。
「パイプの内部も螺旋溝を作って欲しいんだ。」
「螺旋溝?何それ?」
俺は絵に描いてライフリングを説明した。弾丸に回転を与え、直進安定性と威力が増加する仕組みだと。
「その加工は治具から作らないと無理かな。明日まで待ってて。今から取り掛かるから。」
アルカの弟子に雷管となるミスリル弾底を100個ほど作るように言い、作り終えたら付与術師の所へ持ち込んで風魔法の付与を行うように依頼した。
カートリッジ式の魔道具ボウガンを作ろうとしたのだが、アルカの協力により銃のような魔道具に変わってしまった。だが、小型軽量化と操作性向上、威力増加でより強力な武器が仕上がりそうだった。
少し時間が出来たので、俺は一人で教会の様子を見に行く。
教会のシンボルが変えられ、ドンブリの様な変な形になっていた。
「そういや女神サザ・エサンって言ってたな…。タラッタッタラって音楽が聞こえそうな名前だな…。」
日本だったらバカにされそうな名前だなと思いながら教会の様子を伺う。教会騎士団も居る。魔国の宗教と聞いていたのだが、騎士に魔族はおらず人間しか居なかった。
司祭と修道女と思われる人が炊き出しをしている。街の人々が並んで施しを受けているようだ。低所得者の保護に力を入れていると言うのは本当らしい。侵略の先兵と考えるのは違うのかもしれないと思える光景だった。
次の日、アルカが試作品を完成させた。銃身は長めでマスケット銃に似た形状となった。的に鉄のフルプレート、ミスリルのフルプレート、鉄の盾、ミスリルの盾を用意した。弟子に作らせた弾丸で試射を行う。飛距離は200mぐらい。付与弓より飛距離は落ちている。ミスリルの使用量を減らしたからだ。しかし命中精度は向上した。威力も鉄のフルプレートは貫通した。だがミスリルプレートと各盾には弾かれた。
弾頭部を鉛とミスリルの2種類作ることにする。鉛はコストと加工性に優れているが、重装備の相手には弾かれる。そのため弾頭をミスリルにして貫通力を向上させるのだ。
そしてミスリル弾を試射した結果、鉄のプレートと盾、ミスリルプレートは貫通、ミスリル盾だけが弾かれた。
「うん。十二分な結果だな。」
有事に備え、弾丸を鉛5000発、ミスリル1000発、銃本体100丁の製造を指示した。するとアルカが「在庫のミスリルを大量に消費するし、工房全員で製造しても2週間は必要だよ。」と言ってきたが「これは優先事項だから問題ない」と答えた。
アルカには「この弾丸をカセット式にして連射可能となるように仕組みを考えてくれ」と無茶振りをして、俺は逃げるように工房を出て行った。
そして……
ドツイン帝国の王城が空から攻撃され、王と王女が拉致されたと情報が入った。
「テセウス様!帝国の潜伏員から王城が攻撃され王族が拉致されたと連絡が入りました!」
「なに!エボルそれは本当か?」
「はい。いま帝国王都は大混乱となっております。突然、飛竜の軍団が飛来して、空から爆発物を落とし王城を破壊したそうです。」
「空爆か…。エボル、それは魔族軍の攻撃か?」
「はい。恐らく。」
「人族の軍は飛行部隊を持ってないのか?」
「飛竜は魔族にしか操れません。そのため人族は空を飛ぶ手段がありません。」
「制空権を支配してるのは魔族か…。こりゃ勝てないな。」
帝国が魔族に制圧されるのは時間の問題だと考えた。いや、このコリアラ王国や他国も太刀打ち出来ないだろう。
暫くしてリリアナの兄弟が将校として派兵されてた軍が敗走したと噂が流れた。




