35話 街道の者たち
今日は日の出の前に目が覚める。早起きはもう慣れた。高級なホテルはベッドも心地よい。目覚めも気持ちが良いものだ。
今日は一人で眠っていたようだ。アルカは隣のベッドでまだ眠っている。朝のラッキースケベを少し期待したのに残念な気分になる。いや。違う。幸運とは己の力で引き寄せるものだ。
俺は一度も使用した事の無い〝才能〟の【闇纏い】を念じて発動させる。今使わずに、いつ使う。そう、今この瞬間のために神が与えたもうた才能なのだ。自分の気配が薄くなるのを感じる。そうだ俺は空気と一体化している。
音を立てること無く、隣のベッドに近づく。標的は、すやすやと眠っている。俺はゆっくりと足元部分の掛布団に潜る。甘い匂いと汗の香りが鼻に立ち込める。これが女性特有のフェロモンなのだろう。彼女は真麻の白いワンピースを寝間着にしている。おれはそっとワンピースの中を覗いた…。
かぼちゃパンツだった。
一瞬、気分が萎えたが、この世界では仕方のない事。
現代の下着などは存在しないのだから。
そのかぼちゃぱんつに俺は手を掛けた…ら…彼女が起きた。
「テセウス?何してるの?」
「お前の下半身を生で見ようと思った。」
俺は正々堂々と自分の行動をアルカに伝えた。
彼女は顔を真っ赤にして聞いてきた。
「見たい…の?」
「ああ、今すぐ見たい」
「今は明るいから駄目… 夜に水浴びをしてから…ね?」
「駄目だ。いますぐ見せるんだ。」
「……うん」
俺は強引にアルカに迫った。彼女なら俺の言葉に従うだろう。
と
その時
まるで終末の鐘と思わせる、絶望の告知が部屋に鳴り響いた。
コン コン コン コン
『主殿、そろそろ朝食のお時間です。』
シロォォォォ!貴様かぁぁ!
望まないご都合主義が発揮された瞬間であった…。
俺達は宿のレストランで朝食を取る。
『あの…主殿?どうかされましたか?』
「あぁん?何も無い ケッ…」
「テセウスごめんね。今晩に…ね?」
少し?不機嫌になりながら、南部の山岳へ向かう打ち合わせをする。徒歩の日帰りでは向かえない距離。山岳の麓で野営をして、翌日にミスリル銀を採掘する予定だ。
「出発する準備は出来ている。食事をしたら早速山岳部へ向かう」
『はい』 「うん」
俺達は食事を終えて宿を出発した。通りに出た時、豪華な馬車が通りかかり、目の前に止まった。そして貴族と思わしき女性が馬車の窓から挨拶をしてきた。
「あら、あなた達、ごきげんよう。その節はテセウス様にはお世話になりましたわ。我が家からの褒美には満足して頂けまして?」
「お前と話す事は何もない。売られた喧嘩は既に買い取っている。安心しろ、忘れてはない」
「さようでございますの。うふふ。威勢の良いことで。では、ごきげんよう。」
馬車が走り去り、リリアナは去って行った。幸先の悪い気分になったが、気を取り直すことにした。
「馬車もいい。金を貯めて買うか!」
『荷馬車などは良いかもしれません。大きな素材や遠方の探索には役立つでしょう』
「テセウスが欲しいなら、アタシ頑張ってお金を稼ぐよ!」
「よし。皆で頑張って馬車を買おう!」
俺達は目標を立てた。馬車を買い、遠方の探索が行えるようにと。そして雑談をしながら街道を歩き南方の山岳地帯へと進む。今の所、道のりは順調だ。特に魔物などは出現していない。
暫く歩き、獣人村長の村に差し掛かろうとしたとき、前方に数名の人影が見えた。
「ん?前で人が道を塞いでいるな」
「盗賊かもしれない…」
『主殿、少し警戒しながら進みましょう』
俺は【周囲探索】を行い、反応を調べた。
前方に8名、これは視認出来ている。その手前の森に12個の生物反応がある。
恐らく盗賊の仲間なのだろう。
「おい、アルカ。盗賊に対する王国の扱いって知ってるか?」
「盗賊と確定した段階で相手を殺傷しても問題にはならないよ。捕縛して領兵に付き出せば報償が出るみたい。」
「盗賊の定義って分かるか?」
「他人の金品を略奪する行為や殺人及び人身拉致などの行為を行う者。だったかな?」
「そっか。ありがとう」
俺はこの世界と日本の道徳的な違いや刑事・民事に関する法解釈をまだ理解していない。だが多少の違いはあれど、大きくは変わらないなと思った。ただ…、人の命に関する扱いが軽い事を除けば。
そして前方の者たちが話しかけてきた。
「おい、君たち、申し訳無いが金品を全て置いて行ってくれないか?」
なんか妙に丁寧な盗賊だなと思った。よく見ると人間では無く、エルフの集団だった。話し掛けてきた男はリーダーなのか、他のエルフは話さず待機している。
「あぁん?? お前らはエルフの盗賊か?」
「私達は盗賊では無い。森の民で守護者でもある。エルフ族だ。」
「はぁ?お前らはすでに盗賊行為をしてるじゃないか」
「私たちは金品さえ置いていってくれれば、君たちに危害を加えるつもりはない。」
「バカか。略奪行為を行っている時点でもう盗賊だ。お前らを今すぐ皆殺しにしても既に問題は無い状況なんだぞ」
俺は威勢の良いことを言ったが、人族相手に皆殺しをする勇気は無かった。だが、盗賊相手に油断をすると殺されるかもしれない。ギリギリまで強気で交渉しようと続けた。
「目の前に8人。横の森に12人が隠れてるな。まず森の12人から皆殺しにしてやる」
俺はカミラが使っていた水の槍の魔法を使う事にした。ウォータージャベリンだ。それを複数同時に打てないか…恐らく使える。何故かそんな気がした。ぶっつけ本番だが、森に威嚇で打ってやろうと行動した。
「#多くの水よ貫け:……」
多大な魔力を使用するイメージで詠唱を行う。すると30本ほどの水槍が俺の目前頭上に現れる。その詠唱を途中で止める。水槍が頭上で一時停止している。
あくまで威嚇のつもりで詠唱をした。俺に撃たせないで欲しいと願いながら。しかし、魔法はアクションを与えないと数秒で物質化して開放される。ウォーターの時の現象だ。あまり時間が無い。
エルフのリーダーと睨み合って一瞬だが沈黙が続く。
「わ、わかった。待ってくれ。降参だ。彼らを殺さないでくれ。」
良かった。ギリギリで間に合ったようだ。ふと気が抜けた瞬間に水槍が重力に従い空中から地面へと落ちる。そして俺はエルフのリーダーに命令をする。
「おい、お前。全員を俺の前に整列させろ」
「ああ、わかった」
エルフのリーダーが声を掛け、全員が森から出てきた。なんと、隠れていたのは全て女子供だった。隠れていたのは戦闘のためでは無く、戦闘を避けるためだった。俺達を襲撃してきたエルフの集団は以下の通りだった。
・成人男性×8名
・成人女性×1名
・少女×2名
・少年×9名
俺は、今回の件に関する落とし前をどうするのかリーダーに聞いた。彼は自分はどうなっても構わないが、皆は助けて欲しいと懇願してきた。俺は法に従い、王国に盗賊として引き渡すことを伝えたら全員の顔が真っ青になって震えていた。
「なあ、アルカ。盗賊として王国に引き渡したらどうなるんだ?」
「盗賊の一味は全員打ち首になるよ。」
アルカが軽く言った。つまり王国に引き渡すと全員死刑という事だ。
俺は彼らになぜこんな行為をしたのか聞いた。
すると、この森に強い魔物が数多く出現するようになり、少し前に集落を魔物の集団に襲撃され、破壊されて住めなくなったとの事。移動をしながら、何とか蓄えで街の食料などを買い、食いつないでいたが限界が来たとの事だった。彼らは盗賊行為を一度も行ったことが無く、狙いは金品のみで手荒なことはするつもりが無かったらしい。
エルフリーダーとエルフ成人女性が二人で何かを話しだした。俺は逃げる算段でもしていると思い、シロとアルカの二人に合図をして警戒する。するとエルフの成人女性が少女二人を連れて俺の前に来た。
「この姉妹は私たちの子供です。アナタ様へ従者として捧げます。一生涯を賭してアナタ様へ尽くし忠誠を誓わせます。そして、他の子供たちは全員アナタ様に従います。どうか、この11名の命だけは救って頂けませんか?」
俺はどうしたら良いのか考えた、このまま無罪放免で開放しても構わない。俺達は何も被害が無く、彼らに恨みも特に無い。だが、彼らの生活が困窮している状況は、何も変わらない。この遠くない先、生活が極限状態になり再び盗賊行為を行う可能性もある。俺は選択肢を与える事にした。
「お前らの提案はわかった。処遇に選択肢を与えてやろう」
1.このまま無罪放免で開放される
2.俺が姉妹を従者として引取り、子供11名を部下として引き連れる。
3.全員を俺の部下として引き連れる
「さあ、選べ」
俺は彼らに選択を迫ったのであった。




