30話 貴族の秘め事
領主の館に到着した俺は領兵に連れられ門を通り敷地に入る。庭は広く、サッカーコートぐらいの規模がありそうだ。そして館の入り口に到着した。入り口の前には執事の格好をしているセバスと呼ばれていた従者が待機していた。先に走っていった領兵が呼びにでも行ってたのだろう。
「サムス男爵がお待ちです。こちらへどうぞ。」
セバスはそう言って応接室と思われる部屋まで案内した。
そしてドアをノックした。
コン コン コン コン
「例の冒険者をお連れいたしました。」
「入れ」
セバスに指示されて部屋の中に入る。
部屋には男爵と思われる太った男性と森で会った少女がいた。
「ワシがデプリ・サムス・デ・ハグルだ」
「わたくしの事はもうご存知でしょう。リリアナ・サムス・デ・ハグルよ」
俺は様子を見るため、少し言葉遣いを変えて話すことにした。
(です。ます。を付けて話したら大丈夫だろ)
「私はテセウス。遙か遠方の国ニホンの出身でございます。賢者様の転移術によりこの地へ訪れました。現在は冒険者を生業としております。」
「貴様がテセウスか。リリアナから聞いた話と雰囲気が違うな。貴族を前に恐れをなしたか。」
「お父様、彼は礼儀を知らぬ粗暴な輩。森では私とセバスは鎧と剣を持つ姿でしたの。今は貴族の威光を受け、恐れているんですわ」
俺はカチンとなったが、彼らの話を聞くまでは大人しくしようと考えた。
「貴様は転移術により、この地へ訪れたと言ったな。その賢者様とは知り合いなのか?」
何か島の情報が得られるかもしれないと思い、正直に話す事にした。
「はい。神の眠る島におられるケンタウロスの賢者ケイロン様です。」
「な!? 神の眠る島のケイロン様だと!貴様、それは本当か?」
「はい。ケイロン様はクロノス神様の眷属。神の眷属で賢者でもあるお方です。」
俺は馬人間が言ってた事をそのまま伝えた。
「貴様の言っていることはワシが聞いた伝承の通りだな。神の眠る島には結界が張ってあり立ち入る事が出来ぬはずだ。どうやって島へ入った?」
失敗した。その先の事を考えていなかったのだ。日本から飛行機が墜落して、この異世界に転移したと言っても信じてはもらえないだろう。大筋はそのままに、少し話をごまかして話すことにした。
「私は先ほどお伝えしたように遙か遠方の国ニホンの出身です。ニホンでクロノス神様の加護を得て神の眠る島へと赴き修行をして参りました。修行が終わり、賢者様と次の土地を相談してこの地へ参りました。」
「その話を証明することは出来るのか?」
俺はクロノス神から得たものは、一般的な〝才能〟を交換してもらったのと神器の石斧ぐらいだった。【経験値増加+】はチートだが、今はこれで証明をする事は困難だろう。あとは少し微妙だが【鑑定能力】ぐらいか。カミラが人物鑑定は難しいと言ってたからな。
「才能の【鑑定能力】を人物鑑定可能なほど鍛えております。後はこの石斧は神器です。」
「この汚い石斧が神器だと?嘘をぬかすでない!人物鑑定はこの国にも出来る者はいる。珍しいが神の加護を得た証明にはならん。」
「私の武器はこの神器の石斧のみです。石斧でこのツノを採取したと言えば信じて頂けますか?」
俺はギルドでのツノの買い取り依頼の事を思い出した。青のサイクロプス以上で、かつ根本から採取している事。つまり根本から採取しないと意味が無いと推測した。そう思いシロから聞いた話を織り交ぜながら魔道具鞄から"青のツノ"を出した。
「この"青のツノ"には貴重な薬効がございます。しかし強度が高く、根本から採取することが困難です。ここにあるのは"根本から採取した青のツノ"となります。この石斧があれば粉砕して細粒加工を行うことも可能でしょう。」
「貴様!その話をどこから聞いた!事と次第によっては無事では済まさぬぞ!」
サムス男爵が顔を真っ赤にして、急に怒り出した。
「私は神の眠る島で修行を行いました。賢者様とも知り合っております。当然、幾らかの知識も与えて頂いております。」
俺はシロから少し話は聞いていたが、使用方法とその先を知らなかった。これ以上は拙いと思い、話を適当に盛ってごまかすことにした。
「この角は霊薬を作るのに使用されると聞いております。薬効に関わる製法は島のオーガ族の秘法です。私も詳しくは存じておりません。」
島には結界が張ってあると言ってたな。ならば島に入る事は出来ないし、この話の真偽を確認することも出来ないだろうと思い考え付いた適当な内容を言った。
「貴様はどこまで霊薬の事を知っておる?」
「この話が全てです。これ以上は何も知りません。」
「そうか。その話は他言無用だ。もし誰かに話すとワシを含め、全ての貴族と王族を敵に回すと思え。」
なんと適当に考えた話がビンゴだった。ただ今までツノに関係する情報を部分的に聞いていた。道具屋での霊薬の話、ギルドで稀にあるツノの買い取り依頼。ツノの用途は不明。そしてツノには薬効があると言うシロの話。その一連の情報が無意識に霊薬と考え付いてしまったのだろう。
「承知しました。この話は口外いたしません。」
「ならばよい。貴様が神の眠る島から来たと言う事の証明にはならんがな。」
「ならば、この石斧で青の角を粉砕してみせましょう!」
俺はそう言って石斧を取り出した。
「い、いや、待て。その話はもう良い。」
サムス男爵が慌てて止めだした。恐らく、ただ粉々にするのでは駄目なのだろう。
「今日、貴様をここに呼び立てたのはその青のツノに関する事なのだ。リリアナから経緯は聞いておる。青のツノをコチラに渡してもらおうか。」
やはりそうきたか。俺は怒りが少し込み上げてきたので反論する事にする。
「男爵様はリリアナ様からどの様なお話を伺ったかは知りませんが、私は助勢の是非を確認してセバス様より救助の依頼を受けました。ツノの話より先に救助に関する報酬の件が先ではありませんか?」
男爵の表情がピクリと変化した。
「セバス、今の話は本当か?」
「はい。旦那様。リリアナ様との戦闘において窮地に陥ったところ偶然通りかかったテセウス様達に救助を求め、助けて頂きました。」
「リリアナ。聞いた話と違うぞ。どう言うことだ?」
サムス男爵の表情が歪む。リリアナの話に怒っているようだ。
「お父様。私は救助を求めてはおりませんわ。セバスが勝手に彼らに助勢を求めたのです。つまりサムス家としての救助依頼では無くセバス個人の問題ですわ。」
「馬鹿者!!お前はサムス家に恥をかかせるつもりか!」
「お、お父様… わたしくは助けを求めてなどおりません…」
「お前が勝手に青のサイクロプスの噂を聞いて森へ飛び出したのを知り、連れて帰るためにセバスが慌てて同行したのだ!お前の力量でサイクロプスは倒せん!」
男爵は思ったより、まともな人だった。
「テセウスとか言ったな。此度の件は、少々食い違いがあるようだ。ツノの採取に関する話も聞かせてくれるか?」
俺は丁寧な言葉遣いをしてて良かったと思った。報酬が貰えそうだ。今はリリアナとの喧嘩の売り買いより金が欲しい。後で仕返しはするつもりだがな…
「はい。サイクロプスは私と仲間で討伐しております。その真偽は冒険者ギルドで確認して頂いても構いません。冒険者証にその討伐記録が残っておりますので。倒した後にリリアナ様が、ツノは私の物だと仰りました。しかし、リリアナ様達はツノを解体することができず、屋敷まで持ってくるように言われて帰られたのです。」
「ふむ。そうか… セバス、この話は本当か?」
「はい。旦那様。テセウス様の仰ることは事実でございます。」
「そうか… テセウスよ。この話も他言無用で願う。貴族の面子に関わる問題なのでな。」
「それは構いませんが、私に貸しを作るって事で良いのでしょうか?」
「いや。貴族は簡単に貸しは作らん。足元をすくわれる事になりかねんからな。代わりに相応の対価を支払おう。救助の報酬が金貨20枚。ツノの買い取り費が金貨40枚。この話の対価と合わせて… 金貨100枚でどうだ?」
「はい!!」
俺は悩みもせずにすぐに食いついた。
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<所持品>
リュック
拾った服×1 ウエストポーチ
魔道具鞄
回復薬(大)×1個
回復薬(中)×4個
回復薬(小)×10個
黒皮の鎧×2個
生成色のズボン×4枚
藍色の上着×4枚
所持金:金貨×100枚 小金貨50枚 銀貨×0枚




