24話 冒険者とクエスト
俺達は1Fギルド内にある酒場兼食堂のテーブルに座った。
店員と思われる獣人の女性が注文を取りに来た。
「ご注文は何にされますか?」
「すまない。座ってるだけだ。すぐに移動するから座っててもいいか?」
「チッ…」
獣人の女性から舌打ちが聞こえた。俺はちょっと唖然とする。なんて態度が悪いんだ…。その店員は店のカウンターの方へ戻る。俺達は銅板のカードを眺めて、小冊子を読むことにした。
冒険者には階級あり、カードに違いがあるようだ。
S級 プラチナカード
A級 ゴールドカード
B級 ゴールドカード
C級 シルバーカード
D級 シルバーカード
E級 ブロンズカード
F級 ブロンズカード
俺は銅板のカードを見る。「テセウス F級」と刻印されている。
小冊子を読み進む。
このカードは魔力が登録可能な魔道具のようだ。貸与制度のため紛失や破損時に小金貨1枚が必要となる。他にも記録機能があるようだ。ICチップが内臓されているみたいな感じだろうか。魔物や魔族を討伐すると、絶命時に発生する特殊な魔力を記録するそうだ。
なるほど。魔力波の受信機能があるのだろう。
この世界は、既に魔力波の周波数はカテゴライズがされているってことかな。俺の魔力波における考察がチートだと思ったのだが甘かったようだ。と言うことは【周囲探索】の達人は、すでに探索判別が出来るってことか。
ふむ、俺はチートどころか能力が劣っているんだな…
まだ兎しか判別出来ないし。少しショックだ…
さらに小冊子を読み進めると注意事項が書いてある。冒険者ギルドは所属員同士のトラブルには介入しない。自己責任での解決を行うこと。まあ、当然だな。
ふむふむ。冒険者ギルドは国家に所属しないが協力はしているのか。D級からは、国家の非常事態宣言時に臨時徴兵義務が生まれる。その時点で移動が制限され、滞在国家に従うのか。少し厄介だな。
クエストは一つ上のランクまで受託可能だが、失敗時は依頼料の20%を支払う義務がある。しかも、冒険者ギルドは国家から独立した特殊機関のため独自に逮捕権を有している。
罰金の未払いや詐欺、傷害、殺人などの犯罪行為を行った場合は、拘束されて滞在国家に引き渡される。逃走した冒険者には討伐・拘束依頼が発行される場合がある。ただし、ギルドが認めた決闘は対象外となる。
意外と規則は細かい。第1条から第20条まで制定されている。他の冒険者は規則を理解出来ているのだろうか?彼らは粗暴で無教養な人が多いイメージなんだけどな。
この冊子には、水晶玉に魔力を登録した時点で規則に同意を行ったものとする。って書いているな。
これって完全に後出しの規則じゃないか…
まあ、俺も底辺だが、現代社会で暮らしていたからこの程度の規則は問題なく理解できるし、特に違反をする気も無いから問題は無いのだけど。
小冊子を読み終え冒険者規則を概ね理解した。
俺達は、今、銀貨1枚しか持っていない。無一文同様だ。クエストを受けて食事代と宿泊代を稼ぐ必要がある。
「シロ。クエストを確認しようか」
シロに声をかけて、席を立ち、壁面に取り付けられているクエストボードまで移動した。階級別にボードがあり「F級」と「E級」のクエストを確認する。
「F級は雑務しかないな。シロ、E級で簡単な依頼を探そうか。」
俺はシロにE級の依頼を受けることを伝える。
「お、これいいんじゃないか?」
━━━━━納品依頼━━━━━
階級:E級
内容:兎(成体)の納品
数量:適量
条件:四肢欠損なき事
血抜き必須
期限:随時受付
報酬:1羽 銀貨1枚
備考:
依頼表不要 納品のみで可
状態により査定の減額在り
━━━━━━━━━━━━━━
「兎だったら、先ほどの森で見つけられると思う。」
『そうですね。最初は無理をしない方が良いでしょう。』
俺達は兎を探しに先ほどの森へ向かうことにした。二人で10匹は持てるだろう。だが血抜きの方法が分からない。入場に渡した兎は血抜きをしていなかったのだが、恐らくサービスでしてくれたと思う。って、兎って羽で数えるのか…。
兎の数え方が気になったが【言語理解】が正しく変換してくれてるだろうと思うことにした。
森の近くまで来たので【周囲探索】と念じ兎の気配を探した。半径500mに20羽ほどの生体反応を確認した。兎は種類により体色違うと記憶していたのだが、ここは異世界。兎は白い。それでいい。
「シロ、右手前方に兎が2羽いる。俺は左側方のを捕まえる。打撃で捕獲してくれ!」
『承知しました。』
俺は兎を追い、蹴り上げて捕獲する。この体は素早く動ける。日本では走って兎を捕獲するのは不可能だろう。
途中、青いスライム2匹を発見したが核を攻撃して倒す。今度は青いスライム3匹出た。石斧で核を潰す。そして溶けて消える。スライムに邪魔をされながら二人で兎を捕獲していると日が傾きだした。何とか目標の10羽を捕獲した。だが血抜きが出来ない。冒険者ギルドの営業時間は不明だが、急ぎ街に戻ることにした。
外壁門は日暮れとともに閉じられる。それまでに入場手続きを行わないと街外で過ごすことになる。島では木の枝で寝泊まりしていたので外でも大丈夫なのだが、街に来て食堂や宿屋を見ると野宿や肉の素焼きは避けたいと思う。
何とか日暮れまでに街に帰ってきた。外壁門で冒険者証を提示すると、問題なく通ることが出来た。ギルドに向かい納品用カウンターに兎を置く。
「冒険者証も出してください」
クエストの達成実績を記録するようだ。俺とシロは冒険者証を納品受付の男性職員に渡した。
「兎は血抜きをしていないので減額ですね。1羽銅貨5枚となります。10羽で銀貨5枚です。あとはスライム5匹の討伐記録がありますので、それが1匹銀貨1枚で合計5枚。全て合わせて銀貨10枚になります。」
兎の査定が半額になったのはショックだった。職員に聞いたところ「兎は血抜解体が手間だ」とのこと。その手数料を含んだ依頼料だそうだ。
スライムが意外とお金になった。邪魔なのでついでに倒しただけなのに。
「そっか、それでいい。ありがとう。あと、聞きたいことあるけどいいか?」
「はい、どうぞ。」
「この街で、安く泊まれる宿と安く食べられる食堂って知らないか?」
「それでしたら、〝草木の宿〟が良いかと。獣人が経営していますので、人間はあまり泊まらないですけどね。」
「そうか、ありがとう。」
俺は納品職員の言い方が気になったが銀貨10枚を受け取りその宿へ向かうことにした。場所は冒険者ギルドの南方のスラム街の傍にあるそうだ。歩いて15分程で〝草木の宿〟に到着した。木造3階建てだ。ドアを開け、中に入る。ホール兼食堂になっているようだ。
「いらっしゃいませ。お食事でしょうか?お泊りでしょうか?」
犬型獣人の若い女性が奥から出てきて応対する。
「ああ、ちょっと料金を知りたいんだけど。」
「素泊まりは お一人銀貨3枚
朝食付きで お一人銀貨4枚
朝夕食事付 お一人銀貨5枚
となります。
朝食は食べ放題となります。
夕食はご飯のお替り自由です。
蝋燭と桶湯は含まれております。」
「わかった。じゃあ朝夕食事付を1泊二人で。」
俺は銀貨10枚を渡した。全財産残りは銀貨1枚。食事が村長より聞いていた金額より高く感じたのだが、食べ放題やお替り自由なら納得だ。安心して食べられる。
「お部屋は202号室になります。桶湯はご連絡下さい。用意してお持ちします。お食事はこの食堂までお越し下さいね。夕食は6の鐘から提供しています。8の鐘までにはお食事をお願いします。朝食は5の鐘から7の鐘までです。」
そういえば、街に入ってから何度か鐘の音を聞いた。
低い音と高い音だった。獣人の女性に聞くと
低い音が5を表し、高い音が1を表す
低い音が1回で高い音が3回なら8時頃となる。
一日は24時間のようだ。ただし、鐘の音は12時間単位となるらしい。
俺達は鍵と蝋燭を受け取って部屋に向かった。荷物は特にない。金も無いが…
今は6の鐘と7の鐘の間らしい。もう夕食は可能だ。昨日は村長の家で粗食を1食だけ。今日はまだ何も食べてない。お腹が空いた俺達は早速食事に向かった。
今日の食事は兎肉の煮込みと麦飯、野菜のスープ、そしてサラダ。
ポチが兎肉を美味しいって言ってたな……
今は考えるのを止めよう。まずは食事だ。
麦飯はお替り自由。今日は沢山食べよう。
ようやく文明を感じるまともな食事なのだから。
食事を終えた俺達は桶湯が欲しいと伝えて部屋に戻った。満腹になり眠気が襲ってきたが、身体を拭いて、服を洗い、明日の行動を話し合う必要がある。
シロと明日のクエストについて話し合う。
「今日の兎はあんまりだったな。あれなら魔物討伐の方がいいな。明日は討伐にするか。」
クエストについて色々と話し合っていると桶湯が来た。
それを受け取り、リュックから拾った服を出してタオル変わりとする。俺は体を拭きながらシロに聞く。
「シロの来ている原始的な服だけど、それってなんだ?」
そう、シロが来ている服は貫頭衣と呼ばれる古代の衣類であった。
『これは植物の繊維で編んだ布で作られています。我々の間では一般的な衣類となります。』
「ふーん。なんか麻で作られてるっぽいな。シロはどうする? この桶湯で体拭くか?」
『今日は主殿がお使い下さい。明日の稼ぎ次第でまた考えます。』
「そっか。じゃあ今日は俺だけが使う。」
俺は身体を拭いて、着ている服を洗い、部屋で干した。下着一丁でベッドに入ったのだがベッドが固い。ゴワゴワする。しかし木の上では無い。部屋でベッドがある。それだけで十分だった。そして俺は、すぐに意識を失い眠りについたのだった。




