22話 街への転移
クロノス神の協力を得て「神の眠る島」から脱出をすることができた。
大事な仲間を置き去りにして。
暗くなった視界に柔らかな光が差す。どうやら森の中に転移したようだ。
俺は周囲の散策よりも先にポチの事をシロに話した。
「シロ…。ポチのことを話すのはコレで最後にしよう。アイツは死んだ訳じゃない。今は会えないだけだ。必ず迎えに行く。力を貸してくれ。」
俺はシロにそう言いながら右手の紋章を見た、ポチと出会った時と同じ形をしている。恐らく《ダブルの従属紋》から《シングルの従属紋》へと変化したようだ。そしてステータスを確認する。やはり従魔の欄からポチの表記が消えていた。
「ポチとの従属契約が切れてしまったみたいだな…」
『契約は遠く離れると強制的に解除になります。この場所はあの島から遠いのでしょう…。我々が力をつけて、あの島へ移動する方法を見つけましょう。いつの日か迎えにいくために。』
「ああ、そうだな。ポチには少しお留守番をしてもらうだけだ。俺達が力をつける。そう、なんでもいい。金でも戦闘力でも権力でもなんでもいい。力を付けて、何かしらの方法を見つけてやる。ポチには悪いが、俺はあそこで一生を終える訳にはいかない。」
自分勝手だとは思いながら俺は俺の目的を果たす。人として暮らしたい。野性的な生活には限界を感じていた。だから仕方の無い事なのだと。ポチは魔物であり獣でもある、そして野性を好む。俺は人であり文化を望む。相反する環境である。
ポチの事を話し終え、俺は辺りを見渡した。クロノス神が付近に人族と魔族が暮らす街があると言っていた。人族とは、人間・獣人・エルフ・ドワーフの事を表している。魔族とは、知性を持つ人外が多く「シロ」のオーガ種「ケイロン」のようなケンタウロス、そして会話が出来なかったがサイクロプスなどが含まれるらしい。
「おい、シロ、周囲に何か見えるか?」
『いえ、何も見当たりません』
「とりあえず森を抜けなきゃダメだな。進む方角が分からん…。神さんから交換してもらった〝才能〟での【周囲探索】をしてみるか。」
俺は少しドキドキしながら【周囲探索】と念じてみた。頭のなかに情報が流れ込んでくる。すると半径500mほどの範囲に生物の気配を感じることが出来た。
「これは継続的に使うのは慣れないとキツイ。半径500mぐらい?しか分かない。しかも感じるのは生物の気配だけだ。動物か魔物か人か魔族かも分からない。練習して慣れないと戦闘に使うのは厳しいな。」
初めての【周囲探索】は、使い勝手が悪かった。狩猟には向いているかもしれないが、この状況じゃ少ししか役立たなかった。周囲探索で前方に複数の気配を感じた俺は、様子を見るため向かうことにした。
「シロ、前方に複数の気配がある。そこへ行って動物なら倒して食事にするか。」
『そうですね。今日は神殿への移動を優先したので、食事を取っておりませんし。』
俺達は気配がする方向へ歩き出し、何度か周囲探索を行って慎重に近付いた。あと20m程の距離だろうか、森の先に街道が見え、叫び声が聞こえてきた。
『ゴギャギャ!ゴギャ!』
「誰か助けてくれー」
「きゃーー」
魔物の叫び声と人の悲鳴がする方にシロへ合図をして走り出した。するとゴブリンが2匹と農夫の親子と思える犬型の獣人が2人見えた。
「おい、ゴブリンから離れろ!コイツらは俺に任せるんだ!」
俺達は農夫の親子とゴブリンの間に割って入り、彼らの退路を確保する。シロが両手に炎を纏い片方のゴブリンを一撃で倒す。俺は石斧をゴブリンの頭部へ叩きつける。戦闘は一瞬で片がついた。
「おい、お前ら大丈夫か?何故こんな状況になったんだ?」
「はい。助かりました。ありがとうございます。」
親と思われる農夫の男の獣人が色々と話し出す。今は街に作物を売りに行った帰りで手持ちのお金は当面の生活費。つまり、お礼はしたいのだが生活に余裕は無く金がない。そして娘と思われる少女の獣人が話し掛けてきた。
「あの…私達…、本当に生活が苦しくて、このお金を渡すと生活が出来なくなるんです。何とかお礼は待って頂けないでしょうか?」
「ん?別に金が欲しくて助けた訳じゃない。別に気にしなくてもいい。」
「あ、ありがとうございます。」
「そうだ!街の方角を教えて欲しいんだけど」
「街ならあの方向です。ここから3時間ぐらいの距離です」
街の方向が聞けて言葉が難なく通じる事に安心をした俺は様々な情報を聞き出す事にした。
「なあ、報酬代わりに色々と聞きたい事があるんだけどいいか?」
「はい、私たちが分かることは何でもお答えします。」
「俺達は異国から来たんだけどニホンって知ってるか?」
「父さん、聞いたことある?」
「いや、ニホンと言う言葉は初めて聞くな」
娘に変わり獣人の男が答えてくれるようだった。
「そっか、あの方向にある街なんだけど、何て名前なんだ?」
「ハグルの街と言います。サムス男爵が街を治められています。」
「街にはどんな種族が住んでるんだ?」
「はい、人間の他に我々獣人とあと少数ですが魔族が暮らしております。」
「魔族の種族は分かるか?」
「サキュバス族とオーガ族、後は魔女一族が暮らしております。」
「魔女?魔女は魔族なのか?」
「魔族は、四種の人族に属しない魔物以外を指しております。魔女一族も魔族になるかと。」
「そうなのか。勉強になった。」
「なあ、ここの国の名前は分かるか?俺らはニホンと言う遠い外国から転移で来たからこの土地の事が全く分からないんだ。」
「て、転移ですか!?」
「そうだ。俺らが転移を使える訳じゃ無いけどな。」
「け、賢者様とお知り合いなのでしょうか?」
「まあ、賢者と言えば賢者も知り合いがいるな。それより上位の存在に転移をしてもらったんだけどな。」
「だ、大賢者様…。あっ、こっ、この国はコリアラ王国と言います。あの、ここで話すのも何ですし、宜しければ私の村が近くにありますのでお越しになりませんか?何もお構いできませんがお茶ぐらいは出せますので。」
「そうだな、他にも聞きたい事もあるし、お邪魔するか。」
俺達は農夫の獣人親子の家に向かうことにした。彼らの村は出会った場所から近く30分ほどで到着した。村に着いた俺達は少し驚いた。生活が苦しいとは聞いていた。だがこの村は廃村と見間違えるほどの状況だった。激しく傷んだ家に申し訳程度の朽ちた柵、周囲の田畑は荒れ放題だった。
「なあ、アンタ、この村に人は住んでいるのか?」
「はい。少ないながらも30人ほどの村人がおります。」
「え?そんなにいるのか?表に誰も居てないのだが。」
「あの… この村は税の負担が重く、領主様からの取り立てが厳しいため、若い者は逃げ出すか借金奴隷として連行されてしまいました。このままでは餓死か奴隷かの選択となるため、領主様へ減税の嘆願に伺ったのですが、取り合ってもらえなく、現在のような状況となりました。」
「うーん、納税は国民の義務だろ?でも払えないほどの課税って聞いたことが無いけどなぁ…。納税は現物か?それとも貨幣なのか?」
「我々は小麦を栽培している農民です。作物による現物納付と貨幣納付による人頭税がございます。作物の課税は作付面積の予想収穫高に応じて算出されています。予想収穫高に対する40%が税金となります。ですがその小麦の予想収穫高が1haに対して4000kg…
とても正気とは思えません。その半分でも困難な状況です。頑張っても殆どが税として徴収されてしまうのです。」
(1haに対して4000kgの予想収穫高って、たしか現代の収穫高の数値じゃなかったっけ?そんな事を親戚の農家から聞いた記憶があるなぁ…。てか、1haって広さが分からん…)
「なら、こっそりと田畑を作るのは無理なのか?納税用と収入用に分けるとか?」
「闇作物を防ぐために定期的な領主検地がございます。見つかれば死罪となります。危険を冒して闇作物を作るより身分を捨てて逃げ出すことを皆は選びまます。残った者は、老人か事情があり身動きの出来ない者ばかりとなりました。」
「そっか… 大変なんだな…。税に関しては力になれん。すまんな。」
「いえ、これは我々の問題です。お気になさらないで下さい。さあ、ここが私の家です。狭いところですがご遠慮なさらないでお寛ぎ下さい。」
「ああ、お邪魔する」
獣人の男に案内され、居間の椅子に座る。男の家は周囲より少し大きく感じた。聞くと彼はこの村の村長であった。だから税や色々な事に詳しかったのだ。そして俺とシロは自己紹介などを行って、生きていくために必要な一般常識を質問した。
「なあ、この国のことをまだ聞きたいんだがいいか?」
「はい。なんでもお聞きください。農夫程度の知識で良ければお答え致します。」
「まず、俺のような黒髪で黒目の人間は珍しいのか?」
「はい。多くはありません。ですが奇異の目で見られることは無いかと。」
「そっか。この国の貨幣ってどうなってる?街で昼飯一食は幾らぐらいなんだ?」
「大衆的な食堂で、一食は500~1000Gです。銅貨5枚から銀貨1枚ぐらいです。」
「街で成人男性がひと月働いたらいくら位の収入になる?」
「収入幅がございますが、城壁工事の仕事で、20万~30万G。小金貨20枚から30枚です。」
貨幣価値と種類を聞いて、おおよそ理解した。
単位感覚は現実世界の日本に置き換えて考えられると思う。
鉄貨・・・10G
銅貨・・・100G
銀貨・・・1,000G
小金貨・・・10,000G
金貨・・・100,000G
大金貨・・・1,000,000G
Gはゴルドと言う単位らしい。支払いでは銀貨何枚とかで表す方が多いみたいだ。一般的に流通しているのは、小金貨まで。金貨と大金貨は商取引などで使われるらしい。そして街には色々なギルドがあるとの事。冒険者ギルド、商業ギルド、職人ギルド、金融ギルドがある。
冒険者ギルド・・魔物の討伐や護衛、傭兵、狩猟、素材調達などを行う
商業ギルド・・・飲食・物販・不動産などの店舗許可や売買に関わる事をしている
職人ギルド・・・鍛冶・木工・大工・石工などの職方を管理斡旋などをしている
金融ギルド・・・貨幣の預かりと引き出し、資金の貸し出しなどをしている
そして貴族について聞いてみた。貴族は国により多少の違いはあるが大差はないらしい。
王族、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵
騎士爵のみ一代制で他は世襲制のようだ。村長に様々な話を聞いているうちに、日が暮れてきた。
「テセウス様 お食事などは如何でしょうか?今日はもう日が暮れます。狭いところで恐縮ですが我が家にお泊りになられては?」
「おお!それは助かる。今晩は世話になる。」
質素で少ない食事を頂いたあと、客間に案内されて今日は眠ったのであった。
翌日、日の出と共に目が覚める。今日は朝から出発をしてハグルの街に向かう予定だ。荷物はリュックの中に拾った衣類とウエストポーチしか入ってない。〝奇跡の実〟は、いつの間にか無くなっていた。凄く残念だった。
「昨夜はありがとう。俺達はこれからハグルの街へ出発する」
「お気をつけて。街道は安全ですが昨日のように魔物が出る恐れもございます。道中のご無事をお祈りいたします。近くまでお越しの際はお気軽にお訪ね下さい。」
「ああ、近くに来ることがあれば寄らせてもらう。」
俺は村長に挨拶をして村を出た。街まで3〜4時間ぐらいで到着するだろう。金をどうやって稼ごうか。昨日は夜しか食事が取れなかった。
俺とシロは全くの無一文。あの島は未開の地のためお金は必要無かったが、ここには文明が存在する。その恩恵を受けるなら当然対価が必要だ。〝才能〟を有効に活用するならば、冒険者が最善の選択だろう。などと考えていると村から2時間ぐらいの距離を進んでいた。
「シロ。そこの木陰で少し休憩するか」
『はい』
俺は【周囲探索】を念じて辺りを調べた。感じる反応があるが少なく距離も離れている。特に問題はなさそうだ。【ステータス】と念じてウィンドウを表示させ各表示項目を調べる。
名前:テセウス
称号:無し
階位:18
職業:不定
年齢:20
名前は分かる。称号は無い。階位はレベルのことだ。
職業は不定と表示されている。無職ではないのか。
年齢は20歳だ。若返っているのか?と外見が気になったので、シロに聞いてみた。
人間の年齢はあまり分からないみたいだが、村長より皺が無く肌が綺麗とのこと。
体力:90
魔力:90
技力:19
膂力:82
速力:44
心力:103
体力はHPのことか。魔力はMP。技力は魔術を使うスキルポイントみたいだな。
膂力は身体の筋肉を表す。強さや腕力で攻撃力と防御力に影響するみたいだ。
速力は速さで回避や移動に影響する。
心力は精神力か。少し高い。魔法や魔術の強さや耐性に影響するみたいだ。
魔術──────────
魔法──────────
魔術と魔法は何も無い。しかしクロノス神に魔力適合をしてもらった。いつか使えるといいなと期待して考えた。でも魔法は詠唱が必要と聞く。俺は、底辺高卒のため自慢じゃないが記憶力は良くない。暗記出来るのだろうか、と少し不安になった。
才能──────────
【言語理解】【ステータス】
【闇纏い】【※※※※】【※※※※】
【経験値増加+】【周囲探査】
【鑑定能力】【毒物小耐性】
【中毒小耐性】【調理能力】
交換してもらった才能は理解している。常時発動と都度発動があるみたいだ。
つまりアクティブ型とパッシブ型。増加や耐性などは常時型のようだ。
【闇纏い】を注視して調べる。説明が流れ込んできた。
闇纏い:気配を消して行動が出来る。隠密行動などに向いてる。
【※※※※】を注視して見たが「未解放」としか分からなかった。
従属──────────
【オーガβ種:シロ】
従属の部分を見た。やはり表示されていたのは、シロだけであった。
オーガβ種が気になり注視する。未完全な変異種を表す表記のようだった。
ステータスを調べ終えた俺は、再び街へと出発する事にした。




