【アンダンテ】日常 9
そして待つことしばし――。
[カホラ]:「私、入るわよ」
[吹雪]:「はい、どうぞ」
――先輩は部室へと来てくれた。
[カホラ]:「こんにちは、みんな」
[舞羽]:「こんにちは、カホラ先輩」
[吹雪]:「こんにちは」
[カホラ]:「うん。今日も頑張ってるみたいね」
[愛海]:「せ、先輩、私は?」
[カホラ]:「愛海もいたのね、二人の邪魔はしてなかった?」
[愛海]:「い、いきなり疑いから入るなんて、そりゃないですよ~」
[カホラ]:「いつも邪魔をしてる印象があるからついね」
[愛海]:「も、ものいいがストレートだわ……」
[カホラ]:「ごめんごめん、で? 本当はどうなの?」
[愛海]:「そりゃもちろん――全力で尽力してましたよ」
嘘つけ、と言ってやりたかったが、途中からは少し大人しくなったからよしとしておこう。
[カホラ]:「ならよろしい」
[舞羽]:「今日は、授業が長引いたんですか?」
[カホラ]:「そうね、もう少しでシーズンだし、今が書き入れ時だからね」
[吹雪]:「そんな時にすいません、何度も来てもらっちゃって」
[カホラ]:「気にすることはないわ、私も来たくて来てるんだし、それに、そこまで勉強に力を入れることはないから」
[愛海]:「カホラ先輩、さすがです」
[カホラ]:「まあね、うふふ」
くすくすと笑っている様子は、親しみやすいことを象徴するようだった。
沢渡・E・カホラ(さわたり・エレディ・カホラ)、俺たちの一つ上の先輩で魔法研究部の前部長だ。性格と人柄の良さを併せ持ち、さらには頭も良い、部が誇る素晴らしい逸材だ。多くの人から尊敬されるのもうなずける。今はもう部活を引退しているんだが、時折こんな風にチョクチョクと部に顔を出しに来てくれる。何故なら、もう次の進路が決まっているから。
[愛海]:「私もカホラ先輩のような人になりたいです」
[カホラ]:「あら、そう?」
[愛海]:「それはもう、カホラ先輩は女子の鏡みたいなものですから」
[カホラ]:「それは言い過ぎじゃない? 愛海」
[愛海]:「いえいえ、全然全く。学園のみんなもそう思ってるはずです。ね? 吹雪くん」
[吹雪]:「何故男の俺に聞く?」
女子の鏡だと言ってたじゃないか。普通そこは舞羽だろう。
[カホラ]:「吹雪、いいツッコミね」
今日は随分とツッコミを褒められるな。
[愛海]:「で、話を戻すと――私は、カホラ先輩になりたいです」
[カホラ]:「あら? 随分話が曲解してない?」
[愛海]:「私も思いました」
[カホラ]:「言ったの愛海じゃない」
[愛海]:「んー、まあいいや。とにかく、近いうち手解きをお願いします」
[カホラ]:「今度ね、別にいいと思うんだけどね、私を真似なくても」
[愛海]:「カホラ先輩だから真似たいんですよ」
[カホラ]:「ありがとね」
さすがだ、笑顔を絶やすことがないから、見ていてすごく穏やかになる。
――と、そうだ。
[吹雪]:「あの、先輩、ちょっと相談いいですか?」
[カホラ]:「うん? どうしたの?」
[愛海]:「ひょっとして、恋のなや――ぶにゃっ!?」
余計なことを言われる前に、俺は手刀を振り下ろした。
[吹雪]:「実は――これなんですけど」
[カホラ]:「あ、すごいじゃない。ここまで出来たのね」
[吹雪]:「ありがとうございます、でも、ここからが進まなくて」
[カホラ]:「ふーん、ちょっと見せてもらってもいいかしら?」
[吹雪]:「はい、どうぞ」
俺は先輩に機械を手渡した。
[カホラ]:「ふんふん、なかなかしっかりしてていいんじゃない? 魔法ブースターも問題なく完成してるようだし」
[吹雪]:「ありがとうございます」
[カホラ]:「このフィルムは、舞羽が作ったの?」
[舞羽]:「はい、あまり上手くはできなかったんですけど」
[カホラ]:「全然問題ないわよ、じゃあ、魔法ブースターは吹雪が作ったのね」
[吹雪]:「はい、一度作ったことはあったんで」
[カホラ]:「上手ね、売り出すことも可能かもしれないわよ?」
[吹雪]:「いや、それはないですよ」
先輩に褒めてもらえるのは、やはり嬉しいな。
[カホラ]:「なるほど、それで、何に悩んでるのかしら?」
[吹雪]:「えっと、もう一工夫を加えたいって思ってるんですよ。で、さっきから考えてるんですけど、何処に工夫を加えたらいいかが分からなくて」
[カホラ]:「つまり、もっと完成度の高いものにしたいってことね?」
[吹雪]:「そうですね」
[カホラ]:「これでも十分高い気もするけど、二人はまだ物足りないって思ってるのよね」
[愛海]:「カホラ先輩、私はー?」
[カホラ]:「愛海は口出ししかしてないんでしょー?」
[愛海]:「え、そ、そんなことはありませんよ?」
[カホラ]:「じゃあ、何処を作ったの? 愛海の製作した部分が、私には見えなかったんだけど」
[愛海]:「えっと、私は……応援をしてました」
[カホラ]:「翔と一緒に、でしょ?」
[愛海]:「う、はい……」
何でもお見通しなんだな、先輩は。
[愛海]:「でも、一生懸命頑張りましたよ、応援を」
[カホラ]:「そうなの? 二人とも」
[吹雪]:「…………」
[舞羽]:「…………」
[吹雪]:「……はい」
[カホラ]:「今の間がちょっと気になるけど、そういうことにしておこっか」
俺たちは顔を見合わせて苦笑いするしかなかった。
[カホラ]:「あれ? そういえば翔は?」
[吹雪]:「ああ、今日は来ないって言ってました」
[カホラ]:「あ、そうなの」
[吹雪]:「はい、野暮用があるとかないとか」
どうせどうでもいいことなんだと思うが。アイツの野暮用なんて、俺たちにとっての下らないものに違いないからな。
[吹雪]:「明日聞いてみます」
[舞羽]:「多分、いつものだよね」
[吹雪]:「多分な」
[カホラ]:「そっか、分かったわ。――さて、話を戻しましょう」
[吹雪]:「はい」
[カホラ]:「うーん、そうね。完成度の高いものにするってなると、もっと大きいものにするのが手っ取り早いんだけど、ここまで来てそれはちょっとあんまりよね?」
[吹雪]:「そうですね、ちょっと捻った感じが理想的かもしれないです。な?」
[舞羽]:「そうだね」
[カホラ]:「なるほど……ちょっと時間もらってもいいかしら?」
[吹雪]:「はい、もちろんです」
先輩はしばらく機械を見つめながら、腕を組んで考え始める。
[吹雪]:「俺たちももう一度考えよう」
[舞羽]:「そうだね」




