最終幕 雷光を抱く、鷲の旗の下に③
第三章 新しい国の形
帝都の議事堂に使われることになったのは、かつて帝国の文官たちが政令を起草していた建物だった。
高い天井、石の柱、長い机。権威を示すための造りだったが、今は目的が違っていた。
集まった顔ぶれは、かつてない多様さだった。
北部農村連合の代表ハルド。西部の元騎士で自警団を率いていたヴァルカ。東部の商人組合の長ペトロス。南方の部族の長老。鉱山都市の坑夫組合の代表。帝国の支配下で、それぞれ別の苦しみの中にいた人々が、同じ場所に集まっていた。
そして神殿の代表が、三名いた。
女神アルテイアを奉じる大神殿の司祭長と、二名の副司祭。三人とも白い法衣をまとい、机の一方の端に座っていた。
ロンバルティアは机の中央に立った。
「ここにいる全員が、帝国によって何かを奪われた」と彼は言った。「しかし、奪われたものは全員違う。土地を奪われた者、家族を奪われた者、信仰を奪われた者、名誉を奪われた者。それぞれが違う痛みを持っている。だから、新しい国は一つの形を全員に押しつけてはいけない。それぞれの形が、それぞれの場所で共存できる仕組みを作る。それだけが、同じことを繰り返さない方法だ」
誰かが咳払いをした。
神殿の司祭長が手を上げた。六十代の、白い髭を持つ男だった。
「一点、確認させてください」と司祭長は言った。穏やかな声だった。しかし穏やかさの下に、何か固いものがあった。「新しい国において、女神アルテイア信仰の地位はどうなりますか」
「信仰の自由を保障します」とロンバルティアは言った。「女神アルテイアを信じることを禁じない。しかし、国家が特定の信仰を支持することも、他の信仰を排斥することも、しない」
「それは」司祭長の声のトーンが変わった。「神殿が帝国との関係において有してきた役割を、否定するということですか」
「神殿が信仰の場として在り続けることは否定しません。しかし、政に関与する権限は、もはや持てない」
しばらく沈黙があった。
ハルドが口を開いた。「俺は毎朝アルテイア様に祈っている。しかし」と彼は言った。「北部の山岳地帯で何が起きたか、司祭長は知っているか。十五年前、太古の精霊を信じていた村が、神殿の『異端認定』を受けて第二騎士団に『粛清』された。俺は隣の村にいた。あの惨劇を見た。同じことが二度あってはならない」
「あの件は」と副司祭の一人が言った。「当時の司祭長が帝国の圧力を受けていたのだ」
「圧力がなんなのか俺にはわからない。だが圧力を受けた結果、村が一つ消え、人が殺された。それが事実だ」ハルドは言った。声が静かだった。だから余計に重かった。「俺が聞いているのは、なぜそうなったかではなく、それが繰り返されないためにどうするかだ」
正式な会合の後、司祭長がロンバルティアに個別の会談を求めた。
小さな部屋に、三人がいた。ロンバルティア、司祭長、そしてアルビオンが控えとして同席した。
「率直に聞かせてください」と司祭長は言った。「あなたは、神殿を解体したいのですか」
「解体を望んでいるのではありません」とロンバルティアは言った。「ただ、役割を変えてもらう必要がある、と言っています」
「神殿の役割を変える、とは?」
「はい。神殿は今まで、国家の権威と信仰の権威を同時に持っていた。民は神殿を信じることと、帝国に従うことを、同時に求められた。その二つが結びついていたから、帝国は神の名で征服し、神殿は帝国の力で異端を排除できた」
「それは」司祭長は少し表情を変えた。「神殿が帝国の走狗だったと、そう言いたいのですか」
「そうは言っていません」ロンバルティアは言った。「結びついていたことで、どちらも利益を得た。そして、どちらも傷を負った。神殿は本来の信仰の場としての純粋さを失い、帝国は神の名を借りなければ民を統治できない脆さを持った」
司祭長は黙っていた。
「司祭長」ロンバルティアは続けた。「一つだけ聞かせてください。女神アルテイアへの信仰は、国家の権威と結びついていなければ、成立しないものですか」
「……」
「信仰そのものが、誰かに強制されなければ維持できないものなら、それは本物の信仰ではないと、僕は思います。アルテイアを信じる人が、自分の意志で信じるのであれば、国家が支持しなくても信仰は続く。逆に、国家が支持しなければ信仰が消えるなら、それは信仰ではなく命令で維持されていたものです」
司祭長は長い間黙っていた。
それから言った。
「……神殿の内部でも、あなたと同じことを言う者がいます」と司祭長は言った。「少数ですが。信仰と権力の癒着が、かえって神殿を腐らせているという声が。しかし声が小さかった」
「その声が、今後は大きくなれる環境を作ります」とロンバルティアは言った。「神殿が政に口を出さない代わりに、政は神殿の信仰に口を出さない。それが条件です」
「……具体的には、どういう形で」
「神殿が持っている土地の一部は、返還してもらいます。帝国から下賜された土地のことです。しかし神殿としての建物と、信仰の場は、全て存続させます。神殿の収入源は、信者からの自発的な献金と、許可された範囲での経営に限定する。それ以外の政治的権限は、持たせない」
司祭長は手を組んで考えていた。
「あなたは」と司祭長は言った。「信仰を持っていますか」
「僕個人としては、持っていません。正確にはまだ決めていない、というのが本当です」ロンバルティアは言った。「僕の父は、帝国に逆らって殺されました。その死の遠因に、父が率いた旧反乱軍における神殿の異端認定が関わっています。『異端』と認定することで、正規騎士団を派遣する口実にもなった。だから僕は、神殿を憎んでいると思われるかもしれない。しかし、神殿を憎んでいるのではなく、神の名を使って人を傷つけることを、憎んでいるだけです」
「区別できるのですか、その二つを」
「区別できます。アルテイアを信じて、その信仰から力をもらって生きている人を、僕は何人も知っています。その人たちの信仰を否定したことは、一度もない。ただ、神の名を借りた暴力は、もう許さない」
交渉が難航したのは、土地の返還の部分だった。
神殿が帝国から下賜された土地は広大だった。その土地に、農民が住んでいた。小作人として、神殿に小作料を払いながら。
農民代表のハルドが言った。「俺たちが長年耕してきた土地だ。神殿が帝国からもらったからといって、俺たちのものではなくなるのか、という話だ」
「それを今、返す、ということだ」とロンバルティアは言った。
「神殿は土地を失う」と副司祭が言った。「その補償は」
「補償はありません」とロンバルティアは言った。「その土地は、帝国が農民から取り上げて神殿に渡したものです。補償を払うとすれば、その土地を失った農民の側です」
「しかし、神殿の運営には資金が必要です。土地収入なしに、どうやって」
「先ほど言った通り、信者からの献金と、許可された経営です。それが本来の神殿の在り方ではないですか」
「本来の在り方、などと言われても」副司祭は言った。「何百年もこの形でやってきた。急に変えろと言われても、現場は混乱する」
「混乱することは分かっています」ロンバルティアは言った。「だから段階を踏みます。土地の返還は三年かけて段階的に行う。その間に、神殿が新しい形の運営に移行できる期間を作る。三年後以降は、新しい形での運営のみを認める」
「三年では短い」
「短いかもしれません。しかし、山岳地帯の村が焼かれた時、何百年もこの形でやってきたから仕方ない、という声はありましたか。変えるべき時に変えなければ、また同じことが起きる」
広間が静かになった。
司祭長が口を開いた。
「……一つだけ聞かせてください」と彼は言った。「今ここで条件を受け入れなければ、どうなりますか」
「神殿が解体されることはありません」とロンバルティアは言った。「しかし、この部屋にいる全員が証人として今日の交渉を記録します。条件を拒否した事実も、記録されます。民がその記録を見た時、どう思うかは、僕には分からない」
司祭長は長い間、手の組んだまま俯いていた。
「……受け入れます」と司祭長は言った。「条件の詳細については、改めて話し合いたい。しかし、基本的な方向は受け入れます」
最初の会合から数週間が経った。
新体制は少しずつ、しかし着実に進んで行った。
そんなある日、何の前触れもなく、まるで風のように、一人の老人ががロンバルティアを訪ねてきた。
老人は相変わらずだった。皺の深い顔。薄い目。この世界に完全には属していない者の気配。しかし今日は、荷物を持っていた。旅支度だった。
「上手くやっているようだな」と老人は言った。
「師匠が教えてくれたことを使っているだけです」
「儂が教えたのは知識だ。使い方はお前が考えた」
「使い方を考える方法も、師匠に教わりました」
「屁理屈を言うようになった」フォーマルハウトは言った。しかし不満そうではなかった。
「師匠の受け売りです」
「受け売りを自覚して使えるなら、それはもうお前のものだ」
ロンバルティアは老人の荷物を見た。
「また、どこかへ行くのですか」
「ああ、ここで儂のなすべきことは終わった」
「今度はどこへ?」
「遠い、遠いところだ。この世界ではない違う世界かもしれん」
「師匠がいなければ」ロンバルティアは少し間を置いた。「困ることが、まだたくさんあります」
「存分に困れ」とフォーマルハウトは口元に笑みを湛えながら言った。「困って、考えろ。答えが出なければ、仲間に聞け。仲間にも分からなければ、時間に聞け。時間が解決することの方が、世の中には多い」
「時間に聞く、というのは」
「待つということだ。お前ら若者は、待つことが苦手だろう」
「……そうかもしれません」
「十八年かけて準備した男が、待つことが苦手というのは矛盾しているが、そういうものだ。準備の間は待てるが、動き始めると待てなくなる。覚えておけ」
ロンバルティアはしばらく黙っていた。
「……師匠」
「なんだ」
「最後に、一つだけ教えてください」
「言え」
「師匠は、幸せでしたか。ここにいる間、僕たちと一緒にいて」
フォーマルハウトは少し目を細めた。
「幸せかどうかは、終わった後で分かるものだ」と老人は言った。「しかし、悪くはなかった。お前たちを見ていて、悪くないと思った。それで十分だ」
「師匠がいなければ、僕はここまで来られなかった」
「そんなことはない」フォーマルハウトは言った。「儂がいなくても、お前はここまで来ただろう。少し遅れたかもしれないが、来るはずだ。人間はそういうものだ。師匠がいなければ何もできないのは、まだ師匠を必要としている間だ。お前はもう、必要としていない」
「それは」ロンバルティアは言った。「なんだか、寂しい言い方ですね」
「お前は、寂しいかのか」
「とても、寂しいです」
「そうか」フォーマルハウトは少し間を置いた。「実は、儂もそう思う。しかし、寂しいということは、それだけのものがあったということだ。悪いことではない」
老人は立ち上がった。荷物を取った。
「ロンバルティア」
「はい」
「お前の父が目指したものを、お前が形にした。しかし、形を保つのは作るより難しい。形を作り続けることを、やめるな」
「はい。僕は歩く事をやめません」
「約束するか」
「約束します」
フォーマルハウトは満足そうに頷いた。それから未来を担う若者に背を向け、扉に向かった。
「師匠」ロンバルティアはその小さな師の背中に呼びかけた。
「なんだ。まだ言いたい事があるのか」
「……いえ。……また来てくれますか?」
老人は止まった。振り返らなかった。
「縁があれば、な」と言った。
「縁は、こちらで作ります」
「……言うようになったな、ロンバルティア」フォーマルハウトは静かに言った。扉が開いた。「お前たちは、儂にとって最高の弟子だ」
扉が閉まった。
足音が遠ざかった。廊下を歩く音が、階段を降りる音が、やがて聞こえなくなった。
アルビオンが隣に来た。
「行ったな」とアルビオンは言った。
「ああ」
「お前が泣きそうな顔をしている。珍しい」
「……そうか」
「今日は泣いても良いんじゃないか?」
「泣いている暇はない。今は仕事がある」とロンバルティアは震える声で言った。
「仕事が終わってから、泣けるか?」
「……わからない」
「泣けなかったら、俺に言え。一緒に酒でも飲もう」
「そういえば、お前と飲んだことがない」
「確かに一度もないな。そろそろ良い機会じゃないか?」
「……そうかもしれない。その時は、僕は泣くかもしれない」
晩秋の乾いた風が、ロンバルティアとアルビオンを包み込んだ。冬の訪れを感じた。
帝都の騒乱が遠い出来事のように思えるほど、街道の空気は澄み渡っていた。
かつては進軍する軍靴の音に怯えていた小鳥たちが、今は黄金色の穂を揺らすススキの合間を自由に飛び交っている。
アルビオン・ブロムウィッチとジュノ・ウィンは、並んで秋の街道を歩いていた。
二人の任務は、新しく制定された統治の取り決めを各地の村々に周知し、戦後の混乱が残っていないかを確認して回るという、地味ながらも根気のいる仕事だった。
「ねえねえ、アルビオン。ちょっと、聞いてるの?」
ジュノが、背中に担いだマスケット銃をがたつかせながら、アルビオンの顔を覗き込んだ。彼女の亜麻色の髪が、歩くたびに秋の陽光を浴びてキラキラと跳ねる。
「……聞いてるよ。お前がさっきから『お腹が空いた』と『足が疲れた』を交互に十五回ずつ言ったことくらいな。お前の荷物も、俺が全部持ってるのにな」
アルビオンは、数日間歩き通しだったことなどを感じさせない足取りで答えた。
「もう! それは聞き流していいところ! あたしが聞いてるのは、あたしたちの『これから』の話!」
ジュノはくるりと身を翻し、街道を後ろ向きに歩きながら、いたずらっぽく笑った。
「いつまでこうやって、ロンバルティアさんにこき使われて歩き回るのかなぁって」
「ロンは理由なく人をこき使うような奴じゃない。……でもまあ、当分は続くだろうな。あいつが必要だと言う間は、俺たちの代わりはいない」
「ふーん。じゃあさ、いつか全部が落ち着いたら……その時はどうするの?」
ジュノの大きな瞳が、期待に満ちてアルビオンを射抜く。
「……どうするか、か。その時にならないと分からない。今は目の前の村を平和にするのが先だ」
生真面目なアルビオンの返答に、ジュノは頬を膨らませた。
「出た! またそうやって誤魔化すんだから。あたしはね、もう決めてるんだー。落ち着いたら、まずはフェルロンに戻りたいの」
ジュノは少しだけ視線を落とした。天真爛漫な彼女の顔に、ふと少女らしい繊細な影が差す。
「お父さんのお墓、きっと草ぼうぼうになっちゃってるから。ちゃんとお掃除して、お花を供えて……お参りしたいんだ」
「……そうだな。それは大事なことだ。行けるようになったら、すぐに行け」
「行け、って。他人事みたいに。当然、アルビオンも一緒に行くんだよ?」
「えっ、俺もか? お前のお父さんの墓だろう。身内でもない俺が行ったら、お父さんもびっくりするんじゃないか」
「いいの! 紹介したいんだもん。……『お父さん、この人があたしと一緒に戦って、あたしを守ってくれた、ちょっと無愛想だけど優しいアルビオンだよ』って。ダメ?」
上目遣いで訴えるジュノに、アルビオンはたじろいだ。銀髪の下の耳が、わずかに赤くなる。
「……別に、ダメじゃない。その時は、行くよ。約束する」
「やった!約束だよ。 指切りだからね!」
ジュノは弾けるような笑顔を取り戻し、今度はアルビオンの腕に抱きつかんばかりの勢いで距離を詰めた。
「じゃあ、アルビオンはどうしたいの? 実家の仕立て屋さん、継ぐの?」
「俺が針を持っても、布を切り裂くだけだろ。……でも、ラファには戻りたい。親父が心配だ。手紙は書いてるが、親父のヤツ、俺が死んだと思って勝手に葬式でも出してそうで怖い」
「あはは! 面白そう。あたしも一緒にラファに行ってもいい? アルビオンのお父さんに会いたいな。どんな人なのかなぁ。やっぱりアルビオンみたいな銀色の髪の、強面さん?」
「いや、もっと普通だ。……ただ、少しだけ口うるさいけどな。お前が行ったら、珍客だって喜ぶだろうよ」
「珍客なんて言わないでよ! 『一緒に戦ってきた、とびきり可愛い僕の彼女です』って紹介してね?」
「……。そうだな」
「……え、そこ、認めるんだ」
思いがけない彼の肯定に、ジュノは足を止め、大きな目を丸くした。慌てたアルビオンは困ったように視線を泳がせた。
「……か、勘違いするな。今のは言葉のアヤだ。……そのうち、親父にも紹介する」
「そのうちって、いつ?」
「……時が来ればだ」
「もう! あたしがいつまで待てると思ってるの? あたしね、十六年待ったんだよ。アルビオンみたいな、ちょっと頼りないけどいざとなったら凄くカッコいい人に巡り会うのを!」
「十六年って……お前、生まれた時から待ってたのかよ」
「そうだよ! だからもう待てないの! ……ねえ、アルビオン。あたし、アルビオンのこと、大好きだよ。知ってると思うけど、言っておかないとあんた鈍感だから。……聞いてる?」
アルビオンは立ち止まり、深く溜息をついた。心臓の鼓動が、斧を振るう時よりも激しく胸を叩いている。
「……知っていた。あれだけ何度も言われてりゃ、俺にだってわかる。けど、あえて逃げてた」
「なんで?」
「気持ちを、返さなきゃいけなくなるだろ。……俺は、こういうの柄じゃないんだ」
「じゃあ、返してよ。今すぐ。あたしの目を見て、今、返して」
ジュノがぐいっと顔を近づける。秋の風に乗って、彼女の髪の甘い香りがアルビオンの鼻腔をくすぐった。
「…………好きだ」
蚊の鳴くような声だったが、アルビオンははっきりと言った。
「えー? 聞こえなーい!」
「……好きだと言ったんだ!」
「どのくらい?」
「誰よりも、ずっと。……何度も言わせるな」
真っ赤になって呟くアルビオンを見て、ジュノは今までで一番の、ひまわりが咲いたような笑顔を見せた。
「あはは。やっとアルビオンが言ってくれた。嬉しいな」
「……お前なあ」
「ねえ、一個だけ約束して」
ジュノは再び、アルビオンの隣を歩き始めた。今度はその小さな手を、アルビオンの掌にそっと重ねて。
「戦争が完全に終わって、ラファに行って、フェルロンに行って……その後も、ずっと。おじいちゃんとおばあちゃんになっても。……ずっと、一緒にいてくれる?」
アルビオンは、重ねられた手の温もりを噛み締めるように、ゆっくりと指を絡めた。
「……ああ。お前が俺の飯に毒を盛らない限り、ずっと一緒にいるよ。約束だ」
「毒なんて盛らないよ! たまーに、激辛のスパイスを入れるくらい!」
「俺が辛いの苦手なの知ってるだろ。勘弁してくれよ」
二人の笑い声が、秋の街道に響き渡る。
その光景は、血塗られた戦史の終わりを告げ、これから始まる「ありふれた、けれど尊い平和」の象徴のようだった。
「アルビオン、早く! 日が暮れる前に次の村に着かないと、晩御飯抜きになっちゃうよ」
「わかったよ。……ジュノ、走るな。転ぶぞ!子供かよ」
「子供だもーん」
駆け出すジュノと、それを苦笑しながら追いかけるアルビオン。
遠くの山々は燃えるような紅葉に彩られ、彼らの行く先を祝福するように、新しい時代の風が吹き抜けていった。




