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山なし谷なし幸せあり  作者: 【規制済み】


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3/4

帰り道



 学校も終わり、皆が校舎から蜘蛛の子を散らすように出ていく。ある人は部活へ、ある人はバイトへ、ある人は自宅へ。俺はもちろん自宅だ。


 学校から俺の家まではそこそこの距離がある。電車に乗っている時間が五十分、最寄り駅から家までが徒歩二十分だ。歩く時間はなかなか面倒ではあるけど、部活に入っていない分の軽いウォーキングだと思うことにしている。

 

 そんなわけで学校から一番近い駅のホームで立っていると、優香が駆け寄って来る。


「宗也くん、お待たせ」

「お。今日の単語テスト、そっちはどうだった?」

「満点。行きの電車で毎日見てるから」

「偉すぎる……俺は一問ミスだった。普通にスペルで間違えたわ。rが一個足りなかったんだよな」

「あーcorrectかな?」

「そうそう、それ。ま、今回間違えたから逆にもう忘れないけどね。むしろ今は一番覚えてる」

「ポジティブだね。いいことだ」


 話している間に電車がホームに停車する。風で優香の髪がなびいた。


 電車の中は幾らか人が座ってはいるものの、二人並んで座ることができるくらいには空いている。駅が始発駅に近いからだ。


 座ると座席に少し暖かさを感じる。もう五月なのに座席暖房が効いている。正直、少し暑い。


「電車結構長いけど、乗り換えがないのがいいよね」

「逆にそのせいで朝寝ちゃって乗り過ごしたことあるけどな」

「あ、前学校にちょっとだけ遅刻してきたのってそれだったの?」

「よく覚えてんね」

「ふふん、宗也くんのことですから」


 自分で言ったにも関わらず、優香の耳が赤くなっていた。照れながらも自慢げに言うその姿が優香らしくて、俺は笑った。


「……今日さ。昼休みの時間にいつもの友達たちと話してでしょ?」

「あーうん。そうだな」

「結構ちゃんと何話してるのか聞こえててね。好きな人いるかどうかって話してたよね」


 頭を掻く。やっちまったなぁ……気恥ずかしい気持ちはもちろんあるけど、それ以上に申し訳なかった。


「……ごめん。付き合ってること隠してるんだし、好きな人もいないって言っておけば良かったよな」

「あ、違うの。謝らないで。逆に私すごい嬉しくなっちゃって、あの後ずっと本で顔隠してたんだよ?」

「え、なんで?」


 そう聞くと、優香はへにゃりとした笑顔で手をもじもじさせ始めた。


「だって……さ。好きな人はいないって絶対言うと思ってたら、照れながらいるって言ってくれるんだもん。付き合ってること隠そうねって約束してるのに、それでも好きって言っちゃうとか、あー私のこと本当にすごい好きなんだなって実感しちゃうじゃん……」


 ふへへ、と笑う優香。その顔がどうしようもないくらい可愛くて顔を覆った。


「俺は優香が可愛すぎて泣きそうだよ……」

「あはは、大袈裟な」

 

 ちっとも大袈裟ではない。優香は自分だからそんなことが言えるんだ。どうすれば優香本人にこの可愛さが伝えられるのだろうか。


「ふぁ〜……」

「眠そうだな。昨日夜更かしでもした?」

「んーん。ちゃんと12時には寝たよ? でも座席のヒーターが効いてるからポカポカしてさ。電車の揺れも合わさって眠くなってきちゃった」


 そう言う優香の瞼は実際かなり重そうで、なんとか頑張って起きている、という印象だった。


「肩、貸そうか。駅に着くまで30分以上あるし寝ちゃいなよ」

「……じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」


 最後に一つ大きくあくびをしてから優香は俺へと寄りかかり、頭を肩へと預けてくる。


「……大丈夫? 重くない?」

「むしろ、軽すぎてびっくりしてる。ちゃんとご飯食べてる?」

「ばっちり。一日三食にプラスで時々チョコとか食べちゃう。逆に、宗谷くんは思ったよりガッチリしてるね。運動部とか入ってないのに」

「軽い筋トレくらいはしてるから」

「そっか……」


 うつらうつらとしていた優香はその言葉を最後に眠ってしまった。すーすーと小さな寝息が聞こえて来る。そんな眠っている優香の顔を見る。実はこうしてまじまじと見るのは初めてだった。


 色白な肌。栗色の髪。赤々として艶やかな小さな唇。目元の小さな黒子。長く整ったまつ毛。一通り観察した後に、全体的に可憐で儚げな印象があるな、と他人事のように思った。


 ガタンゴトンという電車の音ともに車窓から夕日が差し込んだ。視界が橙に染まる。それは優香も例外ではない。黒色のまつ毛も、栗色の髪も、全てが橙の一色に染まる。そしてその暖かな日差しをその身に受けて、彼女の髪が眩く照った。


 その色と光に、この時間の刹那さを感じる。夕日があっという間に地平線の先へと消えてしまうように、心地よく穏やかな時間はあまりにも短い。だからこそ、その短さを大切にしたいと思った。


 きっといつか、この肩の重みが当たり前になる日が来る。それでも俺は、その当たり前を決して手放さないようにいつまでも握りしめていたい。多分、好きってそういうことなんじゃないかな。


 最寄駅に着くまで、あと15分。その時間をただ俺は噛み締めた。


 



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