男子四人組
「やべえ、全然覚えられねえ……くっそ〜もっと早いうちから真面目にやってればよかった〜」
「康平、それ毎週言ってるよな。いい加減学習しろよ」
「うるせえなあ、毎日あれもこれもやりたいことが多すぎるだよ。英単語とか当然優先度落ちるじゃんか」
「え〜? でもお前電車の中で漫画読んでるじゃん。普通にその時間で英単語やればよかったんじゃ……」
「正論やめてね?」
高校に入学してから一ヶ月が経った。この程度の時間が経てばみんなの交友関係も大体固まってくる。実際、昼休みに周囲を見れば、いくつかのよく見るグループとまばらに一人で過ごしているクラスメイトの様子が見て取れる。
そして俺の交友関係は、奥村康平、佐藤駿、桜井潮、あと俺の四人組で固定され始めていた。部活が同じだとか、委員会が同じだとか、そんな共通点があったわけではない。席の配置が、俺と康平が隣で、駿と潮が前後。で、俺と駿が仲良くなって自然と四人グループになった。話していてウマが合うのでいつもこうしてつるんでいる。
「そういやさ、なんか隣のクラスじゃもうカップルできたらしいぜ?」
「へーいいねぇ……」
「潮、全然気持ちこもってないぞ……思ってないなら言わない方が人間性あるフリできるから……」
「え? そんなぁ……ちゃんといいことだなって思ってるよ?」
「嘘くせぇ……」
「で、そういう浮ついた話はないわけ? 俺たちこれでも花の高校生だぜ?」
「ない」
「ないね」
「ないな」
「……だよなぁ」
康平がぐったりと机にへばりついた。このままだとスライムになってしまいそうなくらいだ。
浮ついた話なんてない、と答えたことからわかるように、俺と優香は付き合っていることを隠している。理由は単純で、いじられたり揶揄われるのが嫌だからだ。小学校の頃、仲の良かった俺と優香はたびたび「付き合ってんの?」とか言われていじられた。そのせいで若干よそよそしくなった時期もあって……まあそんなこともあったから、お互い付き合っていることは隠そうということで意見が一致した。
一ヶ月も経って、みんな大人だし小学校の頃みたいないじりをしてこないことはもうなんとなくわかってきてはいるが、それでも嫌なものは嫌なのだ。ある種のトラウマである。
そんなことを考えながらチラリと横を見る。すると、俺と同じように女子四人組で固まって話していた優香が他の人に見えぬように小さく手を振ってきた。それに俺も小さく手を振り返すことで答える。こういう些細なことがすごく嬉しかった。
「でもさー……好きな人くらいはいねえの?」
ぼやきのような康平の言葉に心臓が跳ねる。
「うーん、それもいないね」
潮はいつも通りふんわりと笑ってそう答える。
「一ヶ月そこらで好きになる方が珍しい。まあ、少なくとも俺もいないな」
駿もなんてことないようにそう答えた。なんなら興味なさげに英単語帳を読み続けている。……眼鏡をしているのに目を細めているのはなぜだ。度が合ってないんじゃないか?
「お前らなぁ……宗也は?」
「お……れは」
読めてはいたが、ついに質問の矛先が俺にも向いてきた。ここで、好きな人なんていない、と言えば康平がただつまらなそうにため息でもついて別の話題に移るだろう。でもどうしてか、そうやって嘘をつくのだけは嫌だった。
「……いる」
「「「え?」」」
俺以外の三人の声が揃う。さっきまで英単語を勉強していた駿も顔ごと振り向いてこっちをみているし、いつも穏やかに笑っている潮も目を見開いていた。
「え、マジで!? え、誰だよおい」
「まあまあまあ待て落ち着け康平。そうやって無理やり聞き出すみたいにしたら宗也も言い出しにくいだろ。……で、誰だよ」
「もー二人とも宗也困ってるよ? ……で、誰?」
「こ、こいつら……」
康平はいいとして、駿と潮はさっきまで全然興味なさそうだったじゃん。なんでこういう時だけ息ぴったりなんだよ。
「あーもう秘密! いつかは言うけど今は秘密! それで勘弁してくれ!」
「ケチくさいぞ!」
「そーだそーだ〜」
「めんどくさい奴らだな! なら逆に聞くけど康平はどうなんだよ!」
苦し紛れの質問だった。しかし、俺がそれを口にした瞬間、康平の動きが止まる。固まった康平を俺を含めた三人で見つめる。
「え、あ、あはは……」
あからさますぎる態度だった。ポーカーフェイスが下手すぎる。
「ははーん? わかったぞ? なんでお前がいきなり俺達にこんなことを聞き始めたのか。お前、好きな人できたから、俺らと好きな人が被ってないかそれとなく探りを入れるためだな?」
「ち、ちげーよ! た、ただ俺は……」
顔を赤くして俯く康平。男の恥じらいに需要はないからやめてほしい。いや、女子にはあるかもしれないが。
「お前らにも好きな人がいたらお互い協力し合えないかな〜って……」
「協力?」
「まあ、その、あれだ。励ましあったり、好きになってもらうための計画練ったり?」
「お前は乙女か」
「康平って可愛いところあるんだね」
「好き放題言いやがって……」
と、そこで、チャイムが鳴った。
「あ、休み時間終わっちゃったね」
「康平、英単語は覚えられたのか?」
「やっべえ! こんなこと話してる場合じゃなかった!」
「馬鹿だな〜」
チャイムが鳴り終わると同時に先生が入ってくる。タイムオーバーだ。
「はーい筆記用具以外しまえー」
「終わった……」
結果、康平は英単語テストを半分しか正解できず、悲しみの涙で解答用紙を濡らすことになったのだった。




