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帰れるまではラーメンの屋台引こうとする元勇者  作者: 白湯のお湯割り
7.ドワーフ国からの出発

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閑話5 四代目イタチョー

なんか最近ホビーの運営のガバガバ加減が顕著になっていません?

プレイヤー人口は増えているのは見えているはずなのに見て見ぬふりはいけませんよぉ運営さぁん(ダル絡み)

あまり口には出したくないのですが正直ムッとはしましたね。

時は新見達が異世界へ転生する数百年前に遡る。


「こちらが、クリス様のお部屋になります」


 メイドに案内され、クリスは王城の婦人用居室へと足を踏み入れた。


 王子、のちにドワーフ王(新見達にとっての先王)となる男の側室として輿入れすることが決まった、その日。


扉の向こうに広がる部屋を見渡しながら、クリスは未だに現実味のない思いを抱いていた。


(父さんと王様の、他愛のない建前だと思っていたんだけどねぇ……まさか、本当に輿入れすることになるとは……)


事の発端は、クリスの父と当時の王(先王の父)との間にあった、古くからの師弟関係からだった。


遅くに生まれたクリスと王子の年齢が近かったこともあり、いつしか冗談半分の縁談話が持ち上がった。


最初は、どうせ他愛のない世間話だったのだがあれよあれよという間に話は具体化し、気づけば本当に輿入れの日を迎えてしまったのである。


「……はぁ」


 クリスは小さく息を吐くと、部屋に置かれた椅子へ腰を下ろした。

まだ頭の中が追いついていない。


(さて、これからどうしたものか……)

考えなければならないことはいくらでもある。

しかし、いくら考えても答えが出てこない。


そんなことを考えているとふと、妙な感覚に襲われた。


(……ん?)


誰かに見られている。

そんな気がする。


クリスは何気ないふりをして目だけで室内を見回した。


(まさか、監視用の覗き穴でもあるのかい?)


そう思って注意深く辺りを探っていると、やがて一つの違和感に気づいた。

メイドがきちんと閉めたはずの扉がほんの少しだけ開いている。


(…なるほどね)


クリスの口元が、わずかに吊り上がった。


誰かがいる。そう確信したが、すぐに扉へ向かうことはせず

「さて……荷ほどきでもしますか」


そうわざとらしく声を出しながら、クリスは部屋の隅に置かれていた少し古びたスーツケースへ向かいふたを開け中の荷物を取り出す。


荷ほどきのふりをしつつ少しずつ扉の死角へと身体を滑り込ませた。


視界に入った瞬間勢いよく扉を開け放った。


「うわっ!」


扉の向こうから、素っ頓狂な声が上がった。

どうやら扉にもたれかかるようにして覗いていたらしい。


勢いに押され、その人物はそのまま床へ倒れ込んだ。


「誰だい?乙女の部屋を覗く不届きな輩…かと思ったら…まさかこんなお嬢さんだとはねぇ。意外だよ」

クリスは呆れたように眉を上げる。

軽口を叩きながらも、クリスは相手の様子を注意深く窺った。


「いたた……。ちょっと! いきなり開けるなんて……」


「!?」


その顔を見た瞬間。

クリスの表情が凍りついた。

見覚えがある。いや、見覚えがあるどころではない。


「あなた……!い、いえ! あなた様は……ミシェル様!」

思わず声を漏らし、慌てて姿勢を正す。


王子の正室。

まさか、そのミシェル本人が自分の部屋を覗いていたとは、夢にも思わなかった。


「とんだご無礼を!」


クリスは咄嗟にその場へ膝をついた。


「え? あっ、いいの、いいの! そんなにかしこまらなくて!」


 ミシェルは慌てた様子で手を振る。


 そして、膝をついたクリスの腕を取ると、そのまま立ち上がらせた。


「ほら、立って。私たち、同じ立場でしょう?」

「…同じ、立場?」


思わず聞き返すクリス。


ミシェルはそんな彼女を見て、どこか悪戯っぽく笑った。


「彼の奥さんとして、第二婦人がどんな人なのか気になってたのよ」


 ミシェルはそう言うと、頬をぷくりと膨らませた。


「だって、一度も顔合わせしないまま輿入れまで行っちゃうんだもの。どんな人なのか気になるじゃない?」


「は、はぁ……」


 クリスは返事に困りながら、目の前のミシェルを見つめた。


「確かに、気になるというお気持ちは分かりますが……しきたりでは、輿入れが正式に決まるまでは、お互いに顔を合わせてはならないことになっているのでは?」


「うん?あれ?」


「それに、今はもう正式に決まったわけですから、後ほど改めて正式な顔合わせの場が設けられるはずです。それまでお待ちいただければ…」


「そうだっけ?」

「……え?」

「だって、気になりだしたら我慢できなくなっちゃって」


そうクリスの言葉を遮るように、ミシェルが首を傾げながら言うと、ミシェルは悪びれる様子もなく、にへらにへらと笑った。


「…………」


 クリスはしばし言葉を失った。


(公務でのお姿とは……全然違う……)


普段、王城や公務に臨むミシェルの姿は、王子の正室に相応しい品格と落ち着きを備えた女性そのものだ。


立ち居振る舞いにも隙がなく、臣下への接し方も堂々としている。


少なくとも、先ほどまで扉の隙間から新入りの側室を覗き見していた人物と同一人物とは、とても思えなかった。

「……なんだか、思っていたより気さくなお方なのですね」


「そう?」


ミシェルはけろりとした顔で答える。

すると、その時だった。


「ミシェル様~!」

「ミシェル様~! どちらにいらっしゃるのですか~?」

 廊下の向こうから、女性たちの声が響いてきた。


「ゲッ!ヤバッ! もうここまで来た!」

(未来の妃がゲッって…)

クリスは呆れたように肩をすくめた。


「じゃあ、またあとでね」


「はぁ、はい……」

そう言い残すと、ミシェルは慌てて廊下へ飛び出していった。


その後、王子経由で正式な顔合わせを行ったが王子はしきたりとはいえ気まずい空気になることを覚悟していたのだが二人がすんなりと顔合わせを済ませる様子に困惑を隠せなかった。


こうして、王子の心配をよそに、正室と側室の関係は拍子抜けするほど穏やかに始まった。


それからというもの、クリスは王城での生活にも少しずつ馴染んでいった。

もちろん、すべてが順調だったわけではない。

王城での作法や公務はこれまでとは勝手が違う。


それでも、正室であるミシェルの補佐を務めたり、ミシェルに代わって公務へ出席したりと、慣れない仕事を一つずつ覚えていった。


そんな日々の合間に、二人でクリスの部屋でお茶を飲む時間も増えていった。


「そういえば、この部屋って噂によると隠し通路があるらしいのよ」

紅茶を口に運びながら、ミシェルがふと思い出したように言った。

「隠し通路?」

「ええ」


クリスと二人きりになると、ミシェルは時折こうした素の表情を見せる。

「へぇ……」


 クリスも肩の力を抜いたまま、部屋を見回す。


「しばらくこの部屋で過ごしているけど、それらしいものは見当たらなかったねぇ」


「あら? そうなの?噂ではね、緊急時に使う脱出通路だったとか、昔ここに住んでいた誰かが、処分した相手をこっそり運び出すために使っていたとか……」


「おいおい」

 クリスは思わず眉をひそめる。

「そんなおっかないものが、婦人用の部屋にあってたまるか」

「あはは。あくまで噂よ、噂」

二人は、王城にまつわる真偽も定かではない噂話に花を咲かせた。


やがて、お茶を飲み終えたミシェルが席を立つ。


「じゃあ、行きたくないけどそろそろ戻らないと」

「何言ってんだい、頑張っておいで」


「クリスもね」


そう言い残して、ミシェルは部屋を出ていった。


「やれやれ…」


一人残されたクリスは、苦笑しながら紅茶のカップを片付ける。

「噂好きもいいけど、いったいどこでそんな話を聞いてくるのやら……」

そう呟いたところで、ふと暖炉に目が留まった。


灰がかなり溜まっている。


「……そういえば、今年の冬はやけに寒かったからなぁ…ちょっと掃除をサボっただけですぐこれだ」


本来なら使用人に任せる仕事だ。


だが、クリスは昔から自分のことは自分でする性分でわざわざ人を呼ぶほどのことでもないと考え、慣れた手つきで暖炉の灰を集め始める。

(ちなみにそれで何回か宰相や執事長に怒られているが全く懲りていない。)


「よいしょ……っと」


 手前の灰をある程度かき出したところで、奥の方にもまだ残っていることに気づいた。


(せっかくだし、奥のも……)


クリスはそのまま暖炉の中へ身体を入れるが、


「おっと!」


まだかき出していなかった灰に足を取られ、身体がぐらりと傾く。


「危な…!」


咄嗟に壁へ手をついた、その瞬間。


ガコンッ。


突如暖炉奥の横の壁に下に向かう階段通路が見えた 。


「!?こ、これは…?」


まさか噂の隠し通路がこんなところにあるとは思いもしなかったクリス。

「……いやいや、まさかねぇ」


そう呟きながらも、好奇心が抑えられなかったクリスは

「ちょっとだけ…」


そういいながら恐る恐る階段へ足を踏み入れた。


階段を下りきると、クリスは地下通路をしばらく進んだ。

しばらく進んだところで、道は突き当たりになりその先は上へと続く螺旋階段がある。


クリスは首を傾げながら、その階段を見上げた。


(地下を経由して、地上へ出る感じか…となると、やっぱり緊急用の脱出通路?…それにしては、道幅が広いような)

考えが止まらない。


「まぁ、考えても仕方ないか」


そう呟き、クリスは螺旋階段を上っていく。


しばらくすると、階段の先に小さな扉が見えてきた。

「ここが出口か?天井が斜めなのがちょっと気になるけど…」


すると。


「……え?」


扉を抜けて周囲を見回す。


目の前の光景を見たクリスは一瞬、何が起こったのか分からず立ち尽くした。


父親の付き添いで各地の遺跡を探索した経験があるクリスにとって、こうした構造そのものには覚えがあった。

歴史のある王族の建築物には、外敵の侵入や政変など、万が一の事態に備えて秘密の脱出経路が設けられていることがある。

これまでの経験上おそらく、ここもその類なのだろうと。

そう思っていたクリスの目の前には

天井に届くかと言うほどの大量の食料品が詰まれていた。

視界に入るのは壁天井以外には俵、樽、木箱、袋とそれぞれ所狭しと天井近くまでびっしりと積み上げられている様子だった


部屋の奥には外へ通じていると思われる扉がある。


 だが、その扉は何百年もの間、一度も開けられていないのではないかと思えるほど固く閉ざされていた。

(……どういうことだ?)


クリスは眉をひそめる。

(非常用の脱出用通路じゃないのか?)


脱出するための通路なら、出口をここまで頑丈にする意味はない。

まして、この大量の食料は何なのか。

保存食を備蓄していたのなら、ここはいったい何のための部屋なのだろう。


「……分からないねぇ」


 クリスは頭を掻く。

さすがに自分一人で判断できることではない。

いったん戻って、誰かに相談したほうがいい。

そう考えて踵を返した、その時だった。


「…ん?」

先ほど気づかなかったのか。

書見台の上に、一冊の本が置かれている。


「本……?」


クリスは近づき、手に取った。

表紙には、ドワーフが使う文字とは異なる文字で標題が記されている。


「……これ、ドワーフの文字じゃないね」


 ならば。クリスは自身のスキルを起動する。


《翻訳》

そこに記されていたのは、この部屋を作った者たちについての記録だった。


初代イタチョー。

そして初代ドワーフ王。


二人が、この部屋を用意した経緯。

クリスはさらに読み進めていくと、そこには一風変わった記述があった。


「…レシピ?」

そこに記されていたのは、料理の作り方(レシピ)だった。


そして最後まで読み終えると

(これは……私たちに向けたものじゃないな)


記述の内容からして、これは現代の人間に向けて残されたものではない。

(それでも……レシピは気になる)

そして、もう一度最初からページを確認する。


 重要な部分を頭に刻み込みながら、しばらくその場に佇んでいた。


「これはちょっと暗記は無理そうだね…しかも貴重な歴史資料だから持って帰るわけにはいかない…」


そうおもったクリスは一度、来た道を戻ることにした。


階段を下り、隠し通路を抜け、自分の部屋へ戻る。

必要なものを用意すると、再び隠し通路へと入っていった。

そして書見台の本の横で初代イタチョーが残したレシピを一文字ずつ、自分の手元へ写し取っていった。


写し進めるうちにクリスはふと気づいた。


(…ここは、やたらむやみに人を入れていい場所じゃないな)


 この部屋に残されているものは、どれも極めて重要な意味を持っている。

もし、この場所の存在を大勢に知られれば、歴史研究の名目で人が押し寄せることになるかもしれない。


あるいは、もっと別の目的で利用しようとする者が現れる可能性もある。

(みんなには悪いが…このことは秘密にしておいた方がよさそうだ)


クリスはそう決め、やがて、最後の一文字を書き終える。


食料庫から写しを終えたクリスはことあるごとに写しの内容を読み返していた。


読むほどに興味が湧いてくる。


自分がこれまで見たことのない調理法。

現代では使われていない食材の扱い。

そして、初代イタチョーが残した独特の工夫。


料理好きとしては、たまらない。


(ちょっとだけ……試してみたいな)

 最初は、ほんの小さな好奇心だった。


(実際に作ってみたら、どうなるんだろう)

気づけば、クリスの頭の中は料理のことでいっぱいになっていた。


そんな気持ちがどんどん募りついには厨房へと足を運ぶ。


「三代目、いるかい?」


何も知らない 三代目を巻き込み公務をこなしつつ料理研究部屋にこもる日々が続いた。


それからというもの、クリスは料理研究部屋に籠もることが多くなった。


王族としての務めを果たしたうえで、空いた時間を料理研究へと費やしていたのだ。


もっとも時折、公務をこっそり抜け出してきたミシェルが、研究部屋へ入り浸っていることもあった。


「公務はどうしたんだい?」


「ちゃんとやってるわよ。……たぶん」


そんなやり取りをしながら、二人で茶を飲む。

あるいは、ミシェルが研究中の料理を勝手に味見していくこともあった。


 そうした日々を重ねながら、クリスは何度も試行錯誤を繰り返した。


「…できた…!」


そしてついに。初代イタチョーが残したレシピ。

その再現に、クリスは成功した。


その後も次々と再現に成功したクリスはやがてその功績を認められ、女性ドワーフとして初めて、イタチョーの座に就くこととなった。



長い年月が流れ。

イタチョーの座を五代目に明け渡した晩年。

子供たちも立派に自立しほぼ隠居生活のクリスは料理研究部屋に立っていた。


かつては自由に動いた身体も、今ではすっかり老い、包丁を握る手にも皺が増えている。


それでも、その目月と熱意だけは昔と変わらなかった。


机の上には、何度も読み返された一枚の写しがある。


「さて……今日も、この『ラーメン』ってやつを研究しようかね。

味もトッピングも、ころころ変わりやがる。千変万化(せんぺんばんか)なお前さんは一体、何を『かんすい』させればいいんだい?」


そう呟きながら、クリスは包丁を手に取り研究に励んだ。


そして四代目イタチョー・クリスは、ラーメンの正体を知ることなく生涯を閉じた。


最期の瞬間まで、彼女の手から包丁が離れることはなかった。


その姿はまさに料理人の最期と言わしめるほどだったという。

書きたいこと多すぎて添削と時間の確保が大変でした…

次から新章ですが早く書き出しておかないと…(;'∀')

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