7-9 晩餐会と六代目
メシマズな世界の設定ですがドワーフの国だけ例外です。
しばらくして――。
「お待たせいたしました」
そう言って戻ってきた三人を見た新見と薫は、思わず固まった。
新見と薫は無難な黒系のスーツ姿。
そしてゼノンは水色を基調とした、裾の長いチャイナドレス。
さらに腰から裾にかけて、金色の竜が大きく刺繍されている。
「「…なんで?」」
二人の視線がゼノンへ向く。
「わたしが知りたい……」
ゼノンは赤面した顔で答えた。
とはいえ、本人の不満とは裏腹に、その姿はよく似合っていた。
(てか、流石異世界だな。東洋の『龍』じゃなくて、西洋の『竜』のデザインなんだな)
新見はそんなことを考えながら、ゼノンのドレスに施された刺繍を眺める。
その目線に気づいたゼノンが、じろりと睨む。
「…何?」
「え?」
「お金取るわよ…」
声に怒気がこもる。
ドレスのデザインの竜の部分が丁度胸元に刺繍されていたのでどうやらチャイナドレスで顕著になった自慢のたわわな胸元を見られていると思ったらしい。
「いや、違う違う!」
新見が慌てて手を振る。
「あ、いや。そのドレスのデザインがさ。見ないデザインで目を引くってかさ…」
何故か言い訳っぽくなる
「ほぅ…」
ゼノンの目が細くなると同時に謎のオーラをまといだす。
「ここにきて言い訳とは…いい度胸ね」
ぎゅっと拳が握られる。
「いや、本当にそういう意味じゃ…」
(冗談じゃない。これから晩餐会だというのに顔をめり込ませている場合じゃねぇ…!)
と後ずさる新見。
その時、
「相変わらずやかましいやっちゃのぅ」
と通路の向かい側から合流してきたゴリオンが声をかけてきた。
「おっさん!」
救世主と言わんばかりにゴリオンの後ろに隠れる新見。
「…ほぅ、見違えたわい!に会っとるぞお嬢!」
「え、ちょ、おじ様…」
真っ赤に照れて下を向くゼノン。
ゴリオンはゼノンのドレスに目を向け、ゼノンの反応と新見のおびえようで何かを察したように頷いた。
「そういえばお主たちの世界では『りゅう』は二種類おるんじゃったかの。残念じゃがこっちの世界で『竜』と言えば翼をもった種類しかおらんからのぅ」
そして、さりげなく薫へ目配せする。
が、何もわかっていない薫。
「あ!確かに! こっちの世界で竜といえば翼竜みたいな姿が基本ですものね。体が長くて翼のない、東洋の『龍』っていう存在はいなかったですし」
「…そう言われれば、そうね」
ゼノンがふと我に返る。
改めて自分のドレスを見下ろした。
金色の細長い竜。
「なるほど…確かに、こういうところで異世界って感じが出てるわね」
「ほれ、そんなことよりもうすぐ晩餐会じゃぞ」
そう言うとゼノンを先に行かせたのち後ろについていく新見がゴリオンへ親指を立てる。
ゴリオンもすかさず親指を立て返す。
『『ぐっ』』
そんなやり取りを見ていた薫だけは終始?を浮かべていた。
一行は改めて身だしなみを整えた。
そして、案内された扉の前に立つ。
「では、こちらへ」
メイドが扉を開ける。
扉の先の光景を見たその瞬間。
三人の目が丸くなった。
「…え!?」
そこに広がっていたのは、高級中華でよくみられる回転テーブルに元の世界の中華料理が並べられていた。
チャーハンに棒棒鶏、麻婆豆腐に揚げ春巻きそして何より中央にひときわ目を引く蒸籠が置かれている。
蓋こそ閉じられているものの、隙間から白い湯気が立ち上っていた。
「いやはや、お待たせした」
一番奥の席から声がする。
そこには先ほどより軽装のドワーフ王とその横に先王がすでに腰を下ろしていた。
「今日は我々だけの席だ。どうか遠慮せず食べてほしい」
そう言い、料理へ手を向ける。
「我らがドワーフ国選りすぐりの料理団が腕を振るった宴会料理だ。存分に楽しんでいってくれ」
「とはいえ後ほど六代目のイタチョーが挨拶に来るからの。酒は程々にな」
と先王が付け加える。
全員が席に着くと
「では…」
『いただきます!』
その掛け声共に各々勢いよく料理を箸をつける。
「……うまっ!」
新見が思わず声を漏らす。
「これ、普通にうまいぞ……!」
「本当ね!」
ゼノンも次々と料理を口に運んでいく。
薫も料理を頬張りながら、涙しながら頷いた。
「コカトリス肉は俺のストックから提供したけど、それを除いても、よくあの蔵の保存食だけでこれだけの料理が作れたな」
新見はふと疑問に思った。
「ねー」
ゼノンも感心したように料理を眺める。
「しかも、この世界とは思えないくらいクオリティが高いわよ…ってそれあたしの春巻き!」
しゃべってる隙に目をつけていた春巻きを新見に取られた。
「乾物や香辛料なんかは、食べられる状態で残っていたものが結構あったみたいですよ」
薫も料理を頬張りながら答える。
「なるほどなぁ……」
新見が納得していると…
「それはそれは。お口に合って何よりです」
「「「!!!」」」
突然、背後から声がし、三人が一斉に振り返る。
そこに立っていたのは、ゴリオンや先王よりは明らかに若いものの、決して若者とは呼べない壮年のドワーフだった。
髭はなく、白い板前服に身を包み、頭には料理人らしい白い帽子。
そして、その立ち姿には料理人としての清潔感と確かな風格が漂っていた。
「おぉ! “六代目”!」
先王が嬉しそうに声を上げる。
「ご機嫌麗しゅうございます、陛下。先王様。そして…」
「この国の救世主様方」
六代目は帽子を脱ぐと、深々と頭を下げた。
「え、あ、いや救世主って…」
改めて言われると照れてしまい頭を掻く新見。
勇者時代ではあまり言われなかったので逆に新鮮な気持ちになった。
そんなやり取りの後、ドワーフ王が笑みを浮かべながら紹介する。
「紹介しよう。彼が六代目イタチョー。そして今回の料理の総責任者である」
「ご挨拶が遅れました、六代目でございます」
本人は再び一礼すると、謙遜するように続けた。
「私はただ、今ある食材で作れる料理のレシピを再現したに過ぎません」
「相変わらず謙虚じゃのぅ。それをたやすくこなせるのは、イタチョーと呼ばれるだけの実力があるからこそよ」
「先王様…買い被りすぎでございます。」
「何を言う。儂は嘘などつかんぞ」
先王の太鼓判に、六代目は困ったように笑う。
宴の席に並ぶ料理を眺めながら、ドワーフ王はなおも感嘆の声を漏らしていた。
「しかし、ついこの間(数十年前)イタチョーを襲名したばかりだというのに、四代目のレシピをこうも見事に再現できるとは……なかなかできることではない」
六代目イタチョーへ向けられる絶賛は、いっこうに止まる気配がない。
すると、六代目イタチョーが恐縮したように頭を下げた。
「陛下、お戯れもほどほどに。……それより、聞くところによりますと、こちらの救世主方は四代目と同じく、“あの手記”の中身が読めると伺いましたが。」
その言葉に、ゼノンが目を丸くする。
「え? 四代目って、私たちと同じなの?」
「いや、母上は転生者ではないぞ」
すかさずゴリオンが首を横に振った。
「なら、どうしてあの手記が…?」
「それはな…」
ゴリオンが少し深刻そうな顔をして話した。
端折ったはずが思いのほか長引いてますね…




