7-7 初代イタチョーの手記
遠隔でスマホを操作できるスマホカバーを開発してスマホのアラームを解除できずイライラしてスマホ本体のアラームを消すという謎の夢をみました。
夢だと思ったらアラームを消す部分だけ現実で見事に遅刻しました。
新見が古代魔法に度肝を抜かれている間、先王達は積み上げられた物資を目視で確認していく。
「見た感じだけだが……全く問題なさそうじゃな」
「古代魔法が今も機能しているということですね」
ドワーフ王も頷く。
「ならこれを地上の食料庫まで移動せんとな」
「全部は無理ですよ、とりあえず今必要そうなものだけを選出しますので」
と手当たり次第に運び出そうとする脳筋先王をドワーフ王が引き留めた。
そんなやり取りの裏でいろいろと備蓄品を見て回っている薫がふと足を止めた。
「…あれ?」
中央の通路、その一番奥に書見台らしき石の台座に何やら一冊の古い分厚い革の表紙の本が置かれていた。
「なんだろうこれ?これだけ食料じゃないですよ…えっ!?」
気になった薫が書見台に近づいて本を手に取った瞬間、目を見開く。「なになに? まさかヤバい魔導書だったりしt…」
薫の声に反応して、ゼノンが横から本を覗き込む。
「…え?」
二人の表情が本の表紙を見た途端にほぼ同時に固まった。
「なんだ? どうしたんだ?」
新見も二人のもとへ駆け寄り、本の表紙を見る。
そこには、この世界の文字ではないが見慣れた文字が、はっきりと記されていた。
『この文字が読める君へ』
「な…!?」
新見の顔から笑みが消える。
「なんで…日本語が…?」
ゼノンも薫も、言葉を失っていた。
この世界では絶対にありえない”日本語”で本の表紙が書かれていたのだった。
「おや?」
その異変に気づいたドワーフ王が、三人のもとへ歩み寄ってくる。
そして本を見た途端、目を丸くした。
「なんと! お三方は、あの初代イタチョーの手記の文字が読めるのですね!」
「初代…イタチョー?」
困惑する新見。
「ちなみに、中身はもうご覧になられましたか?」
「い、いえ……まだです」
ゼノンが答えると、薫に目配せする。
「ほ、ほら、早く早く!」
「わ、わかりましたよ(汗」
薫は慎重に表紙を開いた。
そこから先に綴られていたのは、一人の同郷の異世界人の生涯だった。
その内容は要約すると
元の世界では米農家の家に生まれ、とある高級ホテルの料理人として採用され上京したものの飲酒運転の車に撥ねられこの世界に転生したこと。
右も左もわからない中、心優しいドワーフたちに助けられたこと。
当時のドワーフ国は食料生産が乏しく、飢えによって命を落とす者も少なくなかった。
恩を返すため実家の農家の知識をかして畑を耕し、作物を増やし、食料事情の改善に生涯をかけて取り組んだこと。
収穫した農作物を料理し、それらの技術をドワーフの国中に広めたこと。
自分の作りたいものをイメージ通りに作ってくれる天才ドワーフと意気投合したこと。
たまに森からフォレストキャットの子猫が迷い込んで可愛かったこと。
外敵から身を護るため、霧の洞窟の魔法の構築術式について。
元の世界の記憶とこの世界で培った経験でかなりの試行錯誤があったこと。
ついには当時の国王直属の料理人にまで取り立てられ、そして与えられた称号を『イタチョー』と命名したことを当時の国王に進言したことについては
『国王の専属料理人というのは、最初は大変だと思っていた。
けれど、「王のためではない。イタチョーは国のための料理人だ」と。
王様にこう言われ、妙に嬉しくなった。
料理が作れたことが、こんなにも誇らしいとは思わなかった。』
と綴られ、
ページの合間合間には自分が思い出しながら作ったり創作した料理のレシピや調理法、農業についての覚え書きや霧の洞窟の魔法の仕様みたいなものが綴られていた。
そして最後に晩年の記述に入ると
元の世界で食べた中華料理を、この世界で再現しようとしていたことが書かれていた。
『新作の中華料理を振舞ったところかなり好評で宮廷料理にふさわしいと言われた。
まだまだ作りたかった。
しかし、時間が足りなかった。
一部は完成したがそれでも再現できていないレシピが山ほどある。
試行途中のレシピと料理名しか残せないのが本当に悔しい。』
ついには最後のページに差し掛かると
そこには、これまでの文章とは少し違う、穏やかな筆致で書かれた言葉があった。
『ここまで読んでくれた、名前も顔も知らぬ君へ。
僕はここまでだけど、
もしよかったら、君の進む道中で、僕の遺志を継いでくれると嬉しいな。』
そこで、文章は終わっていた。
「…………」
誰も、すぐには言葉を発せなかった。
「…偶然、なのかな」
新見がぽつりと呟く。
「さあ……」
ゼノンも手記を見つめながら、小さく答えた。
薫も何も言わず、静かに本を閉じる。
すると奥から
「おーい! お前さんら!」
遠くからゴリオンの声が響く。
「運ぶのを手伝ってくれんか! いつまで経っても終わらんぞ!」
「おっと、おっさんがお呼びだ」
一行は、食料を運び出すため、ゴリオンのもとへ向かっていった。
しばらくした後、
「ぐえ~~……つ、疲れた……」
地下の蔵から地上の厨房横にある食料貯蔵庫までまさかの人力で運ぶことに。
何往復したのか、もはや数える気力すらない。
新見は最後の麻袋を床に置くと、その場でへたり込んだ。
「腕が…上がらねぇ…。足も…もう一歩も動かねぇ…」
完全に力尽き、足は生まれたての子鹿のように震えている。
「なんじゃ、情けないのぅ」
横からゴリオンが呆れたように言う。
「これくらいでへばるとは、まだまだ鍛錬が足りんわい。ゼェ…ゼェ…」
「息上がってるぞ、おっさん。」
「…寄る年波には勝てんなぁ」
「説得力…」
新見が呆れたように呟く。
その少し離れたところでは、先王も床にどっかりと腰を下ろしていた。
「ふぅ……これは老骨にはちと堪えるのぅ……」
見た目だけなら、まだまだ現役どころか現役最強クラスの筋骨隆々ぶり。
だが、その巨体も今ばかりは床に沈んでいる。
「見せる用の筋肉と働く用の筋肉って違うって聞いたことあるけど本当っぽいな…」
床に倒れながら新見がつぶやく。
そしてドワーフ王も
「う~む…」
額の汗を拭い、髭を少し捲って手でぱたぱたと仰いでいる。
「ここ最近、書類仕事ばかりで運動不足気味だとは思っていたが…まさか、ここまで深刻じゃったとは…。」
ぜぇ、ぜぇ、と息を整えながら続けた。
(ちなみに、ゼノンと薫は途中で脱落)
静かな厨房に、荒い息遣いだけが響く。
「…てかさ」
「ん?」
「……アイテムボックスとマジックバッグで運べばよかったんじゃ……?」
全員が固まった。
「「「あ……」」」
三人の声が綺麗に重なった。
完全に筋肉に思考を誘導されてその発想に至らなかった。
「「「「無駄骨~!」」」」
全員が床で大の字になるように倒れ、厨房中に響かせるように嘆いた。
ちなみに後日全員仲良く全身筋肉痛になりました。




