5-3 飾らない本音
今回ゴリオンは空気です。(ぇ
「貴族から依頼を受けてな…」ミハイルが口を開く
「依頼?」
「あぁ」
オッドが後に続いた。
「“巷で話題になったラーメンの調査とできるならレシピをとってこい”…だそうだ」
その場の空気が、少しだけ冷える。
「依頼主は王族に連なるとある貴族。Aランクになりたての俺たちを指名してくれた依頼だから正面から断るのは、さすがにまずい。」
(わかる、分かるぞぉ…)と新見は心の中で同情する。
「なるほど、だから相談に来たってわけか。」
新見は腕を組む。
ミハイルは苦い顔をした。
「正直…俺たち、あんたの店、気に入ってんだ。俺たち獣人だからって露骨に嫌な顔もしねぇから居心地よくてよ…」
「いい匂いもするし飯もうまい」
オッドも静かに頷く。
「だからレシピを盗むのにはどうにもできない。
かといって貴族のメンツをつぶしたってなればここまで上げたランクがすべてパァになる。
せっかくここまで来たってのにいまさらあいつらを路頭に迷わすわけにはいかない。」
新見はミハイルの葛藤を直接目の当たりにする。
「聞いてるとは思うが…昨日、別の店でも“ラーメン”を出したらしい。まぁ、ラーメンと呼ぶのもおこがましい代物だったらしいけどな」
オッドが話し出す。
「あー、なんかそんな話をお客さんがしていたかも。けどそんなにひどかったの?」
ゼノンが眉をひそめる。
「あぁ」
オッドが静かに頷いた。
「麺を塩湯に放り込んだだけで申し訳程度の肉を乗っけただけ…そんな感じの感想だらけだったか」
「うわぁ…」
感想を聞いて味を想像した薫が顔をしかめる。
「しかも、それを出したのが依頼主の貴族の傘下の店だったらしくてな。
お陰であの店どころかあの貴族の店は味が碌にわからないバカ舌の味音痴がやってる。というレッテルが貼られてしまって悪評が一気に町中に広まったってよ」
ミハイルが続ける。
「それで、その汚名を返上しようと“本物のレシピを調べて願わくはとってこい”っていう強奪命令に近い依頼が、今朝俺たちの所に来たわけだ。けど、レシピを奪っちまったら貴族らにラーメンを良いように扱われて挙句にヒューマンにこそふさわしい料理と言いかねない…正直、俺たちのお気に入りだけはできれば、潰れてほしくない」
その言葉は、飾らない本音だった。
だからこそ。
「何か、うまいやり方ねぇか?貴族の面子を潰さずに、大将の店の味も守れるような方法」
ミハイルはそう言いながら涙目で真っ直ぐ新見を見る。
リーダーとして、人として、冒険者として。
かなり悩んだだろうと汲んだ新見は天を仰いだ。
「…あー、俺が直接行ってもいいんだけどなぁ……」
だが、その表情は微妙に曇る。
「正直、ここの王族とはあんまり顔合わせたくねぇんだよ」
その瞬間、
後ろで、なにやらひそひそ声がきこえる。
(…なにをやらかしたのかしら?)
(きっと想像もつかない国家転覆レベルの大ポカですよ)
「おい」
新見は振り返らないが、額に青筋は浮いていた。
ゼノンと薫は、すっと視線を逸らした。
「…まぁ、それは置いといて」
新見は咳払いする。
「レシピかぁ…今のラーメン。特に今日のやつは、材料の一部が人のスキル頼りなんだよ。だから、“今の味”をレシピに記しても完全再現できないしそもそも材料がわからないと思うんだ。」
その言葉にオッドの目がわずかに細まる。
(…あの深みか)
今日のラーメンで味わった味の深みの素だなと直感する。
「まじかぁ…そうだよなぁ…」
ミハイルはがっくり肩を落とし半ば諦めかけた、その時。
「でも、」
新見が口を開く。
「“今のレシピ”は無理でも、別に協力しないとは言ってないぞ。
いまの俺たちにとっても、上位の冒険者のお墨付きと言う広告塔は失いたくないんだよな~」
「なので。」
新見は紙を取り出すとさらさらと、何かを書き始めた。
「未公開のレシピを渡す」
「なるほど…!」
薫がぽんと手を打つ。
オッドは気づいたのか目を見開くがミハイルとゼノン、ついでにゴリオンだけが頭に?を浮かべていた。
「世に出せないということは貴族側からすれば“特別に教えてもらった秘伝”にいいかえれば特別感を出せますし貴族の機嫌取りにもなれます!」薫が解説気味に言うとピンと来た三人は表情が明るくなる。
「そういうこと」
新見はニヤリと笑った。
「渡すときにでも“成功すれば、うち以上の味になります”とか適当に煽っとけばあいつら喜んで食いつくだろうよ。」
「うわ、外道っ。」
ゼノンが即座に言う。
「何とでもいうが良いさ。商人を舐め腐ってる輩には相応の対価を払ってもらうだけだ」
ゲス顔で悪びれもしない新見。
ミハイルとオッドは顔を見合わせ新見からレシピを貰うと、
「…恩に着る!」
勢いよく立ち上がり、深々と頭を下げる二人。
その瞬間。
ゴッ。
オッドの立派な角が、テーブルの端にかすった。
「「「……」」」
誰も何も言わないが、オッドだけが無言で少しだけ耳を赤くしていた。
流石に気まずくなるので全員、見なかったことにした。
後日、ミハイルとオッドは、例の貴族への定期的の連絡をする。
「素材については判明しました」
「ですが、製法を聞き出すことに難儀しておりまして……」
「もう少々、お時間を…」
「よいよい、しかしさすがA級冒険者。うちの間者でも聞き出せなかった素材をこうも早く見つけ出すとは…」
(鼻ざとい獣らしい…)
「じゃが私もそこまで気が長くないと自負している。なんとしてもレシピを入手するのだ」
そんな具合に、あの“オーク骨レシピ”が渡るのを、可能な限り引き延ばしていたのである。
そして、時は遡り、ミハイルたちを見送ったあとの頃。
ゼノンが、じとっとした目で新見を見る。
「…で? 何のレシピ渡したの?」
「あー、豚骨ならぬ、“オーク骨スープ”のレシピ」
新見は悪びれもなく答えた。
「え…嫌な予感しかしないんだけど」
「昔、ちょっとした好奇心で試したことがあってさ…煮込んでも煮込んでも、えげつない臭いが三日三晩続いたんだ…」
新見は遠い目をする。
「うわぁ……」
薫が素で引いた。
「でもなその地獄を乗り越えた瞬間。あんなひどかった悪臭どこかに消えて、香り高い絶品スープになるんだよ」
新見は指を立てる。
「まぁ、一応“作成中は換気必須”って書いたあるから大丈夫だろ。」
(……多分、見ないだろうけどその辺はオッドたちがなんとかするだろ)
そんな実に邪悪な思考が、顔に出ていた。
ゼノンは半眼になる。
「…あんたって、ほんと外道すぎる。どんだけ王族とか貴族のこと嫌ってんのよ」
「初対面から」
さらっと返す新見に
「ホントに何したんですか、あなた」
薫が思わず口走ってしまう。
そして数か月が過ぎたころ、
王都では、妙な噂が広まることになる。
「とある貴族家の屋敷が数日間、異臭騒ぎになった」
「近隣住民から苦情が殺到した」
「国王陛下の逆鱗に触れ、しばらく社交界から姿を消した」
「除爵されたらしい」
などという、尾ひれ背びれのついた噂まで飛び交っていた。
もっとも、その頃には、元凶たる新見やミハイル達たちはすでに王都を離れていたのでその騒動の結末を知る由もなかった。
早くとある食材のくだりに行きたいのにストーリーに書き足したいことがどんどん増えて全然進まねぇw
ちなみにオッドは意外と天然です。




