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帰れるまではラーメンの屋台引こうとする元勇者  作者: 白湯のお湯割り
続々と集まる仲間たち

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閑話2 魔族の姫の魔王姫(まおうき)

青肌は一般性癖です!偉い人にはそれがわからんのですよ。

魔族とは、魔物とは異なる存在である。

常人離れした肉体か、あるいは膨大な魔力、もしくはその両方を備えた異形姿をした種族。


中でも、その強靭な肉体と膨大な魔力の両方を兼ね備えた存在は“魔王種”と呼ばれ、魔族たちを束ねる王として君臨する。


魔物と魔族を同一視する者もいるは実際は近いようで全く違う種である。

たとえるなら人間とチンパンジーぐらい違いがあるという。(創生時の魔物の神曰く)


ーー現在ーー

魔王が勇者との戦いに敗れ、撤退を余儀なくした魔族たちは魔王城を早々に捨て、現在は別の魔族領へと拠点を移していた。


その中心部の屋敷にいるのは新たな“魔王”…ではなくその魔王の血を引く、若き姫。


「はぁ~…」

深いため息が、静かな玉座の間に響く。

「魔王だなんて…私のガラじゃないのに…」

玉座に腰掛けるその少女は、どこか場違いな雰囲気をまとっていた。


細身で華奢な見た目の体躯だが強靭にて怪力無双、そしてその肉体から漏れ出る不釣り合いなほど強大な魔力の気配。

綺麗な青い肌に白く輝く髪の美しい容姿なのだが、丸眼鏡をかけており表情もどこか緊張めいていた。


そのおかげで威厳よりも、どこか気弱さが先に立つ。

(確かに強い体に転生したいとは言ったけど…まさかの人間ではなく人外でしかも魔王の娘って…)


額を押さえ、ぐったりと背もたれに沈む。


先代魔王(ちちうえ)は昔は穏やかだったのにいきなり野心的になった結果、母上を巻き込んで人族の勇者に討伐されるし…」


自業自得とはいえ、その結末には納得がいっていない様子だった。


「こんなはずじゃなかったのに……」

ここ最近の彼女の口癖である。


視線が、遠くへと向く。


彼女もまた、新見たちと同様“転生者”である。


生前は病弱で、満足に外へ出ることも叶わず。

抗う術もなく、人生の大半を病院で過ごし静かに命を落とした少女。


その境遇を憐れんだのか運命のいたずらなのか魂が輪廻の輪から外れたところを異世界の神に拾われ転生の機会を得る。


「今度は、強い体がほしい!」

そう願った。

「え?魔法もあるの!?使ってみたい!」

「え、ちょっとまって君の魂のキャパだと人間に…」

「あ、ついでに身長も…」

「それだと人と言うより魔族になっちゃうよ…って聞いてないし…」


今まで我慢していた分、欲を重ねた。

「ほんとにこれでいいの?確認したほうがいいよ…」一応助言をする神だが

「そんなの良いから早く!私もう待ちきれない!」

「じゃぁ、転生させるね…苦労するかもしれないけど頑張ってね。」

「え?どういう…」


結果…

与えられたのは、強靭な肉体と膨大な魔力。

そして、“魔族の姫”という立場。

(えぇ~~!?!?!?!)


魔族の赤ん坊の彼女は産声とともに困惑した。


神様はちゃんと説明していたのだがちゃんと聞かなかった彼女の、代償である。

「……ちゃんと聞いとけばよかった……」


ぽつりと呟く声は、やけに小さい。


あまりのショックに彼女は、自然と引きこもるようになった。

だがそんな生活も長くは続かず、魔王が倒されたという悲報から彼女の生活は一変。


いままで引きこもり生活には困ることはなかったのだが魔王が倒された今引っ張り出され魔王姫と呼ばれながら過ごす重責がいきなりのしかかったのである。


現在の魔族領の実権は実質的に“宰相”の手にあった。


玉座に座るのはあくまで、魔王の血を引く“魔王姫”。

彼女が“代理”として統治している、表向きの形が守られている。

魔王不在という非常事態の中、彼女は“宰相の助言ありき”とはいえ、なんとか政務をこなしていた。


「やっぱりさ……これ、おじさんがやった方がよくない?」

ぺらり、と書類をめくりながらぼやく。

「私より絶対向いてるでしょ……」


その言葉に、宰相は一瞬だけ目を細めた。

そして、静かに首を横に振る。

「なりませぬ」即答だった。


「魔王は世襲制。血統こそが正統性の証にございます」


「でも実際いろいろやってるの、おじさんじゃん…」

「それでも、です」


一歩も引かない。


「いかに実務を担おうとも、“魔王の血筋”を持つ者が玉座に座ることそれ自体に意味があるのです」

低く、しかしはっきりとした声。

「それが秩序となり、統治の根幹となるのです。」


「うぅ…面倒くさい…」

魔王姫は机に突っ伏しかけて、なんとか踏みとどまる。


「必要なことにございます」


きっぱりと言い切る宰相。


公務が終わると食事になる。

魔族領の食事は、豪奢だった。


大皿に盛られた料理。

煮込み、焼き、揚げ――どれもこれも、惜しみなく香辛料が振るわれている。

立ち上る香りは強烈で、鼻を刺すような刺激。

魔族たちにとっては、それこそが“ご馳走”だった。


「……いただきます」


魔王姫は小さく呟き、恐る恐る一口を運ぶ。


瞬間。

「……っ」

ぴたり、と動きが止まる。


舌に広がる刺激。

焼けるような辛さ。


だが、それ自体は問題ではない。


(辛いのは……いいんだけど……)


問題は、その奥にあった。


香辛料特有の、重たい苦みやえぐみ。

それが、素材本来の味を覆い隠してしまっている。


最初に感じていた肉の旨味も、野菜の甘みもすべてが塗り潰される。

(なんで全部こうなっちゃうの……)

思わず遠い目になる。


生前、入院中のベッドの上で見ていたテレビ番組。

“激辛チャレンジ”だの、“世界のスパイス料理特集”だの。


あの時は

(いいなぁ…一回くらい食べてみたいなぁ…)


そんな軽い憧れだったはずなのに…


味わうというより流し込む。


せっかく用意された食事。

無下にするわけにもいかない。

それに体面もある。

「…おいしいです」


誰にともなく、そう言ってみせる。


嘘ではないが、“望んだ美味しさ”とは少し違うだけで。


結局、その日の食事も。


無理やり胃へと押し込む形で終わった。


そして。


湯浴みを終え、お気に入りのコカトリスのひよこ柄のパジャマを着て寝所へ向かう。


広く、静かな部屋のなか、豪奢な寝台が用意されているにもかかわらず


彼女は腰を下ろし、背中を壁に預け、膝を抱える。

じんわりと、胃の奥が熱い。さっきの料理の刺激が、まだ残っている。


「…こんなはずじゃなかったのになぁ」

いつもの口癖がぽつり、と零れる。

満たされないモヤモヤを抱えたまま、魔王姫は、そのままベッドへ倒れこみゆっくりと眠りへと落ちていった。


ーー深夜ーー

かつて新見が倒した魔王がいた魔王城の奥深く。


玉座の間で次元ゲートの前で何者かの影がいた。

魔族の宰相だった。


昼間の冷静沈着な姿とは打って変わり、その表情にはどこか歪んだ愉悦が浮かんでいる。

「もうすぐじゃ……」

皺だらけの指先で、大事そうに抱える一本のフラスコ瓶。


その中にはどろり、と揺らめく黒い靄が封じられていた。

まるで意思を持つかのように、瓶の中でゆっくりと蠢いている。


かつて、新見が魔王を討ち取った際、肉体が崩壊し、霧散したはずの“あの黒い靄”と同じものだった。

本来なら完全消滅したと思われていた、魔王の残滓。


「よもや、誰も気づくまい…」

その声音には、狂信にも似た熱が滲んでいた。

「もう少し……あと少しで……」

震える手。

老いた身体とは思えぬ執念。


「時は、近い」

誰も知らぬ深夜の魔王城で静かに、確実に、不穏な計画が進み始めていた。

実はとある食材を求めて新見たちは魔族領へ向かうのですがそれはもうちょっと先のお話…

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