4-1 ”副産物”
私事ですが名前を『賽と札』から『白湯のお湯割り(さゆのおゆわり)』に変更いたしました。
パイタンのお湯割りじゃないです。ただひたすらに薄いスープになるので…
(白湯のお湯割りも結局お湯なんですけどね。)
引き続きよろしくお願いいたします。
獣人たちの率直な反応は、想像以上の波及を呼んでいた。
最初は物珍しさに集まっていた客も、やがては評判を聞きつけた者たちへと変わり、
昼を過ぎても、列が途切れることはなかった。
屋台の前には、絶えず人の流れ。
列の長さに比例して人々の期待や好奇を集めていたのだが提供されたラーメンはそれを軽く超えてくるので絶賛が絶えない。
そして夕方、日が傾き始めた頃。
「申し訳ございませんが、本日はここまでになります!」
新見のその一言で、長く続いた行列がようやく終わりを迎えた。
何杯か用意していた寸胴の中のスープは、骨を残してすでに空。
大量に用意していた麺のストックも、きれいさっぱり使い切っている。
俗にいう売り切れである。
「マジかよ…」
新見は呆然と、空になった鍋を見下ろす。
朝の段階では、数百食分は余裕であると思っていた。
それが、たった一日で跡形もなく消えた。
その横でずしりと重たい袋。
中には、大量のゴルドが入っており、手伝いをしてもらったドワーフ達に報酬を支払ってもなおずっしりと重く佇むかのように机に乗っている。
「いやこれまた随分と稼いだのぅ、屋台の初日で、これだけ売り上げるのは簡単なことじゃないぞ」
ゴリオンは袋を片手で持ち上げ、その重みを確かめるように軽く揺らした。
中でゴルドがぶつかり合い、鈍い音を立てる。
満足げに頷いたゴリオンは、ふと思い出したように顎に手をやる。
「おぉ、そうじゃ」
作業台の上に置かれていたものを手に取る。
「ほれ、今日の新聞じゃ。面白いものが載ってるぞ。」
くるりと縦に丸められたそれを、新見へと差し出した。
受け取りながら、新見は少し首をかしげる。
「なんだよ、また物騒な話とかじゃないだろうな」
「さてのう?」
ゴリオンはわざとらしく笑う。
「絶対なんかあるやつじゃん…」
半ば呆れながらも、新見は丸められた紙を広げる。
「…ん?」
ふと、その手が止まった。
そこに書かれていたのは昨日、商業ギルド長が口にしていた“王子の魔王討伐”の記事だった。
「…あー、これか」
新見は紙面の中央、一際大きく掲載された写真に目を落とす。
「…うぐぷっ」
思わず、吹き出しそうになるのを必死にこらえた。
載ってるのは、勇ましく立つ王子の姿のはずが、なんとも滑稽な姿であった。
まず目につくのは、明らかに体格に合っていない鎧。
特に腹部は、無理やり押し込んだように膨れ上がっており、今にも留め具が弾け飛びそうな気配すらある。
さらに兜。
面を下ろしているはずなのに、守れているのはなぜか目元だけ。
肝心の顎はしっかりと露出しているうえに、全体的にぶかぶかで、どうにも締まりがない。
構図とは裏腹に、どこか滑稽さが拭えない。
(よくこれでGOサイン出たな…たぶん、ダメ出しされすぎて、妥協の妥協の妥協案ってところか?)
しばし無言で見つめたあと、新見はそっと新聞を畳んだ。
「どうじゃ、面白かったじゃろう?」
横から新聞を読む新見を覗き込んでいたゴリオンが、ニヤニヤと笑う。
「いや、面白いっていうか…」
新見は言葉を濁しながら、もう一度だけその写真を見て「ぶふぉっ」と吹き出す。
「面白いのはわかるがその辺にしておいた方が身のためじゃ、今朝発行された新聞なのに午後には勅令で”この記事を笑いものにしたものは不敬罪に処すと”出ておるからの」
一通り笑いきったゴリオンは冷静に新見を諫めるも思い出し笑いからか肩が震えていた。
「おぉ、こわいこわい。王族の権力を大いに振りかざしてますねぇ。くわばらくわばら。」
と新聞を一面を内側になるように畳む新見。
明日の仕込みと行きたいところだが、初日の様子を見るにこの調子だと同じ量を用意してもまたどころかさらに早い段階で売り切れてしまう…
「となると個数を限定するしか無いなぁ…」
(そういや……学生の頃、長期休みでヘルプに入ってた行列店もこんな感じだったな……)
ふと、遠い記憶がよみがえった。
朝から並び、昼過ぎには売り切れ。
それでも人は並び続ける。
(…懐かしいなぁ)
苦笑しつつ、新見は小さく頷いた。
「どうせ限定にするならさ、この前のスープもいいけど、いっそのこと“別テイストのラーメン”にしようか!」
「!?」
その一言に、ゴリオンがぴたりと動きを止め、勢いよく振り返った。
「違うテイストとな!? 一体どんな…いや、それよりも…」
ぐっと言葉を飲み込み、眉をひそめる。
「あの黄金色のスープのラーメンは、もう売らんのか?」
とふとした疑問を投げかける。
「いやいや、あのスープを使ったラーメンもちゃんと出すよ。」
新見は軽く手を振って否定する。
「今回考えてるのは、そのスープを取った後に出る“副産物”を使ったやつだ。」
「副産物……?」
ゴリオンの顔に、露骨な疑問が浮かぶ。
その視線に応えるように、新見はコカトリスガラスープを取り骨だけ残った鍋からあるものを取り出した。
「こいつを使う」
差し出されたのは――スープを取り終えた、コカトリスのガラ。
肉も削げ落ち、ほとんど骨だけになっている。
「……ん?」
ゴリオンはそれを見ると
「骨しかないじゃないか…まさか…こいつをトッピングにして食うのか?」
わずかに距離を取ってドン引きするゴリオン。
「違う違う!そうじゃない! 骨は食べないって!」
どっかのグラサンに口髭のラブソング歌手が脳裏に出てきたがそれを振り切った新見は慌てて手を振る。
(……いや、今朝の狼の獣人ならワンチャンいけそうだな……)
と、一瞬だけ余計な想像をよぎらせつつ。
「使うのは中身だよ。骨の中の髄。文字通り、“骨の髄まで”旨くいただくってやつ」
「なんだ、髄か」
その一言で、ゴリオンの表情が変わる。
「昔、野生のタイラントブルの大腿骨を割って焼いてその髄を食ったことがあってな…あれは旨かったのう」
懐かしむように目を細める。
「じゃが…こんな細い骨の髄なんぞ、たかが知れておるじゃろう」
ゴリオンは鍋の中から骨を一つつまむともっともな指摘をする。
「そう。だから、数が要る」
新見はにやりと笑う。
すると、ゴリオンの目が見開かれた。
「そうか! スープを取るのに大量のコカトリスを使う…ということは、使ったその分だけ骨も出る…!」
言葉がどんどん加速していく。
「じゃから“副産物”か! かぁぁ~、なるほどなぁ……!」
膝を打ち、心底感心したように唸る。
「無駄が一切ない。さすがじゃのぅ、じゃが、その髄をどう料理するつもりじゃ?新見」
「まぁ見てなって」そう言うと新見は骨の入った鍋に水を入れ出し再度沸かした。
先週からいろいろとドタバタして完全に更新に支障が出てきたので…
今週から月、水の投稿になりました!よろしくお願いします!




