閑話1 豚獣人不在の理由と異世界の創世神話
章もひと段落着いたのでたまにはちょくちょくこういう閑話のアイデアを公開出来たらなと思います!
この世界には、実に多様な獣人族が存在する。
猫、犬、狼、鹿、蜥蜴、牛・・・挙げていけばきりがない。
しかし、その中でたった一種だけ。
どう探しても見つからない獣人がいる。
「…そういえば豚や猪の獣人って、見たことないな」
ある日、新見はふとそんな疑問を抱いた。
思い返してみれば、街中でも、冒険者ギルドでも、一度として見かけたことがない。
(牛とか鹿がいるなら、いてもおかしくないよな……?)
気になった新見は、顔なじみのギルドの受付へと足を運ぶ。
「なぁ、ちょっと聞きたいんだけどさ」
カウンターに肘をつきながら、猫の獣人の受付嬢に声をかける。
「豚の獣人って、見たことある?」
その問いに、受付嬢は一瞬きょとんとしたあと、
「豚の獣人?生まれてこの方見たことないわねぇ」
あっさりと首を横に振った。
やはり、いないらしい。
「やっぱりか……」
新見が納得しかけた、その時だった。
「あ、でも!」
受付嬢が、何かを思い出したように人差し指を立てる。
「創世神話に、ちょっと面白い話があるわよ」
にやり、とどこか悪戯っぽい笑み。
(あ、これ絶対ロクでもない話だな)
そう思いつつも、興味を引かれた新見は身を乗り出した。
「……聞かせてくれ」
「ふふ、いいわよ」
受付嬢は得意げに頷くと、語り始めた。
~~それは、この世界がまだ形を成し始めたばかりの頃の話。~~
神々が、様々な種族を創り出していた時代。
その中で、獣人族の創造を任されていた神がいたという。
猫を作り、犬を作り、牛を作り、
順調に種族を増やしていく中で、小さくなる腹。そんな些細な音から事件は起きた。
「その神様、作業の途中でね…お腹が空いたらしいのよ」
「…嫌な予感しかしないな」
新見の呟きに、受付嬢はくすっと笑う。
「で、手元にあった素材が“豚”だったの」
(…嫌な予感しかしないなpart2…)
「ちょうどつまめる物もないし、食べ物のある所までちょっと距離があるからおっくうになっちゃってつい食べちゃったんだってさ」
「ぶふっ!」
新見は思わず吹き出しそうになり、慌てて口元を押さえた。
「いやいやいや、何やってんだよ神様!」
「でしょ?」
受付嬢も肩を震わせながら続ける。
「しかもその神様、自分が素材を食べちゃったことを隠そうとしたのよ」
「もうその時点でダメだろ……」
「そこでね、近くにいた“魔物を司る神”に、こっそり頼んだの」
豚を基にした獣人を、代わりに作ってくれ、と。
「……嫌な予感しかしないpart3」
「正解」
受付嬢は満面の笑みで頷いた。
「で、その魔物の神が作ったのがオーク」
「いやいや、全然別物だし、それに、バレるだろ!!」
思わず声が大きくなる。
周囲の視線が一瞬集まり、新見は軽く咳払いをしてごまかした。
「いや…どう考えても無理あるだろ……」
「ええ、当然のように別の神にバレたわ」
受付嬢はさらりと言う。
「しかもオークは凶暴で、各地で暴れ回って……結局“魔物”として認定されちゃったのよ」
「うわぁ…最悪の流れだな…」
「で、この騒動の責任を問われて」
受付嬢は指を3本立てた。
「創造の神と魔物の神、二柱まとめて罰せられました」
「何やらかしたんだよほんとに……」
「審判の神の裁判によってに判決は有罪。罰の内容は三百年間、正座」
「重っ!? 地味に重い!」
新見は思わずツッコむ。
「しかも神様だからね、三百年って普通に長いのよ」
「そりゃそうだろ……」
呆れたようにため息をつく新見。
一通り話し終えた受付嬢は、肩をすくめて締めくくる。
「っていうのが、創世神話の一節ね」
「なるほどなぁ……」
「だから、豚の獣人が存在しないのは、その話が元になってるんじゃないか、って言われてるの」
「……まぁ、あくまで“神話”ってことか」
「そういうこと。真相は誰にも分からないわ」
新見は腕を組み、少し考える。
(いや……でもなぁ……)
新見はふと異世界に転生した時の神とのやり取りを思い出す…。
「…あの適当な神様たちなら、やりかねないな」
ぽつりと漏れた本音に、受付嬢は吹き出した。
「でしょ?」
「むしろ“神話だから盛ってる”んじゃなくて、“事実をマイルドにしてる”可能性すらある」
「やめてよ、余計リアルになるじゃない」
二人は顔を見合わせ、同時に笑った。
こうして。
この世界に豚の獣人が存在しない理由は、
「神様がつまみ食いしたから」という、なんとも締まらない結論に落ち着いたのだった。




