3-5 絞り出すように漏れた言葉
ついに実食です!食レポの為に何杯か煮干し系ラーメンを堪能したのですがもうしばらくはいいかも…
追記:金曜日ですが諸事情によりお休みです!月曜日にアップロード予定です。
ミハイルが箸を手に取るのとほぼ同時に、次々と湯気立つどんぶりが並べられていく。
初めて目にする料理に、獣人たちは一様に首をかしげた。
「スープに入った……パスタ、か……?」
戸惑いの声が漏れる。
だが次の瞬間、その表情はすぐに変わった。
一嗅ぎでこれがずっと追っていた匂いであると、見た目こそ似ていても、パスタとはまったくの別物だと。
「…では、早速」
ミハイルは静かにそう言うと、箸で麺を持ち上げ、一気にすすった。
「!?」
最初に舌を打ったのは、意外にも魚の気配だった。
(これは…煮干しか!)
保存のために乾燥させた小魚、それを直接食したことはあるが特段旨いと感じたことはなかったが、これをスープにするこんなに化けるのかと驚いていると澄んだ塩味が後追うように駆け抜け一瞬行ったことのないが海を思わせる風味が駆け抜ける。
直後、重なるようにして肉の旨味が押し寄せる。先ほどの海のすっきりとした風味とは一変、すんだs-ぷからでは想像できないようなパンチを出すが海の風味を邪魔するどころかむしろこの肉の風味を高めてくれる。
言うなれば漁村に屈強な漁師、城壁に屈強な衛兵、そのような力強さを感じていた。
そして最後に舌の上ではあまり目立たなかったが飲み干した後からふわりと残るネギの油の香ばしい余韻。
ここまで味わい深いスープに一緒に口にした麺も歯を入れた瞬間、これまで知るどんな麺とも違う感触が伝わる。
もっちりとした弾力。
噛むほどに広がる小麦の香り。
肉、魚、油そして麺それぞれの香りがぶつかることなく、むしろ心地よく重なり合う。
少々縮れている麺がスープに絡む。パスタでは味わえない組み合わせに”混然一体”ミハイルの脳裏にふとこの言葉が浮上した。
「…うまい!」
絞り出すように漏れた言葉は、それだけだった。
だがミハイル達にとってそれで十分だった。
その一言を皮切りに、あちこちで歓声が上がる。
「うめぇ!」
「なんだこれ、やべぇぞ!」
獣人たちの声は遠慮を知らず、率直であったがその評判は瞬く間に広がり、
外で様子をうかがっていた者たちが、次々と列へ加わっていく。
いつの間にか、獣人だけだった行列はやがてその中には人族の姿も混じり始めていた。
「いやー、美味かった! 想像以上だった!」
食べ終わり、満足げに笑うミハイルの声に、周囲も一斉に頷く。
気づけば全員のどんぶりは、見事に空になっていた。
「屋台でのメシでオッドまで完食するなんて、いつ以来だ?」
思わず口をついて出た言葉に、ミハイルは隣を覗き込む。
そこには、きれいにスープまで飲み干されたどんぶり。
「……」
当のオッドはというと、何も言わずにふいと顔を背けた。
「おいおい、照れてんのか?」
「うるさい」
短く返すその声に、わずかながら満足の色が混じっているのを、ミハイルは聞き逃さなかった。
やがてミハイルは立ち上がり、カウンター越しに新見へと向き直る。
「大将! いや、すまないな騒がしくて。」
そう言ってから、胸を軽く叩く。
「俺はミハイル。冒険者ランクはAでチーム“蒼穹”のリーダーだ」
続けて、隣を親指で示す。
「こっちが副リーダーのオッド。それと…隠密隊長のノルンだ。」
視線の先で、ヤマネコの獣人のノルンはにこやかに笑いながらひらりと手を振る。
オッドは軽く一礼するだけだ。
「後ろのは……まぁ、子分たちだな」
そんなやり取りをひとしきり終えると、ミハイルは懐から代金を取り出し、カウンターへと置いた。
その横に、小さな魔石も添える。
「見たところ、移動式の屋台みてぇだな」
ちらりと店構えを見渡し、続ける。
だったら……またどこかで会えるかもしれねぇな。その時を楽しみにしてるぜ」
そして、ふっと表情を和らげた。
「もし何か困ったことがあったら、遠慮なく俺たちを呼べ。うまい飯の礼だ」
そう言って、カウンターに全員分の代金と、小さく光る魔石を置く。
「連絡用魔石だ。使い方は分かるだろ?」
「お、おぅ……」
新見は少し戸惑いながらも、それを受け取った。
(ひぇ~、たしかこれ結構値段するんだよな?随分太っ腹な冒険者だな…アイツみたいに豪快な奴でAランクなら仲良くしても損はないだろう。)
「まぁ…すぐに使うことはないと思うが…またどこかで会えたらそん時はよろしくな」
「ははっ、そりゃ何よりだ!」
豪快に笑い、ミハイルは仲間たちとともに屋台を後にする。
「ごちそうさん!」
「また来るぜ!」
そんな声を残しながら、チーム“蒼穹”は人混みの中へと消えていった。
「アザッシター!」
新見たちの威勢のいい声が、背中を押すように響く。
屋台を離れ、人混みを抜けたところでオッドがふと口を開いた。
「……いいのか? ミハイル」
「ん?」
「さっき渡した魔石だ。あれはお前がどこかの貴族に取り立てられた時のために用意してたやつだろう」
足を止めることなく、淡々とした声音で言う。
「軽々しく渡していい代物じゃないはずだ」
その指摘に、ミハイルは一瞬だけ空を仰ぎ、すぐに、いつもの調子で笑った。
「別にいいだろ?」
気楽な口調だった。
「もしあの大将に何かあったとしてもよ、俺たちの実力ならすぐ駆けつけて守れる。それに、礼ついでに、またラーメン食わせてもらえるかもしれねぇしな。」
にやり、と口角が上がる。
「あんなうまい飯が食えるならよ。俺にとっちゃ、貴族のコネなんかより、よっぽど価値がある」
その言葉に、オッドは小さく息を吐いた。
「…まったく」
呆れたようでいて、どこか納得したような声。
「お前らしいな」
そう言うと、オッドもまた歩みを速める。
後ろでは、子分たちがまだラーメンの話で盛り上がっていた。
騒がしい声を背に、ミハイルは満足げに笑う。
その足取りは軽い。
まるで次に出会う日を、もう楽しみにしているかのようだった。
ふと気づいたのですが、作中の「狼と鹿の獣人のコンビ」が、某作品っぽいのでは?と友人に言われました。
特に意識したわけではなく、ただ「肉食獣と草食獣の獣人コンビを書いてみたい」という軽い発想から生まれた組み合わせで、鹿が稀に肉を食べる習性があることや、狼はリーダー像が描きやすかっただけなんですけどね…
実はその作品、未履修だったりします。せっかくなので、連休あたりにゆっくり観てみようかな、などと考えております。




