3-4 ラーメン…!なんだそれ、初めて聞いたぞ!
今回は獣人の冒険者からの視点をメインにしてみました。
こういうアプローチはどうでしょうか?
朝、王都の門が開かれるや否や、門の中へと溢れ出す影があった。
狼、鹿、ヤマネコなど。いずれも獣人の冒険者たちだ。
彼らは討ち取った魔物を引きずり、あるいは担ぎ上げながら、足早に冒険者ギルドへと向かっていく。
冒険者ギルド内ーーー
「へへ、今回はなかなかにでかい依頼だったな」
ギルドでの換金が終わり。鹿の獣人が、報酬の分け前が詰まった袋を手の中で軽く弾ませながら、満足げに笑った。
「ああ。仕事上がりの酒も悪くねぇが…日もまだたけぇし、せっかくだ、どっかで飯でも食わねぇか?」
リーダー格の狼の獣人が、顎で自由広場の方角をしゃくりつつ言う。
「お、兄貴たちも飯でヤンスか?」
どこからともなく現れた斥候役らしきヤマネコの獣人が、軽い足取りで声をかけてきた。
「まぁな。洒落た店には連れてけねぇが、お前らも来るか?」
「へい、兄貴! ゴチになります!」
横から犬の獣人が勢いよく頭を下げる。だがその直後、
「バカ、誰が奢るっつったよ」
狼の獣人は、下げられた頭を軽くはたいた。
「いてっ…ちぇ~、兄貴のケチ~」
ぶーたれる子分に、周囲の獣人たちがどっと笑い声を上げる。
冒険者の報酬の使い道は基本的に
・酒や店での食事などの食費
・装備や消耗品
・故郷への送金
・休みの間生活費
である。
食費は依頼期間中は抜いたり、安い保存食で飢えをしのぐか、道中で仕留めた食用可能な魔物を食べたりする。
装備の場合単価は高いが買い切りが多く、一度購入すればしばらくは自身の手入れ次第で長く使える。また、討伐した魔物素材で作成することがほとんどなので材料費という出費はかからない。
消耗品に関しても冒険者ギルドでポーションなどを安価で手に入るうえ、熟練になるとほとんど消費しないか自作できる場合はそれで賄えるパーティもいるのでポーション代が懐事情を圧迫する話はよほど冒険者に向いていない限り起こりえない。
休みの期間中も店で食事することもあるが毎食贅沢をしない限り懐が痛むことはないので食費はむしろ出費の中では軽い部類だ。
むしろ節約した分故郷へ多めに送金する者も少なくない。
いつ息絶えるかわからない稼業なため、自分のために貯金をする人はごくごく稀である。
そのため、屋台巡りは依頼明けの冒険者の楽しみの一つでもあるのだ。
一行はぞろぞろと自由広場へ向かうと。
「王都はしばらく来ていなかったが…なんか妙にいい匂いがするなぁ。」
スンスンと鼻先を上げ、匂いを追うリーダー格。
「ほんとだ!」
「い~にお~い。」
犬の獣人の子分たちも、つられるように鼻をひくつかせ、あちこちと顔を向けて匂いの出どころを探り始める。
「こらこら、周りの人たちの迷惑になるだろ。ミハイル、あんたまで何やってんだ」
と鹿の獣人が呆れたように肩をすくめながら軽くたしなめた。
「わりぃわりぃ、けどよ、ほんとにいままで嗅いだことのない良ぃ~匂いなんだよ。オッドも感じるだろ?」
鹿の獣人のオッドに問いかけるリーダー格のミハイル。
「まぁたしかに、こんなに食欲をそそる匂いは今まで嗅いだことないな。」とオッドも軽く鼻をひくつかせスンスン嗅ぐ
「肉か…?いや、魚もあるな?それぞれの良いとこ取りみたいな匂いは…こっちだな…!」
ミハイルは匂いの出どころがわかると次の瞬間には迷いなく駆け出していた。
鼻が導くまま、人混みを縫うように進み、やがて一つの屋台の前で足を止める。
暖簾に揺れる文字を、彼はゆっくりと読み上げた。
「ラー…メン…?ラーメン…!なんだそれ、初めて聞いたぞ!」
ミハイルが今まで聞いたとこのないワードに興奮を隠しきれないところに
「ま、待ってくださいよぉ…兄貴ィ…」
後ろから子分たちが付いてきた。
「しかし、これだけ旨そうないい匂いなのに客がいないな…」
ラーメン屋台にはカウンターがあり、その横でテーブル席も用意してあるが誰もいない。
けどその周りにはミハイル同様匂いに釣られたのかそこそこの獣人の人だかりができている。
「おそらく…いや十中八九まだ営業してないんじゃないか?」
追いついたオッドが、屋台の脇に立てかけられた板を指で示す。
そこには”準備中”の文字が
「あー、そっか!そりゃそうだわな!」と豪快に笑ってごまかすミハイル。
そんな様子のミハイルを半ば呆れたように目を細めるオッドであった。
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(新見視点)
(ひぇ~…営業する前にスープ温めてただけなのに、すごい人だかりになってきた……。しかも、ほぼ全員獣人…。鼻が利くってところか…)
すると狼の獣人が人ごみを分けて現れ、一拍置くと、
「…ラーメン…! なんだそれ、初めて聞いたぞ!」
(なんか勢いがすごい狼の獣人も来たぞ…)
するとその獣人の後ろから鹿の獣人も現れ、
「まだ営業してないんじゃないか?」と伝えると
狼の獣人はごまかすように大笑いしてた。
(ナイス!鹿さん!)
新見は思わず心の中で親指を立てた。
それでも、暖簾の外にできた期待に満ちた視線の群れは消えない。
それはまるで肉食動物が獲物を狙うかの如くだった。
(俺たち、捕食されないよな?)
ごくり、と喉を鳴らしながら、新見はそっと今日、ホールを担当するドワーフに営業開始するよう伝えた。
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営業開始する前に何人かのドワーフが列を作るように誘導した。
するとまるで示し合わせたかのように素早く2列を作る獣人たち
「ほぇ~すごいなぁ…」
と感心する新見。
「獣人たちの出身地であるウェアクライ地方は厳しい環境でその中を生き抜くため、規律とかが結構厳しいところが多いんですよ。なので列とかを作ってくださいとか言ってくれればちゃんとしてくれますよ。
これは聞いた話なんですけど一部の国の軍の軍人や上層部、有名どころではキュリオス国の歴代軍務卿とかはほとんどが獣人なんですよ。」とサポート役のドワーフが解説する。
「へぇ~この世界もまだまだ知らないことが多いなぁ。」
そうして準備が整い、いよいよ最初の客が暖簾をくぐる。
先頭に立っていたのは、あの狼の獣人たちの一行だった。
(あれ……?)
新見は内心で首をかしげる。
本来なら先着順のはずだが、気づけば周囲の獣人たちが自然と道を譲り、彼らを先頭へと押し上げていたのだ。
(なんか…みんな遠慮してたような?)
ちらりとミハイルたちの様子をうかがう。
当の本人はというと、少し居心地悪そうに頭をかき、周囲の声に軽く手を振っている。
(譲られてああいう仕草するってことは、偉い人ってよりは、顔が知られてるタイプか。有名人ってやつかな)
そんな推測を胸に抱きつつ、新見は気持ちを切り替える。
リーダー格のミハイルと鹿獣人のオッド、そして数人のヤマネコ獣人たちはカウンター席へ。残りの面々はテーブル席へと案内された。
腰を落ち着けるや否や、ミハイルが勢いよく口を開く。
「大将! このラーメンってやつをくれ!」
その声に、新見は間髪入れず応じた。
「あいよッ!」
店内に響く威勢のいいやり取り。
その一声を合図に、屋台の空気が一変する。
茹で麺機に麺を放り込み、すぐさまどんぶりを並べる。
一つ一つに塩を入れ、温めたスープを注ぎ手早くかき混ぜる。
そして茹で上がりの時、
新見は両手でざるを持ち上げると、
チャッ、チャッ――
軽快な音を立てながら、湯を切る。
その一連の所作に、獣人たちは思わず息を呑んだ。
誰一人として言葉を発さず、ただじっと、その手元を見つめている。
湯切りを終えた麺を、スープの張られたどんぶりへと滑り込ませる。
箸で軽く整え、形を整える。
整えた麺の上にオーク肉のチャーシュー、白髪ねぎ、半分に割られたゆで卵。
(ほんとは味玉にしたいけど醤油が…)
そして最後にネギ油を、静かにひと回し。
ふわり、と立ち上る芳醇な香りが、屋台いっぱいに広がった。
「へい、お待ち!」
新見は、最初の一杯をカウンターへと差し出した。
「おぉ……これは……!」
思わず、ミハイルの喉が鳴った。
目の前に置かれた一杯。
まず飛び込んできたのは透き通るように輝く、金色のスープだった。
だがそれ以上に、圧倒的だったのは“香り”だ。
「……っ」
鼻腔をくすぐるそれは、市場で嗅いだ時のものとはまるで別物だった。
より深く、より濃く、そして抗いがたいほどに食欲を刺激してくる。
(さっきの匂いもすごかったが…なんだこれは…)
ミハイルは無意識に顔を近づける。
ふわり、と立ち上る香りの層。
肉の旨味、どこか海を思わせる風味、そして最後に鼻を抜ける芳ばしいネギ油。
(これか、最後に垂らした油…!)
直感的に理解する。
それは決して主張しすぎることなく、しかし確かに全体をまとめ上げていた。
邪魔をするどころか、むしろスープの香りを一段と引き立てている。
「すげぇな……」
ぽつりと、感嘆が漏れる。
ただの“食い物”ではない。
目でも、鼻でも楽しませる未知の料理。
ミハイルはごくりと唾を飲み込み、ゆっくりと箸を手に取った。
実食シーン入れたかったけど申し訳ございません、前置きがかなり長くなってしまいました…
新しいアプローチを試してたら結構な文字数になっちゃいました…けどその分次回の実食シーンは力を入れますのでご容赦を…m(__)m




