<EP_008>初陣
リーザの家を辞したペイトは、千鳥足で夜道を歩く。
「ああ……リーザの大胸筋、最高だったな……。まだ耳の奥で、骨が軋む音が聞こえる……」
全身を駆け巡るリーザの感触を噛み締めながら、兵舎の壁にたどり着き、痛む身体に檄を入れて木に登り、壁に乗り移ると転げ落ちるように兵舎の中に戻り、匍匐前進のように這いつくばって寝所へと戻っていった。
翌日のペイトは全身の痛みで起き上がることも困難であり、全身にはピュトンにでも巻き付かれたかのような跡がついていた。
(注:ピュトンとはアポロンにより退治された巨大な蛇の怪物)
スパルタにおいて「臆病者」のレッテルを貼られることは社会的死を意味する。
ペイトは痛む身体を引きずってでも訓練に参加する必要があった。
必死の形相で痛みに耐えながら訓練に参加するペイトに周囲も少し配慮してくれてはいた。
ペイトの傷が癒えるぐらいに、ついにメッセニアへの出征が命じられた。
スパルタでは定期的に軍事訓練ということで隣国のメッセニアに出兵が行われ、略奪が行われる。
スパルタは、国家内は市民と30〜100倍近いヘイロタイで構成されており、統治するためには、スパルタ市民がヘイロタイの100倍強くなければならないということで、戦士教育に全てのリソースが割かれていた。
そのため、市民の生産能力は乏しく、略奪によって国家が運営されていた。
出陣を前に兵士たちがアポロン神殿の前に集められ、戦勝祈願の舞が奉納される。
今回の舞はリーザによって行われた。
いつものように力強いリーザの舞であったが、そこには今までとは違う扇情的な美しさもあり、兵士たちを唸らせていった。
舞の奉納が終わり兵舎へ向かう途中も兵士たちの興奮は収まらなかった。
「今日のリーザちゃん、可愛かったよね」
「ああ、そろそろ嫁に行かないとって感じだろうしな」
「俺、遠征が終わったらアタックしてみようかな」
「止めとけ。お前じゃ首をへし折られるのが関の山だぞ」
そんな会話が漏れ聞こえていた。
いつもの夕食が終わると、出征前ということで、ガイウスを始めとする既婚者は妻の元に行くため早々に兵舎を脱出し、残った者たちも興奮した身体を落ち着かせるために絆を確かめ合っていく。
ペイトもまた、テリウスやセンティウスに誘われ、絆を深め合っていくのだった。
翌日、出征のため完全武装した兵士たちが街中を歩いていき、その両脇を女たちや老兵が見守っていく。
その中で、後ろから心配そうに見ているリーザと目が合うと、ペイトは力強く頷いた。
(待っててくれ、リーザ。ボクは兵士を3人以上殺してみせるよ)
そう目で伝え、ペイトは街を出ていった。
タイゲスト山脈を越え、略奪予定の前日、ペイトはテリウスの腕の中にいた。
「ペイト、明日は初陣だな。大丈夫だ。お前のことは俺が守ってやるよ」
テリウスは大きな腕でペイトの身体を愛撫しながら、そう囁いてくる。
「はい。ボクも先輩を守ってみせますよ。敵兵だって殺してみせます」
「頼んだぜ、ペイト」
そんな会話をしながら、ペイトはテリウスの腕のぬくもりを感じながら眠りについた。
翌日、軍事演習が始まった。
弓兵による攻撃を盾で防ぎながら、ペイトたち重装歩兵が一糸乱れぬ足取りで押し込んでいく。槍が届くまで近づけば槍を構えて敵陣を突き崩していった。
敵のファランクスが崩れたところを、後方から戦車隊が蹂躙し、散り散りになったファランクスの残党を突き殺していく。
あっという間にメッセニアの守備兵は殲滅された。
守備兵がいなくなれば、後は略奪の時間である。
兵士たちはメッセニアの集落の家に上がり込み、貯めてあった食料を食べ漁り、服の中に溜め込んでいく。
集落後方の洞窟に非難していた女子供をみつければ、女たちを凌辱し、子どもたちは奴隷にするため捕縛していった。
ペイトもまた3人の敵兵を殺すことに成功し、ヴォルスとの約束を果たしたのであった。
(リーザ。ボクは殺ったよ。これでキミを迎えに行ける。待っててくれ)
兵士たちの笑い声と女たちの悲鳴とすすり泣き、子どもたちの泣き声が響く、野営地の中で空に広がる星空を見上げ、ペイトの決意は揺るぎないものへと変わっていった。




