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第十八話 ライバル

 第十八話    ライバル



 一八六八年 慶応四年から明治元年。


 戊辰戦争が終結。 吉原の復興の年となる。

 彰義隊で戦った片山は、三原屋の若い衆となっていた。


 「おい、潤。 この仕出しを注文に行ってくれ」 橘は片山を可愛がっていた。


 「わかりました」 片山がメモを受け取り、茶屋に向かおうとすると

 「潤しゃん……」 梅乃が寄ってくる。


 梅乃は五歳。 活発に育っていた。 小夜は大人しく、妓楼にいることが多い。



 「一緒に行くかい?」 片山が微笑むと、梅乃もニコッとして付いていく。

 「戻りました」 片山が声をあげると、


 「ご苦労様……うちの子、ありがとう」 玉芳が微笑む。

 最初の頃、梅乃と小夜が本当に玉芳の子だと思っていたようで、後に橘から聞かされることになる。



 「へ~ 捨て子だったんですか……」


 「お婆が拾って、花魁や妓女たちで育てたんだ。 この子たちは『三原屋の子』なのさ……」


 「なんか、大門の前で倒れていた僕を助けてくれたのと似てますね……」

 片山は、梅乃と小夜に親近感を抱くようになる。



 その頃、大見世では新しい花魁が誕生する。

 鳳仙楼からは益代が『二代目鳳仙』を襲名する。 そして、長岡屋からは里が『喜久乃』として花魁になった。



   ●


 「待ってました!」 鳳仙が拍手をする。 やっと出番かとばかりに喜ぶ。


 「そうね……陰でチラチラ見ていた益代がね~」 玉芳が微笑むと、

 「みんな名前が変わって、今更 戻せなくなったわよね~」 鳳仙は苦笑いになる。


 「そうかも……私も『つる』だったしね」 玉芳も苦笑いになる。



   ●


 明治に入り、次々と花魁の誕生で吉原は息を吹き返す。

 「おめでとう……」 玉芳が引手茶屋で鳳仙と喜久乃に声を掛けると、


 「ありがとうございます 玉芳花魁…… もう遠くから貴女を見ている時が終わりました。 これからはライバルとして、よろしくお願いいたします」


 こう言ったのは喜久乃である。 元々が強気だった喜久乃が早くもライバル宣言をしたことに鳳仙は驚いていた。



 「その方が活気も出るね♪」 玉芳は笑顔で返す。

 この様子を鳳仙は黙って見ていた。



 それから吉原が盛り上がり、毎日のように客を取りあっていく。 まさに凌ぎを削っていく仲間となっていった。



 それから時間が経ち、大見世の三強時代となっていく。

 玉芳を筆頭とする三原屋。 そこに鳳仙楼、長岡屋と続いていく。


 そして売り上げを落とし、伸び悩んでいる妓楼が出てきた。

 近藤屋である。 花魁だった富士静が身請けをし、花魁が不在だったのが響いたようだ。



 そこに若手の妓女が頑張っているが、なかなか花魁までにはなれなかった。


 「玉芳花魁……」 仲の町で声を掛けてくる妓女がいる。

 「アンタは……?」 


 「私、近藤屋で働いている花緒と申しんす……」


 玉芳が軽く頭を下げると

 「いきなり話しかけて、すみません……玉芳花魁に恐れ多いのですが……」


 花緒は近藤屋の現状を話し出す。 富士静の身請けから、妓楼での風当たりが強くなったこと。 そして長くはもたないだろうという事だった。


 「そうなんだね…… 一応、話しておくが期待しないでおくれよ……」


 玉芳が三原屋に戻り、采に花緒と話した事を伝えると

 「こんな時代だ、仕方ないよ……」 采は寂しい声で話す。



 「花魁、元気ないですね……」 勝来が菖蒲に話すと、

 「鳳仙花魁や喜久乃花魁が誕生して喜んでいたのにね……」


 そこに近藤屋が閉鎖する噂が広まる。

 (富士静姐さん……)


 玉芳は、寂しそうな顔をする。 近藤屋は玉芳にも縁があった場所だからだ。


 それでも玉芳は気丈に振る舞う。 すると、三原屋には明るい発表があった。


 「今日から七歳になった梅乃と小夜が禿になる。 みんな、よろしくな」 采の言葉で三原屋が明るくなる。


 『三原屋の娘』から『三原屋に禿』となったのだ。 一段と距離が縮んだようで全員が喜んだ。



 「今日から禿なんだね…… そう言っても、私の禿だから変わらないんだが……」 そう言いながらも、玉芳は笑顔だ。


 禿から見れば花魁は母親のようであり、実際に育ててきた玉芳が母親であることは変わらない。 しかし、今度からは見習いというものが付随される。


 梅乃と小夜は緊張していた。



 「じゃ、掃除からだよ。 今までは『お片付け』だったけど、今日からは掃除をしなさい」 玉芳の言葉で

 「はいっ!」 っと、返事をする。 今までは頷くだけだったが、今日からは違うと梅乃たちも分かっていた。


 「菖蒲姐さん、雑巾は何処にありますか?」 小夜が聞く。

 これも、今までとは違う。


 二人とも、覚悟が出来ていたようだ。 こうして二人の禿が働き、三原屋は盛り上がっていく。



 「お前たち、頑張っているじゃないか。 もっと勉強するんだよ」 采にも笑顔が出ていた。


 そして、翌年

 「近藤屋が閉鎖しましたね……」 菖蒲が玉芳に知らせに来ると

 「お婆―」 玉芳が慌てて一階に走る。


 耳打ちをすると、采が頷く。



 早速、采と玉芳が近藤屋に出向く。


 「お久しぶりです……」 玉芳が頭を下げると、

 「玉芳ちゃん、立派になって……」 近藤屋の主は、玉芳を見て声を掛ける。



 玉芳にとっても、近藤屋には思い入れがある。

 富士静と同様、ここの見世には良くして貰ったからだ。 そんな敬いの気持ちがあって近藤屋に顔を出したのだ。



 「それで……」 玉芳が話し出すと、

 「本当かい? それは助かるけど、良いのかい?」 近藤屋の主は目を丸くする。


 それを見て、玉芳と采は頷いた。



 それは近藤屋の閉鎖に伴い、妓女四人を貰う話だった。

 そして年季を払い、下賜してもらうことになる。 本来なら閉鎖をした妓楼に年季はなく、妓女は自由となる。


 主は裸一貫で吉原を去らねばならない。 それを年季と称して三原屋が買い取ったのだ。 


 義理堅く、温情に溢れた三原屋である。



 そして花緒などが三原屋の中に入っていく。 これは妓女も救われた結果となった。


 小見世や河岸見世の閉鎖が多い。 そして働く場を失った妓女は夜鷹に成り下がってしまうケースがほとんどである。


 そう考えると、花緒が玉芳に相談していたのが良い結果となったのだ。



 こうして三原屋の規模が大きくなっていく。 吉原の頂点を手中に収めたと言っても良いくらいだ。



 以前に玉芳が言っていた『さらに上を目指す事』 が結果になった。



 そして余所の大見世では

 「先に取られたか……売れそうな娘は、三原屋が持っていったわ」 などと愚痴が漏れていたそうだ。



 そして数日が経ち、大江がやってくる。

 「久しぶりでした……余所で浮気でもしていたかしら……」 玉芳の嫌味が飛んでくると


 「馬鹿言うな……やっと番頭を抜け出したんだぜ……」

 大江が言うと、玉芳の目が見開く。


 「まさか番頭を抜け出したということは……」


 当時の番頭とは経営者の代行であり、店を任されている立場にある。 それを抜け出したということは経営者になったということである。



 玉芳は大江に抱きついた。


 「弥栄~♪」 この日は祝杯となった。

 大江は、実家の佃煮屋を父である先代より後を継いだのである。


 玉芳と出会ってから十六年が経った。 コツコツと働き、たまに玉芳との逢瀬を重ねての結果だった。



 「おめでとうございます♪」 この席には菖蒲、勝来、梅乃、小夜と玉芳ファミリーが勢揃いだった。



 「みんな、美味しい物を食べよう」 大江は振る舞った。



 そして朝、後朝の別れの時間。

 「また会えますね……けんど、無理をして来なくていい……」 玉芳が少々キツい言い方をする。


 「なんか、いつもの甘い言葉じゃないね?」 大江が首を傾げると、

 「いつでも来れる身分だ! なんて思っていると、足元をすくわれる……そんなのを見てきたからさ……」 


 玉芳は、近藤屋の閉鎖を身近に感じていたからだ。


 「わかった。 玉芳は最高の女だよ……」 そう言って、大江は三原屋を後にする。


 この日、玉芳は眠れなかった。

(なんか落ち着かないな……) それから仲の町を歩いていく。


 「花魁……」 声を掛けてきたのは梅乃だった。 小夜も一緒に来ていた。


 「お前たち……」 笑顔になった玉芳は、小夜と梅乃で手を繋いで散歩をしたのだった。



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