【68】国境ショッピングモールのオープン日〜ソフィア・リュクサリア・ヴァラ視点
◇◇ソフィア王女視点
「ソフィア、もう少しじゃな」
私は目の前に佇む、見上げるほど巨大なショッピングモールを眺めながら、王である父の言葉に頷きます。
私が後継となったヴァラが、ラングスチアの属国となって一月ほど経ちました。
どうやらサミュエルお兄様も幸せな結婚が出来たようです。私はお兄様の手紙を見て心底ホッとしました。
「そうですね。お父様」
今日はセイワ共和国との国境にカワグチ様が建ててくださったショッピングモールの視察に来ています。
いよいよ十日後には正式オープンの予定です。
店内に入ると、多くの文官やスタッフ達が慌ただしく動いておりました。
このショッピングモールの噂は早い段階で国民達にも回っていたようです。辺境にも関わらず沢山の人が集まってくださいました。
そのお陰で多少は我が国の失業率も改善しそうです。
「ソフィア様!」
文官の一人が、私の姿を見るや否や、駆け寄ってきました。
「セーラ! オープンの準備はどうかしら?」
「はい、今の所順調に進んでおります。スタッフのモチベーションも高いですし、何よりカワグチ様の作ってくださった社員寮が大人気でして。遠方からも面接に来てくれているんですよ」
「そう。よかった。引き続き何か動きがあったら教えてね」
すると、彼女は嬉しそうに会釈すると、他のスタッフの元へと戻っていった。
「ソフィア、どうやらセイワ共和国からも会員が沢山集まっているようだな」
お父様が物珍しそうに、商品棚を物色しながら何気なく呟きました。
そういえば、アルカディアのショッピングモールのオープンの時は、影武者が訪れておりましたんでしたっけ。
そうなると、今日がお父様にとって初めてのショッピングモール来訪だったのですね。
「ええ、お陰様で。流石に面接は断っておりますけれどね」
今の所、セイワ共和国に動きはありません。
密通していた者や外務大臣は捉えたので公式にしか連絡手段はなくなったものの逆に不気味に感じられます。
「そうか。……もう、今のセイワ共和国に関わるのは懲り懲りだ」
「ええ、引き続き魔導士を偵察隊として何人か送り込んでおります。暫くは様子を見ることになりそうです」
カワグチ様によると、このショッピンモールのセキュリティはアルカディアのものよりも強化しているということです。
絶対に、セイワ共和国の者がヴァラに出てこれないようになっていると仰っておりました。
「お父様。どうせですから、レストランで食事して行きませんか?」
「ああ、異世界の料理がどんなものか気になっていた」
目を輝かせながら破顔した父にクスリと笑みが漏れてしまいます。
何はともあれ、愛する父が元気になって下さっただけで私はラングスチア、そしてカワグチ様に感謝をしておりました。
「美味しいレストランがありますの。”イタリアン”というそうですわ」
私は以前、カワグチ様とリオネルに我が国の事を相談したイタリアンレストランの店舗に父を案内いたしました。
店内に入ると、芳しいニンニクの香りが鼻腔を刺激しました。店員の女性がテキパキとレモン水を運んで参りました。
「おお。これは凄く芳しい香りがするな」
私達はサラダと肉料理、そしてパスタを注文いたしました。
すぐに、彩り豊かな野菜が盛り付けられたサラダが目の前に置かれ、私達は目を綻ばせます。
父は、ハンバーグという名前の肉料理が気に入ったのか、何度も「美味い」と呟きながら、口に運んでいました。
一時は瀕死だった父のその姿に、涙が溢れそうになります。
「カワグチ様に感謝ですわね」
「ああ。私が今ここで、ハンバーグを堪能出来ているのは彼のおかげだな」
父は名残惜しそうに、ハンバーグソースをバケットを付けて頬張りました。
「お父様。そういえば、お義母様とナディアお姉様はこれからどうしましょうか」
私の問いに、父が項垂れる。
「そもそも私が安易にセイワ共和国から妃を娶ったせいでこのような大規模な事件に発展してしまった。本当に、お前の母親に合わせる顔がない」
「……あのお方、いえ、お義母様の事をお父様はお母様と同じように愛しておりましたか?」
父は難しい顔をした。
「私は、多分、其方の母が亡くなったのがお前達がおもったよりもショックだったのだ」
父は今さら何を言い出すのだろうか。私は思わず眉間に皺を寄せる。
「……いえ。誰から見ても憔悴してましたよ? 何なら母が亡くなって本当は泣きたいのを我慢してしまうくらいには」
「え、あ、いや、そうか。まあ、所謂少し、自暴自棄になったってやつだ」
私は溜息を吐くと、天を仰いだ。 お洒落なガラスのランプが見えて一瞬、脳内逃避していた。
「っ、そんな感じだから、お父様から私に王位を譲れとラングスチアに言われてしまうんです。私お父様とサミュエルお兄様のことは愛しています。けれど、そういうところにはうんざりですわ」
「……では、お前に王位を譲ることになって、やはり正解だったな」
結局、ナディアお姉様は外交に出しても国としての忠誠心が薄いので、国内に留めておこうという話になった。
国内の貴族に嫁がせるよりも、修道院で大人しくしていて頂いた方が私としては安心である。
お義母様もセイワ共和国に返してしまうと、おそらく何も反省しないだろう。
だから二人で仲良く修道院に入って頂くという結論に達しました。
◇◇
そして、十日があっという間に経ちました。
ショッピングモールがオープンし、店内はヴァラとセイワ共和国の貴族で勉強だとは思えないほど賑わっておりました。
「ソフィア様っ! 午前だけですごい売り上げです! 三割だけだったとしても、十分に利益を取れる可能性があります」
刮目するセーラに胸を撫で下ろしたその時です。
ビー! ビー! ビー!
ショッピングモールの入り口から、耳をつんざくような音が聞こえてまいりました。
一体何の音でしょうか?
すると、何人かがバッと自分の服をぬぎすて、動きやすい黒装束姿になり、無理矢理セキュリティゲートを突破しようとしました。
「無許可でセキュリティゲートを突破しようとする者を発見しました。 ──セキュリティレベル三を発動」
まるで魔道具が出したかのような機械的な音な大音量で店内に響き渡ります。
ゲートからは大量の触手が伸び、次々とヴァラに無断で入り込もうとしたものを引き摺りながら捕らえていきました。
「……凄いですわ」
私は呟くと、騎士達に彼らを捕らえるように、指示を出します。
二時間が、結局我が国に無断で入り込もうとした者達は九名もいたことが判明しました。
明日は尋問の魔法で、彼らから何故我が国に入り込もうするのか尋問を執り行うことになりました。
犯罪を犯してしまった者達と話す機会はなかなかないが、先ずは彼らはなぜこのようなことをするのでしょう。
ぐるぐると頭の中で考え込んでいると、遠くの方にドラゴンが翼を広げるのが見えました。
「……あれは、」
ドラゴンに乗っているのはカワグチ様でした。
「お久しぶりですっ! ソフィア王女! 先ほどセキュリティが反応したんで、慌てて来たんですけど。何かありました?」
その言葉に私は大きく頷きました。
「九人ほど、ショッピングモールを経由して、我が国に無理矢理押し入ろうとするセイワ共和国の者がいました」
私がそう言うと、カワグチ様が驚いたように目を丸くしました。
「あー、やっぱりそういう人が出てしまいましたか。問題はその九人が組織なのか、それとも個人なのかですよね」
「……それをこれから尋問して解き明かして参りますわ」
私はぎゅっと拳を握りしめました。




