【63】日本人同士で盛り上がったら国が動きました
「へえー、これがナーミャの魔導塔ですか。なんだか神秘的ですね」
早速今日、俺とフォンティーヌ公爵は魔導塔にきていた。ちなみに今日はペロはフィオナさんと留守番だ。
魔導塔は、まるで宗教画に描かれたバベルの塔のようだった。だが、フォンティーヌ公爵は苦笑する。
「……私からしてみれば、アルカディアのスカイファームタワーの方がよっぽど神秘的だがな」
「あー、言われてみれば、確かにこの魔導塔、高さは丁度タワーマンションと同じくらいかもしれないっすね」
そんな事を話し、ヘラヘラ笑いながら、受付っぽい所に行く。
まるで、ホテルのチェックインカウンターのようだ。
「フォンティーヌ公爵だ。魔導士団長と約束を取り付けていたのだが」
公爵が要件を伝えると、受付嬢が目を見開く。
「──かしこまりました」
中は吹き抜けになっていて、各フロアがドーナツ型になっている。なんだか面白い。
真ん中には螺旋階段と、剥き出しの大きな石板がある。公爵に尋ねると、この塔だけにある魔導エレベーターのようなものらしい。
(へー。この世界にも一応元々エレベーターがあったんだな)
受付前のソファに座って公爵と談笑していると、銀色の長い髪のイケメンがやってきた。
「フォンティーヌ公爵、久しぶりだな」
そう言って、フォンティーヌ公爵とセレディオさんが握手を交わす。
そして、セレディオさんは、俺に笑いかけてきた。
「初めまして。アルカディア伯爵。──ナーミャの魔導士団長のセレディオ・ヴァルナートだ。フォンティーヌ公爵から色々話は聞いている。お会い出来て嬉しい。それと、フィオナ嬢との結婚もおめでとう」
どうやらフレンドリーな人なようだ。
「初めまして。アルカディア伯爵になった、ナツキ・カワグチです」
俺もはにかみながら、握手を交わす。
「サールは今最上階にいる。一緒に行こうか」
そう言われて三人で魔導エレベーターに乗る。
特にまわりに壁などがなく、石板が剥き出しになっているのでちょっと怖い。
セレディオさん曰く、「結界に守られているので大丈夫」とのことだが、見た目の問題である。
最上階の研究所っぽい部屋のドアを開けるとセレディオさんが叫ぶ。
「おい、サール! 例のお客様が来てくれたぞ」
その言葉で一人の作業着っぽいローブを着た男性が顔を上げた。茶髪に琥珀色の目の、親しみやすい感じの人だ。
(若い……!)
彼を見た瞬間、俺は思わず目を見開いてしまった。
「あ、今日は! すみません、こんな格好で」
いそいそとこちらに駆け寄ってきた彼に、フォンティーヌ公爵が挨拶をした。
「フォンティーヌ公爵だ。今日は突然すまない」
「いえいえ、サール・カンデラです。フォンティーヌ公爵と……、貴方がアルカディア伯爵ですか?」
彼は、穴が開くほど俺の事を見つめてきている。
(な、なんだ?!)
「初めまして、アルカディア伯爵のナツキ・カワグチです」
俺がそう言うと、彼の顔は喜色満面になった。
「やっぱり! なんとなく日本人っぽいお顔立ちだなーって。そのお名前ならもしかして、日本人ですか? 僕も前世、日本人です!」
「あ、そうだったんですね。嬉しいです。この世界で日本人だった人と会うのは初めてで。宜しくお願いします」
意気投合する俺達を尻目に、セレディオさんがこんな提案をしてきた。
「積もる話もあるだろうから、場所を変えるがいい。故郷の話をするのなら、二人の方がいいだろう? こちらにくると良い」
魔術師団長とフォンティーヌ公爵は二人で何か話すらしい。気を遣ってくれたのだろうか。
俺とサールさんは二人だけで個室に通された。すると、同僚っぽい人が気を利かせて紅茶を運んできてくれた。
「あ、ミーナさん。すみません、気を遣わせちゃって」
サールさんがお礼を言う。どうやらミーナさんという人らしい。
「いいのよ。ごゆっくり」
ミーナさんは会釈をしてから部屋を出て行った。
ドアが閉まると、食いぎみでサールさんが話しかけてきた。
「カワグチさんっ! 凄いスキルをお持ちって聞いたんですけど、どんなスキルなんですか?!」
「あー。サールさんが日本にいた時代、コンビニってありました? サールさんがいつの時代生きていた方かは存じ上げないですが、」
サールさんはブンブンと頷いた。
「はいっ! もちろん!! 毎日むしろお世話になってました」
「僕のスキルは基本マンションを出すことができるんですが、レベルがアップすると、テナントでコンビニやホテル、ショッピングモールなんかが出せるんですよ」
すると、サールさんがぷるぷると震え出した。
「な、なんですって?!」
言いながら爛々とした目で俺の方を見てきた。
「じゃあおにぎりも緑茶も食べ放題飲み放題ですか?! 味噌汁も、炊き立てのお米も、納豆も!」
「あ、はい。それは勿論」
ガタッとサールさんが立ち上がった。
「……僕! アルカディアに引っ越します!!」
その言葉に思わず俺は目を見開く。
(いやいやいや!! それはまずいでしょ!! 俺のせいでフィオナさんのお父さんが責められたらまずいし! この人ナーミャで一番の魔導具師って聞いたぞ?)
「……いやー。あの、ラングスチアの王太子は喜ぶかもしれませんが、貴方がアルカディアに来ると、ナーミャの人が困るのでやめてください。……魔導士団長にもお世話になったんですよね?」
すると、サールさんは眉尻を下げた。
「あー……。まあ、それは、確かに」
「しかも、サールさん、カンデラ侯爵家の跡取りって聞きましたけど。流石に国を出たらまずいのでは。そういえば、虐げられてたって耳にしたんですけど大丈夫だったんですか?」
俺がそう言うと、サールさんは溜息を吐いた。
「……虐げられてたっていうのは、まあ、大丈夫ですよ。僕、魔導人形おいて、家にいるふりしながら実は裏でお金稼いで豊かな生活してましたから。でも、流石に家を捨てるのはまずいですよねぇ……。あー、米と納豆、食べたかったな」
がっくりと項垂れる彼を見て、俺はなんだか気の毒になってしまった。
俺は、セイン様に連絡してコンビニを建てていいか尋ねることにした。
「ちょっと待ってくださいね。──もしもし? セイン様」
連絡すると、すぐに出てくれた。
『カワグチ殿か。なんだい?』
『お忙しい所すみません。実は今結婚の挨拶でフォンティーヌ家のあるナーミャに来てるんですが。実は監視のアンクレットを作った魔導士と今会ってるんです」
『……で? 何があったんだい?』
セイン様の声が少し弾んでいる。何か企んでいるのだろうか。
「あ、それでですね。彼、僕と同郷だったんですよ。そのよしみで、コンビニかスーパー作ってあげちゃダメですか? あんまり大きくしないようにするんで」
すると、魔道具の奥に沈黙が落ちた。
『──いいよ』
「え、本当ですか! やった……」
『ただし、条件がある』
(うわー……。やっぱりきたよ。一体なんだ?)
俺はゴクリと生唾を呑み込む。
「なんですか?」
『──我が国からも、魔導具師殿に仕事をナーミャと同じ条件で依頼させて貰いたい。もちろんナーミャは同盟国だ。共同開発、ということで構わない』
聞いたところ、そんなに悪い条件ではないような気がする。
「確認してみます。ところで、どんなものを開発して欲しいんですか?」
俺の言葉にセインさんが魔導具の向こうでほくそ笑んだのがわかった。
『──魔導列車だ』
その答えに、俺は思わず息を呑む。
「……魔導列車、ですか。わかりました。確認してまた連絡します」
俺が受話器を切ると、目の前でサールさんはぷるぷると震えていた。
「──聞こえてました? どうっすか」
俺が声をかけると、サールさんは拳を握りしめた。
「っ、しゃああああ!!! 最高です!! コンビニも近くに出来る上に僕、列車も作れるの?! やります!! 勿論団長に許可取ってからですけど! ダメとは絶対に言わせません!!」
こうして、この日からナーミャとラングスチアを結ぶ、国家プロジェクトが動き出すこととなった。




