【62】分解オタク、異世界で最強の魔導士になる〜サール・カンデラ視点
◇◇ サール・カンデラ視点
「オギャアア! オギャアア!!」
気がつくと、赤ん坊の身体になっていた。
(なんだ? これは……。いわゆる、異世界転生というものだろうか)
転生して一番辛かったことは、うまく指先が動かせないことだった。なぜなら、僕は前世、日本という国で小さい頃から家電製品を分解するのが大好きだったからだ。
僕の憧れのレオナルド・ダ・ビンチは小さい頃鳥を解剖して翼で空を飛ぶ仕組みを解明し、飛行機の原型をデザインした。
つまり、まずは一つ一つ分解する事でおおよその仕組みを理解する。そして、仕組みを紐解いていくことで新しいものを作ることが出来ると僕自身信じていた。
小学校に上がった僕は歯車の仕組みを応用して、カラクリ人形を夏休みの自由研究で制作した。ところが、リアルすぎて人形の顔が怖いとクラスの女子に泣かれた。
ちなみに、何故か牛乳パックで作ったしょぼいロボットを持ってきた山田が先生に大絶賛されていた。僕は密かに少し泣きそうになった。
……僕、手伝ってもらってなんていないからね?!
そして、理系大学を出て、家電メーカーに勤めるサラリーマンになり、独身を謳歌していた。
幸い、死んだ時の記憶はない。丁度仕事も閑散期で、どうやらピンピンコロリで逝けたようで幸いである。
カンデラ侯爵家に転生して、サール・カンデラというちょっぴりオリエンタルな響きの名前になった。
そして、一歳半までの一年半は裕福に暮らしていた。まあ、赤ん坊だったので離乳食だったが。
ところが一歳を過ぎた頃、カンデラ家の両親が馬車の事故で亡くなった。
母親ではなくほぼ乳母に育てられていたので、そこまで寂しいという感情は湧かなかった。
だが、両親亡き後家に入り込んできた叔父夫婦というのが、これまた性格も悪く品もなく、おまけに頭も悪いという残念な人達だった。
とりあえず、嫌がらせで一歳児に対して食事を用意しなくていいと言い出した。
だが、幸い歩行は出来たので、自分で厨房に行って、食べられそうなものを貰いに行くようにしていた。
料理人達は、僕を勝手に使用人の誰かの子供だと思ったのか、可愛がってくれた。
そして、驚くべきことに僕は勝手にサラという名前に改名されていた。
え、これは将来ニューハーフになって欲しいという意思表示だろうか。
どうやら叔父夫婦としては、僕が男であると将来的に後継は僕になってしまうのでまずいらしい。
頭が悪いくせにこういうところだけ気が回るのが少し腹立たしい。
僕はとりあえず彼らを刺激しないように、大人しくしつつ、逃亡する為に資金を貯める事にした。
叔父家族は全然モノを大事にしなかったので、幸い故障した魔道具がよく捨てられていた。
それを僕は拾いまくって分解しまくった。
(──楽しいっ!!)
正直日本の家電は分解しまくって飽きていたので、異世界の魔道具の分解はめちゃくちゃ楽しかった。
僕は来る日も来る日も分解した。
そして、ついに五歳くらいの時に日本の家電っぽいものまでいくつか作ることに成功した。
ちなみに、魔道具に電気を通すような感覚でなんとなく魔法を身に付けていくことができた。
まあ、これで使い方が合っているのかはよくわからないが。
最初に作った魔道具はラジオだった。僕はギルドに登録して、こっそり自分の作った魔道具を売り捌いた。
正直屋敷の誰もが僕に関心がないので抜け出し放題だった。
幸い、そこの商業ギルドのマスターが面白がって目をかけてくれた。──こうして、僕は匿名で魔道具を売り捌いた。
ナーミャが平和な国だったのも運が良かった。
「他の国だと奴隷商に売られちまうとこだったぞ?」
心配そうな顔で商業ギルドのマスターに言われた。
ラジオの次はカメラのような魔道具。そして、ビデオカメラも作った。
来る日も来る日も分解して、僕は超小型監視カメラを作ることに成功した。
それを少しおしゃれにアクセサリー仕様にしたところ、囚人に身につけさせたいと、次々といろんな国から発注が入った。
僕はわずか11歳にして、ひと財産築いてしまった。
だが、カンデラ家の名前でお金を預けると、叔父夫婦に勘づかれる可能性がある。その為お金は商業ギルドの方で預かって貰っていた。
僕は、一人で好きな物を食べ好きな物を買い、大好きな魔道具を売って生活し始めた。こうして第二の花の独身生活を送りはじめたある日のことである。
「魔導塔の魔導士団長が、君を魔道具専門の魔術師としてスカウトしたいそうだ」
突然商業ギルドのマスターに呼ばれ、こう言われた。
「いやぁ、ギルドマスターも知ってると思いますけれど、僕んち訳ありなんで。ちょっと家族にバレるとまずいんですよねぇ……」
ちなみに最近は僕そっくりの魔導人形を家に念の為置いてきている。
何かあったときに抜け出してるのがバレると大変だからだ。
「とりあえず、君に、どうしても会いたいとのことだ。彼は国の要人だからな。私も無碍にすることはできなくてな……」
ギルドマスターにそう言われ、僕は頷いた。
「わかりました。マスターには世話になってるんで全然いいですよ」
こうして僕は、魔導塔を束ねる、魔導師団長に会うことになった。
そして、面会日当日。
「──は? ……あの高性能の監視の魔道具を作ったのが、この年端もいかぬ少年だと……?」
僕を見て、彼は目を丸くした。
ちなみに、彼は銀髪で長髪のファンタジーイケメンだった。
「一応もう、十二歳になるんですけどね」
ニコニコする僕を、彼はジッと見つめた。
「……このようなアイディアはどうやって湧いてくるのだ?」
「あー……。実は僕、前世の記憶がありまして。そこで使ってた道具を参考にしていましたね」
僕がそういうと、彼は納得するように頷いた。
「……なるほど。転生者か。幼い子供が何故このような知識を持ち、金を稼ぎ、一人で逞しく生きているのか、その理由がようやくわかった。ところで、其方の家は訳ありだと聞いたが。貴族か? どこの家の者だ? 大丈夫だ。決して口外したりしない」
そう言われて、僕は正直にカンデラ家の名前を告げた。
「なんだと?! カンデラ家はきな臭いとずっと思っていたが……。その様子だと、其方の両親も殺された可能性だってあるぞ?! 其方は本当は後継なのに、戸籍上女にされてしまっているのだぞ!? このままでいいのか?!」
「……はい。全然いいですよ? だって、お金も持ってますし、自由に行動できますし、魔道具分解して発明し放題ですし。控えめに言って最高ですよ。逆に跡取りとかになったら、事務作業もいっぱいしなきゃいけないんですよね? 僕、絶対嫌なんですけど」
僕の言葉に魔導師団長は暫く固まったあと、溜息を吐いた。
「……なるほど。確かにそれは困るな。国の宝を失ってしまうことになる」
(え? 国の宝? 僕が?! 褒めすぎじゃないですか?!)
僕はうれしくてニヤニヤしそうになってしまった。
「…わかった。カンデラ家をすぐに捕えさせようかと思ったが、様子を見ることにする。だが、いつでも頼ってくれ」
魔導師団長はそう言ってくれて、連絡先を交換した。
──数年後。第二王子の指示でついにカンデラ侯爵家で叔父家族の悪事が明るみに出た。
いや、どうでもいいけど調べるの遅くない? 僕は幸せに暮らしてたからいいけどさ。
ちなみに、僕はその日、いつも通り僕そっくりの魔導人形を部屋に置いて、高級ステーキを食べに行っていた。
人形はあまり元気そうだとまずいと思い、それなりにやつれさせておいた。そしたら虐待だなんだとめちゃくちゃ騒がれてしまった。
え、すみません、それ、人形なんですけど……。
なんとなく出て行きづらくなった僕は、魔導師団長に連絡して保護してもらうことになった。
そして、国で家ごとサポートして貰いながら研究に明け暮れることになった。
そんなある日、団長に呼ばれた。
「ラングスチアに異世界から転移してきたアルカディア伯爵が、君に会いたがっている……とフォンティーヌ公爵が言っている」
こうして僕は、この世界に来て初めて異世界転移してきた人に会う事になった。




