【57】地獄のお見合いパーティーの果てに、結婚することになりました。
「カワグチ様はこのアルカディアをどのような街にしていきたいと思っておりますか?」
「えーっと、そうですね。とりあえず、皆が楽しく快適に……?」
俺はきんきらドレスの令嬢達から質問攻めにあっていた。
一方リオネルさん達はなんだか楽しそうだった。
「ふふっ、私と結婚すれば、アルカディアとナーミャとも縁が出来る。はっきり言って私とカワグチ殿は親友だ。お得だよ?」
彼はファサッと前髪を掻き上げてこんな事を言っている。
周りの令嬢達は目をハートにしてキャーキャー言っている。
(いや、確かに友達だとは思っているけれど、俺をダシにしないで欲しいな)
正直物腰も優雅だしイケメンで第二とはいえ王子というだけで、恋愛したい令嬢は大半が皆リオネルさんの所に行ってしまうだろう。
ちなみに五人くらい婿入りして欲しい令嬢達はサミュエル殿下のところに群がっている。その中には先程セインさんに進言していた眼鏡の賢そうな令嬢がいた。
彼も、元の世界でいうインドにいそうな顔付きだが、濃いものの綺麗な顔をしている。
即ち俺のところに残るのは──。
「カワグチ様。ところでもし貴方と結婚したら月いくらくらい我が領地に頂けるのですか?」
「当然、我が領地にショッピングモールの支店も作っていただけるのですわよね?」
「月に何度くらいパーティーは開いてくださるの? 私のドレスは年に何着くらい新調して下さるの?」
「形だけの結婚……なんですわよね? 男娼は囲ってもいいのかしら」
矢継ぎ早にされる質問に俺は笑顔で答える。
「書類を取扱う仕事をやってもらうことになるんで、お給料はきちんと渡します。その中から実家にお金を送って下さいね。
──奥さんになるのでマンションの入居費は無料です!
あと、福利厚生として、コンビニやスーパーの廃棄品がもらえます! まあ、従業員の皆と譲り合ってですけど。シーズンの過ぎた服も格安で買えますよ! あと、ホテルの宿泊費も無料です。
また、ショッピングモールはきちんとマーケティングして売り上げ取れそうだったら新店舗を奥さんになる人の領地に建ててもいいですよ。セイン様に許可とってからですけど」
ちなみにちゃんと働いてくれたらマンションを奥さんの為に何棟かあげてもいいかなー、なんて思っている。
──まあ、まだ働いてもらう前なので様子を見てだが。
すると、令嬢の一人が素っ頓狂な声を上げる。
「廃棄品ですって?!」
「どういうことですの?! 私達は貴族ですのよ?! 一番極上のモノを下さらないの?」
その言葉に俺は目を丸くする。
「いや、僕はお金を払ってくれる人は平等にお客様なんで。まずはお客様に一番いいものをあげたいですね。 奥さんになる人にはプライベートで食べに行ったり買い物に行く時は勿論お金を出しますよ? でも、お金を払わずにお客様より優遇しようとは微塵も思っていないです」
その言葉に部屋がシーンと静まり返る。
「なんですって?! じゃあ平民の方が優遇することもありえる……ということ?!」
「──まあ、そうっすね。お客様なんで」
すると、ワナワナと何人かが震え出す。
「なんて無礼なの?!」
「そうよ! 異世界人と聞いていたから常識が違うところもあると聞いていたけどなんて仕打ちなの?」
(いや、逆に金も払わないで自分達が優遇して貰えると思ってる方がやばいだろ)
俺は困ってセインさんの方を見る。すると、笑顔のまま固まっている。
サダニアさんはオロオロと目を泳がせている。
「あ、それと、夫婦になるんならもちろん広めの部屋に改装はしますけど、このペロと一緒に住んで貰いますから」
俺が部屋の隅っこでケーキを貪り食っているペロを指し示すと、何人かが白目を剥いた。
「なっ、なんで私がこんな汚らしい犬と一緒に住まなければいけないの?!」
「ありえないですわ!」
その言葉に俺は思わずムッとする。
「……ちょっと!! ペロは俺の家族なんですよ?! 言っていいことと悪いことくらいあります!」
そう言った時だった。
「──カワグチ様。私は今の条件、全て受け入れられます」
陰から進み出てきたのはケーキを両手に持った少し見窄らしい格好の女性だった。
「まあ、あれなランガス伯爵令嬢ですわ!」
「実在してたのね」
どうやらあの女性はランガス伯爵令嬢というらしい。
「私!! 普段!! 家では虐げられておりまして! 殆どご飯を食べられておりませんの!!」
彼女は声高らかに叫んだ。
「なんですって?!」
「どういうこと?!」
周りの令嬢達がざわつき出す。
「ですから!! ご飯さえ頂ければ!! 全ての条件を飲みますわ!! 犬の散歩も行きます!!」
そう言われて俺は目を見開く。
(──なんか、他の令嬢よりもこの子の方がマシに感じてきた)
そんな事を一瞬思った時だった。
「ですから! とりあえず皆さん全然何も食べてらっしゃらないので、ここにあるケーキとお菓子、全部持って帰ってもいいですかーーーーーー!!!」
そう言って目をカッと見開いた。
(あ、この人もこの人でやばい人だ)
俺は金は大好きだが、意地汚い人が苦手である。ちょっと今の発言にはドン引きしてしまった。
「さあ、それでは終了です! いいと思った令嬢の番号を書いてサミュエル殿下、リオネル殿下、カワグチ伯爵は私にお渡しください!」
(え、マジでこの中から選ばなきゃいけないの?! ヤバくない?! どーする俺!!)
顔がうんぬんともかく、もう全体的に嫌になってきて瞳をウロウロと彷徨わせた時だった。
「──失礼します。グレイス様。本当にいいんですか? まだ終わってもいないのにケーキをおすそわけなんて……」
遠慮深く、そっとフィオナさんが唐揚げちゃんTシャツにちょんまげヘアでタッパーを持ってドアを開けてコソコソ入ってくるのが見えた。
どうやらグレイスさんがケーキが余りそうだから持っていってくれと連絡したらしい。
令嬢達はスタッフだと思っているのか誰もフィオナさんに目をくれてもいない。
──だが、俺はその姿を見た瞬間、急激に安心した。
「ええ、いいんですよ。もう終わるところでした。流石にこの量は僕達でも食べきれないですし勿体無いですからね」
俺は渡された紙に文字を書くとサダニアさんに渡した。
「はい! それでは読み上げます! サミュエル殿下のお相手は七番!ムスタフ侯爵令嬢、モニカ様!」
どうやらサミュエル殿下はあの真面目そうな眼鏡の侯爵令嬢を選んだらしい。二人ともどことなく嬉しそうだ。彼はいい人だが少し抜けてるので、しっかりした人が合っていそうなのでお似合いだと思う。
「そしてリオネル殿下のお相手は十九番! エインリヒ伯爵令嬢ユリア様!」
リオネルさんの相手はどことなくソフィア王女と雰囲気の似ている黒髪で目が丸い可愛らしい感じの令嬢だった。──なんとなく彼の好みのタイプがわかってしまった。
「そして……! カワグチ様のお相手は……」
皆の注目が俺に集まる。
何人かがゴクリと生唾を呑む音が聞こえた。
「番号なし! フィオナ・フォンティーヌさんです!」
──その言葉に会場中がシーンと静まり返る。
「……えっ、えっ、ええええ?! 私ですの?!」
フィオナさんが一人で狼狽している。
「ちょっと待ってください! 誰ですか! あの人は」
「エントリーしてもいないじゃない!!」
令嬢達が騒めく中俺は声を張り上げる。
「フィオナさん!!」
「は、はい……」
フィオナさんが戸惑った顔で俺の顔を見てくる。
「俺と! ──結婚してください!」
その言葉にもう一度、会場が静まり返る。
すると、フィオナさんが驚いた顔をした後、ふっと表情を崩した。
「──はい。喜んで」
視界の隅には溜息を吐くセインさんと生暖かい目で俺を見てくるグレイスさんが目に入った。
ペロだけが「最高じゃっ!」と言いながらめちゃくちゃ嬉しそうにブンブン尻尾を振っている。
──こうして俺はフィオナさんと結婚することになった。




