【56】紙皿でお見合いしたら貴族にキレられた件。
令嬢達が過ごすマンションを作ったあと、夕方頃に魔道具でセインさんに会いたいと言われてしまった。
……ということで俺は今、セインさんとペロとショッピングモールで回転寿司を食っていた。
目の前には寿司を頬張るセインさんがいる。
「いやー、君、モテモテだな。妬けちゃうね」
セインさんはナマモノもイケるクチらしい。
「こんなにお見合いパーティーに来てくれるなんてびっくりですね。──まあ、会ったこともないし、俺イケメンでもないんで。……確実に金目当てなんでしょうけど」
結局セインさんの面接で、婿養子が欲しいサミュエル殿下の候補も入れて最終的にまともな令嬢が40人ほどになったらしい。
ちなみにリオネルさんは、第二王子なので婿入りしてもアルカディアに残ってもどちらでもいいらしい。
「よく分かってるね。そう! 令嬢達は皆、金と君のスキルと伯爵という地位目当てだ。──だが、その中でも気が合う人は何人かいると思うよ? それに、君だって、仕事を押し付けたいだけだよね」
「はい、まあ。ちなみに俺、別に金目当てなのが悪いとは全く思ってないですよ? 向こうは金が欲しくて、俺は仕事を押し付けたいだけ──似た者同士っすかね」
俺がヘラヘラ笑うとセインさんは苦笑した。
「最近商人なんかもこの地に目をつけているらしくてね。移住希望者も増えそうだ。早めに結婚して欲しいところだね」
そう言われて俺は頷く。
「わかりました。お見合いパーティーっていつでしたっけ?」
「三日後だ。場所は、君が作ってくれた地下のサロンでいいと思うよ?」
「あ、それなら助かります。もう一回何か作るのは少し面倒だったので。あとはホールケーキとお菓子用意して、各自飲み物もドリンクバーでいいですか?」
その言葉にセインさんが目を丸くする。
「……そっか。給仕してくれる使用人がいないのか」
「そうなんですよね。これで大丈夫ですかね?」
俺がそう言うと、セインさんは顰めっ面をした。
「いや。まずい。だって、令嬢達はドレスな訳だろ? セルフで飲み物を用意させてこぼしたりしたらまずいよ」
「……だったら、みんなカジュアルな格好でいいんじゃないすかね」
セインさんが寿司を食べる手を止めて、目を丸くする。ちなみに、サーモンがお気に入りらしい。
「……確かにそうだな。ショッピングモールもあることだし普段着って伝えておこうか。そうしよう」
「紙皿を用意しとくんで、ケーキもセルフで取り分けてもらいます。あとは、ポテチとかスナック菓子並べとけばいいですかね。
ちなみに、結婚したらペロと一緒に住んでもらうことになるんで、ペロもきてもらっていいですか?」
俺の言葉に、何故かセインさんが少し黙った後、溜息を吐いた。
「君、さっきから貴族舐めてない? まずいよ。さすがに。紙皿じゃ」
「え、でもケーキ食ってお茶飲んで話すだけですよね? しかも、服装もカジュアルにするんなら……これでよくないっすか? 30人くるんですよね? 洗い物とか俺したくないし。紙皿なら捨てるだけで済むんですよ?」
すると、セインさんは固まってしまった。
「……まあ、確かにそう言う考え方もあるのか……。文官達を給仕のために駆り出すのはさすがにまずいしな」
さすがにそんな事をしたら、皆怒るに決まっている。そんなことはさせまいと、俺は慌てて止めた。
「あー、普段も忙しいのに文官さん達にそんなことさせたら可哀想っすよ。っていうか、アルカディアに嫁いだら使用人いないこと、みんなわかってるんですか?」
そう言うと、セインさんが黙り込んだ。
「……まあ、確かにそうだな」
「ですよね。じゃあやっぱり紙皿で。ケーキ代くらいは僕が出しますよ! 僕、小金持ちになったんで!」
まだまだ大金持ちとは言えないが、そこそこ金が入ったからな。
「……わかった。令嬢達には伝えておくよ。せめて、ケーキくらいいろんな種類のものを用意してよね」
こうして、俺はお見合いパーティーに向けて準備をすることになった。
◇◇
「リオネルさん! 紙皿とフォーク並べて下さい! サミュエル殿下はポテチとチョコレート盛り付けてください!」
お見合いパーティー当日、俺はケーキを切り分けながら指示を出す。
ちなみに、ホールケーキは一つを10等分できたので、4ホールを5種類、合計20個も買う羽目になってしまった。
ショートケーキ、みかんのタルト、ガトーショコラ、チーズケーキ、キッシュとバラエティに富んだラインナップにした。
「美味そうじゃのう……」
ペロがフンフンしながらケーキを見つめている。
さらにスナック菓子も大量に用意したので流石に食べ物が足りなくなることはないだろう。
ちなみに俺はさすがに、普段のTシャツと短パンはやめて、ちゃんと黒い長ズボンとTシャツの上にジャケットは羽織っておいた。
リオネルさんは青色のシャツに、白いチノパンで、サミュエル殿下は灰色のズボンに上は白いシャツに灰色のジャケットだ。
ちなみに、リオネルさんの服は俺が選んであげた。
グレイスさんとセインさん、そしてこの件について中心になって動いてくれている王都から来たサダニアさんという女性が監督兼司会でソファに座って見守ってくれている。
「あ、もう少しで15時になるので、来るんじゃないですかね」
すると、続々と令嬢達がサロンに入ってきた。
だが、その格好を見て俺達は口をあんぐりと開けてしまった。
ドレス、ドレス、ドレス……普段着でと伝えたはずなのに、何故か全員きんきらきんのドレスだった。
「せ、セイン様? カジュアルな格好でって伝えてくれたんですよね?」
俺が少し焦って言うと、何度もセインさんが頷いた。
「う、うん。おかしいな、伝えたんだけど」
すると、リオネルさんがニヤリと笑った。
「カワグチ殿。大丈夫だ。こういうこともあろうかと、私がいいものを用意しておいた」
そう言って彼が取り出したものは紙エプロンだった。
「おおお!! 流石リオネルさんっ! 気が利きますね!」
サダニアさんが慌てて令嬢達に紙エプロンを配り始めた。
──令嬢達は困惑したように紙エプロンを見つめている。
「……こんなもの、身に付けたくありませんわ!」
すると、一人の気の強そうな令嬢が扇をばさりと広げながら叫んだ。
「……あれは、スミノフ公爵家の令嬢だね」
小さな声でセインさんが教えてくれた。すると、取り巻きっぽい令嬢達が口々叫んだ。
「そうですわ! 本日のために私達は贅を凝らしてドレスを新調したのに、デザインが見えなくなってしまいますわ」
「そうよそうよ!」
その惨状を見て、セインさんが溜息を吐いた。
「──僕はドレスではなくカジュアルな格好でとわざわざ後から伝え直したよね? それなのに、どうして全員ドレスなのかな?」
すると、一人の眼鏡をかけた真面目そうな令嬢が進み出た。
「恐れながら、セイン殿下。 服装自由、カジュアルな格好でと言われても本当にそれが正解かはわかりませんわ。 私達は家の代表としてきております。恥をかくわけにはいかないのです」
そう言われて、俺達は顔を見合わせる。
「──そうか。それはそうだよね。でも、本当に今回はカジュアルな格好で来て欲しかったんだけどな……。まあいいや。汚さない自信がある人は紙エプロンをつけなくていいよ」
結局俺達とグレイスさん、それにサダニアさんが手分けして紙コップにテキトーにジュースを入れて配ることにした。
「なんですの?! このお皿は!」
「ペラペラですわ!」
サミュエル殿下は王太子だったのに、文句も言わずに協力してくれたのでやはりいい人である。
──こうして、不穏な空気の中お見合いパーティーはスタートした。




